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Startup:高級「デジタル服」は究極のエコ

Quartz Japanが毎週月曜の夕方にお送りするニュースレターでは、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。今週は、ファッション界のサステイナブルな未来を切り開くスタートアップ、Tribute(トリビュート)を取り上げます。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Deep Dive: Next Startups

次のスタートアップ

[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。今週は、ファッション界のサステイナブルな未来を切り開くスタートアップを取り上げます。

Image copyright: REUTERS/BENOIT TESSIER

自宅で過ごす時間が増えたことで、ファッション関連の支出は落ち込み、アパレル企業の倒産を伝えるニュースも続いています。身に纏う洋服の需要が減る一方で、今、デジタル上の自分を着飾る「デジタル服」が話題を呼んでいます。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、斬新なデジタル服でファッション界の未来を切り開く「トリビュート(Tribute)」を取り上げます。

Image copyright: TRIBUTE
Tribute
・創業:2020年
・創業者:Gala Marija Vrbanic、Filip Vajda
・事業内容:デジタル服の制作、販売

NONEXISTENT FASHION

実在しないファッション

クロアチア発のTributeが販売するのは「デジタル服(digital garment)」。Instagramのフィード上などでのみ自分を着飾るための服で、実物は存在しません

Tributeのサイトには一般的なECサイトと同様、ドレスやジャケット、パンツなどのアイテムが並んでいます。気に入ったものを選び購入すると、自分の写真をDropboxなどクラウド経由で送るよう指示され、数日待つと購入した服を着た自分の写真が送り返されてきます。

Image copyright: VIA INSTAGRAM

送り返されてきた写真では、自分の写真にぴったり合うように洋服の陰影やシワが調整されていて、実際着ているのと見間違うほどです。「No shipping, No waste, No gender, No size(配送なし、ゴミなし、性差なし、サイズ展開なし)」を掲げており、現実には存在しない生地や光沢で、自由な自己表現が可能です。カスタム品のオーダーも受け付けており、自分好みの、世界に一着しか存在しないデジタル服を創作できます。

デジタルなので好きなだけ量産できるはずですが、Tributeで売られるアイテムは必ず100点限定で、再販売されることはありません。価格帯は30ドル(約3,000円)前後が中心で、高いものでは699ドル(約7万2,000円)のドレスまであります。「実在しない服に699ドルも払う人がいるの?」と思ってしまいますが、このドレスはすでに売り切れています。

メガネやコスメなど、実物が存在するものをデジタル上で試す「バーチャルフィッティング」はこれまでもありました。が、デジタルオンリーの服を実際の人が着るのは新しいコンセプトです。レディー・ガガのスタイリストや有名インスタグラマーなど、感度の高い層から火がついています。

Image copyright: VIA INSTAGRAM

THE ULTIMATE SUSTAINABLE FASHION

究極のサステイナブル服

興味深いのは、Tributeのユーザーが実在しない服に違和感を抱いていないどころか、デジタル服ゆえの魅力に虜になっている点です。

まず、デジタルなら物理的に不可能なものでもつくれます。Tributeに並んでいる服はどれも未来を感じさせる異次元なアイテムですが、とてもリアルでは着こなす自信がない服もデジタルならフィットして、「一度はなってみたかった」自分になることができます。アイデンティティと個性の表現という、ファッションの原点回帰とも言えます。

また、デジタル服は「究極のサステイナブルな服」だとも言えます。ファッション産業は環境への負荷が高いことで知られています。服をつくる際の産業汚染水は地球全体の20%を占め、CO2排出量は世界の10%を占めます。ソーシャルメディアに投稿する写真を撮るためだけの購入は全体の10%にも及んでおり、廃棄されても分解されないマイクロプラスチックは全体の35%を占めています。

Image copyright: REUTERS/AKINTUNDE AKINLEYE/FILE PHOTO

これに呼応して、各ブランドも「エコ」や「エシカル(倫理的)」を宣言していますが、モノをつくることには変わらず、環境負荷をゼロにするのは容易ではありません。現実の世界でファッションを楽しむには、環境負荷という対価を払わざるを得ないのです。これに対して、デジタル服は実物を生産せず、包装や輸送もなければ廃棄も不要。途上国の労働搾取も生まれません。

米国で消費を牽引するミレニアルやZ世代は、サステイナブルで環境に配慮する企業を支持し、より良い社会を実現するためのエシカルな消費傾向が顕著です。Tributeが若者の心を捕まえて離さないのは、汚染も廃棄もゼロで持続可能なデジタル完結型ファッションが、しっかりとその時流に乗っているからと言えます。

REVOLT AGAINST FAST FASHION

アンチ・ファスト

デジタルファッション専門家集団のTributeはクロアチア出身のファッションデザイナーのガラ・マリヤ・ヴルバニッチ(Gala Marija Vrbanic、写真右)とファッション業界でデジタル制作に携わったフリップ・ヴァダ(Flip Vajda、写真左)によって共同創業されました。

Image copyright: PHOTO VIA SUPER1/SANDRO LENDLER

若くしてファッションで才能を発揮したヴルバニッチは、大学でグラフィックデザインを学ぶ傍ら、2016年、20歳のときに自身のブランド「プライス オン リクエスト(PRICE ON REQUEST)」を発表します。

その名の通り、価格を設定せず購入者の言い値で販売するというユニークな試みは当時から話題になりました。ファストファッションが招く大量生産・大量廃棄に懐疑的だった彼女は、PR会社を通さず純粋にデザインだけで評価された場合にどれだけ消費者に受け入れられるのか、試してみたかったと言います。

デジタル服のインスピレーションは、『グランド・セフト・オート(GTA)』などのゲーム内でのアイテム購入から得たそうです。今や『フォートナイト(Fortnite)』や『あつまれ どうぶつの森』でもファッションはプレイヤーのステイタスそのもので、ゲーム空間内でのファッションショーも開かれているほどです。

Image copyright: PHOTO VIA YOUTUBE/REFERENCE FESTIVAL

デジタル服を人間に「デジタルフィッティングする」というアイデアは、2017年ごろから温めていたようです。訪れたパンデミックによって現実世界の交流が絶たれ、ファッション業界が製造も輸送もままならない状況に直面し、「今しかない」と今年5月にTributeを立ち上げました。

水面下で話題を呼び、ファッションフリークな個人だけでなく企画に使いたい事業者からも、問い合わせが殺到しているそうです。「これはファッションの未来を形づくると信じている」とヴルバニッチは語ります。

THE FUTURE OF DIGITAL CLOTHES

デジタル服の未来

Tribute以外にも、デジタルファッションを手掛けるブランドは登場し始めています。コペンハーゲン発でインフルエンサーと組んでPRを仕掛ける「カーリングス(Carlings)」、アムステルダム発でデジタルデニムに特化した「ザ ファブリカント(The Fabricant)」など、いずれも環境意識が高い欧州から発信されているというのは頷ける話です。

デジタルが現実に侵食した例で分かりやすいのが、コスプレです。ゲームやアニメのキャラクターに扮して世界感に浸るこの市場は、世界で約1兆円以上の規模です。過去には『ファイナルファンタジーXIII』の流麗な衣装をルイ・ヴィトンが実際に製品化したもありました。

Image copyright: VIA INSTAGRAM

そして今起きているのは、すべてがデジタルで完結するファション変革です。Zoomとソーシャルメディアに活動の中心を移しつつある消費者にとってすれば、オンラインのみのアイテムで「十分」です。一瞬で化粧を施す写真加工アプリと同じ感覚で洋服も着せ替えることができるようになる未来は、そう遠くないはずです。

わたしたちのアイデンティティは、すでにその多くがデジタル空間にあります。ファッションがソーシャルメディアに載せるためだけに消費されるのなら、デジタル化すればいいというのは、ごく自然な発想でしょう。

メジャーブランドが一斉にデジタル服のラインナップを立ち上げ、わたしたちのクローゼットがクラウドに移るのも時間の問題かもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

Image copyright: REUTERS/DANNY MOLOSHOK
  1. Zappos創業者が46歳で死去。オンライン小売店ザッポス(Zappos)の前CEOのトニー・シェイ(Tony Hsieh)が27日、米コネチカット州で死去したと報じられました。同州を訪れていた際に住宅火災で負った怪我で、あまりにも早い死を遂げました。24歳で起業したマーケティング会社リンクエクスチェンジ(LinkExchange)をマイクロソフトに売却した資金を元にZapposを立ち上げ2009年にアマゾンに12億ドルで売却。リーダーシップや経営戦略を記した著書はベストセラーになりました。
  1. さらに増える「禁止アプリ」。インド政府は24日、同国ですでに少なくとも220の中国製アプリが禁止されていることを明かしたうえで、サイバーセキュリティへの懸念からさらに43の中国製アプリをブロックする方針を示しました。インドでインストールされたアプリの上位500位に中国アプリの姿はありません。一方中国は「脅威ではない」と強気の姿勢を見せています。
  1. スマートEV開発に1,000億円超のファンド設立。中国最大の国営自動車メーカー上海汽車 (SAIC)は傘下のHengxuCapitalを通じ、アリババとのスマート電気自動車技術開発への資金提供を目的とした72億元(約1,140億円)規模のファンド設立を発表。これにより、上海証券取引所で取引されるSAICの株価は8.5%急伸し、27.08元(約428円)まで上昇しました。
  1. すべての会社が決済企業になる。金融アプリケーションを構築するためのプラットフォームを手掛けるProductfyが、シードラウンドで235万ドル(約2億4,000万円)の資金調達を発表。「資産1兆円の男」スティーブ・コーエン(Steve Cohen)率いるヘッジファンドのVC部門Point72 Venturesがリードしました。このところ金融サービスを内製化するツールを開発するスタートアップが目立っており、最近ではブルーム・クレジット(Bloom Credit)、フィニックス(Finix)が資金調達を発表しています(Finixについては10月5日配信の「セコイアが土下座した次のフィンテック覇者」で詳しく触れています)。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

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