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Startup:ロボット弁護士のリアル「倍返し」

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
Published This article is more than 2 years old.

[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

ほんの少し停めただけで切られる駐車禁止違反の罰金、心当たりのない賃貸不動産の修繕費、勝手に自動更新され払わされていたサブスク契約、など、世の中には理不尽と感じつつも、よく分からないままに請求を支払っているという人は少なくないでしょう。

これらに対抗して個人の権利を正当に主張したくても、手続きは複雑かつ面倒で、消費者は泣き寝入りがほとんどです。読む気を無くすほど小さな文字でびっしりと書かれた「サービス規約」に、私たちを陥れるトラップが潜んでいます。

こうした企業や政府が個人を“搾取”する状況に立ち上がった若いスタートアップが今、注目を集めています。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、AIで法律手続きを自動化する「ロボット弁護士」を開発する、DoNotPayを取り上げます。

Image copyright: DoNotPay
DoNotPay(ロボット弁護士)
・創業:2016年
・創業者:Joshua Browder
・調達額:1,170万ドル(約12億5,000万円)
・事業内容:日常的法律問題に関する手続きを支援するAIサービス

AI lAWYER

ギーク発「AI弁護士」

DoNotPayはチャットボットを通じて、日常の法律手続きの文書作成や申請を支援してくれる「ロボット弁護士」を提供しています。家主との不動産契約のトラブル、サブスク解約代行、さらには失業申請や亡命申請まで、ありとあらゆる問題を支援する数百ものツールが揃っています。

Image copyright: SCREENSHOT

サービスが生まれたキッカケは、イギリス出身の若き創業者Joshua Browder(ジョシュア・ブラウダー)自身の経験によるものでした。

12歳からコードを書いていた天才エンジニアのブラウダーは、運転が苦手なためよく駐車違反のチケットを切られ、1件300ドルの罰金が数十件も溜まったそうです。

大学で貧乏生活を送るブラウダーに、支払える余裕はありません。回避する方法を徹底リサーチしたところ、警察官たちは自治体や政府の予算から無理してノルマ達成する慣例がまかり通っていたこと、罰金には一度だけ不服申し立てができ、認められれば駐車違反は撤回され罰金を免除されることを見つけたのです。

Image copyright: Courtesy of Joshua Browder

警官は一見すると違反かどうか分かりにくい場所で待ち構え、捕まえるケースが多いそうです。物陰に隠れて標識が見えない、道路のペンキ標示が消えていた、駐車エリアが小さすぎる……そうした事由が証明できれば、罰金は免除されます。実際に嘆願書を作成し手続きを行ったところ、なんと30件のうち15件の罰金が取り消されたそうです。

やがてブラウダーはこの嘆願書作成ツールをソフトウェア化したところ、利用者が殺到しました。

そして「個人の存在は弱く、政府や企業に騙し取られている。弁護士に頼むにも庶民には手が届かない。テクノロジーで個人の権利を取り戻すことが、エンジニアとしての自分の使命だ」と、20歳で起業します。学業との両立のため深夜12時から朝の3時までコードを書き、本来なら半年かかるようなアプリを2週間で構築したそうです。

TAKING BACK CONSUMER RIGHTS

「手付金ゼロ」の理由

このサービスを皮切りに、DoNotPayはあらゆる日常の問題を支援する数百ものツールを送り出しています。

面白いところでは、自動音声で見ず知らずの番号からかかってくる迷惑電話。

この手の電話は実はれっきとした法律違反で、賠償金を請求できます。勧誘されるサービスを、同社が発行するバーチャルのクレジットカード番号で決済すると、カードネットワークから発信者を特定し、最大3,000ドル(33万円)の賠償金を請求する法的文書を自動で作成してくれます。迷惑電話を逆手にとって、臨時収入まで得られるという仕組みです。

Image copyright: SCREENSHOT

DoNotPayの利用はコロナで爆発的に伸びています。渡航禁止でフライトをキャンセルしたにも関わらず返金されない、もしくは使うか分からないクーポンなどで補償されるケースも多発していますが、DoNotPayで弁護士に相談するかのようにボットの質問に回答していくと、エアラインの法務部宛に申請書を作成し代行してメールで送ってくれます。

また、アメリカの失業保険の申請は複雑で庶民には簡単ではありません。サポートセンターに電話してもずっと話し中。システムも古く、ウェブでの申請も受付は「営業時間内のみ」だったり、州によって申請フォームや入力項目がバラバラで、混乱の極みです。

その点、DoNotPayはボットの質問に答えていくと申請書の作成と申請の代行までしてくれる、まさに庶民の救世主です。

Image copyright: SCREENSHOT

DoNotPayのサービスが凄いのは、州や企業によって申請書の必要項目や送り先など全て異なる手続きを、細かく広範囲にカバーしている点です。

最近では企業に個人情報の削除を求めるサービス、電話応対の順番待ちを代行してくれるサービスなど、毎週のようにメニューを増やし続けています。誰もが経験する課題なため、ホームレスから富裕層に至るまで幅広いユーザーがいます。

法律問題は複雑なため、離婚訴訟などは弁護士含め人力が介入する余地が出てきそうですが、同社は少数ユーザーの個別の課題に深く踏み込むつもりはなく、多くの人が直面するありふれた日常の中の“企業や政府による搾取”をテックで解決する点に絞り込んでいます。その証拠に、設立4年で数十万人のユーザーを抱えた今も、社員はエンジニア中心にたった9名です。

現在、DoNotPayの利用料は月3ドル(約320円)ですが、ユーザー本位の同社は、返金などで現金を得るまでは課金せず、手付金や成果報酬の仕組みもありません。これまで100万件以上の申請をサポートし、3,000万ドル(約33億円)以上の還元を行ってきました。

CONSUMERS UNION OF THE FUTURE

目指すは「ユニオン」

DoNotPayが次にやりたいこと。それは「個人の声を束ねる存在になること」です。

一人の消費者や弱者の声に耳を貸さない企業も、数千人や数万人が声を上げることができれば、政府や企業からの搾取の抑止力になり、社会を変えるより大きな力にできます。目指すのは「消費者ユニオン」としてのコミュニティの構築です。

このビジョンに、有力VCも賛同し支援をしています。同社は6月、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)、Felicis Ventures(フェリシス・ベンチャーズ)などシリコンバレーの著名VCからシリーズAで1,200万ドル(約13億円)の資金調達を行ったと発表しました。フェリシスのパートナー、Niki Pezeshki(ニキ・ペゼシュキー)は「消費者の権利サポートは、数少ない未開拓領域の一つ。DoNotPayは真のミッションドリブン型企業だ」と高く評価しています。

実はこれまでも、フライト遅延のクレームなど、似たようなサービスはありましたが、どれも失敗しています。敗因は単品サービスでは利用頻度が低く、忘れ去られるためです。弁護士団体など既得権益に潰されないような政治的な協調も今後の課題になるでしょう。

毎週開けてもらえるアプリにしたい」と語るブラウダー。数百ものアプリケーションを次々に投入するのは、そのためです。

日本でも交通違反の反則金は年間約900億円と大きな金額ですが、「個人の正当な権利に声を上げること」は、日本でこそ求められるサービスかもしれません。DoNotPayの日本参入はあるのでしょうか。今後も目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. Appleを待ち構える危うい未来。ゲーム製作会社Epic Gamesは8月13日、App Storeから同社の「Fortnite(フォートナイト)」のiOSバージョンを削除(続いてGoogle Playストアからも)されたことを受け、Appleを提訴しました。焦点は、利益3割をAppleとGoogleに支払うアプリ内課金。13日朝にEpicがゲームアプリ内で直接課金できるようアップデートしたことがことの始まりでした。アプリ内課金をめぐるAppleと製作会社の対立は7月6日に配信したQuartz Japanのニュースレター「Startup:GAFAに挑む50人の『メール革命』」で詳しく触れています。
  1. Clearview AIと米政府機関が新契約。米移民税関捜査局(ICE)と、法執行機関向けに提供していたデータベースにソーシャルメディアから収集した個人の顔写真を無断で使用していたと非難されていたClearview AIが新たな契約を結びました。ICEは、7月に発表した留学生へのビザ(査証)発給規定がハーバード大、マサチューセッツ工科大(MIT)などに提訴され、規定を撤回することに同意しています。今回Clearview AIのサービスを契約したのはICE内で麻薬や人身売買を扱う国土安全保障調査(HSI)ということですが、両機関の結びつきに疑念は拭えません。
  1. 「死」のない肉、取扱店急増。植物由来の代替肉を製造販売するImpossible Foodsは、シリーズGラウンドで2億ドル(約213億円)を調達したことを発表。調達総額は累計で約15億ドル(約1,600億円)に。パンデミック以前、同社の製品を扱う食料品店は全米で150程度でしたがが、今では8,000を超えます。同社の事業は、Jay-Z、Mindy Kaling、Trevor Noah、Katy Perryなど、多くのセレブに支持されています。
  1. FBが有料オンラインイベント機能サポート、そして…。企業や個人がオンラインイベントを収益化するFacebookのサポート機能が、今月15日から世界20カ国で始まりました。利用料は少なくとも来年は徴収しない予定で、ウェブとAndroidで、Facebook Payを導入した国では、企業はオンラインイベントの収益を100%維持できるとしています。しかし、これはiOSアプリでは不可能。購入ボタンの下には「Appleが30%持っていきます」との短いテキストが記されています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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