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Startup:「マトリックス」なリアルの構想力

Image copyright: REUTERS/MIKE BLAKE
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/MIKE BLAKE

イーロン・マスクといえば、TeslaとSpaceXを創業した、言わずと知れた存在です。実は、彼はもう一社、壮大な計画の一役を担うスタートアップを立ち上げています。

人間がAIの「飼い猫になる」と未来を恐れるマスクは、人間の能力を増幅させる、SFさながらの構想を着々と前に進めています。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、イーロン・マスク最大のチャレンジと言われるNeuralinkを取り上げます。

Image copyright: NEURALINK

Neuralink(BMI開発)
・創業:2016年
・創業者:Elon Musk, Max Hodak
・調達額:1億5,800万ドル(約169億円)
・事業内容:脳とコンピュータをつなぐインターフェイス開発

THE INTEGRATION OF BRAIN AND MACHINE

脳とマシンが繋がる日

Neuralinkの目的は、脳に埋め込むマシン(Brain Machine Interface、BMI)の開発です。彼らが目指すのは、簡単に言えば“考えていることを口に出さなくてもコンピューターに読み込むことのできるシステム”。実現すれば、例えば4桁の計算を考えた瞬間にスマホに答えが自動で入力されるような光景を目にすることになります。

そもそも、人間の思考はすべて脳内のニューロン(神経細胞)同士の電気信号のやり取りだとされています。Neuralinkの「N1インプラント」と呼ばれるシステムでは、脳の電気信号を拾い、bluetoothで外部のデバイスに指示が送られます

Image copyright: NEURALINK

電気信号を拾うための装置は、「N1チップという極小チップと、チップから伸びる多数の電極をもつ人間の毛髪の4分の1ほどの細さの96本のスレッド(糸)で、これらを脳内に埋め込みます

高い精度が求められる埋め込み作業は、専用ロボットが担います。頭蓋骨にレーザーで2ミリの穴を開けて、そこからN1センサーを差し込み、縫合。局所麻酔で数時間の手術で終わるそうです。将来的には「レーシックと同じ感覚」で、脳にN1センサーを埋め込む世界を目指しています。

Image copyright: NEURALINK

すでに1,500本の電極を埋め込んだラットで効果が確認され、サルを使った実験ではコンピューター操作に成功、2020年には人間に施す臨床試験を開始する計画です。今月9日には、マスクがNeuralinkの最新情報を8月28日に発表するツイートし、再び話題をさらっています。

COEXISTENCE WITH AI

AIとの共生

不気味な未知の話にも聞こえますが、医療分野におけるBMIの研究は半世紀近く前から行われています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄損傷など障害のある人でも思考するだけで他人とコミュニケーションが取れるテクノロジーは、実現すれば多くの人が救われます。

一方で、AIの進化を危惧する声も上がっています。AIが進歩し人類の知能を超えるとされる転換点(シンギュラリティ)を迎えれば、人間は淘汰されかねないとも言われます。「我々に残された唯一の選択肢は、処理能力の高い脳のインターフェイスをつくり、AIと共生関係を結ぶことだ」と、マスクは主張します。

Image copyright: NEURALINK

仮にAIに悪意がなくても、人間は「隅に追いやられる」ともいわれています。いわゆる「ペーパークリップAI」の例です(ペーパークリップをつくる人工知能は、目的を達するためにあらゆる原料を用いてペーパークリップをつくり続け、やがて人間を排除/原料にしてしまうという思考実験)。

マスクはNeuralinkの着想を、あるサイエンスフィクションから得たそうです。脳にチップを埋め込まれた主人公がコンピューターとコミュニケーションし、バックアップした自分のデータを死後にダウンロードして永遠の命を手にするストーリーです。

マスクは永遠の命に興味はないようですが、AIへの危機感から、2016年に世界の脳科学の権威らとNeuralinkの設立に乗り出します。自らCEOに就任し、1億ドル(約110億円)の自己資金を投じています。

HUMANS TURNING INTO CYBORGS

サイボーグ化する人間

Neuralinkが目指すのは、人間のエンパワーメント(能力増強)です。コンピューター同士は大量の情報を一瞬でやり取りできるのに対し、人間がコンピューターに指示を与えるにはキーボードを叩くしかありません。

マシンとのやりとりを、身体的動作なしに脳で直接行うことができれば、入力のロスはなくなります。人間が感じたり考えたりすることは全て電気信号ならば、言葉を交わさずとも、何かを考えただけでN1チップ同士が通信し合って意思の疎通ができてしまいます。

Image copyright: REUTERS/YVES HERMAN

Neuralinkが広がった2050年の生活はどんな姿でしょうか。会議は誰も話さず無言でN1チップ同士がやり取りします。社内資料は一瞬で脳に情報がインプットされ、読み込む必要がありません。移動は考えるだけで自動運転タクシーが迎えに来ます。出張はアバターロボの映像を脳に投影し、あたかもその場にいるかの様に振る舞えます。

突拍子もない話に聞こえますが、「人間はすでにサイボーグだ」とマスクは言います。私たちは手のひらにスマホというスーパーコンピューターを持ち、すでに人間の能力を超越した力を手にしています。マスクは10年以内に「人々は話す必要がなくなる」と予言しています。

THR RISE OF A NEW GENERATION

新世代の台頭

一見クレイジーに思えるBMIの世界ですが、挑戦する起業家は増えています。

米テキサス州オースティンにあるBrane Interfaceもその一社。創業者は若干16歳、高校1年生のAlex Pinkerton(アレックス・ピンカートン)です。クリーンエネルギーを研究する父親の影響でグラフェンの応用に取り組み始めました。グラフェンとは地球上で最も薄い(1原子の厚さ)のシートです。

グラフェンで人間の思考のかすかな磁場を感知し、外部デバイスにリンクする計画で、脳の手術を必要としません。装置はイヤホンか帽子に設置するタイプを予定しています。「自分が解いた計算式が確かなら、必ず実現できる」と意気込みます。昨年のSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)で、最も革新的なアイデアに贈られる「Interactive Innovation Awards」を受賞し、一躍、時の人となりました。地元のセントアンドリュース高校に通いながら、開発に勤しんでいます。

Image copyright: INSTAGRAM/braneinterface

ニューヨーク拠点のCTRL-labsは、手に巻いたリストバンドで脳から手に送る信号を捉え、考えるだけでデバイスをコントロールできる技術を開発しています。共同創業者のPatrick Kaifosh(パトリック・カイフォッシュ)はコロンビア大学で神経科学を学んだ32歳のサイエンティストで、「Forbes 30 under 30」にも選ばれた逸材です。

昨年9月、設立4年目で社員わずか37名の同社をFacebookが10億ドル(1,100億円)で買収すると発表し、世間を驚かせました。考えるだけでSNSに写真を投稿できたり、研究を進めているVR分野での活用を目論んでいます。

ENTREPRENEURIAL “VISIONARY”

起業家の「構想力」

Neuralinkには課題もあります。脳にチップを埋め込むことの安全性、能力増強された人とそれ以外の人との公平性や格差の問題、脳活動から第三者に思考を読み取られるかもしれないプライバシーの問題など、山積みです。

一方、私たちの日常を振り返ると、リモートワークによって外界との接点がZoomの画面に集約される毎日に、“身体は不要で、脳とコンピューターがあれば足りる”世界の一端に足を踏み入れているとも言えます。

Image copyright: REUTERS/KIM KYUNG-HOON

考えることも、感じることも、全ては脳の活動にすぎません。脳はコンピューターと直接やりとりすれば、人間は身体という制約から解放されます。脳のデータはクラウドに保存され、人間はデジタル空間で永遠の寿命を手にします。

まさに映画「マトリックス」の世界ですが、実現するかどうかはさておき、マスクの壮大な構想力は、起業家としての姿を思い知らせてくれます。果たして人間はマシンとの融合で、どんな未来を切り拓くでしょうか。Neuralinkの挑戦から目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. ジャック・マーのホログラムの裏で。世界人工知能会議(WAIC)にホログラムで出演したジャック・マー。その翌日、ARをベースとしたホログラフィックサービスを提供する中国企業WiMi Hologram Cloudの株価は約4倍に跳ね上がりました。突然の株価急上昇について「理由はわからない」と、同社のヤン・ヤンファCOOは言います。なお、基調講演に登場したTeslaのCEOイーロン・マスクは、ビデオ出演でした。
  2. ZooxのCEOがコメント。Amazonに12億ドル(約1,260億円)で買収された自動運転スタートアップZooxのCEO、黒人女性のAicha Evans(アイチャ・エヴァンス)は、買収について「自動運転業界におけるZooxの力を強固なものにする」と、コメント。Amazonの支援を受け、世界中に新たな交通手段を展開したいと意気込みを語りました。彼女は昨年ZooxのCEOに任命されるまで、Intelに12年間在籍し、コミュニケーションおよびデバイスグループのマネジャーのキャリアを積んできました。
  3. シアトルのスタートアップがユニコーン入り。米シアトル発のスタートアップQumuloが1億2,500万ドル(約134億円)の資金調達を発表。同社の評価額は12億ドルとなり、ユニコーンの仲間入りを果たしました。Qumuloの創業は2014年。スケールアウトNASとして有名なアイシロン(2010年にEMCにより買収された)の設立メンバーが立ち上げたストレージベンダーです。シアトルに本拠を置く企業のCOOを対象とした調査では、コロナ禍でも同市のテック業界は好調であることが示されました。
  4. AutoXの無人運転テスト開始へ。アリババ出資の自動運転スタートアップAutoXは同乗スタッフなしで、カリフォルニア州サンノゼの公道での無人運転テスト実施の許可を与えられました。無人運転テストが認められたのは3社目。同社のロボタクシー事業は、2023年までに黒字化すると見込まれています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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