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Startup:タブーに挑む進撃のセクシャルヘルス企業

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/TYRONE SIU

この週末は、首都圏でも不要不急の外出の自粛要請などのニュースが出てくるようになりました。自宅で過ごす時間は増え、快適に過ごすための「引き篭もり力」が問われるようになっています。

コロナ特需に沸くのは、トイレットペーパーやマスクだけではなく、ベッドルームにまで及んでいます。アダルトグッズ販売サイトのAdam&Eveは先週だけで売上が2019年の年間売上を超え、1日あたり30%以上の伸び率を記録。Womanizerというブランドでは、今年の売上がイタリアや米国で予算を6割ほど上回って推移しているそうです。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、セックス・トイで女性のウェルネスをリードするLora Dicarloを取り上げます。

Image copyright: LORA DICARDO

Lora Dicarlo(女性向けセクシャル・ヘルスケア企業)

  • 創業:2017年
  • 創業者:Lora Haddock
  • 事業内容:小型ロボット技術を用いたセックストイの開発・販売

UNPRECEDENTED CASE

前代未聞の「剥奪」

今年1月のCESの大きな変化の一つが、セクシャルヘルス関連の展示が増えたことでした。ヘルスケア/ウェルネスのエリアの一角に、さまざまなデバイスが所狭しと並べられていました。

この道を開いたのが、Lora Dicarloです。昨年のCESで同社のセックストイがロボティクス&ドローン部門のイノベーションアワードに選出されましたが、直後に主催団体から「非道徳的で、わいせつで、イメージに合わない」として、受賞を剥奪され出展を禁じられたのです。CESから「アワード剥奪&出禁」という、歴史的なドタバタを演じた企業です。

Image copyright: REUTERS/CHERYL RAVELO

これにCEOのLora Haddock(ローラ・ハドック)は「CESのジェンダーバイアスがイノベーションを阻んでいる」と主催団体に書簡を送り、猛烈に抗議。「基調講演に女性が1人も登壇せず、VRポルノなど男性向けは出展を許されている」と、世界最大のテクノロジーの祭典の男性偏重を指摘した彼女の抗議は世界200以上のメディアで一斉に記事化され、大きな議論を巻き起こしました。

その後ハッドドックのもとにCES主催団体から、お詫びとともに剥奪したアワードを返還したいと連絡が入ります。彼女は「性に関して男女は平等だ。アワードは要らないから、女性向けのセクシャルヘルスの出展もできるよう、ポリシーを変更して欲しい」と答えます。

そして今年のCES。昨年の事件をきっかけに、性の公平性とインクルーシブな環境が整い、Lora Dicarloの活躍に刺激された企業も多く集いました。そしてLora Dicarloの新製品は堂々とCESに出展され、2度目のイノベーションアワードに返り咲いたのです。

Image copyright: LORA DICARDO

STRTUP FROM SCRATCH

ゼロからの起業

創業者でCEOのハッドドックは医学部出身。父はNASAで働く宇宙工学のエンジニアで、幼少期から性についても家族でオープンに話し合う家庭に育ちました。

その後軍隊の道に進みますが、あからさまな女性蔑視の環境に衝撃を受け、性差別に関心をもちます。調査によれば、男性の91%がパートナーとの性交に満足している一方、女性は39%にとどまっているそうです。女性が性的快感を求めることに否定的な考え方は社会に根強く残っています。

女性の性はタブーではない。セクシャルヘルスに気を配ることは、健康に気を配ることと同じ」と彼女は言います。実際、性的な喜びを得られないと鬱や不安を抱えたり、自尊心の低下、性的抑圧などを招く可能性があるそうです。

Image copyright: REUTERS/ADNAN ABIDI

当初は起業する気はありませんでしたが、エンジニアの娘として、医学の道に進んだ自分として、「なぜこれが無いのかという疑問」が、彼女を起業による課題解決に突き動かします。2017年6月、正式に法人を立ち上げました。

当初から苦難の連続でした。そもそも世の中に全くデータが存在しない。仕方なく身近な女性からヒアリングを始め、200名に上る調査から、ある共通点を見出します。ほぼ全員が「最初は性について語りたがらないが、いざ話し始めると自分の体のことは何も分かっていない。そしてほぼ全員が、性生活について不満があり解決策を求めている」だったそうです。

Image copyright: LORA DICARDO

ROBOTICS STARTUP

「大学発」ベンチャー

プロダクト開発を支えたのは、オレゴン州立大学教授のDr. John Palmijani(ジョン・パルミジャーニ)との出会いでした。同大学の博士課程はロボット工学で全米4位にランクされる名門です。

3Dプリンタでつくられたプロトタイプを見た教授は、協力を約束。リーダーを務めるラボの学生や教授との、二人三脚で開発を進めてきました。第一号社員は、同大学のAIとロボティクス専攻の博士の女性で、現在はLora Dicarloのチーフエンジニアを務めています。

こだわったのは、実際に近い使用感、手が自由になるハンズフリー、そして個人の身体の特徴に合わせられるパーソナライズの3点。

Image copyright: LORA DICARDO

完成した同社のプロダクトOséは、人間の骨より多い250以上のパーツと、8つの申請中の特許技術が使われています。単なるオモチャではなく、最新テクノロジーが詰まった革新的な小型ロボットと言えます。

昨年末の先行発売では発表から数時間で100万ドル(約1億1,000万円)、5週間で300万ドル(約3億2,000万円)を売上げる大ヒットとなりました。

DIVERSITY AND FAIRNESS

多様性と公平性

Lora Dicarloはエンジニアの多くが女性、そして性嗜好がストレート、バイ、パンセクシュアルなどLGBTQ+が織り混ざった、多様性あるチームです。

Image copyright: LORA DICARDO

彼女たちは性的偏見が取り除かれ、平等になる社会を目指し、有言実行しています。男性にとっては「男性が生きやすい世界標準」に気づくことは少なく、声を上げるとフェミニズムとして批判される風潮もあります。

Lora Dicarloの製品が受け入れられているのは、こうした多様性と公平性に関する価値観が、ユーザーの共感を呼んでいる点です。タブー視されてきた「女性の性」についてバイアスを取り除き、オープンで日常的な解決を届けたい。いつの日か、「近所のスーパーマーケットでセックストイが買える」ほどに、ヘルスケアやウェルネスの一つとして、自然に溶け込んだ未来を目指しています。

CHANGING LIFESTYLE

ロボットとの共生

新コロナとの戦いは長期戦の様相です。今後も発生する可能性を考えると、ウィルスは撲滅ではなく、共生を覚悟する必要がありそうです。

Image copyright: Bill Snaddon/via REUTERS

ソーシャルディスタンシングが普通になり、他人と物理的に交わることを避ける社会。コロナ前にも、米国人の50%以上が、将来ロボットとの性行為が普通になると回答した調査もあります。AIの進化は、いずれ感情的な結びつきも産むかもしれません。

究極の「引き篭もり力」が求められる未来。あとから振り返ると、新型コロナは私達のライフスタイル全般を大きく変えるきっかけとなるでしょう。Lora Dicarloの躍進は、その未来を示唆しているのかも知れません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. コロナで変わる未来。世界がパンデミックに直面するなかで、ビジネスの新たな変化の兆しを捉えつつあります。注目すべきはまず、D2C業界でも特に美容業界などでユニットエコノミクスが高い状態にあること。そして不動産テックは、リモートによる住宅用のテナントアメニティプラットフォーム、メンテナンス依頼の自動化、メンテナンスの簡素化、荷物の受け取りなどオペレーションの簡素化を進めることで成功を収める可能性が高いこと。リモートワークの拡大によって、一部で使われていたZoomなどSaaSのユーザーの裾野はB2Cへ広がりコンシューマーテックが加速することなどが挙げられます。
  1. コロナはVCにプレッシャーをかける。シリコンバレーを象徴するY Combinator。1,000人以上の投資家を前に売り込みの機会を得られるまたとないチャンスですが、今年はオンラインでの開催が決まっています。スタートアップの資金調達は現在、少数の都市に集中し上位20都市が全体の88%を占めますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で遠隔でデモデーを行う方法が確立されれば、世界中のスタートアップが投資家に売り込む方法も変わってきます。図らずも新型コロナウイルスは、資金調達を含め、多くのビジネスをバーチャルで行うよう投資家にプレッシャーをかけているとも言えるでしょう。
  1. 採用を強化している企業は? ロックダウン(都市閉鎖)と経済停滞による突然のレイオフ…職にあぶれ生活に不安をもつ人も多いなか、採用を強化する動きがあります。その筆頭はアマゾンで、3月21日にはジェフ・ベゾスCEOがInstagramに「10万人の新たな雇用を創出し、パートタイム労働者の賃金を上げる」と投稿しました。スーパーも人員確保に動いており、英小売大手テスコは2万人の派遣労働者の求人を出しています。
  1. 「コロナポルノ」に懸念。3月上旬から世界的にポルノサイトへのアクセス数が増えています。この傾向が顕著なのは性産業が盛んな国で、無料アダルトサイトPornHubによると、3月17日時点で、オランダ(14%)、スイス(11.5%)、ドイツ(5.8%)。ポルノ関連の検索が最も増えたのは米国ワシントンで、33%の伸びを記録しました。一方、一部のビデオに「コロナ好き中国人女子」など、アジア人差別をあおるようなタイトルも増えており、この「コロナポルノ」が人種差別的なステレオタイプを押し付けると懸念されています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵 写真:LORA DICARLO、REUTERS)

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