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Startup:VCが凍りついた「異次元」の資金調達

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/NAVESH CHITRAKAR

新型コロナウィルスの影響で、日本でもリモートワークが増えています。エンジニアなど高スキル人材だけでなく、働き方改革や生産性向上に向けて様々な職種で普及が見込まれています。

リモートワークにおけるチーム間の協働をスムーズにするのが、コラボレーションツールです。チャットアプリのSlackやプロジェクトマネジメントツールのAsanaをはじめ、現在シリコンバレーで最もホットな領域の一つで、スタートアップの参入も相次いでいます

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、メールの概念を打ち破る、コンタクトセンター向けコラボレーションツールを提供するFrontをご紹介します。

Image copyright: FRONT

Front(コンタクトセンター向けコラボレーションツール)

  • 創業:2013年
  • 創業者:Laurent Perrin, Mathilde Collin
  • 調達総額:1億3,800万ドル(約152億円)
  • 事業内容:顧客とのコミュニケーションを集約するソフトウェアの開発

COLLABORATING ACROSS VARIOUS CHANNELS

顧客コミュニケーションを一元管理

顧客接点がリアルからネットに移り、カスタマーサポートなどコンタクトセンターの重要性は増すばかり。問い合わせはメールやSNS、Webのチャットなどバラバラで、24時間365日止むことはありません。誰が対応するのか、既存の回答例が無いか、チームプレイは必須です。現場に内容を問い合わせたいなど、チーム以外の巻き込みも必要なケースも多く、煩雑です。対応を一歩間違うとソーシャルで炎上に繋がるなど、気が抜けません。

Frontはメールやチャットをチームで共有・管理できるツールです。ユーザーはInboxを共有しながらチーム内でチャットができます。社内外とのやり取りは全てFrontで一元管理できます。問い合わせを起点にヘルプを仰ぐなど、スムーズな協働を可能にするツールです。

Image copyright: FRONT

本来仕事用に作られていないEメールが社内外のコミュニケーションの中心に据えられた結果、さまざまな非効率が放置されています。Slackは社内のコミュニケーション中心ですが、Frontは社内外の両方をカバーします。メールの代替ではなく、メール+チャットでコミュケーションを集約したツールを提供している点で、より大きな市場機会を捉えているといえます。170名の社員と5,500社の顧客を抱え、急成長中のスタートアップです。

UNPRECEDENTED FUNDRAISING

異例尽くしの資金調達

Front は今年1月、シリーズCで5,900万ドル(約65億円)を調達したと発表しました。決して大きな金額ではありませんが、「異例の案件」と世間の注目を集めたのです。

まず、テック起業家個人の出資による調達である点。シード期のエンジェル出資と異なり、この規模は大型ファンドが「リード投資家」として主導するのが通常です。ところが今回はリード投資家たるVCの姿はなく、Atlassian(アトラシアン)、Okta(オクタ)、Zoom(ズーム)といったテック企業の創業者CEO6人の出資で調達をまとめ上げました。

カネ余りのシリコンバレーでは、投資家はみな「お金以外の付加価値」を問われています。出資者である6人の創業者自身が営むテック企業はみなFrontのターゲット顧客で、Frontが描く“Future of Work(働き方の未来)”における先駆者。VCは全く歯が立ちませんでした。

そして異常な速さで進む検討プロセス。共同創業者CEOのMathilde Collin(マチルダ・コリン)が投資家と面談してタームシート(投資条件の概要書)にサインするまで2週間

Image copyright: REUTERS/SERGEI KARPUKHIN

VCは案件の精査や社内意思決定に時間がかかりますが、個人なら決断できます。「48時間以内にタームシートをサインするか、見送るか」とVCがスタートアップから突き上げられる様は、最近も話題になりました。

Frontは2018年11月のシリーズB調達の際もVC12社のタームシートを受け取るまで2週間でした。選ばれたのは最強VCのSequoia Capital(セコイア・キャピタル)。担当パートナーのBryan Schreier(ブライアン・シュライアー)はマチルダがレゴ好きと聞きつけて、Frontのロゴをあしらったレゴをプレゼントし、その座を射止めたそうです。

スタートアップの資金調達環境が厳しくなるとの指摘もありますが、Frontの様な勝ち組はむしろ逆。投資家が殺到し、投資家と起業家の力関係は逆転しています。「勝ち組と負け組の選別が進む」との指摘は、VCにも当てはまる事実です。Frontの資金調達は、現在のシリコンバレーの状況を顕著に表す事例といえそうです。

RELOCATING TO BAYAREA

サンフランシスコへの本社移転

Frontのグローバル化も示唆的です。創業時の本社はパリ、創業者の2人もフランス人ですが、最初の顧客となった米国企業訪問で、マチルダは議論のオープンさや意思決定の早さに「シリコンバレーの1週間はパリの3カ月に匹敵する」と衝撃を受け、帰りの飛行機で米国に拠点を移すことを決意します。

Image copyright: FRONT

とはいえ、売上はゼロ、資金もない。まずはY Combinatorという3カ月のアクセラレータプログラムへ応募することにしました。社員には家族を持つ者も多く、「給料を大幅に下げてスタートアップに入社したあげく、夏休みに3カ月家族を残してパリを離れる」という状況は、フランス人社員になかなか理解を得られなかったといいます。

それでも17人の仲間は全員が了承し、渡米。そして3カ月のプログラムを終えるころには、顧客もつき、出資も得られました。その時点でサンフランシスコに本社を移すことに反対する社員は1人もいなかったといいます。当初許可されたビザは1人分で、米国に残れたのはマチルダのみ。メンバー全員が移り住むまで1年半を要しました。

海外展開やグローバル化が日本のスタートアップでもテーマになることが増えました。Frontの軌跡は「まず行ってみること」「創業者自身がコミットし移住すること」など示唆深いです。グローバル化が目的ではなく、企業成長を目的に拠点選択を考え、サンフランシスコへの本社移転に至った事実に、グローバル化の本質を気付かされます。

TRANSPARENCY AS A VALUE

高い透明性を誇る企業文化

そして、Frontは企業文化もユニークです。カルチャーブックを公開し、最も重視するバリューはTransparency(透明性)

チーム毎の事業進捗はオフィスのディスプレイに表示、毎週の全社ミーティングでは売上、利益、ユーザー数などのデータも共有し、誰でも質問し意見を言える環境を用意します。社外にも積極的に情報開示と発信を行い、投資家向けプレゼンまで公開されています。社員満足度も高く、Glassdoorの“Best Place to Work”に2年連続で選ばれ、レビュー評価は5.0の満点です。

Image copyright: FRONT

マチルダは「企業の成功のカギはDiscipline(規律)にある」と言います。高い目標や理念を掲げるだけの会社はあるが、カギは実行できるか否か。透明性の高い経営には、隠し事もなければ、嘘もない。そういう規律のある環境が企業もチームも強くする。高い透明性は、創業の理念「人々が仕事で幸せになれる場所」を実現しようという、創業者の強い意志の現れにほかなりません。

ユニコーンバブルの崩壊、これと真逆な新世代のスタートアップFrontが提示する、新たな企業文化やファイナンスのあり方。今後の成長から目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

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今週の注目ニュース4選

  1. NASA、アルテミス計画に向けてアイデア募集。世界初の女性と、アメリカ人男性を月面に送るAltemis(アルテミス)計画に向け、自動探査用に設計されたロボローバー(惑星探査車)と、人間が乗るのに適したLTV(月面用車両)の開発コンセプトとアイデアを、NASAは求めています。
  1. イギリスでNetflix脱税疑惑。2019年にイギリス事業に関し1,300万ポンド(約18億4,000万円)以上支払うべきところを「故意に」免れたと、Netflixに脱税の疑惑がかかっています。これを受けNetflixはイギリスの法令に準拠していると主張。世界的テック企業の税金回避をめぐる事態を収拾するには税制改革が必要であると指摘しています。
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今週の特集

今日の日本時間夕方から配信開始の、今週のQuartz(英語版)の特集は「Retail versus Amazon(Amazon VS 小売り)」です。圧倒的なスケールで小売業界を変えてきたアマゾンは、次にどこを目指していくのか。その野望のすべてをQuartzがレポートしていきます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター、Front)

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