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Startup:「精子バンク」に巨額が集まる理由

Illustration of a human sperm and egg.
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

みなさんは「精子クライシス」という言葉は聞いたことがありますか?

最近、イスラエルの大学から「欧米男性の精子の濃度がこの40年で半減した」という、衝撃的な研究結果が発表されました。また数だけでなく、運動量も劇的に低下しており、中でも最も減少が大きかったのが日本人とのこと。将来的に男性の生殖機能はこの世から消滅してしまうかも、という予測も出ています。原因はわかっていませんが、食生活の変化やストレスなど、様々推測されています。いずれ「自然妊娠できていたのは過去の話」となってしまうかもしれません。

この精子クライシスに備え、欧米では新たなスタートアップが誕生しています。今回はその中で、世界が注目する「精子バンク」のサービスであるLegacyをご紹介したいと思います。

創業:2018年1月Legacy(精子バンク)

  • 創業者:Khaled Kteily
  • ステージ:シード
  • 調達総額:165万米ドル(約1億7,880万円)
  • 事業内容:精子バンク(精子の遺伝子検査・保管)

Legacyが一躍注目浴びたのは今年6月。Y Combinator、ベインキャピタル(Bain Capital Ventures)、Tribe Capitalという著名な投資家から、シードラウンドで165万米ドル(約1億8千万円)を調達したことで、そのポテンシャルに一気に注目が集まりました。

今回は、なぜ「精子バンク」が注目されているのか、Legacyに秘められたビジネス的な背景を説明していきたいと思います。ちょうど、日本にも今年9月に、世界最大の精子バンク「クリオス・インターナショナル」が上陸して話題が集まっていますね。

THE ULTIMATE SUBSCRIPTION

究極のサブスク

Legacyは、価格帯に合わせて3種類の精子保管サービスを提供しています。

  • ブロンズ(約2万円):検査のみ
  • ゴールド(約20万円):検査+10年間保存
  • プラチナム(価格は要相談):検査+亡くなるまで保存

ポイントは、検査から保存への自然なアップセルが効くモデルという点です。大半のユーザーは、精子の数や運動量を検査したい廉価なブロンズから入るのですが、検査結果を見てからそのまま保存、という導線が敷かれています。

いきなり精子を保存したい人はなかなかいないと思いますが、検査結果を突きつけられると保存したくなります。そして、この保存サービスは定額のサブスク型(月額150ドル=約1万6000円)で、加齢とともに精子の質が下がるため、保存した精子は相対的な価値が上がるため解約がされにくい形です。

一方で、Legacyにとってのコストは超冷凍保存するだけなので、スペースも取らず利益率が9割近くなるわけです。

アメリカ保健福祉省によると、アメリカでは6組に1組のカップルが不妊に悩んでいて、その原因のうち、3分の1が女性側、3分の1は男性側で、残りはその他の複合要因と言われています。

つまり、不妊問題には男性側の要因もかなりあるわけですね。だからこそ、若いうちに精子取って保管しておくことは、ライフイベントのタイミングをコントロールする上で、「1つの選択肢」になってくると思います。

FERTILITY TECH

精子といえば男性ですが、この精子バンクへの注目は、むしろ、女性の社会進出に伴う側面の方が大きいと思います。

アメリカでは女性の社会進出は当然のことであり、企業も女性が「子供を持つこと」を全面的に支援します。CSRや福利厚生やダイバーシティ以上に、テクノロジー企業にとっての「最大の資産」である優秀な人材を獲得し、リテイン(保持)していくことが企業にとって戦略的に重要だからです。

同時に、ゲノム編集テクノロジーの「CRISPR-Cas9」に代表されるような、バイオテックの目覚ましい技術躍進も背景にあります。中国で遺伝子操作をした双子の女児が生まれたと話題になりましたが、倫理的な問題はさておき、遺伝子編集による「スーパーベビー」の誕生の可能性が近づいてきました。

そうした中で、精子バンクも含めた「Fertility tech(不妊テック)」は近年大きなトピックになっています。テクノロジーを用いて、妊娠確率を上げていくことで、確実に妊娠できないペイン(痛み)に応えられるようにしていく。

これは、同時に女性社員が職場に戻りやすくするための技術でもあるわけです。

ちなみに、アメリカでは妊娠確率を上げるための生活習慣管理アプリ、妊娠支援のためのサプリや食品のサブスク、不妊に悩む女性コミュニティアプリ、などいろいろ出てきています。

WHY NOT IN JAPAN YET?

海外に比べると、日本はやはり遅れていますね。

ご存じのとおり、日本は少子化が国家を揺るがす問題になっているわけですが、体外受精などの基準も海外に比べて厳しいと言われていますし、企業による妊活への支援体制も追いついていない。一度に数十万と言われる費用に加えて、職場の同僚にもなかなか伝えられず、成功する保証もない精神的苦痛はなかなか深刻です。

ちなみに、この出遅れている日本で、「妊娠したくても精子がない」という問題のソリューションが現状でどうなっているかご存じでしょうか?スタートアップでも、妊活の方たちが悩みを相談できるコミュニティ的なものはありますが、テクノロジーを用いた直接的で効果的なものは出てきていません。規制のあり方などは早急に議論を進めていく必要があると思います。

実のところ、インターネットの掲示板やSNSを通じて、個人で「精子バンク」を名乗る人と出会って、現金と引き換えに漫画喫茶で精子を渡される、そんな手段しか選べない人もたくさんいるわけですね。

この問題が深刻なのは、この「出産」のひずみが、生まれた子供にまでおよぶことです。子供は、パパが誰なのかわからないままであり、父親側の家系図が無いわけです。子供は「自分が何者か」分からず、物心ついた頃には深刻なアイデンティティクライシスに陥ってしまうと言われています。

テクノロジーを用いて、不妊という課題解決に取り組む。この精子バンクサービスのLegacyが先進事例になると良いなと思っていますし、今後、それを解決するサービスが出てくることを望んでいます。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)

(編集・構成:鳥山愛恵)

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今週の注目ニュース5選

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  1. Lyftが電動スクーターで6都市から撤退。ライドシェア大手のLyftが11月14日、電動スクーター事業で、アトランタなど6地域から撤退すると発表、さらに社員20人のレイオフも明らかに。レイオフは昨年Motivateを買収して以来、今年2回目。今後、自転車と電動スクーター事業は大きな市場にフォーカスしていくという。
  1. ソフトバンクに投資するPlentyが岐路。植物工場で農薬や日光を必要としない室内農業を手掛けるPlentyは、拠点のサンフランシスコ以外では初の大規模工場として、2017年からワシントン州シアトルで進めていた「Tigris」の計画を凍結すると発表した。Plentyは、ソフトバンクのビジョン・ファンド、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスらの投資先。
  1. 元Uber幹部が立ち上げた「店を持たないレストラン」。「Virtual Kitchen」は、6月に1700万ドル(18億円)を調達し、今月14日に操業を開始した。Uber Eatsによる宅配を前提として、キッチンスペースのみで営業するレストランを支援する。Uber前CEOのトラビス・カラニックも、CloudKitchensという同業態のサービスを立ち上げている。
  1. 女性起業家たちの躍進。少なくとも1人以上の女性創業者がいるスタートアップの資金調達額が、2017年の219億ドル(2.3兆円)から、2018年は2倍以上の460億ドル(約5兆円)に増加。資金調達全体に占める割合も、2013年以降、12~13%だったところ、昨年は18%を占める結果に。