New Normal:「時短勤務」を国は守れるか

New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールは「New Normal」と題し、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、労働政策の最前線を、ドイツを例にお届けします。英語版はこちら

REUTERS/MICHAELA REHLE
REUTERS/MICHAELA REHLE

COVID-19から労働者を守ろうとする欧州諸国は今、ドイツに目を向けています

各国で導入が進み、欧州大陸で広がりつつあるのは、ドイツ語で“短時間労働”という意味をもつKurzarbeit。この仕組みによって、資金繰りに苦しむ経営者は従業員の労働時間を大幅に減らすことができ、そのぶん、政府が労働賃金損失の大部分を肩代わりします。

目的は企業の雇用維持をサポートし、その先に彼ら企業と経済が回復しやすい土壌をつくることにあります

Kurzarbeit自体には100年以上の歴史がありますが、国際的な注目を集めたのは2008年の金融危機のときで、その際、登録者数は1年で5万人から150万人以上にまで増加しました(PDF)。

このプログラムのおかげで、ドイツは比較的早く危機を乗り越え、立ち直れたといえるでしょう。「Kurzarbeitがなければ、失業者数が2倍(PDF)にまでのぼっていた」と、経済学者たちは推測しています。

Thanks to Kurzarbeit

「時短」の恩恵

この仕組みがドイツで機能しているのは、長きにわたり企業側と労働者側双方に受け入れられてきたからでしょう。また、ドイツの労働法では、“解雇”は米国などと比べてハードルが高くコストもかかるため、企業はできるだけ避けたがります。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ドイツではKurzarbeitの対象枠を広げました。

これまで従業員の30%が労働時間を短縮した企業が申請可能であったところを、10%にまで引き下げました。また、派遣社員もこれらの恩恵を受けられるようにし、通常時の半分以下の労働時間で、4カ月が経過した人の補償率も引き上げる意向です(子どもがいる場合は67%、子どもがいない場合は60%)。

Quartzでは、OECD(経済協力開発機構)とIMF(国際通貨基金)のレポートを分析。欧州で実施されている新型コロナウイルスの経済対策の半数以上が、何らかの短時間労働の仕組みを取り入れており、全く新しい仕組みもあれば、既存のKurzarbeitスキームを拡大させた仕組みも見られます(そのうちの多くは2008年の金融危機以降に設立されたものです)。

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「この病に対抗するために、労働市場と社会の双方が短時間労働制度を採用する流れを、至るところで目にすることができる」と話すのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの欧州研究学部の教授、アンジェロ・マルテリ(欧州国際政治経済学)です。

「今や名高いKurzarbeitは、欧州のほぼ全土で広がっている」

Other countries

各国の政策

新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱により、欧州諸国のなかで雇用を守るために真っ先に動いた国のひとつが、デンマークです。

大量解雇を避けるため、デンマーク政府は3月中旬には労働組合と経営者団体双方と合意し、労働者が失った賃金の75%を、月3,100ユーロ(約35万7,000円)を上限に3カ月間にわたり補償するとしました(残りの25%は企業側が補償)。

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英国では、4月20日、「Coronavirus Job Retention Scheme」(新型コロナウイルス雇用保持スキーム)という名の短時間労働制度が導入され、一時休暇などを与えられた労働者の賃金の80%を、月2,500ポンド(約33万0,000円)を上限に6月末まで補償すると決定しました。

このプログラムには、最低でも420億ポンド(約5.5兆円)のコストがかかると見込まれており、オンラインでの公開後30分で、会社経営者から6万7,000件もの問い合わせがありました。

米国でKurzarbeitに近い仕組みといえば、27州で導入されているワークシェアプログラムで、労働時間を削られた労働者に、部分的な失業手当を与えています。

これらの仕組みによって、雇用主は労働時間を減らして資金の節約をしながら解雇に伴う出費(リクルーティングや再トレーニング)を抑えさえられます。一方、従業員は解雇されることなく雇用主からの便益を受け、賃金補償も受けることができます。

ワークシェアプログラムは米国ではあまり人気がありませんでしたが、COVID-19がそれを変えるかもしれません。雇用主からの問い合わせは3月28日には前週から57%伸び、ニューヨークやワシントンなど被害の大きい州ではさらに急速に伸びています。

The point at issue

補助の問題点

賃金補助における落とし穴のひとつは、ウイルスがなくても失われていたかもしれない雇用も補償の対象としてしまう点です。

3月20日のOECDレポートでは、政策を立案する際に注意すべき点として「長期的に見ても成長の余地のない雇用」への補助を避けることをあげています。国際通貨基金(IMF)も、賃金補助については「明確に漸次廃止する仕組み」を設けるようアドバイスしています。

もうひとつ、新型コロナウイルス対策として、欧州各国が援助拡大している政策で注目したいのは、個人事業主への補助金です。

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個人事業主は、確固たる雇用主がいないため、社会のセーフティネットからこぼれ落ちる可能性がありますが、ウイルスは彼らのビジネスと生活にも等しく打撃を与えています。上の表の通り、欧州のほとんどの国では、個人事業主への支援を発表しています。

In the future

すべては資金次第

欧州諸国では、どのように経済を再開し通常生活に戻るか議論されるのに並行して、雇用保持政策と労働者の賃金補助政策の期限についても議論もされるでしょう。

多くの国が緊急措置としての短時間労働計画を進めるなかで、これらが今後、各国の労働市場において定着するかどうかは疑問が残ります。先述のマルテリ教授によると、それは資金次第になりそうです。

「短時間労働のスキームにはかなりのコストがかかる」と話します。「だから、負担できる国もあれば、できない国も出てくるだろう」

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This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. EU内での経済的分裂。新型コロナウイルスの大流行で世界大恐慌以来の深刻な不況になると予想されるなか、EU圏の19カ国の間に巨大な経済的断絶が生み出され、将来を脅かしている、と欧州委員会は警告しています。EUの国内総生産は2020年には記録的な7.75%の縮小、2021年にはわずか6.25%にしか戻らない可能性が高く、失業率は7.5%(2019年)から9.5%に上昇するといいます。
  2. オランダがロックダウン緩和へ。オランダ政府は、新型コロナウイルスのロックダウンの段階的な緩和を5月11日から始めると発表しました。小学校や美容院(予約のみ)の再開、テニスなどの非接触型の屋外スポーツが許可されるようです。夏の間に、徐々に制限をさらに緩和し、順調にいけば、9月1日までには、フェスティバルやコンサート、プロサッカーの試合など、大規模な観客を集めたイベントの許可を出し始めたいとしていますが、それは後日決定されます。公共交通機関は6月1日から通常通りの運行を再開。座席数は40%に絞られ、フェイスマスクの着用が義務付けられます。
  3. ミラノでデジタル・ファッション・ウィーク開催へ。WWD紙は、イタリア・ファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)が、2021年春のメンズコレクションに加え、来春のウィメンズとメンズのプレコレクションを発表する「第1回ミラノ・デジタル・ファッション・ウィーク」を7月14日から17日まで開催すると報じました。コレクションでは、デジタルプラットフォームを駆使し、幅広い層にアピールするといいます。
  4. 欧州への旅行はいつから可能? 新型コロナウイルスでの混乱が続く欧州の大多数の国では、いつ外国人観光客に開放するのか、また開放された場合にはどのような影響があるのか、はっきりしていないことが多いのが現状です。しかし、ギリシャは、7月までには観光客を受け入れられるようにするための戦略を発表しました。なお、米国の航空会社デルタ、アメリカン、ユナイテッドはすべて、 6月から10月のあいだに、主にロンドン、パリ、フランクフルト、アムステルダムなどの主要ハブへのいくつかのヨーロッパのルートを再開する予定です。

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