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Company:気候リスクに「再保険」は勝てるか

「保険会社の保険」ともいわれる「再保険」は、世界経済における気候変動コストの最後の砦。業界2位にあるスイス再保険(スイス・リー)がいま、何に取り組もうとしているか。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

今朝配信予定の「Daily Brief」は、北米地域でのAmazon Web Service(AWS)の障害のため遅れての配信となりました。ご不便をおかけして、申し訳ありません。同ニュースレターの内容は、Qz.comでもご確認いただけます(要ログイン)。

自然災害が起きたとき、保険に入っていれば保険会社が被害を保障してくれます。ただ、気候変動のために災害の規模が大きくなり、被害額も急激に増加する現在、保険会社そのものが救済を受けなければならなくなる場合も出てきました。

再保険は、世界経済における気候変動コストの最後の砦。そして、スイス再保険Swiss Re、スイス・リー)は保険料収入で再保険業界2位(首位はミュンヘン再保険〈Munich Re〉)の企業で、2020年の自然災害関連の保険金の支払額は前年の20億ドル(2,256億円)からは減少したものの、総額で17億ドル(1,918億円)に達しています。また、昨年は新型コロナウイルスのパンデミックのために、ほぼ10年ぶりとなる通期赤字を計上しました。

S&Pグローバル・レーティング(S&P Global Ratings)は昨年、パンデミックおよび気候変動リスクを理由に、スイス再保険の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。現在、世界の再保険大手10社のうちで見通しがネガティブとなっているのは、スイス再保険を含めて2社だけです。

しかし、スイス再保険はこの危機にもチャンスはあると考えています。災害関連の保険需要が拡大するなか、昨年には保険料を見直して収益拡大を図る戦略の一環として、ポートフォリオで自然災害関連の資産を7%増やしました。

同社で災害危機関連の責任者を務めるマルティン・ベルトグ(Martin Bertogg)は4月、再保険業界は前例のないような大災害を予測するのに過去の事例を参考にしようとしている警告しました。スイス再保険では現在、数十人がこの課題の解決に取り組んでいます。

ベルトグは「ポートフォリオで自然災害リスクを減らすことを目指しているわけではありません」と言います。「ここ10年では、災害関連は弊社にとって非常に収益性の高いセグメントでした。このプーリングにおいては、想定されるリスクに対して十分な保険料を設定している限り、リスクレベルの上昇はわたしたちにとってビジネスチャンスになり得ます」

ただ、現時点ではそうではありません。再保険率は世界的に上昇傾向にありますが、S&Pが9月に明らかにした分析によれば、再保険会社は気候変動リスクを33〜55%も過小評価している可能性が高いようです。こうした状況では、特に深刻な災害が起きた場合、保険金の支払いのために再保険業界の資本がすべて消滅する恐れもあります。スイス再保険を含む業界各社は、生き残っていくことができるのでしょうか。

IT’S YOUR LOSS

災害の“お値段”

自然災害による被害は世界的に拡大の一途をたどっており、しかもその多くは無保険の状態です。

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 8億7,800万ドル990億円):スイス再保険の2020年の純損失。5年前の2015年には過去最高益となる46億ドル(5,189億円)の純利益を確保していた
  • 90%:2017年通期の減益率。この年には大西洋で巨大ハリケーンが頻発し、収益の足を引っ張った
  • 66%:世界の自然災害による被害のうち保険がかけられていないものの割合
  • 1,550億ドル17兆4,848億円):自然災害に絡む不動産の損害保険事業を拡大することで見込める保険料収入の伸び
  • 5,600カ所:スイス再保険が再保険を請け負う風力および太陽光発電設備の数
  • 40人:社内で自然災害関連のリスクアセスメントに取り組む専門家の数

HOW TO CLIMATE-PROOF REINSURANCE

再保険の再定義

スイス再保険のような企業にとって、ビジネスとはすなわちリスク予測を意味します。しかし、再保険会社の多くはいまだに、過去を基準に未来を測っているのです。では、どうすべきなのでしょうか?

もっと未来志向に。再保険業界は過去の気象条件や気候に基づいてリスク評価を行なっていますが、スイス再保険のベルトグは4月のブログポストで、こうしたやり方は「現在のリスクのぼやけた見取り図を作成している」に過ぎないと書いています。目の前に横たわる気候変動リスクは過去からの蓄積だけではなく、新しいものだと認識する必要があるでしょう。

🏗️ リスクの軽減に投資。気候変動対策(例えば、防波堤の建設や建物の修復など)に投資することで、顧客が自然災害によって被害を受ける可能性を減らすことができます。そして、これが自らのエクスポージャーの管理にもつながるのです(同時に投資から利益を上げることも可能です)。ロンドン大学シティ校教授で戦略的経営を教えるポーラ・ジャルザブコウスキー(Paula Jarzabkowski)は、「リスクを増やすことはビジネスチャンスには結びつきません」と指摘します。「ただし、管理されたリスクを増やせばチャンスになるのです」

📝 データ開示を要求。再保険会社は顧客にリスク関連のデータを積極的に提示するよう求めるべきです。また、自社のポートフォリオでも同様の透明性を確保するようにしましょう。

💰 適切な保険料を設定し、必要なら契約解除を。自然災害が発生した場合に備えて十分な資本を確保しておくために、保険料率は気候変動リスクをしっかりと組み入れて算出する必要があります。リスクの高い案件であれば、保険の引受を断念するか、政府に支援を求めることも検討すべきす。

A BRIEF HISTORY

これまでとこれから

1863年:チューリッヒ(Zurich)にあったアパートの1室で設立。1861年5月にグラールス(Glarus)で起きた大火災を受け、災害の被害に備えるためにスイスの複数の大手行が出資して立ち上げられた

1906年:サンフランシスコ地震の保険金支払いのために資本の44%を失う。この結果、業界他社と協力して、再保険の保険責任に関する初の世界的なガイドラインを策定

1938年:再保険で世界最大手に。総保険料収入は現在の価値に換算して9億2,900万ドル(1,048億円)に上った

1940年代:それまでは欧州と米国を中心に事業展開してきたが、この時代にアジアとオーストラリア市場に進出

1979年:初めて持続可能性に関するリポートを公表

1995年:社内に気候および環境問題を扱う委員会を創設

2003年:自社事業からの炭素排出量を削減するほか、カーボンオフセットを利用して2013年にネットゼロ企業となることを目指す方針を打ち出す

2007年:気候変動の影響を組み込むために初めて自然災害リスクモデルを変更

2018年:石炭の採掘や石炭火力発電からの収入が一定割合を超える企業に対する再保険の引受を停止すると発表

2020年:事業に必要な電力をすべて再生可能エネルギーに切り替え

2023年:炭素集約度の高い石油・ガス企業に対する再保険の提供を終了する予定

2050年:ポートフォリオ全体で排出量ゼロの達成を目指す

“DO OUR BEST, REMOVE THE REST”

「オルカ」の価値

「最善を尽くして、炭素排出の残りを取り除く」──スイス再保険で環境管理を担当するミーシャ・レプマン(Mischa Repmann)は、これが温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標の達成に向けた自社のモットーだと述べています。

スイス再保険は9月、スイスのスタートアップであるクライムワークスClimeworks)から1,000万ドル(11億2,800万円)相当の炭素クレジットを購入する内容の契約を結びました。クライムワークスはアイスランドに世界最大規模の二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)設備「オルカOrca)」を建設しており、スイス再保険との取引によってこの設備を稼働させるために必要だった資金の一部を確保しています。

The Climeworks Orca CO2 capture plant in Iceland.
Image copyright: Courtesy Climeworks
The world’s largest direct CO2 capture plant, called Orca, opened in Iceland and will pull about 870 cars-worth of emissions from the atmosphere every year.

オルカは大気中のCO2を直接回収しますが、年間の処理能力は現時点では自動車870台分に過ぎず、世界全体の排出量を考えればまったく取るに足らない量です。ただ、航空業界など低炭素化が難しい分野からの排出を相殺するためには、近い将来にこうした技術をはるかに大きな規模で展開していくことが必要になるという点で、専門家の意見は一致しています。

オルカによる炭素クレジットはトン当たり数百ドルと(スイス再保険はクレジットの購入金額を明らかにしていません)、オフセット市場で最高水準ですが、緑化事業や排出量の削減効果が疑わしいプロジェクトが提供する安価なクレジットと比べれば、実効性は確実で容易に検証できます。

スイス再保険は今回の契約を、2050年までに排出量実質ゼロを達成するために必要なテクノロジーへの戦略的な早期投資とみなしています。レプマンは「排出量削減のための技術を支援するのは、スイス再保険にとってはお金がかかります」と述べます。「しかし、世界が最終的にネットゼロを実現する上でのコストを減らすことができるのです」

ONE ⌛ THING

知っておきたいこと

スイス再保険はこれまで130年以上にわたり、世界で起きたさまざまな事件に間接的に関わってきました。例えば、1893年に開催されたシカゴ万博では旅行者に保険を提供しました。1912年のタイタニック号の沈没事故では保険の一部を請け負っていたほか、1929年の世界恐慌でも損失を被っています。

1965年に米国南東部を襲ったハリケーン・ベッツィ(写真)では保険業界が支払った保険金は総額で7億ドル(790億円)に達し、スイス再保険もこの一部を負担しました。一方、1984年にはミュンヘンで夏に雹(ひょう)を伴う嵐が起きるという異常気象がありましたが、ここでもなんとか保険金の支払いを済ませています。

Image copyright: ハリケーン・ベッツィによる洪水のなかで救出された2匹の犬 (Photo by Lynn Pelham/Getty Images)

今日の「The Company」ニュースレターは、気候レポーターのTim McDonnellがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。

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