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Startup:アフターコロナの「オフィステック」

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/SHANNON STAPLETON

オフィス街にも徐々に人が戻り始めていますが、以前のように、人が溢れ活気のある光景には程遠いというのが現実です。アフターコロナでも、人との距離に敏感になった我々の心理が完全に元どおりになるかというと、それも難しいでしょう。

突然求められることになった「人の“密集度”管理」に、あるデバイスが空前の売れ行きを見せています。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、人数をリアルタイムで把握するDensityを取り上げます。

Image copyright: DENSITY
Density(人数測定デバイス)
・創業:2014年
・創業者:Andrew Farah、Ben Redfield、Brian Weinreich、Jordan Messina、Robert Grazioli
・調達額:7,400万ドル(約78億2,000万円)
・事業内容:空間にいる人の数をリアルタイムで提示するソリューション提供

NEW NORMAL

“密管理”は新常識に

オフィスに、会議室に、カフェテリアに、いま何人の人がいるか。常時これらが管理され、定員になったら入室は禁止、来客者が去った後は毎回消毒。これがコロナ後のオフィス利用のニューノーマルかもしれません。

空間にいる人の数をリアルタイムに把握するのは、実はかなりの難題です。カメラを使えば簡単そうですが、顔がわかって本人が特定されてしまいます。オフィスの天井からカメラで監視されることに対する社員の抵抗感は、かなり大きいです。

その点、Densityの技術は特殊なセンサーを用いているのが特徴です。カメラなしで、プライバシーを保護しつつ正確に人の存在を把握します。データは点群のような画像となって人の輪郭を指し示し、人なのか物なのか、AIが正確に判別します。

Image copyright: Densityのセンサーで捉えた人の様子 GIPHY/andrewfarah

同社のデバイスを扉の天井に設置すると、扉を通過した人の数を正確にカウントし、中にいる人の数を測定します。プライバシーへの配慮から、人かどうかの判定はデバイス側で行い、クラウドへは結果のみが送られます。10センチ大のデバイスは800を超える部品とAIソフトウェアが詰めこまれたハイテク機器です。

Image copyright: DENSITY

IDカードによる入退室管理でも同じことができそうですが、各部屋にシステムを設置するのはコスト高で、出入りする度に認証が必要なため、面倒です。仮に一人がドアを開けたまま何人かがまとめて入ると、たちまち不正確になります。

コロナ禍によるDensityへの需要は凄まじく、今年の予算をたった75日で達成してしまったそうです。オフィス以外にも、工場、学校、ホテル、レストラン、倉庫、空港、教会など多岐にわたり、世界中から問い合わせが殺到しています。

“HEADCOUNT MANAGEMENT” MARKET

“人数管理”市場

Densityの設立は2014年。ニューヨーク州にあるシラキュース大の学生だった創業者たち。凍りつく寒さの冬のNYで、雪の中ようやくカフェに到着しても満席で入れないという自らの苦い経験から、混雑状況をリアルタイムに把握したいと、このアイデアを思いつきました。

Image copyright: 創業者兼CEOのアンドリュー・フラー FLICKR/JD Lasica

当初はスマートフォンから発信されるWiFiシグナルの数を測定するなど、さまざまな方法を試しながらの週末起業でしたが、やがてこのデバイスの可能性にのめり込み、開発に没頭しつます。最初の製品を出荷するまで、3年半の月日がかかったそうです。

統計によると、アメリカではオフィスの収容人数に対し、実際の利用率は約6割に止まるそうです。営業で外出したり、出張や休暇で不在だったりと、コロナ前であってもその程度でした。企業にとって家賃や光熱費など、人件費に次いで大きな費用項目に、約4割の無駄が発生しているのです。

Densityのソリューションはこの無駄を見つけ、最適なオフィス運営やレイアウトにつなげるものでした。8人用の会議室が2人で使用されていたり、ある時間帯にカフェテリアに人が集中して混雑したり、支社ごとの出社率に違いがあったり。これらを「見える化」して、空間利用とコストの効率化を図るのが、コロナ前の同社でした。

Image copyright: DENSITY

一方、こうした「経費削減」のソリューションは、無駄を発見し改善した後は、継続利用してもらう動機に乏しいのも事実でした。しかしコロナで一変、「密の管理」という、新たな需要にピタリとはまったのです。

Densityの将来性を2016年に見出し出資した有力ベンチャーキャピタルのUpfront Ventures(アップフロント・ベンチャーズ)のMark Suster(マーク・サスター)は都市計画、交通量調査、マーケティングなど多岐にわたるユースケースに「人数のリアルタイムデータはとてつもなく大きな市場だ」と評価します。

Image copyright: マーク・サスター FLICKR/JD Lasica

同社は自らを「People Tracking As a Service(ピープル・トラッキング・アズ・ア・サービス)」と称します。誰もが参加できる、リアルタイムの人数データを用いたサービスをつくれるデータプラットフォームであり、デバイスメーカーではありません。

そして個人情報が叫ばれる昨今に、個人を匿名化してデータ取得している点も時流に乗っています。更なる成長の加速のため、7月には5,100万ドル(約54億円)を調達したことを発表しました。

NEW-AGE WORKPLACE

新時代のオフィス

密を避ける需要に対応するソリューションは、他にもあります。「ROOM」という電話ボックスのような個室型ワークスペースで、完全防音、常時換気、電源も複数で、タブレットやコーヒーカップを立てかけるホルダー、そして洗練されたデザインで人気を博しています。Zoomが常態化した環境で、オープンスペースでのZoom参加は憚られ、会議室を占拠するにも無駄が大きく、需要が殺到しています。

Image copyright: ROOM

いわば、オフィスのD2C。実際にリノベするよりコストを約65%抑え、工場直送で、誰でも約1時間程度で組み立てられます。モジュール型の設計で、複数をつなげるのも簡単です。Densityで「密を可視化」した先の、オフィスレイアウトを再設計するソリューションの一つと言えます。同社も8月に1,250万ドル(約14億円)の調達を発表しています。

リモートワークのメリットを感じつつも、オフィスに戻りたいというニーズも同時に高まっています。大半がフルタイムでのオフィス勤務はもはや不要と感じつつも、完全なリモートワークを望む人はごく僅かです。対面でのコミュニケーション、そして仕事に集中できるオフィスに戻りたいともっとも強く感じているのは、若いミレニアル世代であるという調査もあります。

人と空間の関係性が大きな転換点を迎えた2020年。人と人が出会いにくくなった世界で、再定義されるオフィスとコミュニケーションのかたち。「リモートワークテック」が注目される裏側で、リアルのオフィスに求められる変革。いずれにせよ、スタートアップに大きな事業機会が生まれていることは間違いなさそうです。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. アグリテックこの5年は「凄まじい」。Crunchbaseのデータによると、ベンチャーキャピタリストは過去2年間に農業関連スタートアップに40億ドル(約4,230億円)を投資。全世界で約1,300億ドル(約13兆7,500億円)が運用されているそうです。老舗の食品会社では、積極的にハイテク技術を取り入れる動きもあり、食肉大手タイソン・フーズは今月初めにAlphabet出身のDean Banks(ディーン・バンクス)の社長就任を発表しています。
  1. コンピューター発祥の地からの悲鳴。現代のコンピューターの礎となった、英ブレッチリーパークが、パンデミックによる財政難から存続の危機に立たされています。第二次世界大戦時、ナチス・ドイツのエニグマ暗号の解読の拠点として知られ、その歴史を保存する国立コンピューティング博物館が併設されていますが、ロックダウンに伴う閉鎖で収入が激減。7月4日に再開したものの、有料の入場者は大幅に減少し、何かしらの支援が受けられなければ3分の1の人員をカットせざるをえない、差し迫った状態にあります。
  1. ロボットデリバリー拡大中。新型コロナによって中国の配送事業は、その担い手を人の手からロボットやドローンへシフトを本格化させました。パンデミックの最中の病院で、人と人との直接接触なしに食事や薬を患者に届ける役目を担うロボットを開発した普渡科技(PuduTech)は、7月頭に1億元(約15億3,000万円)、そして8月19日にシリーズB+でさらに1億元と、この2カ月の間に相次いで調達を発表。シリーズB+のリードVCであるセコイアキャピタルチャイナのパートナーである郭山汕は、企業がロボットを導入し人間の仕事を引き継がせる傾向があるとの見方に、自信をみせています。
  1. 上半期東南アジアのスタートアップ投資13%減。東南アジア地域の今年上半期の投資額は56億ドル(約5,900億円)で、前年比13%減。このほか、インド同16%、EU21%、北米は8%の減少しました。レポートを発表したシンガポールのVC、Cento VenturesのパートナーであるDmitry Levit(ドミトリー・レヴィット)は「東南アジアは驚くほどよく持ちこたえた」と評します。しかし、景気後退が続くなか、先行きは不透明。ロックダウンの影響が本格的に数字で表れるのは第3四半期と第4四半期に入ってから…。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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