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Startup:25億人をデジタル化する「神アプリ」

今週取り上げるのは、テクノロジーで世界のクリスチャンをつなぐ「Glorify」。土曜昼にお届けするこの連載では、定期的にひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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次のスタートアップ

[qz-japan-author usernames=”masaya kubota”]

Quartz読者のみなさん、こんにちは。土曜昼にお届けするこの連載では、定期的にひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、テクノロジーで世界のクリスチャンをつなぐ「Glorify」を取り上げます。

Image copyright: PHOTO VIA GLORIFY
・創業:2020年
・創業者:Ed Beccle, Henry Costa
・調達総額:4,460万ドル(約51億円)
・事業内容:キリスト教徒向け礼拝アプリ

A god-tier app

まさに「神アプリ」

聖書が語る「主が共におられる人生」。時を経て、イエス・キリスト最後のことばはある意味でリアルなものになりつつあります。

「Glorify」は、簡単に言うと「聖書アプリ」ですが、機能は想像を超えます。聖書が単に電子化されたものでなく、神との日々のつながりを強化したいクリスチャン向けのコミュニティ主導型の体験が設計されています。

プロダクトのコンセプトである「信仰を身近に」を叶えるべく、信仰にまつわるアクションをサポートする機能が満載です。毎日のルーティンを管理し、信仰を伴走してくれるカレンダー機能があり、聖書の引用による今日のひとことが毎日配信されます。礼拝は聖書の抜粋箇所が提示され、自分で読むなり、プロの朗読をじっと聞くことも可能です。通勤電車でもミーティングの合間でも、スマホさえあれば、気軽に信仰と繋がることができるのです。

クリスチャンの誰しも、聖書を持ってはいても、毎日のようにページを繰って祈りを捧げるというのはハードルが高いもの。そこをアプリのサポートで、すべてのクリスチャンが自分の言葉で毎日を振り返り、神の救いを身近に感じることができる環境をつくり上げました。利用料は定額制のサブスクですが、無料でもある程度は使えます。

アプリの機能のひとつ、聖書内の該当箇所を検索する機能は絶妙に便利で、「anxiety(不安)」や「doubt(疑い)」といったキーワードで検索できます。なんでもググる習慣に馴染んだ現代人にとって、相性のよいツールといえるでしょう。感じたことをメモするジャーナル機能もついていて、実物の聖書に付箋を貼ったり書き込む感覚をそのままに操作できます。

コミュニティ要素も充実しています。礼拝機能では、表示されたアイコンで誰が参加しているかがわかる仕様になっていて、実際に教会に集まった気持ちにさせてくれます。個人が特別な礼拝を設定して参加者を募ることもでき、例えば「Pray for Afghanistan──アフガニスタンのために祈ろう」など、世界中のユーザーを巻き込んでオンライン礼拝を実施できるのです。

Image copyright: PHOTO VIA GLORIFY

礼拝を目的に流入し、コミュニティによって滞留する──Glorifyは、“Come for the tool, stay for the network”(ユーザーはツールのために使い始めて、ネットワークのためにとどまる)という、コンシューマアプリの成功法則を地で行く存在です。

聖書を読むだけの無味乾燥な礼拝を、テキストに音楽、視覚、コミュニティなどの要素を加えて、深く心地よい体験にアップデートさせたGlorify。サービス開始から1年足らずでDL数は250万を超え、AppStoreでは星5つという恐ろしいレベルの高評価が目を引きます。

Most Powerful Community

最強のコミュニティ

Glorifyが面白いと思える理由は、以下の3つです。

まず、キリスト教という世界最大コミュニティに目をつけた点です。キリスト教は2,000年以上の歴史をもつ、世界三大宗教のひとつです。信者は世界人口の3割の25億人を超えていまも増え続け、2050年には30億人に達すると予測されています。言語も人種も文化も超えて成立する、言わずもがな世界最大最強最古のコミュニティです。

宗教における教祖(リーダー)教典(コンテンツ)教会(プレイス)の3要素は、コミュニティ運営の基本とも言えます。社長を前に社員が全員で社訓を唱和することと、イエス像を前に教会で聖書を朗読することに共通点を見出し、キリスト教を組織づくりの手本にする企業もあるほどです。

パンデミックで日曜礼拝やミサも中止になり、物理的な接触を絶たれたキリスト教信者に、Glorifyは直感的でソーシャルなスマホ上での繋がりを提供しました。デジタル空間なら、いままで会ったことのない人とも、キリスト教という共通言語によって空間を超えて繋がることができます。デジタルに取り残された世界最大コミュニティのDXこそが、Glorifyの狙いです。

次に、マインドフルネスの要素を兼ね備えている点です。米国は言わずと知れた「うつ大国」で、18歳以上で何らかメンタルを病んだことがある人は4,000万人もいるとされています。なかでも若い世代に多く、Z世代には10人中7人にうつの兆候が見られ、若者の自殺率は上昇を続けています。パンデミックによる孤独と、友達のリア充に嫉妬するソーシャル疲れがその大きな要因です。

Glorifyのアプリを手に取ると、その体験は瞑想アプリ並に洗練された音と映像で、聴覚・視覚の両方で癒やされます。心の悩みを抱えた人も、信仰が近くにあればいつでも神に救いを求めることができます。うつでなくても、人生の目的や本当の幸せについてふと迷ったとき、拠り所があれば心の支えになります。瞑想アプリ市場は年率50%近い急成長市場ですが、Glorifyは信仰をフックにマインドフルネスのニーズにも滲み出せる革新的サービスと言えます。

最後に、宗教であるが故に、アプリの利用が習慣化しやすい点です。毎日のお祈りや毎週のミサはもちろん、キリスト教には様々な記念日があり、典礼や儀式が用意されています。故にGlorifyで管理するKPIはユーザーの「礼拝セッション数」です。

毎日のルーティンは解約防止に貢献し、イベント(祭事)は新規ユーザーの流入や解約ユーザーの復活のきっかけになります。祭事という「信者が集まる理由」が定期的に発生するため、コミュニティの形成が加速する点が強みです。

To a huge SNS

25億人のSNSへ

2020年にロンドンで設立されたGlorify。とても若い会社ですが、創業者兼CEOのエド・ベックル(Ed Beccle)は22歳ながら、今年10月、以前に立ち上げた1社を売却した連続起業家です。起業に専念するために16歳で高校を中退した、生粋の若き起業家です。

共同創業者のヘンリー・コスタ(Henry Costa)はキリスト教の指導者的存在の父親のもとで育った、自身も信仰深いクリスチャンでした。もっと祈りを捧げたいと願う多くの信者が、時間に追われたり手元に便利なツールがないために困っていると知り、Glorifyの着想を得ます。

Image copyright: 左から、ヘンリー・コスタとエド・ベックル PHOTO VIA GLORIFY

今月初めには約4,000万ドル(約44億円)という巨額の資金調達を実施。リード投資家はAndreessen Horowitz(a16z)で、担当パートナーはコンシューマ分野の投資で著名なコニー・チャン(Connie Chan、なお、同氏が投資を率いた「Run The World」については過去記事から)。 他にもハリウッドセレブたちがエンジェル投資家に名を連ね、イギリス国教会の最高指導者カンタベリー大主教もGlorifyの支援者のひとりです。

Glorifyが届ける価値、それは「神へのアクセス」です。テクノロジーを用いて信仰を気軽で豊かな体験にすることで、人びとの心に平穏と安らぎをもたらします。やがてキリスト教徒25億人をつなぐソーシャル・ネットワークが出現する日も遠くはありません。ソフトウェアは宗教をもアップデートして、そのあり方の再定義を迫りつつあります。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas

Column: What to watch for

ゲイツの推薦図書

Image copyright: GATES NOTE
大富豪ビル・ゲイツさえ「最も厳しい1年」だったと振り返る2021年。27年連れ添った妻との離婚、パンデミックの孤独、長女の結婚……荒波に揉まれたゲイツが贈る、新年への希望を込めた読書リストを紹介します。
A Thousand Brains: A New Theory of Intelligence
著者:ジェフ・ホーキンス(Jeff Hawkins)
この作品の著者はPalmPilotの共同開発者で、ゲイツが「モバイルコンピューティングの先駆者の一人」と評した人物。ゲイツは、作中の「医療向上など複雑で多面的な課題に取り組む際に役立つ」と主張するテーマに対して、「専門家でなくても理解できる」斬新なプローチが取られたことを評価している。
The Code Breaker: Jennifer Doudna, Gene Editing, and the Future of the Human Race
著者:ウォルター・アイザックソン(Walter Isaacson)
革新的な遺伝子編集技術CRISPRを開発しノーベル賞を受賞した科学者ジェニファー・ダウドナの肖像の枠に収まらない、「より幅広い」内容が記されれた作品。「CRISPR革命から生じる最も重要な倫理的問題」について深く考えさせられる。
クララとお日さま(Klara and the Sun)
著者:カズオ・イシグロ
ノーベル賞を受賞して初の長編小説。病気の少女を中心にロボットと人間の境界線を巡る問題提起がされていく。ゲイツは「この本のどの部分が我々の未来を描いているのか考えずにはいられなかった」と語る。
ハムネット(Hamnet)
著者:マギー・オファーレル(Maggie O’Farrell)
11歳で逝去したウィリアム・シェイクスピアの息子ハムネットの死が、彼の代表作である『ハムレット』に如何に影響を与えたか。「シェイクスピアが悲しみと罪悪感をどのように書き表したかについて感動的な説明がされている」とゲイツ。
Project Hail Mary
著者:アンディ・ウィアー(Andy Weir)
ゲイツの好きなSF作品。太陽を食べる微生物から太陽系を救うため、人間に友好的なエイリアンとタッグを組む高校教師の物語。ゲイツ曰く「楽しく気晴らしをしたい人」におすすめ。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)

🚀 次回の「Next Startup」は、12月25日(土)配信予定です。

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