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百花繚乱、リモートワーク・テック:Startup

毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートでお届けする、「次なるスタートアップ」の最新動向。今日は、8月のYコン・デモデイを特集したシリーズの第3回です。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートでお届けする、「次なるスタートアップ」の最新動向。今日は、8月のYコン・デモデイを特集したシリーズの第3回です。

Image copyright: NGUYEN DANG HOANG NHU

今夏のY Combinator(Yコン)のデモデイは、史上初となる完全リモートでの実施でした。リモート環境に適したさまざまなツールを提供する「リモートワーク・テック」は、今回のYコンでも大きなトレンドだったといえます。

午後のニュースレター「TikTokを“切り取る”エドテック」(8月31日配信)、「『貧困脱出』フィンテック」(9月7日配信)に続いてお送りするYコン特集の第3弾では、リモートワーク・テックで注目の3社を紹介します。

① FEAUTURED COMPANY

青田買いの“目玉企業”

Trove
・創業:2020年
・創業者:Matt Schulman
・調達額:7,500万ドル(約80億円)
・事業内容:ジョブオファー管理
Image copyright: Trove

TroveはFacebook出身のエンジニアが今年創業したばかりの若い会社ですが、今回のYコンの目玉といえます。

Yコンでは毎年、デモデイ(投資家向けピッチ)に参加しないスタートアップが存在します。なぜなら彼らは、デモデイ以前に投資家やVCからラブコールを受け、すでに資金調達が終わってしまっているからです。今年はYコンに参加した203社のうち、デモデイのピッチに登壇したのは198社。つまり、少なくとも5社はすでに青田買いされた“有望株”というわけです。

そのうちの1社であるTroveはデモデイ前に1,600万ドル(約17億円)の巨額調達を実施済みで、企業評価額は7,500万ドル(約80億円)に到達しています。リード投資家はAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)で、5月4日配信のニュースレター「中毒者続出。謎の『雑談』アプリ」で紹介したClubhouseに1億ドル(約106億円)を投じた、あの有力VCです。

では、“Yコントップ”のTroveとは一体どんな企業なのか──。彼らが手がけるのは、採用候補者の役割や報酬を可視化する「オファーマネジメント」という、HRテックの新領域です。

Troveを使えば、採用候補者は入社しようとしている会社での自分のポジションや役割、そして報酬パッケージを視覚的に理解できます。スタートアップの給与で中心的な役割を占めるストックオプションは、課税関係や権利行使の条件も複雑でわかりにくいものです。Troveなら、将来その会社の企業価値が成長するとストックオプションがいくらになるのか、直感的にシミュレーションできます。

Image copyright: Trove

さらに、組織図の中で自分がどこに位置するのか、レポーティングラインとチームの顔ぶれも一目瞭然です。CEOのメッセージ動画なども埋め込まれており、企業の魅力をアピールできます。オファーレターは画面上でデジタルに提供され、締結も電子的に完了します。

同社のサービスが時流に乗っているといえるのは、働き方が自由になるなかで、正社員以外にも業務委託や副業など雇用形態が多様化し、報酬のバリエーションが複雑化しているから。テック企業ではリモートが主流になり郊外に移り住む人が続出していますが、住宅手当や通勤手当など福利厚生もバラバラです。

そして熾烈なシリコンバレーの人材獲得競争において、報酬パッケージとポジションの魅力度を直感的かつ正確に伝えることで、採用を有利に進められます。そして、採用のミスマッチによるお互いの機会費用も避けることができます。

Image copyright: ドラマ『シリコンバレー』のPiedPiper社を例にしたデモ画面ではリワードレターも確認できる Trove

驚くべきは、異例の巨額調達を行なった同社が、今年設立され3月にシード調達を終えたばかりの、まだ社員数一桁の若い企業である点です。スタートアップ投資の熱狂はコロナ禍でも全く衰えていない事実を物語っています。

まさに、痒いところに手の届く、ありそうでなかったサービスです。HBOのドラマシリーズ『シリコンバレー』のPiedPiper社(作中で主人公が設立する会社)を模したデモ画面があるのでぜひ見てください。

② SMS CAN BOOST TRAINING

社員研修はSMSで

Arist
・創業:2018年
・創業者:Michael Ioffe、Ryan Laverty、Joe Passanante
・調達額:15万5,000ドル(約1,600万円)
・事業内容:リモート向け社員教育システム
Image copyright: Arist

社員教育に特化したサービスも生まれています。Aristはユニークなリモート向けのトレーニングツールを開発しています。

フィジカルな接触が避けられる現状では、一斉に大人数を会議室に集めるのが難しく、新入社員が業務に慣れるための実地での研修、そして先輩社員の同行から職務を学ぶ機会は期待できません。

かといって、自宅でひとり、研修内容の詰まった動画やテキストを渡されたところで、目を通すのも苦痛です。成長実感を通じた社員のモチベーション向上や企業へのロイヤリティ醸成の観点からも、リモート下で社員教育の重要性は高まっています。

Aristは、「マイクロトレーニング」という手法で社員教育の市場に切り込んでいます。細切れの時間で、通常の業務に溶け込むかたちで、社員の日常に寄り添うように提供される、ここ数年で注目されつつある教育方法です。

Aristのサービスでは、1,200文字程度のテキストがSMS(ショートメッセージ)で届きます。SMSならメールのように埋もれることもないし、わざわざ重い添付ファイルをダウンロードする手間もありません。インターネット環境に影響されず、自宅で大容量インターネットを契約していない人でも分け隔てなく利用できます。

Image copyright: Arist

各コースは5〜30回で構成され、1日1回スマホにSMSが届きます。コンパクトに纏められたテキストにGIFのアニメーション、理解度を確認する簡単なクイズもついていて、要する時間は1日5分程度。コンテンツ作成の費用も圧倒的に安く抑えられます。

教材のテーマはリーダーシップ論などの自己実現に近いものから、日々の業務に役立つ業界知識や商品情報、簡単な入社研修や社内ツールの使い方などさまざまです。企業はAristの管理画面上で簡単にコース作成し、配信先や達成度の管理も容易です(デモ参照)。

創業者のMichael Ioffe(マイケル・ヨッフェ)はまだ21歳の学生です。豊田章男氏を輩出したアントレプレナーシップ教育の名門、バブソン大学(Babson College)に入学したばかりの1年生のときに、同大学の教授の講義内容を中東イエメンの学生に提供するNPO法人を設立した経験が、今に生かされています。

Image copyright: Aristの前身となったNPOを立ち上げた時のマイケル・ヨッフェ BABSON COLLEGE

イエメンの学生にメールや動画、PDFを送ったところで受取手の通信速度が足りず苦労していたとき、SMSで細切れに送付したところ、生徒から大好評でした。これを企業向けトレーニングに絞り、生み出したのが現在のAristのサービスです。

4月にサービスを開始し、毎月75%の売上の伸びという驚異的なスピードで成長中です。顧客もDuPontやカリフォルニア州政府などの大手が名を連ねており、既に黒字だそうです。

余談ですが、新型コロナで移動が制限されたため、Aristの3人の共同創業者のうち1人とは、一度も直接会ったことないままサービスをつくっていたそうです。そして、そのときの経験が、リモート環境に最適なサービスへと磨き上げたと語っています。

リモートワークについては、3月9日配信のニュースレター「営業ゼロ全社員リモート企業の秘訣」で、オフィスを持たず300人の従業員が遠隔で勤務するZapierを紹介しています。

③ ALMAYS TOGETHER

離れていても同じ空間

Sidekick
・創業:2019年
・創業者:Andy Chen, Arthur Wu, Greg Granito, Howard Zuo
・調達額:12万5,000ドル(約1,300万円)
・事業内容:ビデオ通話に特化したスマートディスプレイ
Image copyright: Sidekick

リモート勤務を強いられるなか、英国では労働者の46%が孤独感を感じ、その7割が孤独感のせいで幸福感が損なわれたと答えています。突然の慣れないリモート作業でストレスが溜まる上、孤独感に襲われてはメンタルが悪化して当然です。

Sidekickが提供するのは“つなぎっぱなし”のビデオコールデバイスです。普段はミュート状態になっていて音は聞こえませんが、話しかけたいタイミングで相手をタップすると、即座に相手とつながります。常時接続でオフィスと同様の環境を持ち込むことで、チームの何気ない雑談や会話を誘発しようという狙いです。

Samsung製の専用ディスプレイは無料で提供され、一人50ドル/月のサービス利用料がかかります。7月にローンチし、有名スタートアップを中心に1カ月で200名ほどのユーザーを獲得したそうです。

Image copyright: Sidekick

実はこのサービス、デモデイ前に「そもそもリモートで常時接続なんて地獄だ」「アプリだけで済むサービスなのでは」など、懐疑的なコメントで炎上し、議論を呼んだサービスです。

確かにリモートにはリモートに最適な体験があり、オフィスと同じ環境を実現するという発想は正しくないのかもしれません。以前PC画面を15分おきにスクリーンショットを撮影し、モバイルのGPSで所在地もトラッキングするツールが炎上しましたが、“常時接続”ゆえの、プライバシー観点での心地悪さは改善余地があるかもしれません。

一方、あのFacebookが2018年に発売した「Portal(ポータル)」は、ディスプレイに繋げばビデオ会議も可能なスマートTVになるデバイスですが、Facebookはコロナ禍で社員全員にこれを配布したそうです。「専用デバイス」だけが答えではないと思いますが、リモート最適なコミュニケーション、には大きな進化の余地が残されていそうです。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. TikTok米事業はオラクルの手に。動画共有サービス『TikTok』の米国事業は、オラクルが主導するコンソーシアムの手に委ねられると、ロイター通信が関係筋の話として報じました。また、今回の取引は「売却」としてではなく「再編」として行われるようです。当初売却先として有力視されていたMicrosoftは、Bytedance(北京字節跳動科技)側から拒否の意向を伝えられたと、13日に発表しています。
  1. 急成長Saasの調達額は…。ニューヨーク証券取引所に上場を予定する、クラウドコンピューティングの技術を活用したビッグデータの保管・分析サービスを提供するデータウェアハウスのSnowflakeのバリュエーションは209~237億ドル(約2兆2,600億~2兆5,100億円)に達すると見られ、IPOで27億ドル(約2,900億円)超を調達する可能性が報じられています。
  1. リモート制度活用して移住したら減給。パンデミック期間に在宅勤務のポリシーを拡充させる企業が目立ちますが、解釈によるリスクも孕んでいます。シリコンバレー北部パロアルトに拠点を置くソフトウェア会社VMwareは、永続的なリモート作業を従業員に許可していますが、同地から物価の安いデンバーに引っ越した者に対し18%の給与カットが行なわれていると伝えられています。
  1. Googleマップ、3年ぶりにAppleWatchに出戻り。Googleは9月10日、AppleWatch対応のGoogleマップの新バージョンを展開することを発表しました。2017年5月に旧版の提供が打ち切られて以来、3年ぶりに復活。当時、提供が終了した理由は明らかにされていません。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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