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New Normal:問われるホテルの「価値」の新定義

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

Quartz読者の皆さん、こんにちは。毎週金曜日のPMメールでは、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。今日は、「変わるホテルの“スタンダード”」をテーマにお届けします。英語版はこちら(参考)。

新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、ホテル業界には悪いニュースばかりです。現在、出張や休日を使った旅行が事実上の停止状態に陥っており、最近のマッキンゼーのレポートによると、ほとんどのホテルでは2023年まで通常の稼働率が見られないとのことです。

パンデミックに対応するためにまず、諸経費が高くつく高級ホテルの多くは、一時閉鎖したり、ファーストレスポンダー(緊急対応要員)に無料の宿泊施設と食事を提供。たとえばマリオットは、パートナーであるアメリカン・エキスプレスとJPモルガン・チェースの支援を得て、ニューヨークやニューオーリンズ、シカゴ、デトロイト、ロサンゼルス、ラスベガス、ワシントンD.C.など大打撃を受けた都市において、医療従事者に1,000万ドル(約10.5億円)相当のホテル宿泊費を寄付することを約束しました。ヒルトンもアメリカン・エキスプレスと提携し、5月末までに医師、看護師、救急救命士、そのほかの現場で働く医療従事者に最大100万室のホテルを提供しました

現在、ホテルは再び宿泊客を誘致しようとしている段階です。これは、第一波の教訓を生かし、新たな収益を生み出すモデルを試しながら、利用者の安全を確保し、その過程でホスピタリティ産業の“目的”を再定義することを意味しています。

日本でも今後、ホテルのあり方はもちろん、宿泊者の過ごし方も大きく変わってくることが予想されますが、米国をはじめとする世界のホテル業界はどのように変化し始めているのでしょうか?

Safety as the first amenity

安全というアメニティ

米ニューヨーク州ブルックリンにあるワイスホテルのオーナー、ピーター・ローレンスは「キャンセルの津波」が押し寄せるなかで営業を続けようと決意したときのことを次のように語っています。

ニューヨーク市でパンデミックが拡大していた約3カ月間、70室を有する同ホテルでは、医師や看護師を受け入れていました。その間、ワイスホテルのスタッフは医療従事者とともに過ごしていました。しかし、そんな状況下でも、コロナウイルスに感染したスタッフはひとりもいなかったと、ローレンスは言います。

「私たちは、こういった人々を受け入れたことにより、宿泊者の安全を守る方法についての素晴らしい教訓を得ることができました」

Wythe Hotel

大げさな消毒ロボットや清掃員を雇わずとも、マスクの着用や徹底した衛生管理、ソーシャルディスタンシングといった基本的な方法に従うことによる成果は大きかったと、彼は説明します。また、ホテルそのものの設計様式による効果もありました。100年前に建てられた繊維工場を利用しているワイスホテルでは、客室が独立しており、屋根付きのパティオも備えていたため快適なオープンエアのレストランを維持できました。

パンデミック時のホテルの運営は、ゲストに安全であることを説得できるかどうかにかかっていいます。

コーネル大学ホテル・アドミニストレーション学部の准教授であるデビッド・シャーウィンは、信頼に足るブランド力こそが、今最大の強みになりうるとQuartzに語っています。

「深夜3時のドライブ中、選ぶとすれば家族経営のホテルよりもブランドホテルになるでしょう。その意味において、人は安全性の確保に多大な努力をしているブランドを信頼することになるのです。マリオット、ハイアット、インターコンチネンタル……こうした大型ブランドは、もてる力の限りを尽くすことになるでしょう」

実際、大手ホテルチェーンは有名な医学研究機関と提携しています。ニューヨークのフォーシーズンズはジョンズ・ホプキンス大学と提携し、救急隊員のための寮を提供しています。マリオットはパデュー大学とコーネル大学の専門家で構成される「Global Cleanliness Council」を結成し、ハイアットはイリノイ州を拠点とする「Global Biorisk Advisory Council」からの認定を求めています。この検査に合格した施設は、星型のデカールを掲示しています。

一方、比較的小規模のブティックホテルは、その信頼性を証明するのに少し苦労しなければならない、とシャーウィンは話します。オランダ発のブティックホテルブランドであるシチズンMは、キャッシュレス決済、カーペットやベッドカバーを使わないといった清掃方法、充実したルームサービスダイニングなどといったゲストと衛生上“触れない”ように工夫した体験をウリにしています。

マンダリン オリエンタル ホテルで働くスタッフ。REUTERS/JORGE SILVA

ローレンスによると、最初は医療従事者が滞在していた部屋に泊まることに不安を感じていた宿泊客も、ホテルがどのようなウイルス対策をとったかを聞いて安心したといいます。

PPE(個人用防護具)の着用に寛容なポリシーをもつホテルもなかにはありますが、ワイスホテルでは宿泊客と食事をする人たちに対し、マスクの着用を厳しく義務付けています(ほかのホテルでも、食事はビュッフェではなく決まったメニューだったり、部屋で食べられるような工夫もしています)。もちろん、レストランでは、ゲスト同士の距離を保てるようなレイアウトも見られます。

New revenue models

新たな収益源を模索

ホテルの会議室や部屋のほとんどが空室状態にある今、ハウスキーピングの手順から収益構造の見直しに至るまで、「ホテル業界は、多くのことを再定義するプロセスを踏むことになるでしょう」と、シャーウィンは説明しています。

REUTERS/Leonhard Foeger/File Photo

ヒルトン、チョイスホテルズ、ウィンダムは、来学期に向けて学生の安全な住宅を探している高等教育機関に対し、物件をリースすることを検討しています。

また、一部のホテルは、コロナウイルスの軽症患者のための宿泊施設を必要としている政府に部屋を貸し出すことで一定の収入を得ています。ここでも、小規模なブティックホテルは、地元の顧客からの支持を得るために、よりフレキシブルにならなければなりません。たとえば、ニューヨークの家族経営のロジャー・スミス・ホテルは、ロビーを小売店のポップアップとして貸し出しはじめました。 シチズンMは「ステイケーション・パッケージ」を導入し、ホテルでの滞在と地元のレストランやエンタテインメントをセットにしています。

ローレンスは、ホテルはパンデミックのあいだも営業を続けることが重要だと言います。「ホスピタリティが主導的な役割を果たすべきときがあるとしたら、今です。今年は利益が出ないかもしれませんが、ビジネスを継続するための一つの方法です」

ローレンスは、「人を元気にする(restore)」という“レストラン”の語源のように、空気中の致命的なウイルスに常に怯えながら生活するという苛烈な精神的ストレスからの“解放”を提供できるのが、ホスピタリティ産業だと考えています。

ローレンスによると、米国内での国内旅行が非常に限られているため、ニューヨーカーたちは1日か2日でもいいからワイスに滞在して、大混乱から気分を落ち着かせているといいます。なかには、ホテルのスイートルームをリモートオフィスとして利用している人もいるそうで、特に仕事の締め切りを抱えていたり、重要なZoom会議があったりする場合に利用しているそうです。

「今、わたしたちが果たすべき別の役割があるのです」と彼は言います。「人々が休息し、疲れから回復したいという考えに基づいたアイデアです」

WORK FROM HOTEL

ワーケーションの普及

コロナ後の世界では、休暇は今後、これまで以上に贅沢なものになる可能性があると言われています。そんななか、観光地やリゾート地で休暇を取りながらリモートワークする働き方である「ワーケーション」が浸透してきています。

日本でも、都市型ホテルからワーケーションを謳ったプランが多く登場。プリンスホテルや、ホテルニューオータニが30連泊のプランを発売するなど、話題になっています。

ブティックホテルのMr & Mrs Smithの創設者兼チーフクリエイティブオフィサーのジェームス・ローハンはInsiderに対し、「ビジネス客を対象としていた都市型のホテルは、さらなる努力が必要になるでしょう。よりレジャーに配慮したホテルになる必要があります」と話しています。ペニンシュラホテルでは「We Meet Again」というプランを用意し、クッキングクラスやアート、カルチャー体験などといったアクティビティも取り入れて、ホテルで楽しめるような工夫をしています。

これまで“泊まること”を第一に考えられてきたホテル。新たなホテルは、まず“安全であること”。そして、リモートワークが普及してきたなかでいかに“効率よく快適に過ごすことができるか”が、今後私たちがホテルを選ぶ際の必須事項になってくるのかもしれません。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 飛行機のシート用カバーも持ち歩き。NiceSeatsには、青空をイメージしたタイダイやスモーキーピーチのコーデュロイなど、おしゃれな色とデザインを揃えています。CBCのマーケットプレイスの調査によると、これらのシートは、ヘッドレストとシートポケットである飛行機の中で最も汚れた表面に接触しないように設計されているようです。
  1. ナッツの行方。アメリカン航空が、コロナウイルスの影響により、飛行機内での温かいミックスナッツのサービスを終了したことで、GNSフーズは現在、ほかの航空会社への販売先がないため、推定8万7,000ポンド(約1,200万円)のナッツの余剰で立ち往生しています。GNSフーズのナッツの総売上の約70%は、アメリカン航空が占めていたといいます。
  1. アジアにおけるホテル投資は減少へ。2019年は、アジアのホテル投資市場にとって豊作の年でした。JLLのデータによると、北米では20%以上減少し、欧州、中東、アフリカでは市場が横ばいとなったのに対してアジアでは前年比61%増の140億ドル(約1.48兆円)に達し、過去最高を更新しました。しかし、今年はパンデミックによってすでに45%減少しています。
  1. マスク嫌いな英国人。今週発表されたYouGovの調査によると、旅行の際に公共の場でマスクを着用しなければならない場合、英国人の旅行者の3分の2(65%)が旅行をキャンセルすると答えました。また、93%が休暇先に到着した時点で検疫が必要な場合、キャンセルするという結果も出ています。

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Quartz JapanのPodcast最新エピソードで、“子育て世代の新しい環境づくり”を目指す88PROJECTの林理永さんとの対話をお楽しみください。