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Feature:「スポーツで経済貢献」の誤謬

今週のニュースレター特集「だえん問答・番外編」では、ネタ元となったField Guidesの内容の一部を翻訳し、論点をより深掘りしてきました。最終回となる今日は、Quartz記者(当時)のDan Kopfによる、経済からみたスポーツの価値についての論考をお送りします。

A football player wearing a mask before a game to protect against Covid-19.
Image copyright: Reuters/Kirby Lee
Covid-19 ravaged the global economy, but not because of how it impacted sports.
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

Special Feature

だえん問答・番外編

Quartz Japan読者の皆さん、こんばんは。今週のPMメール「Deep Dive」は、いつものように曜日ごとに決まったテーマではなく、1週通して「特集」というかたちでお届けしています。先日開催して好評だった若林恵さんとのオンラインイベント【延長戦】の申込みは、本ニュースレターの末尾にて案内しています。

今週は…[だえん問答・番外編]

毎週日曜にお送りしている「だえん問答」は、Quartzの特集「Field Guides」が扱う週替わりの論点を編集者の若林恵さんが解題する人気連載。2020年12月から21年6月までの掲載分をまとめた書籍版(第2集)もついに発売となりました。

今週のニュースレター特集「だえん問答・番外編」では、ネタ元となったField Guidesの内容の一部を翻訳し、論点をより深掘りしてきました。最終回となる今日は、Quartz記者(当時)のDan Kopfによる、経済からみたスポーツの価値についての論考をお送りします。

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「経済効果」の誤解

2020年3月、世界のプロスポーツは完全に停止しました。欧州のサッカーリーグ、米国のプロバスケットボール、世界各国のクリケットなどすべてがいっせいに中断したのです。スポーツを愛してきたファンやアスリートは、大きなショックを受けました。

ただ、経済という観点からはそれほど大したことではなかったようです。プロスポーツは経済成長に貢献するといわれてきましたが、スポーツ経済学の専門家たちは一般的に、スポーツチームが地元経済に対して果たす役割はかなり小さいと考えています。

テンプル大学の経済学者マイケル・リーズ(Michael Leeds)は、「メジャーリーグは試合数が非常に多いため、野球チームの貢献度は他のプロスポーツと比べれば高いでしょう」と言います。「それでも、経済効果は中規模のデパート程度です」

A football player wearing a mask before a game to protect against Covid-19.
Image copyright: Reuters/Kirby Lee
Covid-19 ravaged the global economy, but not because of how it impacted sports.

メジャーリーグのホームゲームの数は、レギュラーシーズンで年間81試合です。バスケットボールとアイスホッケーはその約半分、アメフトやサッカーではさらに少なくなります。リーズによれば、シカゴをホームタウンとする主要プロスポーツの5チームが同市の経済に占める割合は0.5%に満たず、パンデミックによる試合中止の経済的影響は、飲食業界や観光産業と比べればごくわずかでした。

チーム側は自分たちの重要性について宣伝したがりますが、こうした場合に持ち出される数字には誤解を招くものもあります。例えば、英プレミアリーグのリバプールFCデロイトのスポーツビジネス部門に委託して行った調査では、チームは2017〜18年のシーズンに市経済に4億9,700万ポンド(約756億円)貢献したほか、4,500人の雇用を支えているという結果が出ています。NBAのシアトル・スーパーソニックスは2008年に本拠地をオクラホマシティに移しましたが、それ以前はシアトル市の経済への貢献額は年間2億ドル(約221億円)を超えると主張していました。

こうした調査は、スポーツスタジアムの建設に対する補助金やチームへの減税措置を正当化するために(PDF)使われてきました。米国の地方自治体がスタジアム建設に投入した助成金は、1970〜2017年だけで総額300億ドル(約3兆3,088億円)(PDF)を超えています。

プロスポーツの経済効果を喧伝するリポートの問題点は、こうした調査は一般的に、スタジアム内および周辺のレストランやバーでの消費はスポーツの試合がなければ存在しなかったはずだと仮定している点だと、リーズは指摘します。

ただ実際には、スポーツ関連の支出はそれ以外の娯楽費を圧迫している場合が多いのです。リバプールFCが市経済に「貢献」したと主張する5億ポンドも、その大半はサッカーの試合がなければコンサートや映画に使われていたでしょう。リーズは消費者は娯楽に費やす額を決めており、余裕があれば他の使い道を見つけるはずだと説明します。

What happens when a team leaves?

チームがなくなると?

経済学者のデニス・コーツ(Dennis Coates)とブラッド・ハンフリーズ(Brad Humphreys)は1999年に発表した有名な研究で、プロスポーツチームの不在が米国の都市圏の経済にどのような影響を及ぼすかを調べました。

それによると、全試合が行われた年とストライキで一部の試合が中止になった年とで、スポーツチームがホームタウンとする都市の個人所得に大きな違いはありませんでした。また、チームが他の都市に移転しても目立った影響はないことも明らかになっています(スーパーソニックスがいなくても、シアトルには特に問題はありません)。

コーツとハンフリーの研究の後、スポーツの経済的影響を扱った論文が数多く発表されました。研究手法はさまざまですが、いずれもほとんど効果は見られないという結論は一致しています。2017年に著名な経済学者を対象に行われたアンケート調査では、28人中27人がスタジアムへの助成金は「それによって生じる経済的利益よりも納税者への負担の方が大きい可能性が高い」と回答しました。

また、スポーツチームが地元企業に負の影響を与えることすらあるのです。ロサンゼルス市政府は2003年、隣接するイングルウッド(Inglewood)の経済を分析し、1999年にNBAのロサンゼルス・レイカーズとNHLのロサンゼルス・キングスが移転した後で税収が拡大(PDF)したことを発見しました。これは、群衆や交通渋滞を敬遠して試合のある日は周辺地域を避ける人が多かったせいではないかと考えられています。

一方で、数値的に測定するのは難しいものの、都市の「ブランド」を高めるという意味ではプロスポーツチームに存在意義があるかもしれません。メンフィスやサクラメントといった中小規模の都市では、地域外の人たちに町の存在を思い出してもらう上でNBAのチーム名が一定の役割を果たしています。ただ、仮にスポーツチームの拠点であることから何らかの価値が生じていたとしても、それが雇用や税収にどのような影響を及ぼしているかという経済調査には現れてこないでしょう。

もちろん、経済効果が小さいからといって、チームがいなくなっても小規模ビジネスや雇用が損失を被ることはないというわけではありません。ミシガン大学の都市計画学部教授でスポーツファイナンスを研究するジュディス・グラント・ロング(Judith Grant Long)は、スタジアムやアリーナのそばにあるレストランやバーなどは大きな打撃を受けるだろうと説明します。特に、例えばフィラデルフィアのウェルズ・ファーゴ・センター(Wells Fargo Center)のように、そのエリアに人が集まる理由がスタジアムだけである場合、この可能性が高まります。一方、飲食産業でテイクアウトの比率が高まるなか、レストランにとってスタジアムのそばという立地の価値は低くなっています

The impact of the pandemic

景気回復するわけない

COVID-19が米国の都市に及ぼした最大の影響は、スタジアムへの助成金の財源となった公債が償還できなくなる可能性が出てきたことだと、ロングは指摘します。こうした公債の払い戻しには、観光税や試合のチケットの売上税を充当する計画だったからです。

例えば、ニューヨーク市産業開発局は2009年にシティ・フィールド(Citi Field)の建設費を賄うために総額6億1,200万ドル(約673億円)の公債を発行していますが、S&Pグローバル・レーティングは昨年6月にこれを投資不適格(ジャンク級)に格下げしました。アリゾナ州グレンデールやミズーリ州ジャクソン郡も同じような事態に直面しています。今回のようなパンデミックが再発する恐れがある以上、自治体はこの種の公債の発行を思いとどまるようになるかもしれないと、ロングは言います。

一方、テンプル大学のリーズは、冷たい人間だと思われたくはないが、新型コロナウイルスが引き起こした損失全体に比べれば、スポーツの経済効果は「取るに足りない」と話します。パンデミックが終わり再びスタジアムでスポーツを楽しむことができるようになれば素晴らしいが、それはコロナ後の景気回復の原動力にはならないというのです。

もちろん経済的な影響が小さいからといって、スポーツが重要でないということではありません。リーズ自身はスポーツが好きで、試合を生で観戦できなくなったのは残念だと言います。

リーズは「お金ではない暮らしの質という側面があります」と述べます。「スポーツがなくなってしまうことの大きなコストは文化的なものなのです」

スポーツは人びとを結びつけ、地域のアイデンティティのもとになります。スポーツが重要なのはこのためで、経済成長を生み出すからではないのだということをしっかり認識すべきだと、リーズは説明します。

複数の調査で、地域住民は地元のスポーツチームのためにお金を使うことを厭わないという結果が出ています。そして、それはチームが大きな喜びをもたらしてくれるからなのです。リーズは「わたしが子どもたちの誕生日にプレゼントを贈るのは、子どもたちを愛しているからです」と話します。「それが経済に貢献すると思うからではありません」

(翻訳:岡千尋・編集:年吉聡太)

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