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Startup:爆速成長する中小企業の救世主「MainStreet」

企業向けの税控除や補助金がいくら手厚くとも、その手続きは面倒で、その存在すら知られていないことも。そんな状況にメスを入れる「税額控除SaaS」が急成長しています。Quartz Japanの月曜夕方のニュースレターは、世界のスタートアップの最新事情をお伝えしています。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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Deep Dive: Next Startups

次のスタートアップ

[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Quartz読者のみなさん、こんにちは。月曜夕方にお届けしているこの連載では、毎回ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、中小企業の税額控除や補助金申請を支援する「MainStreet」を取り上げます。

米国では毎年企業向けに1,500億ドル(約16兆円)もの税控除や補助金予算が組まれていますが、実際に使っている中小企業やスタートアップは全体のわずか2%。複雑で面倒な手続きに二の足を踏むのはまだよい方で、大半の人はその存在すら知りません。

このアンバランスな状態にメスを入れ、急成長するスタートアップがあります。今週のNext Startupは、前代未聞の急成長を遂げる税額控除SaaS「MainStreet」を取り上げます。

Image copyright: MAINSTREET
MainStreet
・創業:2019年
・創業者:Doug Ludlow、Dan Lindquist、Daniel Griffin
・調達総額:6,270万ドル(約68億4,000円)
・事業内容:控除申請代行プラットフォーム

WHO IS Mainstreet?

MainStreetとは

米国では国や州レベルのものを合わせて1,500億ドル(約16兆円)、約2,000種類の企業向け税額控除や補助金が存在します。しかし、その利用率はたった2%。存在が知られていないか、知られていても複雑すぎて利用されていないのが実態です。

例えば研究開発(R&D)税額控除は、新たに採用したエンジニアの給与額に応じて法人が税額控除を受けられる制度ですが、皮肉なことにGAFAMのように大量にエンジニアを採用し、申請にまつわる専門家を雇える大企業ほどこの制度を活用しています。

政府の思惑はこれらが活用されて経済が発展し、税収がさらに増加することにありますが、支援を必要とするスタートアップや中小企業に届けたいのと裏腹に、活用しているのは大企業ばかり。

この歪みにメスを入れたのがMainStreet(メインストリーム)です。「Gust」や「ADP」といった企業の給与システムにつなげると、還付を受けられる税額控除や補助金を約20分で自動算出します。

Image copyright: MAINSTREET

そしてボタンひとつで、この金額が企業の口座にMainStreetから直ちに振り込まれます。税務署相手の面倒な申請はMainStreetがすべて代行します。利用料はユーザーが手にする控除額の20%ですが、対象の控除が見つからず還付がなければ無料です。

言わば使い勝手の悪い行政のシステムの代わりに、MainStreetが企業と行政とをつなげています。利用企業は、1社あたり平均17種類の控除から5.1万ドル(約560万円)を手にしています。すでに1,000社を超える企業が利用し、8,000万ドル(約90億円)相当の還付を受けています。

REASON FOR RAPID GROWTH

快進撃の理由

MainStreetのサービスは間違いなく、世間が欲していたものでした。昨年9月に300万ドル(約3.3億円)だった年間売上(ARR)が今年2月に1,500万ドル(約16.3億円)と1年で10倍成長し「史上最速で成長するSaaS企業」として話題をさらっています。年間売上(ARR)は今年中に1億ドル(約110億円)に達すると見込まれるなど、破竹の勢いは継続中です。

控除は毎年発生し制度も細かく毎年変わるため、一度MainStreetを使い始めればなかなか解約されません。「つなぐだけで還付が受けられる」という魔法のようなサービスゆえに、顧客獲得もほぼ口コミで成長しました。社員数はまだ45名と、この規模の会社にしては極めて少数です。

Image copyright: 縦軸が年間経常収益、横軸が年。カーブが急であるほど成長スピードが速いことを意味する。MainStreetは最左の緑線。

MainStreetは顧客体験としてSimplicity(シンプルさ)、そしてDelight(喜び)の2点を重視しています。

ユーザーが享受するのは「既存のシステムにつなぐだけ」という簡単さですが、それも徹底したフォーカスゆえ。例えば、2,000ある税額控除のうち、現時点でMainStreetが対象にしているのは金額インパクトの大きい200のみ。書類作成や申請手続きなども丸ごと引き受けるという徹底ぶりで、顧客にとってのシンプルさを追求しています。

彼らは、MainStreetから送るすべてのメールやメッセージは顧客への「ギフト(贈り物)」と位置付けています。ただでさえ時間もなく人手も足りない中小企業の経営者は、ややこしい税の仕組みや専門用語を知りたくはないものです。「こちらの10項目をお読みください」ではなく「面倒な手続きはもうやっておきました」というメールを送ることで、顧客に喜びを提供します。

MainStreetがいったん肩代わりするかたちで顧客に即日送金する点も、資金繰りが何より重要な中小企業やスタートアップにとっては有難いサービスです。手数料は税額控除で還付を受けた場合のみで透明性が高い点も、信頼がおけます。

「MainStreet=中小企業」という社名は、徹底してスモールカンパニーの立場からこの2つの体験を追求し続けるというコミットメントに他なりません。

FASTEEST SALES GROWTH

史上最速の売上成長

彗星のごとく現れたMainStreetですが、実は創業者のダグ・ラドロー(Doug Ludlow)は過去に2社のエグジットを果たした連続起業家です。1社目のHipster(写真共有アプリ)はAOLに、そして2社目に立ち上げたHappy Home Company(住宅メンテナンス)はグーグルに売却した経験をもちます。

Image copyright: 左から、CEOのダグ・ラドロー、CPOのダン・リンキスト、CTOのダニエル・グリフィン MAINSTREET

グーグルでは中小企業向けの広告グループの要職を勤めながら次の事業を模索していたラドローですが、やがて「中小企業やスタートアップ向けのガバメントリレーションズ」を構想するに至ります。2019年にグーグル時代の同僚をCOOとCTOに迎えMainStreetを立ち上げました。

そこから快進撃が始まります。昨年6月にシードラウンドで230万ドル(約2.5億円)の調達を行ったばかりですが、今月シリーズAで6,000万ドル(約65億円)を調達。もともと資金調達の予定はなく、VCが殺到してプレゼン資料すらつくらないまま勝手にタームシートが送られてくるという熱狂ぶりでした。なお、シリーズA発表直後から、グロース投資家から問い合わせも殺到しています。

Image copyright: シリーズA発表直後に複数のグロースファンドから出資の打診を受けたと告白するルドローのツイート

そして、この激戦を射止めたVCはシグナルファイア(Signal Fire)という新興VCでした。Signal Fireのウェブサイトは一見するとスタートアップと見間違うようなつくりで、AIを駆使した採用データベース、外部専門家を揃えた強力なグロース支援など、テックと人力を駆使した起業家への惜しみないサポートがウリです。「VC業界をディスラプトする」と謳うこの新興勢力は、VCも下克上の世界だということを物語る存在です。

TECH FOR CFOS

CFO目線のテック

またMainStreetの熱狂は「コーポレートファイナンステック」の文脈からも読み解くことができます。「CFOの88%がエクセル」と指摘されるほど、事業と財務は断絶しています。事業の打ち手はリアルタイムのKPIに基づいて日々意思決定されていく一方、財務の打ち手は月次を締めないとキャッシュ残高がわからない、事業の状況は日々刻々と変化するのに予算や事業計画は一切アップデートがない、など非効率が放置されています。MainStreetはこの分野にイノベーションを起こす「FaaS(Finance As A Service)」のトレンドにも乗っているのです。

これだけの有望領域だけに、MainStreetにも当然競合企業は存在します。最強VCのセコイア・キャピタルやアマゾン創業者のジェフ・ベゾスのファンドが支援するPilotは先日1億ドル(約110億円)の資金調達を発表し、ユニコーン入りしました。大手会計事務所などもサービスを強化しています。

日本にも中小企業やスタートアップ向けにさまざまな税額控除や補助金が用意されていますが、申請が複雑で面倒な事情は同じ。日本でも可能性を感じる分野です。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。Twitterアカウントは @kubotamas

Cloumn: What to watch for

驕りの代償

Image copyright: PHOTO VIA FLLICKR
米コンサル大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーの輝きが失われつつあります。同社は、南アフリカの公金を横領したインド系富豪の汚職や、サウジアラビアでムハンマド皇太子による改革プランの原案をつくったり、社員旅行で中国のウイグル人収容所にほど近い場所で焚き火に興じ、ラクダに乗ってバカンスを楽しんだとされます。一連の問題が起こったのはいずれも現職のケビン・スニーダー(Kevin Sneader)がトップに就任した2018年の出来事。このほど「世界最強の頭脳集団」は、スニーダーを事実上更迭。通常は2期6年務めるところ、1期での退任となりました。
中国、サウジアラビアとの黒いビジネスが暴かれ世界からバッシングを受けたマッキンゼーは償いを始めます。昨年12月、同社は麻薬性鎮痛剤オピオイド乱用問題におけるその役割について準謝罪を発表。中毒性のある薬物に対する世論の懸念が高まっているにもかかわらず、集団訴訟の被告となっている米製薬大手パーデュー・ファーマ(Purdue)が「オキシコンチン」の売上を伸ばす方法をサポートしていました。2月4日、マッキンゼーは米国の州検事総長との和解の一環として5億7,300万ドル(約630億ドル)を支払うことに合意。1926年に創設されて以来一流の仕事をしてきた気高い企業は、傲慢企業に成り下がった姿から元の輝きを取り戻せるのでしょうか。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

🎧 Podcastでは月2回、新エピソードを配信しています。最新回では「アーバン・ジャーナリスト」の杉田真理子さんをゲストにお迎えしています。AppleSpotify

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