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Asia:避難の道中で死んだ「逆移民」たち

Image copyright: REUTERS/ADNAN ABIDI
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Asia Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。ロックダウンで露呈したインドの「逆移民」問題の根本的解決を図るには、過去の歴史を振り返りながら、農村のボトルネックに向き合わなければなりません。英語版(参考)はこちら

Image copyright: REUTERS/ADNAN ABIDI

ここ数週間、インドの状況は2つの過去の出来事のデジャヴのようでした。

国内を何百万もの人が自転車や徒歩など、あらゆる交通手段を使って遠く離れた故郷に帰る姿は、1947年のインド・パキスタン分割後に起こった大量の移民の記憶を呼び起こしました。次いで、首相と財務大臣から発表された一連の経済再開政策は、1991年の経済改革を彷彿とさせました。

1947年の印パ分割によりインドは2つに分割され、新たに出現した“ボーダー”を越えて多くの人が移住しました。そして今、新型コロナウイルス感染拡大に伴う都市閉鎖(ロックダウン)で、再び国民は分割されました。“家に留まる者”と“職を失い歩く者”とに。

making India self-reliant

モディの意図

絶望的な「逆移住」は、環境に起因すると考えられているパンデミックの経済的なつながりを明らかにし、また危機的状況を招く羽目になった複数の構造的問題をリセットする機会を提供しました。

ロックダウンに突入してから約1カ月半後の5月12日、ナレンドラ・モディ首相は、コロナの混乱を国家の自立を促すチャンスにしようと、テレビ演説で国民に呼びかけました

彼は「Atmanirbhar Bharat Abhiyan」(自立インドミッション)を立ち上げ、経済、インフラ、技術主導型システム、人口動態、需要を5つの柱に、危機をチャンスに変え「自立したインド」を構築する方針を示しました。

Image copyright: REUTERS/FRANCIS MASCARENHAS

モディ首相は、危機からの復興支援のため新たに、総額20兆ルピー(約28兆4,000億円)規模の経済政策パッケージを発表。ニルマラ・シタラマン財務相がその後5日間連続で記者会見を開き、その全容が明かされました。

しかしながら、経済対策を大々的に発表した政府の詰めの甘さは否めません。詳細が明らかになるとアナリスト達から、実際の政府の景気刺激策はGDPの1%に過ぎず、発表通りの10%ではないと批判され、その他も、古いスキームとインド準備銀行(RBI)が発表したマネーサプライ操作を再パッケージしたものだと指摘されています。

必要なのは、国民の手元に現金を届けるための政府支出だったはずなのに、これでは本当に助けを必要とする人に支援は行きわたりません

しかしもっと考えなければいけないのは、これらの措置が、ロックダウン後に起こるであろう将来の悲劇を回避できるかどうか、です。3月25日午前零時にロックダウンが始まったのは、首相発表からわずか4時間後のこと。13億の人々は突如として交通手段を封じられ、徒歩や自転車で故郷への帰途についたのでした。

いつ終わるかもわからない混乱の中、州境を越えて移住した場所に留まり続けるための支援システムもない。炎天下で歩き続けた疲労や飢えから、道路や線路上で息絶える人が続出しました

THE RULAL BOTTLENECKS

農村のボトルネック

Image copyright: REUTERS/DANISH SIDDIQUI

今回表面化した何百万人もの逆移住ですが、そもそも、なぜ彼らは故郷を離れたのか。それはインドの産業構造に起因します。

GDPのうち農業とその関連部門は16%を占め、就労人口の約50%が従事しています。残り半数の労働者がGDPの84%を占める製造業やサービス業で働いているとすれば、一人当たりの収入の差は歴然であり、都市や工業団地に移住者の集まる要因となっています。

また、農業が抱える構造的な限界も人々を村から追いやる理由のひとつです。独立後の農業政策で重要な役割を果たしたとされる「緑の革命戦略」ですが、これは完遂されませんでした。

緑の革命は、肥料、殺虫剤といった化学肥料を用いて穀物収穫量の飛躍的な増大を目指す計画で、すでに灌漑が行われていた地域の作物の生産性と生産量を向上させるものでした。緑の革命が始まった当時、感慨を利用できていたのは国内の農地の3分の1以下で、確かに改善はみられたものの、現在48%(2017-18年経済調査)にとどまります。

耕作面積が減れば、農場の経済的な実行可能性は低くなり、重大なボトルネックとなります。

最新の農業センサスによると、経営規模の平均的な保有面積は2010~11年の1.15ヘクタールから2015~16年には1.08ヘクタールに減少。小規模・限界農家(~2haの農地保有)が全体の86%を占めました。農業労働力の余剰を製造業やサービス業でカバーし、移住者数を減らすことに成功した州もありますが、依然として問題を抱える州は存在します。

Image copyright: REUTERS/AMIT DAVE

現在の移民危機の発生源は、ビハール州、チャティスガル州、マディヤ・プラデーシュ州、オーディシャ州、ウッタル・プラデーシュ州、西ベンガル州です。

自然に囲まれた村では、農業は環境へのプレッシャーにもなっています。農業は大きな森林の端にまで侵入し、政府や私有地の小さな森を消し去り、人間と野生動物の対立を強めてきました。人間と野生動物の相互作用が増幅すれば、新型コロナウイルスのような人獣共通感染症の感染リスクを高めることにもなるのです。

これらの要因が相まって、ここ数十年の間に農場の収量と収入の減少は引き起こされました。緑の革命によって豊かになったはずの地域でさえも不幸に。国政選挙の前には、収入が減った農家達が首都に集結し、最低賃金の向上など農民の待遇改善を求め抗議デモを行いました。

SUPPORT FOR THE RURAL ECONOMY

農村経済への支援

「自立したインド」構造を説明する初期の記者会見ではじめに焦点となったのは、零細・中小企業(MSME)向けの最大3兆ルピー(約4兆3000億円)の無担保融資スキームと、国内移住者へ2カ月間の食糧支援でした。食糧支援は移民に即効性のあるサポートの提供を意図し、MSMEへの担保なしの信用供与は、労働力の割合が不均衡な産業を再開させるためのものでした。

前述の通り、農業(およびその関連部門)はGDPのわずか16%にしか寄与していないにもかかわらず、国内の就労人口の半数を占めています。したがって、農業の付加価値を高めることができれば、その恩恵はより多くの人々に届くという理論になります。

Image copyright: REUTERS/RUPAK DE CHOWDHURI

マハトマ・ガンジー国家農村雇用保障法(MGNREGA)に充てた4,000億ルピー(約5,640億円)の追加資金は、農村経済の手に現金を届けるための措置でした。

このほか、農家にとって有利な農産物の価格設定、州境を越えたバリアフリー取引、電子商取引の枠組みの提供、ポストハーベスト貯蔵施設整備など農門インフラの拡充に向けた財政支援も約束されています。漁業、家畜飼育、養蜂へのサポートも発表されています。

A ZERO-SUM GAME?

ゼロサムゲームか

ひとつの経済パッケージにすべての問題解決を期待するべきではないかもしれません。しかし、これは前例のない状況下で発表された経済政策です。少なくともロックダウンによる逆移民の悲劇を生んだ環境的・経済的要因を根本から変えるための基礎を築くものであるべきです。

つまり、経済パッケージは他の開発にもたらす影響についても並行して考えなければいけないのです。政府は、産業や開発プロジェクトが環境クリアランスを取得しやすくするために、環境影響評価(環境アセスメント、EIA)のルール改正を急いでいます。

以前に報じられたように、新しいEIA通知の草案は、ビジネスプロセスの簡素化が謳われていますが、結局のところは国や業界団体に有利になるだけ。特定のプロジェクト(ダム、鉱山、空港、高速道路建設など)に、公聴会プロセスを免除すれば、これに則って環境クリアランスなしに事業を始めた団体を正当化することになります。協議の機会も与えられず、土地や生計、天然資源へのアクセスを奪われた住民は別の職業を求めて移住を余儀なくされます。

例えば、アルナーチャル・プラデーシュ州のエタリン水力発電所のプロジェクトは、環境省の森林諮問委員会が、地元の先住民コミュニティの反対意見を拒絶したまま認可を得ました。この地はヒマラヤの生物多様性が豊かな地ですが、発電所建設により、28万本の森林とそれに紐づく生物多様性が破壊される危険性があります。

Image copyright: AP PHOTO/MUKHTAR KHAN

新型コロナウイルス感染封じ込めるためのロックダウンは、危機に瀕し国が得たものを内省する機会を与えたはずなのに、政府はマス的なビジネスの簡素化ばかりを優先し、環境や社会的コストには無関心です。私たちは二度とそのような自体に陥らないために何ができるかを考え、今こそ実行するべきでしょう。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. インドネシアで子どもの死者が多い理由。若者は新型コロナウイルスで重症化しにくいとされていますが、インドネシアでは5月22日までに18歳未満の感染者数715人のうち28人が犠牲に。検査で感染が確認されていない観察中だった380人以上の子どもが亡くなっています。子どもの3人に1人が栄養失調に陥り免疫力が損なわれていると小児呼吸器科医は指摘します。
  2. LG電子が配膳ロボット開発に乗り出す。LG電子は、韓国の飲食店向けにカスタマイズした配膳ロボットの開発に本腰を入れます。デリバリー最大手「配達の民族」を運営するWoowa Brothers(ウーワ・ブラザーズ)、韓国ロボット産業振興院と業務提携を結び、開発およびロボットレンタル事業を推し進める方針です。
  3. 経済再開で感染者増…どうなる?。ポストコロナを迎えた中国で第二波を懸念する消費低迷が経済回復を鈍らせると懸念されています。「今の問題は需要の欠如」だとEC大手のJD.com(京東商城)のチーフエコノミストは指摘します。経済再開後の感染拡大はインドでも深刻で、再度のロックダウンが噂されています。
  4. 今月下旬からベトナム渡航再開。日本とベトナム両政府は、日本人のベトナム入国を今月下旬から認める方向で調整に入っています。まずビジネス関係者を優先に最大250人が渡航し、その後に学生や観光客へ段階的に対象が拡大される見通し。ベトナムからのビジネス関係者や技能実習生らの日本入国についても調整が進められています。

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