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Startup:「Uberキラー」の新星現る──Nomad Rides

月曜夕方にお届けしているこの連載では、毎週ひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。 今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、Uber帝国に殴り込みをかけたNomad Ridesをご紹介したいと思います。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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[qz-japan-author usernames=”Masaya Kubota”]

NEXT STARTUPS

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

日本では移動するのに電車やタクシーを利用される方が多いと思いますが、欧米では「Uber(ウーバー)」や「Lyft(リフト)」、東南アジアであれば「Grab(グラブ)」といった配車サービスが、市民の生活の足としてかなり浸透しています。

Uberの知名度は圧倒的ですが、実は今、発祥の地カリフォルニアでその帝国に戦いを挑む小さなスタートアップの挑戦が始まっています。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、Uber帝国に殴り込みをかけたNomad Ridesをご紹介したいと思います。

 

Nomad Rides(配車サービス)

  • 創業:2018年
  • 創業者:Daniel Jones、Michael McHugh
  • ステージ:シード
  • 調達総額:15万米ドル(約1640万円)
  • 事業内容:配車サービス

8月に行われたY Combinatorのデモデーで”Kill Uber/Lyft”と宣言してオーディエンスを沸かせました。なぜこのサービスを取り上げるかというと、アリ(スタートアップ)が象(大企業)に戦いを挑む点でシリコンバレー的であるということ、そしてそのビジネスモデルや参入のタイミングも非常によく考えられたものであると思うからです。

UberやLyftのドライバーはGig workerと呼ばれ、単発で仕事を請け負う人たちのことですが、実際はフルタイムなドライバーも多い。彼らは自由な働き方を得る一方で、有給休暇や医療保険といった福利厚生は保証されていません。

彼らは毎日朝から晩まで稼働して25~50%が手数料としてUberに差っ引かれる上に、車のメンテナンスも自腹という成果報酬の手数料モデルで、これではあまりにも酷いのでは?と、Uberを非難する世論が高まっています。日本の「働き方改革」の先の先を行く議論が始まっているのです。

DISRUPTING RIDE-HAILING SERVICE

成果報酬からサブスク

Nomad Ridesは、ドライバーから月額25ドル(約2700円)のサブスクリプションフィーを徴収し、これ以外はドライバーから手数料などを取りません。

  • Uber、Lyft:1回の配車につき乗客が支払った金額の約25%がプラットフォーム使用料として差し引かれる。
  • Nomad Rides:ドライバーから月額25ドル(約2700円)〜のサブスクリプションフィーを徴収。

ドライバーにとってはNomad Ridesの仕事を選択することでおよそ20%収入がアップすると言われていて、また乗客にとっても割安なサービスを提供しようとしています。

単に料金体系が違うだけ?と一見思いがちですが、実はビジネスモデル的に考えると、3つくらいよく考えられたポイントがあります。

  1. 大手がマネしづらいタイミング:Uberは今年5月にNY証取に、Lyftは3月にNASDAQに上場し、株式市場から黒字化のプレッシャーをかけられています。UberやLyftにとって、今やNomad Ridesのような破壊的な価格体系で追随することは考えにくい。
  1. 特定エリアでまず小さく勝つ:配車サービスの競争源泉は「台数」ですが、大事なのは自分の周りにいる台数がいつどれだけあるか。全米の配車台数はUberには遠く敵わなくても、地域を絞ればUberに勝つことができる。実はこれがUberの様な配車サービスのネットワーク効果上の穴で、全米で圧倒的な台数を誇るUberでも、その利便性を我々日本人が全く享受できないのと同じです。その穴を埋めるために、提携やら買収を繰り返す訳です。ちなみにAirbnbにはこの欠点(ネットワーク効果の地域性)が存在しません。
  1. サプライサイドの確保に全力投球:乗りたい人にとって、車がより早く捕まって、早く乗れればいい。つまり特定のエリアでより多くドライバーを囲い込めれば良い訳です。一般的にマーケットプレイスは、供給側をいかに確保するかが勝負と言われています。事業のセンターピンを、ドライバーの確保、という点に絞り込んでうまく設計されています。

では、ドライバーを囲うにはどうすればいいか? ──Gig workerのドライバーたちは複数のアプリを入れており、第3の選択肢として、UberやLyftのアプリと並んで入れてもらうハードルはそれほど高くないと思われます。

そこをクリアしたら、複数のアプリから同時にコールでピックアップ要請があった時に優先して使いたくなるかどうかが大事です。ライド運賃の20%の手数料が差し引かれるUberと、全て自分の収入となるNomad Ridesの、どちらのコールを優先したいか、答えは明白でしょう。

これもよく考えたなと思いますね。

GIG WORKER

9月、カリフォルニア州議会上院で、Gig workerをこれまでの「請負業者」ではなく、「従業員」として扱うよう事業者に義務付ける法案が可決されました

Nomad Ridesは、当初認可を取らずにスタートし当局からストップをかけられて、一旦サービスを中止したそうです。これも実にうまいと思います。一旦ニュース性を持たせて話題作りをし、Gig Workerや世論の支持を得る。

日本の場合だとまず認可をとってからサービス開始、という流れになりがちですが、シリコンバレーのテック企業が向き合うのはまず課題、そしてユーザーなんですね。

法律がグレーのところを突いて、ユーザーを味方にどんどん既成事実を作り上げていく。ロビイングも抜かりなくやる。気が付いたらサービスを止められないぐらい事業が大きくなっていて、当局も認めざるを得ない。

まさに、「走りながら考える」シリコンバレー型の事業化の仕組みだと思います。

振り返ると、UberもAirBnBも、出てきた当初は「違法」とされ、タクシー業界やホテル業界からとてつもない圧力を受けて潰されそうになっていました。これをユーザーを味方につけて徐々に穴をこじ開けた。

今、Nomad Ridesは、Gig Worker化の社会の流れに沿って、ドライバーを味方につけてこの次なる穴をこじ開けようとしているのだと思います。

WHY NOT IN JAPAN YET?

もう一点、日本だとスタートアップとかベンチャーが大企業と提携したがる傾向がありますよね。

でも、シリコンバレーとかアメリカって、大企業は組む相手ではなく、倒すべき敵なんですよね。本気でGoogleを超える検索エンジンを作っているスタートアップもあるし、アマゾンを超えようと企むECスタートアップも出てくる。

Dropboxが出てきたとき、「Google Driveがあるのになんで?」とみなが思ったけどこんなに成長したし、SkypeがあったのにZoomが一気に市場を席巻した。一見、もう最強プレイヤーがいてその市場を取り切ったと思えても、そこから栄枯盛衰が待ち構えている。

UberもLyftも上場もして今や大企業、オフェンスからディフェンスへと攻守交代です。そこにスタートアップがどんどん参入し、また競争の中からイノベーションが産まれる。こういう視点でNomad Ridesを見つめると、実にシリコンバレー的です。

彼らの今後から目が離せません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)

(編集・構成:鳥山愛恵、写真:ロイター)

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