New Normal:これからの「雇用」の新ルール

New Normal:これからの「雇用」の新ルール

Friday: New Normal

新しい「あたりまえ」

毎週金曜日の夕方のニュースレター「Deep Dive」では、パンデミックを経た先にある社会のありかたを見据えます。労働の自動化をはじめ、雇用に容赦のない変化を迫るコロナ下の世界。米国では起業ブームが起き、欧州各国が一時的に労働市場を“フリーズ”させて雇用を守ろうとしているなか、コロナ下で“成功”しているチームのあり方を追いました。

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Image: REUTERS/HANNAH MCKAY

「第2次世界大戦以来」の困難とも形容される、コロナ危機。一時的な経済活動の停止は、4月~6月期だけでも4億件のフルタイムワークの喪失にも匹敵する打撃を与えたといいます。

さらに、秋冬に向けて感染の再拡大と、それに伴う措置が予測されるなか、さらなる雇用への影響が危惧されています。

すでに欧州では第2波が訪れ、米国でも各地で新型コロナ感染拡大が懸念されるなか、フランス・パリでは夜間外出禁止令が発布、英国・ロンドンでもロックダウン措置が再び課され、欧州のその他の国でも感染拡大を防ぐためのさまざまな制限が導入されています。

Kurzarbeit

ヨーロッパの「成功」

しかしながら、欧州は失業率上昇を抑えることになんとか成功しています。米国の失業率が3.5%から14.7%(2月~4月)に上昇したのに対し、欧州連合各国の失業率は6.5%から7.4%(2月~8月)の上昇にとどまりました。

この背景には、ドイツがリーマンショック後に適用した「Kurzarbeit」(時短労働の意)という雇用維持制度のモデルが、欧州の国々で採用されたことが考えられます。

同制度は、雇用を維持するべく企業が従業員に労働時間短縮一時帰休を促し、政府が従業員の賃金の一部を補助するという仕組みです。パンデミックによる失業増加への対策として、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、そして英国でも導入されています。

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Image: REUTERS/MICHAELA REHLE

実際にフランスでこの制度を受けている36歳のガスパールは、勤務先であるパリのホテルが今年の3月に閉鎖して以降、再オープン予定の来年春まで一時帰休をしています。

「3月から、毎月賃金の額面の70%を受け取り、ほぼ毎日家にいます。仕事に行くのは2カ月に一度程度。人生で初めて、こんなに長い休暇を得ました」と言うガスパール。

「正直、いつ解雇されるか分からず、怖い気持ちはあります。LinkedInを開けば、解雇された管理職の同僚もたくさんいます。なので、オンラインで転職に有効な資格を取ったり、転職コンサルタントにも相談をするなど、将来の計画を立てる期間として時間を使っています」と話します。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの経済学教授のファビアン・ポステル・ヴィネは、次のように言及します。

「雇用維持の措置により、多くの人的資本へのダメージを回避することができるでしょう。先の金融危機の際にも、雇用維持制度はフランス、ドイツ、イタリアでポジティブな効果を出したという結果も出ています」

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しかし、同制度は、経済後退によっていずれ喪失する仕事に就いている従業員の失業を先延ばしにしているだけだと指摘する声もあります。さらに、政府にとって補償のコストも莫大なため、補助の期限が切れた際、失業率が大きく上昇する可能性も考えられます。

NEW BUSINESS

スタートアップが増加

米国は、欧州とは異なるかたちの経済対策を取りました。同国は今年の春に国民1人当たり、1,200ドル(約12万6,000円)を支給。また、そして、4~7月末まで、失業保険の給付額を週600ドル(約6万3,000円)上乗せする経済対策をとりました。

そんな米国では、現在、「起業ブーム現象」が起こっているといいます。

米国政府が発行するレポートによると、新しいビジネスの申請が今年に入って急増。『CNBC』では、多くの業界の業績が低迷するなか、コロナによって新たに人々の魅力を引きつけることになったフィットネス、ペット用品、ホームプロダクト(DIY)、ゲームなどのような業界に対する人々の関心が急上昇していると紹介し、新しい事業に対する可能性を示唆しています

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Image: REUTERS/DAVID MERCADO

Economist』は、起業の増加傾向の背景には、前出の経済対策が大きな役割を果たした推測しています。仕事をもつ必要性と、補償による経済的な安心感から、失業者たちが起業というリスクをあえて選択したのではないかというのです。

ROBOT BOOM

加速するロボット導入

コロナ危機は、労働市場における自動化を後押ししています。

Economist』は、米コンサルティング会社Bain&Companyからの談話として「米国企業は、今後10年間で自動化に5~10兆ドル(約524兆〜約1,048兆円)を費やし、ニューノーマルに備えて一新しようとしている」とする予想を紹介しています

たとえば、自律走行式スクラバー(床洗浄機)のオペレーティングシステム(OS)を開発するBrain Corp(ブレインコーポテーション)。

同社は、最大手Walmart(ウォルマート)などの床清掃ロボットにその技術を提供しており、ロボットは毎日8,000時間分の労働に貢献しているといいます(最初に人間が乗って清掃エリアを覚えさせ、その後は無人で床を掃除)。

実際、Brain Corpは今年の春、パンデミックによるスーパーでの労働者不足による需要を背景に、新たに3,600万ドル(約37.9億円)の資金調達を実施したことを明らかにしています。

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Image: COURTESY OF BRAIN CORP

コロナ危機と労働市場におけるロボット導入に関して、『The New York Times』の取材に応えたクレムゾン大学のリチャード・パクは次のように語っています。

「パンデミック前、人々は、自動化が進みすぎていると思っていたかもしれません。しかし、コロナ危機によって、人々は今後どの分野を自動化させるべきか考えることになりました」

ちなみに、デリバリー業界におけるロボットの導入も加速していてStarship Technology(スターシップ・テクノロジー)の製品がよく知られています。

STAY STRONG

危機に強くあるために

自動化失業の不安が拭えないなか、“人間”はどうしたらいいのでしょうか? 危機に強い企業・社員であるためには?

ロンドンビジネススクール教員のゲリー・ハメルとビジネスコンサルタントであるミッチェル・ザニーニは共著書『Humanocracy』において、大企業に多く見られる官僚主義から抜け出し、個々のチームに権限を譲り渡すことが企業として重要だと説いています。

自律型チームマネジメントを実践しているとして、同書ではオランダの非営利在宅ケア組織Buurtzorg(ビュートゾルフ)が紹介されています。

Buurtzorgは2006年、オランダの地域看護師であるヨス・デ・ブロックが創設。当初4人で始めたチームは、現在、オランダ国内だけでも約1万5,000人までメンバーを増やし、急成長を遂げてきました。

Buurtzorgが実践する自律型チーム
Buurtzorgが実践する自律型チーム
Image: COURTESY OF BUURTZORG

同社に在籍する1万5,000人の看護師・介護士のうち、マネジャーやチームリーダーはいません。オランダ国内で1,200を数えるチームはそれぞれ10~12人で構成されており、利用者へのケアにはじまり、財務やマーケティング、採用、トレーニングまで、すべての業務の責任が各チームに与えられています。

つまり、看護師が管理職にマネジメントされるのではなく、自らが主体となって創造性を発揮して働いているのです。

「21人のコーチの他には、本社にあたるバックオフィスに約50人が在籍しています。バックオフィスが担うのは、IT関連業務や雇用契約の準備、給与の振り込みなど、あくまで各チームのサポート役としての機能です」と、同社のタイス・デ・ブロックは話します。

「看護師たちは、情熱と責任感をもって仕事に取り組む姿勢が身に着いたと言ってくれます。たとえば、新しい看護師を採用する際も、自らのチームに適合する人材かどうか細かくチェックしているので、わたしたちは安心して任せています」

Buurtzorgが行う在宅ケア
Buurtzorgが行う在宅ケア
Image: COURTESY OF BUURTZORG

果たして管理職を設けずに1万5,000人の看護師をまとめるうえで、問題は発生しないのでしょうか?

「当社専用の『Buurtzorg web』というプラットフォームでは、生産性にはじまり、看護師の病欠やクレームの件数、その理由など、各チームのパフォーマンスが可視化されます。問題点が見つかれば、コーチがチームを訪れ、コンサルタントのように客観的に問題解決のサポートをします」(デ・ブロック)

こうした自律型チームの能力は、新型コロナ危機の際にも発揮されたと話します。

「新型コロナの際も、当社では統一したルールは設けず、各チームが高い専門性を活かし、それぞれの状況に適した対応を行いました。例えば、クライアントに手づくりのマスクを提供するチームや、感染拡大防止のために1人の看護師が利用者の家を訪れる仕組みを採用したチームもありました。各チームがセルフマネジメントに徹したことが、決断も行動も早く、危機に対応ができた秘訣だと思います」

Buurtzorgのこうしたアプローチは、従業員のモチベーションの向上や満足度、生産性などにも反映されています。2018年にCenter for Public Impactが行った調査では、競合社に比べ利用者の満足度が+30%、スタッフの離職率は−50%という結果が出ました。実際に、Buurtzorgはオランダの「年間最優秀雇用者賞」に4回以上選ばれています。

従業員1人ひとりが起業家精神をもって仕事に取り組むこと。これこそが、企業も従業員もパンデミックを生き残るための秘訣なのかもしれません。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. 職業の断舎離。世界経済フォーラムの新しい報告書「Future of Jobs Report」によると、労働力の自動化は予想以上に早く進んでおり、金融サービス関連(約21%)、鉱業・金属(約20%)、自動車産業(約19%)で働く従業員が“時代遅れ”になるリスクが最も高いことが明らかになりました
  2. 犯罪前の予測が大事? オランダ全土の125 × 125メートルの犯罪の“ホットスポット”を予測するために使用されているのが、CAS (犯罪予測システム)。アルゴリズムとデータ分析に完全に依存するこのシステムは、2014年にアムステルダムで試験的に導入されていますが、「そのデータは明らかに偏見に満ちている」と、物議を醸しています
  3. ランジェリーがキーアイテムに。コロナウイルスによるロックダウンで、ルームウェアの売り上げが急増したのはすでに知られていることですが、次は下着がキーアイテムになっている模様。Instagram上では「半分服を着ている」ような下着と服を組み合わせたスタイリングがトレンドになり、フィードに多く登場しています。
  4. 「観覧車」でディナーを。コロナウイルスの影響で売上高が急落したことを受け、ミシュランの星を獲得したハンガリーのレストランCostesは、ブタペストにある観覧車「ブダペスト・アイ」でのダイニングイベントを開催しました。ちなみに、値段は4品のコースで154.40ドル(約1万6,000円)で、食事のチケットは即完売したといいます。

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