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Startup:ゲームが「薬」になる

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: Reuters / Mike Blake

幼い頃「ゲームをするとバカになる」と親に言われた経験ありませんか? 勉強時間が少なくなる、脳の一点のみを使い思考が止まる、姿勢や目が悪くなるなど、「ゲームは不健全」という印象だけが一人歩きした結果でしょう。

ところが今、ゲームが悪のイメージから一転、その効能に医療分野から熱い視線が注がれています。ゲームはエンターテイメントの枠を越えて、私たちの健康を支えるツールとして、すでに複数分野で活用されているのです。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、ゲームの力を活かした新たな治療法を開発するAkili Interactive Labsをご紹介します。

Image copyright: Akili Interactive Labs

Akili Interactive Labs(医療用デジタル治療)

  • 創業:2011年
  • CEO:Eddie Martucci
  • 調達総額:1億4,090万ドル(約154億円)
  • 事業内容:ビデオゲームでのエクスペリエンスを通じたデジタル治療開発

DIGITAL MEDICINE

医者に処方される薬は「ゲーム」

病院にかかれば医者の診察と処方箋を受け取り、薬局で薬を受け取って治療するのが普通ですが、ボストンに拠点を構えるAkili Interactive Labsは、従来の「治療」の概念を覆します。

彼らは錠剤ではなく、患者をビデオゲームに没頭させ、認知的機能を鍛えるタスクを課し、精神疾患の症状改善を目指す「デジタル療法」プログラムの開発・提供を行っています。簡単に言えば「ゲームを薬」に変えてしまうわけです。

ADHDの治療は通常は、心理療法と服薬を並行して行いますが、同社流なら患者がやることはただひとつ、このアクションゲームに没頭するだけです。Akili Interactive Labsが手がけるゲームは、脳の生理学的変化を直接生成して認知機能を改善させるもので、以下のような疾患の治療に有用だとされています。

  1. 注意欠如多動性障害(ADHD)
  1. 大鬱病性障害(MDD)
  1. 自閉症スペクトラム障害(ASD)

臨床試験を重ねてきた「プロジェクト・イーボー」は、スマホやタブレットでプレーするレーシング・ゲームです。「複雑な情報を扱う脳の処理システムの限界を、その人に合わせたやり方で拡げていくように作られている」と、共同創業者兼CEOのEddie Martucci(エディー・マートゥッチ)は言います

子どもへの薬の投与に抵抗感をもつ家族も多く、またデジタル薬はデータで成果が測りやすい。個人に合わせてゲームのレベルやコンテンツを変えることも容易です。すでに主要な試験を終え、正式な薬としての承認をFDA(米食品医薬品局)に申請中。認可されれば、従来の薬と同じように患者に処方できます。

Image copyright: Akili Interactive Labs

当初はFDAから「治療と謳わなければ、勝手に消費者向けに売ってくれて構わない」と相手にされませんでした。「そうじゃない。本当に効果を証明して、ADHDに苦しむ子どもたちに届けたいんだ」。エディーはそう言って、正式に新薬として承認を目指す道を選びました。

タッグを組んだ共同創業者はルーカスフィルムで経験を積んだゲーム業界のプロ。当初は投資家から「我々が投資しようとしているのは、脳生理学に長けたメディカル企業なのか、優れたエンタメ企業なのか」と聞かれ、「その両方だ」と答えたそうです。

全米で640万人の子供が苦しみ、市場規模は170億ドル(約1.9兆円)と言われるADHD。投薬での治療は効果が出にくく、高価です。昨年3月には塩野義製薬とライセンス契約を締結。今年にも臨床試験が始まる予定で、日本でも医師に「ゲーム」を処方される日がすぐそこにまで来ています。

ESPORTS LOVED BY SENIOR

高齢者に愛されるeSports

近年、ゲームを通じて健康になるという考え方は世界で広まっています。Akili Interactive Labsは本気の医療用ですが、もっとライトに「予防」の観点で楽しむこともできます。

世界的な盛り上がりを見せるeSportsが最たる例でしょう。オンラインゲームが、高齢者の認知機能の維持・向上に一定の効果があるという報告は複数あります。

eSports大国のスウェーデンで、世界初の高齢者チーム「Silver Snippers」が結成されました。最年長77歳を筆頭に、5人のメンバーが在籍しています。「年齢は単なる数字にすぎない」をモットーに日々練習に励んでいるそうです。彼らが大会でプレイする姿は、広く注目を集めました。

Image copyright: Silver Snipers

年齢、性別、体型など関係なしに競い合うことができるのがeSportsの魅力。チーム制のゲームでは、孤独感を持ちやすい高齢者のコミュニティ形成にも役立ちます。

GAME AS A SAVIOR IN AGING SOCIETY

ゲームは高齢化社会の救世主?

日本の認知症患者数は増加の一途をたどっていて、2025年には675万人で5人に1人の割合です。社会保障費も2030年に21兆円を上回るとの試算が出ています。政府は昨年まとめた認知症対策大綱に「70歳代での発症を10年間で1歳遅らせることを目指す」ことを盛り込みました。

厚生労働省によれば、1人当たりの年間医療費(平成28年度)は、65歳未満が平均約18万4,000円だったのに対し、75歳以上は同約91万円にも上ります。医療費、社会保障費の膨張に歯止めが利かなければ、働く世代にとってはますます厳しい時代が待ち構えるのは明らかです。

Image copyright: Reuters / Issei Kato

今や日本の高齢者の半数が一人暮らし、そして孤独な人ほど認知症になりやすいそうです。ファミコンの時代から、世界を牽引してきた日本のゲーム産業。社会保障費の高騰に悩み、世界で真っ先に超高齢化社会に突入する日本で、「ゲーム」は再び新境地を開くのかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

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今週の特集

今日27日の日本時間夕方から配信される、今週のQuartz(英語版)の特集は「The global economy in 2020(2020年のグローバル経済)」です。リーマンショックから10年以上が経つ中で、我々は今の経済を理解しているのか、そして次の景気後退の可能性とは、Quartzが独自にディープレポートしていきます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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