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Golden〜AIがつくる「人類の百科事典」:Startup

2001年の誕生以来、目立った進化をしていない「Wikipedia(ウィキペディア)」。今、ある企業が「ウィキペディアの置き換え」を目論んでいます。Quartz Japanの平日夕方のニュースレター「Deep Dive」、月曜の連載「Next Startup」の今回は、AIを使って全ての人間の知識をマッピングし“人類の百科事典”をつくる、Goldenを取り上げます。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

Image copyright: REUTERS/YVES HERMAN

2001年の誕生から20年経ちながらも、いまだ多くの人に使われている「Wikipedia(ウィキペディア)」。600万の記事からなる“インターネット百科事典”は人類が産んだ偉大な発明のひとつと言ってもいいかもしれません。

ところが、この20年、ウィキペディアに目立った進化はありません。投稿は人力で、画面は文字だらけで見にくいままで、寄付を募る注意書きが目につきます。増え続ける世の中の情報に対し、ウィキペディアではもう世界をカバーしきれません

この状況に、ある企業が「ウィキペディアの置き換え」を目論んでいます。今回の「Next Startup」では、AIを使って全ての人間の知識をマッピングし“人類の百科事典”をつくる、Goldenを取り上げます。

Image copyright: GOLDEN
Golden
・創業:2017年
・創業者:Jude Gomila
・調達額:1,950万ドル(約20億円)
・事業内容:ナレッジデータベースの構築

LEGACY OF THE PAST

取り残された百科事典

ウィキペディアは登場以来20年ほとんど姿を変えていません。寄付で成り立つ非営利団体のため、書き込むのは一般のボランティアです。匿名のため執筆者の顔も見えず、情報の誤りが度々問題になるほど「善意が頼り」な脆弱な構造です。

インターネット上の知識といえば「Quora(クオーラ)」や「Yahoo!知恵袋」のようなQ&Aサイトもありますが、質問と答えがフィットしないと情報がみつかりません。有名人の意見が優先され、「みんなで情報をつくり上げる」には程遠いのが実情です。

Image copyright: WIKIPEDIA.ORG

検索エンジンに頼るにも、欲しい情報は動画や音声などあらゆるメディアに分散してしまっています。ウィキペディアが登場した20年前には、iPhoneもYouTubeもポッドキャストも存在せず、モバイルでの利用やコンテンツのリッチ化は完全に想定外にありました。

また、ウィキペディアに掲載される記事は「知名度」で足切りされ、ニッチな情報はカバーされません。一方で、人々の関心事が細分化した現代においては、ニッチな情報こそその価値が増大しています。本来、インターネットという無限の奥行きをもった書庫に限界はなく、ストレージのコストは圧倒的に下がっています。

日々増え続ける情報のアップデートを人力に頼るにも限界があります。今やスマートフォン経由で誰もがオンラインなはずですが、ウィキペディアの編集への参加は一般の人には敷居が高いです。

GATHER ALL THE KNOWLEDGE

テックがつくる集合知

この状況に、ある起業家が立ち上がりました。ジュード・ゴミラ(Jude Gomila)はイギリスでは有名なエンジェル投資家で、若手起業家のメンターです。ケンブリッジ大学在学中にフォトシェアリングの事業で起業し、その後創業したモバイル広告会社Heyzapの売却に成功した、著名な連続起業家です。

2019年5月、ゴミラは「世の中にある全てのものを網羅した、ネット上の百科事典」をまとめ上げることを目指し、Goldenを立ち上げました。

Image copyright: JUDEGOMILA.COM

どのように、それを可能にするのか。まず、Golden最大の特徴は徹底したテクノロジー活用です。自社開発のクローリングエンジンがウェブから情報を集め、記事を自動で立てて基本項目を埋めていきます。24時間365日、休むことなくAIがコンテンツを生成し続けます。内容の重複やスペルミスも、AIが自動で修正してくれます。

記事は、ユーザーが直接編集することも可能ですが、その際には自社開発したエディタが入力を支援します。サイトのリンクを貼るだけで、タイトルや著者を自動的に抽出して提案するなど、人力での作業効率を「通常の100倍」にします。

次に、適切な人力の関与です。AIが判断できない項目は、YesかNoでユーザーに質問を投げかけます。ウィキペディアに執筆するのはハードルが高いですが、これなら自分の知識の範囲内で、スマートフォンからでも気軽に編集に貢献できます。人力による修正を通じ、AIアルゴリズムは更なる進化を続けます。

Image copyright: GOLDEN

そして、YouTubeやポッドキャストなど、記事に多様なコンテンツを埋め込めます。文章で読むよりも動画や音声の方が直感的に分かりやすい事項も多く、また、埋め込み元となる解説動画は、今や質の高いものが多数存在しています。

さらに、本社にリサーチチームを抱え、人力で情報を調査・精査しています。メディアの元編集者をはじめ、プロが専業で組織的に行い、情報の正確性を担保しています。善意に頼るのではなく、営利団体として運営し、人材を雇用しています。

結果として、Goldenでは「ウィキペディアの100〜1,000倍早く、精度の高いページを圧倒的な量で生成することが可能」だと言われています。600万記事のウィキペディア、そして100億近いナレッジグラフをもつGoogleをも凌駕すべく、インターネット上の百科事典を速やかにまとめ上げようと、邁進しています。

DATABASE OF HUMANITY

人類のデータベース

Goldenの一般ユーザーによる利用は無料ですが、高度な検索やカスタマイズなど、主に企業向けに、1アカウントあたり月額99ドルの有料プランも用意しています。Goldenが課金を行うことに対して、情報の中立性をめぐる批判もありますが、実はこの背景にはGoldenの壮大な構想が隠されています。

彼らの計画は、将来的にGoldenのAIソフトウェアそのものを、企業に利用してもらうことにあります。ウェブと社内データベースから、半自動で「社内百科事典」を生成できるエンジンを、企業向けに提供するのです。

これにより、Goldenはプライベートとパブリックを跨いだ、あらゆる情報を整理し尽くすことを目指しています。同社のAIエンジンを用いて記事をまとめ上げた企業は、これを人類の集合知であるGoldenに寄稿するかもしれません。これはエンジニアが自分で書いたコードをGithubで公開する過程に似ています。

ソフトウェアを媒介とした、人類のナレッジデータベースの集積と構築。この壮大な構想に惚れ込んだのが、あのAndreessen Horowitz(a16z)共同創業者のマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)です。

Image copyright: ANDREEDDEN HOROWITZ

昨年のシードラウンドに続き今月発表された1,450万ドル(約15億円)の出資をリードするとともに、マークは取締役も務めます。200社を超えるa16zのキラ星のような投資先群の中でも、彼自身が取締役に入る会社は10社にも満たないでしょう。

ゴミラは「世の中にあるほとんどの技術的課題は解決可能だ。イノベーションの過程は直線的でなく、突発的にブレイクスルーが起きる。無理だと言われても、全く気にならない」と語ります。昨年4月の正式公開以降、すでにテクノロジー関連の情報ではウィキペディアを圧倒していると言われます。伝説の投資家の支援を得て、ゴミラは「人類のデータベース」に向け邁進しています。

INNOVATIONS IN NLP

言語AIという「革命」

Goldenがこのタイミングで登場した背景には、目覚ましい自然言語処理AIの進化があります。

2018年10月にGoogleが発表した言語モデル「BERT」の出現で、かつてディープラーニングの適用が難しいとされてきたこの分野に、大きなパラダイムシフトが起きています。不可能と思われていた、AIが「人間の理解力を超える」をあっさりと実現し、以前取り上げたGPT-3は文章生成においても人間を上回る精度を実現しています。(7月27日配信:熱狂のAI「GPT-3」とは何者か

IDCの調査によれば、一般的なホワイトカラーは、ネットなどから情報の収集・理解に週12時間、メールやプレゼン資料など情報の作成・編集に週14時間も費やしています。自然言語解析AIは、まさにホワイトカラーの生産性改善にとって“本丸”とも言えるテクノロジーであり、人間の働き方を根本的に変えるポテンシャルを秘めています。

「ウィキペディアという“人力”から、Goldenという“AI”へのシフト」は、まさにこの文脈で読み解くことができます。自然言語AIを駆使した「人類のナレッジデータベース構築」という壮大な社会実験から、今後も目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. SPAC旋風は不況の前触れ? 水素電気自動車のスタートアップNikola、宇宙旅行のVirgin Galactic、スポーツくじBut DraftKingsなど、このところ急増しているSPAC(特別目的買収会社)を利用した上場は、近い将来に市場が制御不能に陥る不吉な兆候かもしれません。米国でのSPACを通じたIPO数は昨年合計のほぼ3倍で、取引の増加で手に負えない状態になりつつあります。かつてSPACが盛り上がった2007年の後半に、米国株はピークに達した後、大不況が始まりました。
  1. プレッシャーをかけるイェール大CFO。イェール大学の312億ドル(約3兆3,000億円)の基金のベテラン投資責任者であるデビッド・スウェンセン(David F. Swensen)は、同大学の資金を管理する数十の企業に対し、スタッフの多様性のレベル向上を指示。女性とマイノリティの採用、トレーニング、メンタリングなど、複数の項目について毎年レビューを求め、改善が見られない企業からは資金の引き上げも辞さない考えを匂わせています。
  1. Snapchat絶好調。動画共有アプリ「Snapchat」を運営するSnapは、ユーザー数と売上高の大幅な伸びを受けて、事前の予想を上回る好決算を報告しました。第3四半期の売上高は15億6,500万ドル(約1,640億円)、総収益は前年比52%増の6億7,900万ドル(約712億円)。iOS、Android共にユーザー数を伸ばし、前年比18%増の2億4,900万人に到達。「コミュニティと広告パートナーへの注力」が成長に結びついた要因であると、CEOのエヴァン・シュピーゲル(Evan Spiegel)は語ります
  1. Teslaの純利益は2.3倍に。10月21日に発表されたTesla(テスラ)の2020年第3四半期決算によると、売上高は前年同期比39.2%増の87億7,100万ドル(約9,200億円)で過去最高を記録しました。純利益は3億3,100万ドル(約346億円)と、前年同期の1億4,300万ドルに対し2.3倍で、5四半期連続の黒字決算。自動車業界全体がパンデミックの影響を受けながらも、Teslaは今年は約400%のシェアを獲得しています。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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