Impact:IPCC報告書、読んでまとめた

Confidence, visualized

Deep Dive: Impact Economy

気候テックの衝撃

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気候変動に対する人類の責任を強く問うIPCC報告書。4,000ページにも及ぶその内容を実際に読み、まとめました。

地球温暖化は起きている。その原因は人間による温室効果ガスの排出である。その影響は非常に深刻である(場合によっては“壊滅的”ともいえる)──。9日に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書の要点だけを挙げるなら、こうなるでしょう。

このメッセージそのものは、1990年に発表された第1次報告書から大きく変わっているわけではありません。しかし、それから31年後のいま、世界中の大学から集まった何百人もの科学者は、少なくとも1万4,000件の論文を含む文献を何年もかけて調べ、上記の結論に至ったのでした。

報告書の枚数は約4,000ページにも及びますし、その多くは難解な科学用語で書かれています。そこでQuartzでは、「人為的な地球温暖化の科学的根拠」を一目で理解できるよう科学者たちの結論に対する「確信度」をヒートマップでビジュアル化しました(こちらの記事では、インタラクティブなグラフィックを掲載しています)。

本ニュースレターでは、各章のポイントをひとつずつ挙げていきます。

CH 1: Framing, context, methods

#1 枠組み、背景、手法

第1章では、強気な政治的主張が展開されています。2015年のパリ協定では「2℃目標」(産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える)が合意されましたが、その達成には各国がこれまでに提出してきた排出量削減計画では「不十分」であると、「高い確信をもって」結論づけています。この章では、前回の報告書(2013年)以降、気候に関するサイエンスの進歩の程が伝えられているとともに、地球温暖化が人の営みによるものであることが「明白」だとする論拠が挙げられています。

HIGHLIGHTS OF THIS CHAPTER 

👀 気候システムを観測する科学力は向上し続けている

📈 新しいテクノロジーにより、自然災害など極端な現象は人為的な気候変動に起因するものとする確信が高まった

🔬 最新の気候モデルは、自然のプロセスをこれまで以上に表現している。いまや、よりミクロなスケールで自然現象を詳細に捉えることを可能にする高解像度モデルが利用できる

CH 2: Changing state of the system

#2 気候システムの変化

過去に起きた気候変動と現在の気候変動を比較すべく、第2章では時間を遡って検証しています。その結果わかったのは、気候システムには人間の痕跡がはっきりと残されているということでした。現在の地球の気温は12万5,000年前と同程度であること、大気中の二酸化炭素の濃度は過去200万年で最も高いこと、温室効果ガスの排出量は過去80万年で最も急速に増加していることが指摘されています。

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🥵 大気、海洋、雪氷圏、生物圏それぞれにおいて観測された変化は、世界が温暖化していることを明確に証明している。この数十年で、気候システムの主要な指標は、数世紀〜数千年間に見られなかったほどにまで上昇。少なくとも過去2,000年間で前例のないスピードで変化している

🧊 北極海の海氷面積(年平均)は、少なくとも1850年以降、最も低い値を示している。夏下旬時点での海氷量も、過去1,000年で最も少ない

🌊 世界の平均海面(GMSL)は上昇している。GMSLの20世紀以降の上昇率は、少なくとも過去3,000年間のどの世紀よりも大きい。1901年以降、GMSLは約0.20メートル上昇しており、その上昇率は加速している

CH 3: Human influence

#3 人間の影響

第3章では、IPCC史上最も強力な声明が発表されています。曰く、「人間の影響が産業革命以前から気候システムを温暖化させていることは『疑う余地がないunequivocal)』」(前回のIPCC報告書では人間の影響は「明白clear)」とされていた)。産業革命以降に観測された地球の気温上昇は1.1℃とされていますが、その原因のほぼすべて(自然の力もごくわずかな役割を果たしている)や、海氷の減少、気温の上昇、海洋の酸性化などの原因は人間にあるとしています。

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🌍 世界で観測されている極端な気温の変化は、その主な要因を人為的な温室効果ガスに求められる

🌡️ 2010〜2019年の世界平均地表面気温(GSAT)を、1850〜1900年と比較。温暖化の範囲は0.9℃〜1.2℃とされるが、そのうち0.8℃〜1.3℃は人間活動に起因するもの。自然の力による変化は-0.1℃〜0.1℃

😬少なくとも1970年以降に観測された世界平均海面上昇の主な要因は人間の影響である可能性が非常に高い

CH 4: Future global climate

#4 シナリオベースの予測

第4章では、本報告書の最も重要な2つの結論が示されています。気候変動はこれまでの理解よりも急速に起こっていること。そして、気温上昇がパリ協定の目標である1.5℃以内に収まる可能性は極めて低いということです。前回2013年のIPCC報告書では「2040年代に気温が1.5℃を超える可能性がある」と予測されていました。一方、今回の報告書ではそれが10年前倒しされ「2030年代初頭」となっています。

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🌡️ 2030年までに、各年の世界平均地表気温が1850〜1900年と比較して1.5℃を超える可能性がある

🌊 21世紀を通じて世界の平均海面が上昇し続けることは、ほぼ確実

💨 たとえ大気中から十分な量の炭素が除去され、世界の排出量がネットマイナスになったとしても、少なくとも数世紀にわたり、海面上昇などの気候変動の影響は元に戻らない。

CH 5: Global carbon

#5 炭素濃度

第5章では、1750年以降に大気中のCO2およびメタン濃度がどの程度増加したかを定量的に示し(それぞれ47%と156%)、海洋をはじめとするエコシステムがそれらを吸収する能力を取り上げています。もっとも排出量が多い場合のシナリオにおいては、山火事による森林の消失が深刻化し、陸地の生態系は純排出源となるとされています(そしてこれは、アマゾンですでにある程度起きていることです)

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🌲 2010〜2019年の10年間で、人間の活動によって排出されたCO2の46%は大気中に蓄積され、23%は海洋に取り込まれ、31%は植生によって蓄えられた

📉 陸と海に取り込まれた排出量の割合は、CO2濃度の上昇とともに減少すると予想される

📉 地球の温度は、CO2の累積排出量とほぼ比例する。つまり、地球温暖化を止めるためには、ネット排出量をゼロにする必要がある

CH 6: Short-lived climate forcers

#6 短寿命物質

第6章では、メタン、粒子状物質、エアロゾル、ハイドロフルオロカーボンといったCO2以外のガスについて説明されています。これらは大気中に長く留まることはないものの、留まっている間、気候に大きな影響を与えています(場合によって冷却効果もありますが、これらの物質は総じて温暖化に寄与しています)。これらのガスは短寿命であればこそ、地域規模の気候影響に多大な影響を与えます。また、その背景には、さまざまな社会経済的経路が横たわっています。

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⛽ 短寿命気候汚染でもっとも影響が大きいのは、化石燃料生産や流通、農業、廃棄物処理などといったメタン排出量が多いセクター

🧊 今後20年間は、CO2などの長寿命の温室効果ガスによる温暖化に加え、短寿命気候変動要因からの排出が温暖化を引き起こす可能性が非常に高い

🌏 急速な脱炭素化は大気の改善につながるが、それだけでは不十分。特にアジアの一部やその他の汚染度の高い地域において、短寿命気候汚染が顧みられるべき

CH 7: The Earth’s energy budget

#7 地球のエネルギー収支

第7章で言及されている「気候感度」(climate sensitivity)とは、大気中の温室効果ガス濃度が変化したときに、地表気温がどれだけ変化するかを示す指標です。本章では、大気中のCO2が2倍になると、気温は約3℃上昇すると結論づけています。地球が太陽から得るエネルギーと放出するエネルギーの量を計算した「地球のエネルギー収支」(energy balance)などの指標を総合すると、温暖化に対して人間がどれだけ寄与しているかが見えてきます。

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🐻‍❄️ 北極は南極よりも早く温暖化する。これは北極と南極の間の放射フィードバックと海洋の熱吸収の違いによるもの

🌊 どれだけ強力に排出削減が進められたとしても、少なくとも21世紀末までは、地球にはエネルギーが蓄積され続ける

☁️ 地球温暖化に伴う「雲」の変化は、人為的な温暖化を増幅させる効果がある。前回のIPCC報告書と比較して、雲の役割への理解が大きく進み、そのフィードバックサイクルの信頼度が高まった

CH 8: Water cycle changes

#8 水循環の変化

この章では、温暖化した世界で水がどうなるかについて説明されています。干ばつはより頻繁に起こり、より深刻になると予想されています。一方で、温暖化した大気はより多くの水を運ぶため、雨の多い地域ではより雨が多くなります。また、大気が渇くことで、乾燥した地域はより乾燥。最も乾燥した月と最も雨の多い月の降水量の差が大きくなる可能性もあります。

暴風雨は、いまだ不確実性が高い分野です。それは他の気候モデルよりも小さいスケールで発生するためで、モンスーンのパターンに関する地域ごとの具体的な予測は、依然として困難です。

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🌎 蒸発散(地表から大気中への水の移動)が増加し、地中海沿岸、北アメリカ南西部、アフリカ南部、南アメリカ南西部、オーストラリア南西部の土壌水分が減少する

🌧️ 夏のモンスーンの降水量は南・東南・東アジアで増加する一方、北米のモンスーンの降水量は減少すると予測される。西アフリカのモンスーン降水量は、中央サヘルでは増加し、最西部サヘルでは減少する

🌲 大規模な森林伐採により、森林伐採地域での蒸発散や降水量が減少した。都市化によって、局所的な降水量や流出量が増加している

CH 9: sea level change

#9 海面の変化

温室効果ガスによって閉じ込められた熱のほとんどは、最終的に海に吸収されます。温められた水は膨張し、海面を上昇させます。また、氷河、極地の海氷、グリーンランドの氷床、地球上の永久凍土などが急速に融解しています。1900年以降、海面全体は約20cm上昇しており、海面上昇のスピードは増しています。

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📈 20世紀、世界の平均海面は過去3,000年間どの世紀よりも速く上昇している

🌡️ 世界の海洋の熱量は、少なくとも1970年から増加。21世紀も増加し続けると予想される

🧊 すべてのシナリオにおいて、北極海は2050年より以前に、季節的な海氷の最小期間に実質的に海氷がない状態になる可能性が高いと考えられる

CH 10: Linking global to regional

#10 地球と地域

気候モデルによって地域ごとの気候変動を予測できますが、データが限られていたとしても、統計的手法を用いて予測は可能です。都市部はより早く温暖化するでしょうし、特に熱波の際にさらに顕著になるでしょう。

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⛰️ 海風や山風のような現象については、ほとんどの気候モデルによる分析の解像度はいまだ低い

🌆 都市およびその周辺で観測された温暖化傾向は、都市化に起因する部分もある。これから一層都市化が進むなか、さらなる気温の変化が予測される

😕 地球規模の気候モデルをダウンスケールし、地域/ローカルな予測をより正確に表現する統計的手法が向上

CH 11: extreme events

#11 急激な変化

人間の活動は、高温や異常気象、特に雨や干ばつ、熱帯低気圧などをより深刻かつより頻繁にしています。1.5℃の温暖化でもより深刻になりますが、2℃の温暖化では現在の状況に比べて少なくとも2倍、3℃の温暖化では4倍になると予想されています。温暖化が加速すると、歴史的に前例のない気候現象が発生する可能性があります。

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🌡️ 産業革命以前から、人為的な温室効果ガスの排出により、いくつかの気象・気候の極端な現象、特に気温の極端な現象の頻度や強度が増加している

🌎 地球温暖化が比較的少なくとも、極端現象に統計的に有意な変化をもたらす

🌪️ 観測された記録上、前例のない極端な変化が起きている

CH12: for risk assessment

#12 リスク評価のために

今世紀半ばまでには、北半球では雨が増え、一部の地域(地中海や南アフリカ)では雨が減り、またすべての海岸で海面が上昇するなど、さらなる変化が予想されます。全体として、平均気温と極端な気温が陸と海で上昇することの確信度は高く、大きな被害が広範囲に及ぶことが予想されます。一方で、一部の地域では恩恵を受ける可能性もあります。

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🌏 今世紀半ばまでに、世界のすべての地域で、複数の気候影響要因が同時に変化する

🌱 気候変動は、既に社会的・環境的に大きな影響をもたらしており、将来的には社会経済的に大きな損害を誘発する。場合によっては、気候変動が適応戦略において考慮できる有益な条件をもたらすこともある

🌨️ 気候変動の影響は、気候そのものの物理的な変化だけでなく、人間がその影響や脆弱性を抑えるための措置をとるかどうかにも左右される

(翻訳・編集:年吉聡太)


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