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2020年のYコンで注目「貧困脱出」フィンテック:Startup

今週はY Combinator特集の第2弾。“持たざる貧困層”のお金の問題解決に挑むスタートアップ3社を紹介。毎週月曜夕方のQuartz Japanのニュースレター「Next Startups」では、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。9月10日(木)に開催するスペシャルウェビナーの詳細はこのニュースレターの後半で、ご確認ください。

空前の失業率に、最高値の株価。相反するこの経済下で、弱者への痛みのしわ寄せは深刻です。コロナで一層浮かび上がったこの問題に、フィンテックで立ち上がる起業家の姿が、8月に開催されたY Combinator(Yコン)のデモデイでは一層印象的でした。

先週配信した「TikTokを“切り取る”エドテック」に引き続きお送りするYコン特集の第2弾では、“持たざる貧困層”のお金の問題解決に挑戦するスタートアップ3社を紹介します。

① PRIZE-LINKED SAVINGS

楽しみながら預金を

Yotta Savings(クジ付き貯金アプリ)
・創業:2019年
・創業者:Adam Moelis、Ben Doyle
・調達額:不明
・事業内容:クジ付き預金を提供するネオバンク
Image copyright: Yotta Savings

「アメリカン・ドリームで一攫千金、逆転人生」とはよく言いますが、アメリカの格差の大きさは深刻で、弱者は弱者のまま、機会の平等さえ享受できない、報われない社会的構造はこれまでも問題視されてきました。

アメリカでは、預金者のうち70%の口座残高が1,000ドル(約11万円)以下です。同時に、ロト(くじ)に1世帯年間1,000ドル(約11万円)を支出するという矛盾も抱えています。貧困を抜け出すには、まずはお金を貯める必要があります。

デモデイ2日目に登場したYotta Savingsは、クジ付きの預金を提供しています。楽しみながら預金できる銀行(ネオバンク)として、アプリを提供しています。

ユーザーは口座開設すると、25ドル(約2,700円)預金するごとに数字選択式宝くじを1枚もらえ、1〜49までの数字から6桁の抽選番号を自作します。月曜から土曜まで毎日“当たり”の数字がひとつずつ発表され、日曜日に6桁の当たり数字と人数に応じて賞金が分配されます。

賞金の上限は1,000万ドル(約11億円)と夢のある金額です。ハズれた場合でも元本は保証されるので、貯金しながら浪費せずに“夢を買う”ことができます。預金口座はFDIC(連邦預金保険公社)の保証付きで、信用も十分です。

ユーザーは沢山預金をするか、友達を招待すると宝くじが貰え、賞金を獲得する確率が上がります。生活費を削って預金するのは辛くつまらない体験ですが、楽しみがあれば続けられます。友人と共同でくじに参加することで当選確率を上げるなど、ソーシャルな要素もあります。

クジ付き預金は「プレミアム・ボンド(Premium Bond)」というイギリスのクジ付き国債が起源です。貯蓄口座のように使われますが利息は全員一律に支払われるのではなく、全員分の利息がまとめられた後、くじで当たった人にのみ分配されます。イギリスでは人口の33%が、このクジ付き預金口座をもっています。

Yotta Savingsは、この錆び付いていた仕組みをアプリでアップデートして、貧困を抜け出すための足がかりを提供しました。7月に開始し、すでに5,000人のユーザーから3,000万ドル(約32億円)の預金を集めるなど、急成長中です。

② BANK FOR UNBANKED

マイノリティの銀行

CapWay(ネオバンク)
・創業:2017年
・創業者:Sheena Allen
・調達額:65万ドル(約7,200万円)
・事業内容:マイノリティ向けネオバンク
Image copyright: CapWay

アメリカにはそもそも銀行口座をもたない「アンバンクト(unbanked)」、もっていても使っていない「アンダーバンクト(underbanked)」が3,300万人もいます。複雑な事情を抱え銀行口座さえつくれないケースは珍しくないのですが、この現象の根底には、搾取する銀行への不信感があります。

そのひとつが、口座不足時の手数料(オーバードラフト・フィー)です。デビッドカード利用時に残高が足りなくても通知なく決済し、34ドル(約3,600円)の手数料を課すのです。気付かず使い続けると決済の度ごとに手数料が課される“闇金的”な仕組みです。銀行はこの手数料から年間117億ドル(約1兆2,000億円)という途方もない収益をあげています。

以前から問題視されていましたが、コロナ不況でオーバードラフトは激増中で、救済は待った無しの状況です。そんななか、デモデイ2日目に登場したCapWayは、マイノリティによるマイノリティのためのデジタルバンクサービスで注目を集めました。

Image copyright: CapWay創業者のシーナ・アレン VIA YOUTUBE

アプリと連動したデビッドカードを提供し、支出はすべてアプリで可視化されます。目標となる預金額を設定すると、計画を自動作成し、支出の削減提案やお釣り貯金などの仕組みで、預金を促します。前述のオーバードラフトフィーは徴収せず、残高が足りなくなる前に予測して、通知してくれます。お金にまつわるさまざまなコンテンツを提供し、金融意識の向上を促します。

創業者のSheena Allen(シーナ・アレン)は、地元ミシシッピでは知れた存在で、大学時代に人気アプリを作り注目された経歴をもつ黒人女性起業家です。

ミシシッピ北西部は「地球上で最も南部的な場所」とされる、黒人差別と白人優位の歴史が根深い地域です。もらった給与の小切手をそのまま雑貨店で割り引いて使う人、ペイデイローン(短期で少額の高金利ローン)に頼って生きる人など、高額で不親切な金融サービスで、自転車操業の人生に縛り付けられた人達に囲まれて育ちました。

シーナを支えるVCは、女性や黒人やLGBTQなどのマイノリティ起業家専門VCのBackstage Capital(バックステージキャピタル)です。創業者でシーナと同じミシシッピ出身の創業者Arlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)は「他のVCには問題に見えるものが、私たちには機会に映る」と、コメントしています。

Image copyright: アーラン・ハミルトン TECHCRUNCH/FLICKR

黒人起業家の存在が際立ったのも今回のYコンの特徴でした。黒人起業家は全体の6%、女性起業家は16%とまだ少ないものの、増加傾向にあります。

③ CREDIT HISTORY CREATION

与信履歴を「つくる」

Bits(与信履歴作成)
・創業:2019年
・創業者:Faisal Khalid
・調達額:不明
・事業内容:与信履歴作成用クレジットカード発行
Image copyright: BITS

他に目を引いたのは、与信履歴(クレジットヒストリー)作成サービスです。

アメリカで支配的な与信スコアであるFICOスコアは、カードをつくったりローンを組んだりするほかに、企業の採用時や保険加入時などにも参考にされ、スコアの改善は人生にとって死活問題です。

ところがミレニアルなど若いユーザーは金融サービスを利用していないために、与信履歴が乏しく、FICOスコアが算出できません(“Thin File”)。実際は信用レベルが高くても、いざローンを借りたくても借りられないのです。この“Thin File”に該当する人は全米で6,200万人と、実に4人に一人です。

Image copyright: REUTERS/KAI PFAFFENBACH

Bitsは、“Thin File”の人が与信履歴をつくることができるサービスです。Bits上で申請するとデジタルカードが発行されますが、利用は基本的に同社から請求される数百円の支払いのみ。通常のショッピングやカードローンも使えません。

やがて支払い履歴は同社を通じて与信情報機関に送られ、8〜10週間ほどでFICOスコアが改善し始めるそうです。なお毎月のデジタルカードを通じた数百円がBitsにとっての収益であり、利用者に返金はされません。

まさに、与信スコア構築に特化したクレジットカードです。ローンチ後9カ月で1万人以上のユーザーを獲得し、年間収入も190万ドル(約2億円)と急成長中です。新たな信用情報機関を目指しています。

以上、Yコンで目に留まった、経済弱者救済に切り込むフィンテック3社をご紹介しました。なお、今回からピッチは各社1分に短縮されましたが、いかに短時間で本質を語り切れるか、不透明さを増す社会で、研ぎ澄まされたストーリーテリングの重要性、社会的意義の重みを実感させられたデモデイでした。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

【参加費無料のウェビナー開催のお知らせ】

本連載「Next Startup」のナビゲーター、久保田雅也さんとともにお届けするQuartz Japanウェビナー。すでに多くの方のお申込みをいただいていますが、ぜひお友だちにもご案内ください。このコロナ禍でも強い価値を発揮している海外スタートアップの姿を通して、「ビジネスの未来図」をぜひ一緒に見つけ出しましょう!

  • タイトル:Next Startups〜次のスタートアップから読み解く「未来思考」
  • 実施日時:9月10日(木)11:00〜12:00(60分)
  • 参加料金:無料
  • 実施方法:Zoomを活用したウェビナー方式
  • 登壇:久保田雅也さん(Wilパートナー)/モデレーターはQuartz Japan編集部
  • 主催:Quartz Japan

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. ARグラススタートアップが42.5億円を調達。スマホやPCに接続してARを描画できるスマートグラス「nreal light」を展開する中国発NrealがシリーズB1で4,000万ドル(約42億5,000万円)を調達したことを発表しました。セコイア・キャピタル・チャイナなど有数の投資家が出資。設立3年の同社は、販売価格499ドル(約5万4,500円)という低価格で重さ88グラムの次世代スマートグラスで知られます。
  1. ソフトバンクが進めるヘルスケア出資。AIを使ったデータ分析とウェラブルセンサーによる医療管理システムを提供するBiofourmisは、SoftBank Vision Fund 2が主導する1億ドル(約106億円)のシリーズCを完了したことを発表。同ファンドはヘルスケアの分野に注力し、これまで、薬のデリバリーのAlto、精密遺伝子治療のEncoded Therapeutics、液体生検のKariusなどに出資しています。
  1. パンデミック中にRobinhood新規口座300万増。市場が低迷したタイミングで熟練した投資家が買いの機会を求めるのは珍しいことではありませんが、新型コロナのパンデミック期間中には新たに投資を始める若者が増えました。投資デビューにあたって彼らの動機付けとなったのは操作簡単な投資アプリ。手数料無料の株取引サービス「Robinhood(ロビンフッド)」では投資口座が300万件増えたと報告されており、ミレニアル世代の47%が投資をし、うち34%はオンラインプラットフォームへの容易なアクセスが投資を始めるきっかけになったと報告されています。Robinhoodの躍進については、9/6配信のニュースレター「Guides: #20 ネクストバブルの恐怖」もご覧ください。
  1. 上場申請のPalantirに不安を抱く移民。8月25日にニューヨーク証券取引所に上場するための申請書類を提出していたピーテー・ティール率いるデータ分析企業Palantir。トランプ大統領の移民の取り締まりに利用されていたことから、不法移民への締め付けが加速するとの疑念が広まっています。米政府とPalantirの契約額は12億ドル(約1,300億円)にのぼり、Palantirの利益の過半数を占めます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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