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Startup:Google大成長の立役者がGoogleを倒す日

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/POOL

7月29日に米下院司法委員会の公聴会にGAFAのトップが召喚されました。焦点は反トラスト法(日本の独禁法に相当)。この日、ひときわ大きな批判を受けたのはGoogleでした。標的は、同社の広告事業とプライバシー慣行です。

Googleは無料でメールやクラウドサービスを提供する一方、過剰なユーザー追跡と個人情報の流用によって巨大な収益を生んでいます。いわば、Googleの成長はプライバシーを犠牲にして得られた産物であり、ユーザーと広告主の「利益相反」の上に成り立っています。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、Googleで広告ビジネスのトップだった人物が、理想のために再びゼロから立ち上げた広告フリーの検索エンジン「Neeva」を取り上げます。

Image copyright: NEEVA
Neeva(検索エンジン開発)
・創業:2019年
・創業者:Sridhar Ramaswamy、Vivek Raghunathan
・調達額:3,750万ドル(約40億円)
・事業内容:広告フリーのサブスク型検索エンジン

USER-CENTEREDNESS

ユーザー本位の検索へ

Googleで検索するとずらっと広告が並び、本当に欲しい情報は下の方に追いやられることがほとんどです。この、広告収益とユーザー体験の乖離は事業の成長につれて肥大化する、Googleが抱える矛盾です。ユーザーには無料を謳い裏では顧客データを垂れ流す、Googleが牛耳る検索という巨大市場に、第2の選択肢を提示するのがNeevaです。

Neevaは広告を表示させない、データを誰にも売らない(90日後に破棄する)サブスク型の検索エンジンを開発しています。現在、来春の正式リリースに向けたクローズドなベータテストを実施中。価格は月10ドル以下(コーヒー2杯分程度)で、ユーザー数を見ながら価格を下げる計画です。

広告が無ければ、「スクリーン全体をキャンバスに使える」ため、広告で埋め尽くされていたスペースをゼロベースで再設計できます。はじめはショッピング検索から始める計画ですが、商品画像を多めに、レビューサイトのコメントを併せて表示し、価格比較と最安値を通知するなど、ユーザー体験を中心に据えたサービスを目指しています。

Image copyright: NEEVA

また、ユーザーがクラウドにもつデータとウェブの海のどこかに存在するデータを同時に検索できます。これまでもDropbox、メール、Slackなど横串で検索できるソフトはありましたが、Neevaはこれにウェブ検索も抱き合わせようとしています。検索した情報を「ブックマーク」すれば、情報源の“内と外”を分け隔てなく管理することができます。

例えば、ネットショッピングで「トレッキングシューズ」を探すとしましょう。ずっと前から欲しいアイテムだったら、友人とのチャットの履歴にお勧めのトレッキングシューズについて情報が残っている可能性もあれば、お気に入りのショップから届いたメルマガに商品に飛ぶURLが書かれていることもあります。これらは検索結果の「Private」欄に、ウェブ検索の結果と並んで表示される予定です。

プライバシーに疑義のあるGoogleが個人のデータまで検索するのは不可能でしょう。一方のNeevaの検索は個人データまで対象とすることで、パーソナライズが進み、より個人の趣味嗜好が反映しやすくなります。

存在を明かさず水面下で開発を続けていましたが、6月末にクローズドベータ版の受付を開始すると同時に、Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)などから3,750万ドル(約40億円)を調達したと発表しました。Yahoo!とGoogleという検索の2大巨頭を見出した最強VCが、今度はNeevaの支援を手がけます。すでに企業価値は1億ドル(110億円)に到達するなど、元Googleのキーパーソンによる新たな挑戦は大いに話題を呼んでいます。

WHO IS RAMASWAMY?

「立役者」の葛藤

「元Googleのキーパーソン」と評したとおり、Neevaの創業者Sridhar Ramaswamy(シュリダール・ラマスワミ)は、Googleの検索広告事業の成長の立役者。「Googleの最重要幹部の一人」と言われた人物です。2007年、Googleがまだ社員15人の時代にソフトウェアエンジニアとして入社。同事業を全社売上の86%を占める同社の最重要ビジネスにまで育て上げ、広告とコマースの両事業1万人のトップを務めました。

ラマスワミは、勤勉で倹約な人として知られています。巨額の富を築きながら、クルマは普通のホンダ車、古い銀縁の眼鏡を長らく愛用しています。物静かで理性的、派手なイベントにも滅多に登場しません。Googleの広告システムを細部まで理解し、時には自らコードも書くハンズオンぶりです。インド人らしく会議では物怖じせず自分の意見を主張し、媚びを売ることもありませんでした。

一方、順風満帆に見えたGoogleでのキャリアも、ラマスワミの胸の内には、検索広告というビジネスモデルに内在する矛盾が大きな影を落としていました。激化するFacebookとの競合、高まる収益への重圧。広告枠は増え続け、より精緻にユーザーを追い続ける。ラマスワミは2018年、突然「初期の企業を支援する立場に回りたい」とVCへの転身を告げ、Googleを去ります。

Image copyright: NEEVA

その後Google時代のエンジニアで同僚だったVivek Raghunathan(ヴィヴェック・ラグナタン)とNeevaの構想を練ります。2人は古巣Googleへの葛藤について話すうちに、完全広告フリーのサブスク型検索エンジンのアイデアを思いついたそうです。2人は、Googleでなし得なかった「真にユーザーの立場に立った検索サービス」を、ゼロからの再出発でつくると決意します。

巨大企業の要職を捨て、52歳でゼロからの挑戦。自らが育て上げた事業に真っ向から挑む起業、見据える相手は世界を牛耳るあのGoogleです。ラマスワミの勇気と起業家精神に、奮い立たたずにはいられません。

TOO HUGE GAFA

肥大化したGAFA

検索、ブラウザ、メール、スマートフォンOS(Android)、動画(YouTube)など、Google無しの生活はもはや想像できません。同社は一般ユーザー向けだけでも65個のサービスを運営しています。先日米国議会では公聴会が開かれ、GAFAの反トラスト法違反への本格調査が始まりましたが、Googleについて問題視されていることのひとつが、これら複数のサービスにまたがって入手したユーザーデータを広告に用いる点です。Gmailの受信トレイのトップに表示される広告がさして気にならないのは精緻にターゲティングされ自然な内容が提示されているから、かもしれません。

Image copyright: AP PHOTO/ERIC RISBERG

Googleは確認できるだけで過去に236社の買収を行ない、この包括的なサービス群を構築しました。AndroidもYouTubeもGoogle Mapも、全て買収で獲得したアセットです。今やGoogleが小粒なスタートアップを買収しても何ら驚きませんが、本来「市場支配力を高める」目的の買収は独禁法の趣旨に違反します。一方、サービスは無料なため「高い市場シェアをテコに値上げ」といった独禁法違反の常識が通用せず、これまで放置に近い状況でした。

ところが、反トラスト小委員会のシシリン委員長が「彼らは強くなり過ぎた。民主主義にも大きな影響を与える」と言うように、一国の選挙の結果を左右し、世論も操作する規模です。「適切な規制が必要だ」との認識を示した同委員長は、Googleに事業分割といったドラスティックな命令を下す可能性も否定できません。いずれにせよ、世論の盛り上がりはNeevaにとって大きな追い風であることは間違いありません。

“DUMPING” BIG BUISINESS

大企業を「捨てる」

Neevaも課題は山積みです。検索エンジンそのものは外部のBingに依存しており、他にも地図情報はApple Map、天気予報にはWeather.comを使います。検索結果がBingと同じであれば、わざわざお金を払って使いたいという人がいるかどうか。サブスクがトレンドとはいえ、サブスク洪水の中で追加で課金するのも大変です。

Image copyright: REUTERS/HANNIBAL HANSCHKE

一方、Googleは広告への収益依存が高いため、広告フリーにするという選択肢は難しく、参入は困難です。仮に「Googleを倒す」のが現実的でないとしても、10億人のGoogle検索ユーザーのほんの1%を獲得しただけでも数百億円の売上は期待できます。ショッピング向けなど利用シーンを限れば、牙城も崩しやすいかもしれません。

大企業を飛び出して古巣の競合を創ると言えば、Zoomの創業者Eric Yuan (エリック・ユアン)も同様です。CiscoのWebEx事業の幹部としてプロダクトの軌道修正を何度も進言しましたが受け入れてもらえず、理想を追い求めて起業。妻の制止を振り切り大企業の安定した地位を投げ打って、革新的なプロダクトを世に送り出すことに成功しました。果たしてNeevaはZoomに続くことができるでしょうか。今後に注目です。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 9月15日までにTikTok買収へ。Microsoftは8月2日、ByteDanceから米TikTok事業の買収に関する議論を継続することを発表。一方、いまだにトランプ大統領の米国でのTikTok禁止令発令の噂は拭えず、動向はホワイトハウスの手に委ねられています。MicrosoftのSatya Nadella(サティア・ナデラ)CEOはトランプ大統領と対話を続けるようで、取引条件については明らかにしていません。今回の買収は米国のほか、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドでのTikTok事業が対象で、アメリカの投資家が参加する可能性があります。
  1. 暗号通貨バブルの再来。暗号資産の値上がりが注目されています。8月2日にはBTC(ビットコイン)は約1年ぶりに1万2,000ドルの水準に達し(その後下落しているが…)、5周年を迎えたETH(イーサリアム)のマイナーの1日あたりの収益は1カ月で80%近く増加。要因はDeFi(分散型金融)市場規模の急拡大だといわれており、DeFi投資インターフェイスを提供するZerionの創設者Evgeny Yurtaev(エブゲニ・ユルタエフ)も相関を指摘しています。
  1. Atlassianは新たな市場にAtlassianは7月30日、スウェーデン拠点のIT資産管理会社Mindville(マインドビル)の買収を発表。マインドビル主力製品であるITサービス管理「Mindville Insights」はHRや法務、営業など各部門が企業全体の資産を追跡するのをサポートします。同社の顧客リストには、NASA(米航空宇宙局)やSpotify、Samsungなど大手も名を連ねます
  1. 新しいiPhoneは10月あたり。例年9月に新機種を発表していたAppleですが、今年は新型コロナウイルスの影響で新機種の量産が約1カ月遅れるようです。「例年より数週間遅れる」と、CFOのLuca Maestri(ルカ・マエストリ)は認めています。新機種は高速大容量の5G移動通信システムに初めて対応。全機種に有機ELパネルを採用する見通しが報じられています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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