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Startup:立ち上がる「ソロ起業家」たち

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
Published This article is more than 2 years old.

[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/CHERYL RAVELO

コロナを契機に飛躍的に伸びたのが、「Instacart(インスタカート)」などの買い物代行サービスです。「ショッパー」と呼ばれる個人の配達員が食料品や日用品を代わりに購入し自宅に届けてくれるのですが、売上は前年比5倍でユーザーは毎月倍増、将来3年分の成長を30日で達成する爆速の伸びです。

この栄光の陰で、巨人・インスタカートの優位を覆そうとする、あるスタートアップが静かに産声を上げていました。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、“インスタカート・キラー”のDumplingを取り上げます。

Image copyright: DUMPLING
Dumpling(ギグワーカー自立支援)
・設立:2017年
・創業者:Joel Shapiro, Nate D’Anna, Tom Schoelhammer
・事業内容:ギグワーカー自立支援

GIG WORKER SUPPORT SOCIETY

底辺を支える者たち

買い物代行最大手のインスタカートは、コロナ禍によって「毎日がブラックフライデー」と経営陣がコメントするほどの盛況です。人の移動が減って閑古鳥が鳴いている「Uber」や「Lyft」などから雇用を吸い上げ、現在の25万人に加えて新たに30万人を雇用するなど、異次元の成長を見せています。

一方、「好きな時間に、気軽に働く」はずだった、ギグワーカーというライフスタイルも、実際はフルタイムの仕事として捉えている人がほとんどです。インスタカートでは、チップの高い仕事は早い者勝ち。アイテム数と場所だけの情報で仕事を受け、依頼人は見ず知らずの他人。ショッパーとは完全に個が消され、裁量が制限された匿名の存在です。

コロナ禍で囮(おとり)チップと呼ばれる悪質な事案も発生しました。需要が急増しショッパーがなかなか捕まらないため、わざと高額の追加チップを提示し、配達後にチップを取り消すという悪質なケースが多発したのです。ショッパーにとってチップは収入の半分を占めるため、これは大打撃でした。

Image copyright: YOUTUBE/KOIN 6

どこかで感染して自分や家族が死んでしまうのではないかという不安、そして届け先では露骨に接触を拒まれる屈辱

それでも明日の生活をと、自らの健康をリスクに晒して働くショッパー達は、衛生面の対応や報酬が十分でないと主張しストライキを敢行しました。インスタカートの急成長の陰で、ギグワーカーたちの不満は爆発寸前の状態です。

RISING “PERSONAL INDIPENDENCE”

立ち上がる「個人」

Dumplingは、誰でも簡単に「買い物代行サービス」を独立開業できるサービスです。登録すると簡単な自己紹介欄の記入と、得意なジャンル(オーガニック食品、果物、魚など)に稼働時間や地域、手数料や最低チップ額などを、自由に設定します。買い物時の費用を一時的に肩代わりするためのデビットカードも会社から提供されます。自分専用のウェブページでオーダーの受付から決済まで行えます。

インスタカートとの違いは、Dumplingではショッパーが自ら集客を行い、オペレーションも全て自分でこなす点です。

近所の口コミから、ソーシャルでの拡散まで、マーケティングは人それぞれです。一方、手数料は1配送ごとに5ドルのほかに、注文した顧客が負担する5%のフィーのみ。手数料やチップの料率は自分で決められ、全て自分の取り分となります

インスタカートではアイテム価格はサービス上で提示されるため、実際の価格は分からない仕様ですが、Dumplingでは利益を上乗せせずレシートを必ず顧客に提供するため、透明性が高く安心です。

Image copyright: DUMPLING

Dumplingではショッパーの創意工夫で顧客がついて、売上に繋がります

「洗剤はこのブランド」など細かい個別の要求に応えることもできます。生鮮品以外にも高単価なカテゴリーに広げることでチップも弾みます。「3倍稼げる」とインスタカートから乗り換える人が続出。コロナで注文が20倍に伸び、全米50州に2,000人とユーザーが急成長中です。

Dumplingの創業者は大学の同級生で、ギグワーカーの職場環境の口コミ・情報共有サイトで起業しましたが、投稿される口コミがあまりに悲惨で、そのことに心を痛め、今の事業モデルに転換しました。搾取される状況から「なぜ独立をしないのか?」とユーザーの声を聞いた結果、行き着いたのが買い物代行のための運転資金と、テクノロジー的なツールの2つでした。

「ギグワーカー達に真の自立と経済的な安定を提供したい。コロナで数えきれないほどの人が仕事をなくし、かつてないほどに、人々は健全で柔軟な稼ぎ方を求めている」と、共同創業者のJoel Sapiroは意気込みを語ります

THE AGE OF THE SOLOPRENEUR

ソロプレナーの時代

このDumplingをシード期から支えるVCが、FloodgateのAnn Miura-Ko(アン・ミウラ-コー)です。ライドシェア大手のLyftの可能性を早期に見出し大きなリターンを上げた、VCランキングのThe Midas list(ミダスリスト)に名を連ねる有力投資家で、スタートアップ界最強の女性とも言われる人物です。

彼女の協力もあり、Dumplingはコロナ禍の真っ只中の6月に、さらなる成長に650万ドル(約7億円)の資金調達を実施しました。

Image copyright: アン・ミウラ−コー氏 FLICKR/CHRISTOPHER MICHEL

Dumplingへの投資仮説について、ミウラ−コーは「パッションエコノミーの到来」そして「ソロプレナー(個人起業家)の台頭」を挙げています。

「ギグエコノミー」を生んだ、Uberのようなオンデマンド型のプラットフォームは、供給サービスを“Uber”や“インスタカート”といったサービス名で包み、ショッパー一人ひとりの個性を消して均質なサービスを提供することが成功の秘訣でした。

対する「パッションエコノミー」では、サービス提供者の個性をマイナスではなくセールスポイントと捉え、情熱(パッション)をもって、創意工夫をユーザーに促します。ギグエコノミーとの違いとして、次のような点が挙げられます。

  • 顧客との関係性:一度切りのマッチングの数を追う/深く長期的で継続した関係性を追う
  • 提供されるサービス:特定のコモディティ/個性的で広がりをもった多様な商材
  • プラットフォームの機能:需要と供給のマッチング/個をエンパワーメントするSaaSツール
  • ビジネスモデル:取引量に連動した手数料/月額課金のサブスク
Image copyright: REUTERS/FABRIZIO BENSCH

ミウラ-コーは、パッションエコノミーにおいてエンパワーされた個人を「ソロプレナー(個人起業家)」と呼びます。44歳以下の労働者、特に15〜24歳の46%がレイオフされ、5分の1以上(22%)が失業中という現状。壊滅的な影響を受けた社会で求められるテクノロジーは、古い体制の破壊ではなく、新しい価値や生き方の創造であると主張します。

ギグワーカーがテクノロジーというアイアンマンスーツを纏って武装するときがきた」と話すミウラ-コー。一方、Dumplingでは集客もオペレーションも自分でやる必要があり、自立には責任が伴うのも事実です。

日本でようやく盛んになってきたギグワーカーの議論のその先の、ソロプレナーの胎動に沸くシリコンバレー。テクノロジーが起業のハードルを究極にまで下げた環境で、コロナで声を上げる個人。Dumplingは“インスタカート・キラー”として、ジャイアントキリングを果たすでしょうか。今後も目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. Microsoftは小売店を永久的に閉鎖。6月26日、同社直営店であるマイクロソフトストア83店舗を閉鎖することが発表されました。実店舗の廃止で「税引前利益は約4億5,000万ドルになる」見込みで、今四半期に計上されます。新型コロナが小売り戦略の見直しを後押しした面もあります。米国では実店舗の閉鎖に踏み切る企業が相次いでおり、調査会社Coresight Researchは、今年の店舗閉鎖が最大25,000店に上るとの見通しを報告しています。
  1. ゲーム市場は1,590億ドル規模に達する。調査会社Newzooによると、2020年の世界のゲーム業界の収益は、前年比9.3%増の1,593億ドル(約17兆円)。2023年末までに、市場規模は2,000億ドル(約21兆4,000億円)を超えると予測されています。モバイル端末利用の増加、次世代コンソールの登場、そしてパンデミック下でのゲーム利用の広がりが追い風となりました。
  1. 就労ビザ発給停止でリモートワークはさらに加速。米国で6月24日から、高度な技術をもつ労働者のための「H-1Bビザ」などの発給が停止されたことで、長期的にIT分野での熟練労働者の確保が難しくなる恐れがあります。現状では入社後のオンボーディングで本社に呼び寄せることもできないので、人材を確保しても遠隔での業務を円滑に進める環境整備を進めなければなりません。
  1. AI倫理をめぐる緊張。人工知能(AI)を構築する上でますます重視される自然言語処理(NLP)の開発と倫理重視を叫ぶ声がせめぎ合っています。機械学習のトップ会議NeurIPSでの声明をめぐり、学問的倫理要件について議論は紛糾。危険なAIアプリを阻止するために、AIモデルのトレーニングに使用されるバイアスが説明されること、そして倫理研究を行う研究者の発信にインセンティブが確立されること。さもなければ、商業利用で危険な方向に進むばかりです。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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