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Monday: Next Startups
次のスタートアップ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。
楽天ポイントにdポイント、Tポイント…。日本は「ポイントサービス大国」で、お金と同じように使える価値が受け、一般消費者からすれば貯金しても利息がつかない「ゼロ金利時代」を生きる支えにさえなっています。
さまざまなサービスと結びつけて顧客を囲い込み、独自の経済圏をつくるべく多くの企業が乗り出していますが、実のところ、ポイントシステムの仕組みそのものは20年以上変わっていません。これを、株式を使ってアップデートする革新的なスタートアップが今、注目を浴びています。
今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、「顧客」を「株主」に変えるBumpedを取り上げます。
Bumped
・創業:2017年
・創業者:David Nelsen
・調達額:1,960万ドル(約20億6,000万円)
・事業内容:端株に特化したネット証券
A NEW WAY TO GET STOCK
買い物で、株が貰える
「Bumped」はブランドと顧客の新たな関係構築を担うサービスです。「買い物をすると、株がもらえる」を可能にするプラットフォームです。お気に入りの店で100ドルを使うと、その会社の株が1ドル分もらえるイメージです。
使い方はいたって簡単です。
まずBumpedのHPから証券口座を開設します。Bumpedは当局から認可された証券会社(ブローカーディーラー)で、免許証などで本人確認し、使用するクレジットカードを登録します。
次に、自分の好きなブランドを選択します。SpotifyやNetflixのようなコンテンツビジネスからWalmartなど総合スーパー、AT&Tなどの通信キャリア、MacDonald’sなどハンバーガー、Domino Pizzaなど宅配ピザなど、商材別に13のカテゴリーがあります。ユーザーは各カテゴリーから1つを選びます。これは30日間に一度、年に3回まで変更が可能です。
あとは、登録したクレジットカードを使って買い物をするだけ。自分が選択したブランドで買い物をすると、買い物代金の一定割合分の株が、数日後に自分の証券口座に振り込まれます。リワードの割合は買い物代金の3〜5%程度ですが、キャッシュバックとも併用されるため、お得感が相殺されることはありません。
囲い込みを狙うロイヤリティマーケティングの一種ですが、「ポイント」ではなく「株式」が事業者やユーザーを強く惹きつける理由として、以下の3つが挙げられます。
まず、強い顧客エンゲージメントです。端株(1株未満の株式)とはいえ、れっきとした株主です。単なるポイント会員よりも強いロイヤリティで顧客を囲い込むことができます。
コンビニやガソリンスタンドや宅配ピザなど、世の中には似たような商材を提供する競合が多くありますが、「近くにあった」「たまたま前を通った」という程度の選択をしていることがほとんどです。ポイントやキャッシュバックは値引きの手段に過ぎず、ブランドへのロイヤリティにつながっているとはいえません。かたや、株主となったユーザーの3分の1は競合他社からの買い物を完全にやめていることが、Bumpedの調査からわかっています。
次に、高い経済的魅力です。固定化されたポイントと違って、株価が上がれば、キャピタルゲインも見込め、配当も得られます。
変動する株価に一喜一憂するなど、ゲーム的要素もあります。関連企業のニュースや業績も気になるでしょうし、今まで以上に、好きな企業の製品を周囲にすすめることになるかもしれません。
そして、株式投資や資産形成の導入になる点です。どんなにそのブランドが好きでも、素人が株式投資に踏み出すにはお金と勇気が必要です。「どの株を買ったら分からない」普通の人でも、自分の好きなショップで買い物のついでに株式がもらえるなら、元手ゼロで、意識せずに株式投資が始められます。
企業にとっても、Bumpedで対象となる企業の株に興味をもったユーザーが本格的に株を買ってくれれば、株価の浮揚効果も期待できます。個人投資家層を広げようと、日本では「株主優待」として商品券などが提供されることもありますが、企業そのものに関心がない場合も多いもの。しかし、Bumpedならその懸念もありません。
THE DEMOCRATIZATION
株主の「民主化」
株式投資が一般の人にとって縁遠い存在なのは、米国も同じです。証券口座をもっている人は全体の52%ですが、401kなどでの取得を除いて直接株式を売買したことがある人はわずか14%にすぎません。日本はといえばさらに少なく、株式の口座をもっている人は全体の12%です。
まして、金額ベースでは上位1%が、個人の株式保有の半分を占めています。株取引アプリ「Robinhood(ロビンフッド)」がミレニアルやZ世代へ株式取引の裾野を広げたといわれますが、ユーザーはシリコンバレーエンジニアなど高学歴で高収入層が中心です。
企業の業績や成長を支えているのは、言うまでもなく顧客です。しかし、その恩恵を「株高」というかたちで享受するのはそのブランドの顧客ではなく株主、すなわち限られたお金持ちでした。Bumpedは、顧客を株主に変え、両者の利益をリアライメント(再調整)する、壮大かつ革新的な社会実験と言えます。
創業者のDavid Nelsen(デイヴィッド・ネルソン)は、かつてオンライン・ギフトカードの事業を立ち上げ売却したベテラン起業家で、Bumpedは彼にとって3度目のチャレンジです。「人々の生活に変化をもたらすことができる企業」を目指して、この発想に行き着いたそうです。
Bumpedが扱う端株は事務処理が煩雑で金額も小さく、既存のオンライン証券が避けていた領域です。Bumpedは世界初の「ロイヤリティマーケティングのための証券会社」として、いくつもの特許を抑えた仕組みで、デジタル的にこのプロセスを可能にしました。
ユーザーのカードの購買データをデイリーで集計し、実際にマーケットで株式を購入し、端株にしてユーザーに配ります。金融当局にこの仕組みを相談に行った際は、「目を丸くされ、全く理解されなかった」とネルソンは語っています。
これが可能になった背景には、株式の取引手数料がタダ同然に安くなったことや、フィンテックの盛り上がりによって、カード決済情報や外部の証券決済機関へのアクセスが容易になったことなどが挙げられます。「5年前なら不可能だった」と語るネルソンは、「20年間変わらないポイントプログラムという仕組みを置き換える」と意気込んでいます。
GREAT POSSIBILITIES
絶大なポテンシャル
顧客が社員でもあり株主でもあるのは、Bumpedの仕組みだけではありません。例えば、テスラ・モーターズは、「モデル3」など新車のコンセプトを発表すると、ユーザーは実際のモノを見ないままオーダーを入れます。同社はユーザーの手付金を元手に、彼らの声を聞きながら、2年かけてクルマをつくります。
テスラが体現しているのは「つくってから売る」から「売ってからつくる」への逆転現象です。「資金を拠出する人=資本家」と「製品を買う人=顧客」が同一で、顧客は開発期間中に「チャイルドシートが付くようにして欲しい」など意見を言う、社員のような存在でもあります。顧客を顧客としてではなく、多様な内部者として囲い込むことで、より強いロイヤリティを醸成できるという事例のひとつと言えます。
米国には端株専用の証券会社もあります。Stockpile(ストックパイル)というスタートアップは、「5ドルから取引可能」で「20歳未満は手数料無料」を謳っています。子どもにお気に入りのブランドの端株をプレゼントし、金融教育に活かすなどの事例で人気を博しています。
日本でも「単元未満株」など1株から取引できるサービスが徐々に登場していますが、1株でも数千円から数万円かかり、手が出ません。Bumpedのように1株未満の株式(端株)まで取引できれば、本格的な民主化に弾みが付くでしょう。「投資」という枠を超えて、株式にはマーケティングから教育に至るまで、大きな可能性が秘められています。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- Androidユーザーの大統領選への興味は。iPhoneで選挙を見るために選んだアプリは、国の分裂を反映していました。米調査会社のSensor Towerのレポートによると、ダウンロード上位に並んだのは「CNN」と「Fox News」で、それぞれ左と右寄りのチャンネル。選挙日の翌日、Fox Newsアプリは米国のAppStoreでトップの無料iPhoneアプリ内で2位に、CNNアプリは3位につけました。かたやGoogle Playの11月5日データでは、Fox Newsは12位、CNNは16位。Androidユーザーは選挙への関心が低かったのかもしれません。
- スタートアップで働く理由はお金? ユニコーンバブルに湧くスタートアップシーンを眺めていれば、長期的にみたときにその従業員たちの稼ぎがいいかどうか、疑問に思うのも当然です。そして、その答えは「No」。デンマークおいて1992〜2012年までのスタートアップの雇用の長期的影響を分析した研究では、設立4年以内のスタートアップに参加した人の収入は17%低くなったと報告されています。
- 人種間の富の格差を埋めるために。米国における黒人と白人の財政ギャップは、2020年の今でさえ、1968年と大差ないまま。黒人10世帯分の純資産は、典型的な白人1世帯分の純資産に等しいとされています。この不公平のために、米国では毎年何十億ドルにも及ぶ損失が生じているといいます。人種における富のギャップは米経済全体の足枷となり、2028年までに最大1兆5,000億ドル(155兆円)規模にまで膨らむとされています。
- バイデン勝利確定→Redditダウン。11月8日午前11時15分(中部時間)、投稿サイト「Reddit」がダウンしました。これに先立つ午前10時25分(中部時間)にAP通信から、バイデンがペンシルベニア州で勝利を固めた報道が出たことが原因とみられます。フロントページは確認できるものの、テネシーや政治のSubredditページにアクセスできない状態が続きました。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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