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Guides:#84 マインクラフトの新経済──若林恵

「NFTに興味があるって? Minecraftユーザーはすでにやり方を編み出している」──米著述家の指摘から始まる、今週の「だえん問答」。米国版Quartzが取り上げている「世界の論点」を1つピックアップし、編集者・若林恵さんが「架空対談」形式で解題する週末ニュースレター。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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A Guide to Guides

週刊だえん問答

世界がいま何に注目しどう論じているのか、米国版Quartzが取り上げている「世界の論点」を1つピックアップし、編集者・若林恵さんが「架空対談」形式で解題する週末ニュースレター。メーラーによっては全文が表示されない可能性がありますが、その際はブラウザ版で「全体を表示」してお読みください。毎週更新している本連載のためのプレイリスト(Apple Music)もご一緒にどうぞ。

It’s Minecraft

マインクラフトの新経済

Image copyright: Lego

──お疲れさまです。2021年のこの連載も、残すところあと2回になりました。

ほんとですね。

──お正月はお休みしますか?

どうしましょうね。何かよほどお話ししたいことが出てくるようでしたら、もしかしたらやるかもしれませんが、29日から、Disney+で『マンダロリアン』のスピンオフとなる『ボバ・フェット』がスタートしますし、クリスマスの24日には、ジェニファー・ローレンスの久々の主演映画『ドント・ルック・アップ』、Kドラマ『静かなる海』が配信開始しますので、時間がないかもしれません。キム・ダミ主演の『その年、私たちは』も、並行して観ないとですし。

──それ、ラブコメじゃないですか。

ラブコメは、実際、どう観ていいのかよくわからないので、なかなかモチベーションも上がらないのですが、主演がキム・ダミなので、仕方ありません。

──なんですか、それ。最近は何を観てたんですか?

つい先週、『調査官ク・ギョンイ』というのを観終えて、いまは毎週『ホークアイ』を楽しく観ています。

──面白いですか?

そうですね。『調査官ク・ギョンイ』はわりと実験的な演出を導入していた野心的なドラマでして、音楽を担当したのが、TRPPという韓国のインディロックバンドだったのも新鮮だったのではないかと思います。連続殺人鬼も、それを負う調査官も、一連の事件を操る政界の黒幕も、全員女性という設定もユニークでしたし、イ・ヨンエ、キム・ヘジュン、キム・へスク、クァク・ソニョンの4人の女優さんの熱演は見応えありました。特に、殺人鬼を演じたキム・ヘジュンは最後まで、目を奪われました。

──えーと。たしか、ゾンビドラマの傑作『キングダム』で、若くて邪悪な姫を演じた方ですよね。

そうですそうです。今回も、狡猾かつ邪悪な役なのですが、途中からなぜか応援したくなってきてしまうという。

──面白そうじゃないですか。

本国韓国での視聴率は、散々だったみたいです。

──日本でも話題になっている感じはしません。

ソーシャルメディアを見ると、ごく一部は盛り上がっていたみたいですが。

──『ホークアイ』はいかがですか?

こちらはもう、わたしが敬愛してやまないフローレンス・ピュー演じる、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフの妹、エレーナ・ベロワが登場してから、俄然テンションあがっています。映画『ブラック・ウィドウ』は、この連載でも過去に取り上げたことありますが、映画としての出来はおいたとして、フローレンス・ピューの演じたエレーナのキャラクターが個人的には好きすぎて、彼女の勇姿を再び見られるだけで嬉しいです。

──フローレンス・ピューは、土着宗教ホラー『ミッドサマー』で一気に評価をあげましたね。

『ミッドサマー』は、観たいのはやまやまではありながら、怖そうなので、いまのところまだ避けているのですが、個人的にフローレンス・ピューで好きなのは、アメリカ最大のプロレス団体・WWEの女子部門に革命を起こしたペイジことサラヤ・ジェイド・ペヴィスの半生を描いた『ファイティング・ファミリー』というヤツでして、お正月とかに観るにはふさわしいヒューマン・ドラマです。

──ふーん。

傑作とか名作というわけではないので、絶対的におすすめするほどではないのですが、よほどヒマですることがなければ、ぜひ。あとは、14世紀にイングランドからスコットランドの独立を勝ち取った、ロバート1世の独立までの戦いを描いた『アウトロー・キング』のフローレンス・ピューもよかったです。彼女はここで王妃役を演じるのですが、出番は少ないのですが、登場した瞬間から「この人は信頼できる人だな」と共感してしまうオーラを発していて、これはフローレンス・ピュー本人の魅力がなせる業なのだろうと思います。

──わりと女優縛りで観るんですね。

それはかなりありますね。いまは、フローレンス・ピューとキム・ダミとクリステン・スチュワートのものは観ておきたいという気分です。

──何にせよ、観るものが多くて忙しい、と。

はい。ドラマや映画を観たり、音楽を聴いているだけで、それがそのまま収入になるような仕事はないものか、と日々思ったりしています。

──小学生並みのひどい妄想ですね、それ。

そう言われるとたしかにそうなのですが、どうも、それを妄想と呼んでもいられないな、と思ってきたりするところもあります。

──お。開き直った。

それこそYouTubeが出たての頃、「好きなことで生きていく」みたいなキャッチフレーズが盛んに謳われたり、あるいは、わたしの嫌いなAI推進派のような人たちが「人間はいずれ労働というものから解放され、遊びにも似た創造的作業にだけ没頭していればよくなるのだ」といったことを言ったりしていまして、こうした言説はもうほんとにイヤだな、と思っていたんです。

──ロボットやAIの推進者は必ず、その手のことを言いますよね。

カレル・チャペックが『R.U.R.』という戯曲のなかで「ロボット」ということばを世に放った100年前から、こうした言説は、まったく同じように繰り返されてきたにも関わらず、世の働き手の労働時間は決して減ることはなく、技術の発展に伴う効率化が進展すればするほどクソどうでもいい仕事も増えて、世の仕事が「ブルシット・ジョブ」化したのは、まさに文化人類学者のデイヴィッド・グレーバーが指摘したことでして、その線でいけば、効率化が進んだからといって、人間が遊んで暮らせるといったことには、おそらくはならないとも思えるのですが、とはいえ、テクノロジーの進展は、面白い状況を生み出すものではありまして、つい最近知ったことですが、Minecraft(マインクラフト)というゲーム内で、すでに都市や建物のデザインをする仕事が生まれていたりするんですね。

──先週、Minecraftのお話をすると言っていたのが、突然、ここでつながる、と。

『PCGamer』というメディアに2020年5月に掲載された記事「Minecraft建設会社を設立した19歳のCEO」(Meet the 19-year-old CEO who started a professional Minecraft building company)は、彼の興したVarunaという名の驚くべき企業を、こう紹介しています。

Minecraftビルダーのプロが存在するというのは驚くべきことだ。建築家やデザイナーからなるチームは、デジタルブロックの束から複雑な世界を作り上げ報酬を得る。Varunaはそうした組織のひとつで、34人のメンバーから成る企業だ。彼らはクライアントのために壮大な作品をつくり上げることで報酬を得ている。
Varunaは、海底王国や壮麗な城壁都市、未来都市など、リアルな世界を模したものから空想的なものまで、数多くの世界を制作してきた。その作品は壮大で、情熱溢れるクリエイター集団がMinecraftのツールセットでできることの可能性を明らかにする。Varunaの19歳のCEO兼創業者であるトマス・スリコフスキは、創業の経緯や、その素晴らしい世界をつくりあげる過程などを聞いた。
スリコフスキが初めてMinecraftのコミュニティを知ったのは高校生のときで、他のティーンエイジャーと同様、最初はただの遊びだった。「Minecraftを教えてくれたのは、高校の友人たちです」とサリコウフスキは語る。「毎日授業が終わると数時間遊んでいました。そして高2のときにサバイバルゲームから離れ、Minecraftのクリエイティブな部分にのめりこんでいったのです」。
彼は、オンラインMinecraftフォーラムに自分がつくった建築物の写真を投稿すると、すぐに新しいビルドをつくってくれという依頼が他のプレイヤーたちから舞い込んだ。彼は、これを機にMinecraftをビジネスチャンスとして認識するようになった。「それから、すぐに調べてみると、Minecraftのなかに、そこでビジネスができる産業がすでにあることがわかったのです」

──なんと。いま、このVarunaのサイトを見ていますが、すごいですね。まるでブリューゲルじゃないですか。

つい先日、ある知り合いがこんなことを教えてくれました。その知り合いの高校生の息子さんが、大学で建築を学びたいというので、「建築はもはやそんなに将来性がない仕事なんじゃないか」と伝えたところ、「お父さん、リアル空間で建てるのだけが建築じゃないからね」と言われたそうで、おそらく、その息子さんは、Varunaのような企業を念頭にそう言ってたんですね。

──ひええ。すごい。

ちなみにVarunaのクライアントは、個人のみならず、企業やNPOなど、多岐にわたるそうですが、もはや知らぬ間にゲーム空間が、自生的な商業空間になっているというのは、改めて驚くべきことですよね。『WIRED』や『The New York Times Magazine』などにテックコラムを寄稿しているクライヴ・トンプソンは、「メタバースはすでにここにある。Minecraftだ」(The Metaverse Is Already Here — It’s Minecraft)という記事で、Minecraftをめぐってすでにひとつの産業エコシステムが構成されつつある状況を、こう解説しています。

少なからぬユーザーが、Minecraftとそれが生み出す文化圏において多額の金を稼いでいる。ある人は魅力的な世界を自分のサーバー内をつくりあげ、集うユーザーに課金している。才能あるMinecraftクリエイターになって、YouTubeやTwitch、Discordといったソーシャルメディア上で自分のスキルを教えるなどしてフォロワーを増やし莫大な利益を得る者もいる。
さらにMinecraftをベースに構築された さまざまなゲームのエリートプレイヤーになる者もいるが、これらのゲームはMojangが開発したものではなく、ゲームワールドの住人が開発したものであることを忘れてはならない。NFTに興味があるって? Minecraftユーザーはすでに、Minecraft内にそれを移植するやり方を編み出している。

──すごいですね。

あるいは、現状自分が読んだなかで最も優れたメタバース論、マシュー・ボールというVCが書いた論考「メタバース入門」(The Metaverse Primer)は、現状メタバースにおける主要プラットフォーマーとして最も近い位置にあるとされるプレイヤーたちのビジネスポテンシャルをこう解説しています。

新たな文化を牽引するソーシャル空間へと成長するにつれ、Fortnite、Minecraft、Roblox などの バーチャル・プラットフォームは、消費者マーケティング、ブランド構築、マルチメディア・フランチャイズ体験において必要不可欠な存在となってきた。
過去3年間で、Fortniteは、NFL、FIFA、ディズニーのMarvel、スターウォーズ、エイリアン、ワーナーブラザーズのDCコミック、さらにLegendaryのジョン・ウィック、マイクロソフトのHalo、ソニーのGod of WarとHorizon Zero Dawn、カプコンのストリートファイター、HasbroのG.I.ジョー、ナイキとマイケルジョーダン、トラヴィス・ スコットなどとのコラボ体験を生み出している。

──ゲームの世界について自分はまったく疎いのですが、こんなことになっているんですね。恐るべしです。

いわゆるメタバースの議論は、完全にゲーミングの世界を中心に回っているのが現状でして、先のクライヴ・トンプソンのMinecraft論には、こんなことすら書かれています。

ビッグテック成金や大物VCらが、彼らのメタバースでいつか起きるだろうと息巻いていることの多くは、Minecraftですでに起きている。テック界にはこのことを理解している者もいる。FacebookでOculusのコンサルティングをしているジョン・カーマックは、こう語る。
「Facebook がこれまでつくってきた、あるいは、ぶっちゃけ運よくこれからつくりあげることがで きるメタバースがあったとして、それに似ているものがあるとすれば、MinecraftとFortniteだろう」
人びとが本当に自分のものにすることができ、そこで毎月何時間も自発的に過ごすようなメタバースを つくりたければ、車輪を再発明する必要はない。Minecraftに学べばいい。

──マイクラとフォートナイト、ですか。

はい。最初の話に戻りますと、「好きなことで生きていく」や「人間はいずれ遊んで暮らす」は、こうして見ると、ある意味、実現しつつあるわけですね。

ただ、こうした状況をして本当に「遊びが暮らし」になっているのかというと、「遊びが仕事になった」だけともいえたりはしまして、こうやってどんどん「遊び」と「仕事」の境界が曖昧化していくことが、いいことなのか悪いことなのかは考えなくてはならないところではありますが、ただひとつ明確に言えるのは、「メタバース」の議論がいま強く熱を帯びているのは、そこが、現状明確に見えているフロンティアだからであって、それはとりも直さず、経済的なフロンティアでありうるからなんですね。

──そう言われると、なんだか微妙な気持ちにもなってきます。

はい。微妙なんですよね。ただ、これはまさに前回の最後の方でもお話したことですが、この新しい経済フロンティアにおいては、Web2.0で起きたようなプラットフォーム独裁をいかに回避しうるか、という点が非常に強調されていまして、であればこそ、前回のお題であった「クリプト」(暗号資産)や「ブロックチェーン」が、極めて重要な役割をはたすと考えられているわけです。

──そうでした。

であればこそ、その世界では、プラットフォーマーは、農奴制を支配原理とした中世の領主のようなものとしてではなく、プラットフォーム上で活動するスモールプレイヤーたちが、自分たちの資産をフェアトレードできるような、フェアでフラットなものとなるようにつくられるべきだと考えられています。VCのマシュー・ボールは、来るべきメタバース世界におけるバーチャル・プラットフォーマーのあるべき姿を、こう描写しています

バーチャルプラットフォームは、(比較的自由な)創造のための技術力(エンジン+スタジオ+ツール)、それを支えるサービス(プレファブやアセットマーケットプレイス、ボイスチャット、プレイヤーアカウント、決済サービス)、そして多面的な経済(プラットフォーム上のクリエイター/ディベロッパーにきちんと還元される商取引や、クリエイター/ディベロッパー間の取引)などを公正に運用しなくてはならない。
これに成功すれば、プラットフォーム内に好循環が生まれる。より良い技術やツー ルは、より良い体験をもたらし、より多くのユーザーを惹きつけ、ユーザーあたりの支出も増大する。つまり、より良い技術やツールを提供することでプラットフォームはより多くの収益をあげ、より良い体験をつくりだすクリエイター/開発者にもより多くの収益をもたらし、それがさらにより多くの優秀な開発者とユーザー等を惹きつけることができるようになる。

──プラットフォームとクリエイターの間に健全な循環が生まれる、要は「エコシステム」がつくられていかないとダメだ、というわけですね。

はい。これはまさに昨今「クリエイターズエコノミー」と呼ばれるものの核心的原理でもありますが、先のクライヴ・トンプソンが「車輪を再発明する必要はない。Minecraftに学べばいい」と語った真意は、つまり、プラットフォームと、そこで遊ぶ=働く、クリエイターたちが健全なエコシステムを形成しているような状況は、すでにMinecraftに見ることができる、ということなんです。

──なるほど。

ちなみにですが、話を先に進める前に、ここで改めて「プラットフォーム」というものが何を表しているかをもう一度確認しておきましょうか。よくわかってない人が多いと思いますので。これもマシュー・ボールさんの記事からの引用です。

ビル・ゲイツがチャマス・パリハピィティアに語ったところによれば、「プラットフォームとは、それを利用するすべての人の経済的価値が、それを作った企業の価値を上回ること」だという。Epic Gamesのティム・スウィーニーは、「人びとが時間を費やすコンテンツの大半が、他の参加者たちによってつくられるとき、それはプラットフォームとなる」と語る。

──ほほう。この定義に照らすと、ソーシャルメディアやUberやAirBnBはプラットフォームですが、アマゾンはだいぶ怪しいですね。

そうですね。アマゾンは、どちらかというと旧来の百貨店モデルに近いものですし、それはSpotifyやApple Musicも同様ですね。あるいはK-POPの配信プラットフォームのV Liveは、いい具合にそれがハイブリッドされたモデルと理解することができるのかもしれません。

──なるほど。

で、こうしたことを踏まえた上で、なぜ、Minecraftがプラットフォームとしてある意味理想的なものであると言えるのか、を、クライヴ・トンプソンは、7つの観点から説明しています。列記すると以下となります。

  1. 分散化されている=所有者がいない
  1. めちゃくちゃ没入できる:なのにローテク
  1. ユーザーがクリエイティブでなくてはならない
  1. オープンでハッカブル
  1. グリッチが多い
  1. そこに行くべき理由がある
  1. 莫大な経済活動を生み出している

──なるほど。

上から順にトンプソンさんの解説を引いていきますと、こうなります。まず〈1〉です。

1. 分散化されている=所有者がいない
誰でも自分のMinecraft世界をつくることができる。ラップトップでマルチプレイヤーの世界をつくり、 ローカルWi-Fiで誰でも参加できるよう招待することもできれば、月に数ドル払ってサーバーを借りて遠く離れた友人と楽しむこともできる。そのサーバーをプライベートなものにすることもできるし、 オープンにしておいて見知らぬ人たちが対戦するようにすることもできる。決めるのはユーザーだ。
Microsoftが所有するMinecraftを開発しているMojangのデザイナーたちは、全員がそこに行かなければならない単一のロックインされたコミュニティをつくろうとはしなかった。代わりに彼らは、人びとに自分たちのコミュニティをつくらせたのだ。

──ユーザーを単一の世界のロックインするのではなく、コミュニティドリブンで無数の小世界をつくる自由を与えた、と。

はい。「決めるのはユーザー」というのが、ここではポイントですね。

──ユーザー主権。

はい。続いて〈2〉を見てみましょう。

2. めちゃくちゃ没入できる:なのにローテク
現代の「メタバース」の誇大広告は、デジタルリアリティが真に没入できるのは、頭にVRやARヘッドセットを装着している場合だけだと仮定している。Minecraftが示しているように、これはまったくのナンセンスだ。 ARやVRの陰口を叩くつもりはないし、どちらもクールなメディアなので、今後さらに安価になり身体的な負担が軽減されていけば、きっと数年後には30分以上快適に装着し続けることができるようにはなるだろう。
だが、重要なのは、Minecraftは、古いコンピュータであっても信じられないほど没入感を生み出すことができ、魂を揺さぶるメタバースがつくれることを証明してみせたということなのだ。

──没入にヘッドセットや高解像度の技術は必ずしも必要ではない、と。この話は、たしか前々回でも出てきましたね。

はい。「セカンドライフ」のコミュニティをいまなお追いかけている、バーナード・”ドラクスター”・ドラックスというドキュメンタリー作家の活動を紹介した、「バーチャル世界はメタバースが到底実現しえないほど面白いことになっている」(Virtual worlds are already better than the metaverse will ever be)という記事は、こう書いています。

ドラックスは7年間にわたり、セカンドライフ・コミュニティの小規模で個人的な側面を記録し続けてきた。セカンドライフが世間の注目を浴びなくなった現在でも、このコミュニティは生き生きと活動し続けていると彼は語る。彼のドキュメンタリーは、障害者たちが社会のなかでのさまざまな困難を克服するためにセカンドライフを利用しているさまや、Black Lives Matterのアクティビストたちが、セカンドライフ内でどのようにムーヴメントを盛り上げていったか、あるいはセカンドライフ内で定期的に開催される読書会などを追っている。

──へえ。セカンドライフは、いまはそんなふうになっているんですね。めちゃいいですね。

はい。こうした小コミュニティが、地道に、かつ穏やかにバーチャル世界のなかに、居心地の良い世界をつくっているさまを見てきた、ドラックスさんは「没入」ということについて、こう論じています。前々回にも引用しましたが、ここは大事なところですので、再度引用させてください。

ドラックスが指摘するように、ヘッドセットを用いたフィジカルな没入体験は、バーチャル世界においてはまったく重要ではない。彼は言う。
「セカンドライフの魅力の源泉、その秘密はコミュニティにある。多くの人は、ヘッドセットなんかなくても完全な没入感を感じている。個人的にはヘッドセット技術の未来には興味はあるが、シリコンバレーは、多くの人々にとってヘッドセットは『その場にいる』という感覚を高めてくれるものではないことを理解する必要がある。没入感のレベルは、自分がコミュニティにどれだけ貢献しているかに比例している」

──「没入感のレベルは、自分がコミュニティにどれだけ貢献しているかに比例している」というあたりは、まさに「ファンダム・エコノミー」の核心をなすところですよね。

まさに、そうですし、このように「ファン」の「参加=貢献」をどのように引き出しながら、事業を構築していくのかというあたりは、クリエイター・エコノミーにおいても重要な基軸になるところですし、さらにいえば、参加型民主主義における重要な論点ともなります。

──面白いですね。ということは、Minecraftには、これからのコミュニティづくり、つまりは自治体や政府のあり方についてのヒントもありうる、ということになりますね。

そうだと思います。実際、Minecraftは、みんなで小さな仮想の国や都市をつくっていくわけですから、当然そうなりますよね。

──思っていた以上に、射程の広い話です。

続いて〈3〉を見てみましょう。

3. ユーザーがクリエイティブでなくてはならない
Minecraftは基本的に物をつくらないと遊べないゲームだ。「サバイバルモード」での最も基本的な行為、つまりシェルターをつくったり、身を守るための武器をつくったり、食べ物を育てたりするには、世界にある素材をどうやってクリエイティブに組み替えるかを考える必要がある。人びとはここで、自分の家のレプリカから、完全に機能するテトリスのゲーム、発禁本の図書館から、友達とタムロするための数え切れないほどのたまり場まで、あらゆるものをつくってきた。
これは、わたしが見てきた多くの企業の「メタバース」とはまったく逆のアプローチだ。これらの企業にとって、「参加者にものをつくらせる」ことは、二義的な関心事に過ぎない。現在、Facebookはユーザーのための制作ツールに取り組んでいるようだが、これがどれほど優れていて、自由に使えるものなのかは見ものだ。

──ユーザーのクリエイティビティを発動させる、というのは、そのまま、「参加を促す」「貢献を促す」ということでもありますね。

わたしはこの記事で知ったのですが、Minecraft内には、検閲された記事や本を扱う図書館がつくられていまして、これなんかはMinecraftでできることを拡張する、非常に面白い事例だと思います。ドイツのマーケティング企業DDBと、ジャーナリスト組織Reporters Without Borders(国境なき記者団)のドイツ支部の共同プロジェクトでして、『The Verge』は、このプロジェクトのきっかけをこんなふうに報じています

DDBのシニア・クリエイティブ、トビ・ナッテラーは、報道検閲の問題に取り組む「国境なき記者団」との共同プロジェクトは、これが初めてではないと語る。「2018年にはSpotifyと組んで『The Uncensored Playlist」というプロジェクトを実施しました。Spotifyは世界各国で利用できるため、音楽を通じて検閲された情報を入手できるようにしたのです」。以来、DDBと「国境なき記者団」のチームは「Uncensored」のコンセプトを、世界中の検閲に対抗することを目的に、継続的にクリエイティブなアイデアを実施してきた。
この活動の一環としてMinecraftを利用するというアイデアは、意外なところから生まれた。自宅でテレビを見ていたナッテラーは、画面に映っている人たちが従来とは異なるやり方でビデオゲームを使っていることに気づいた。彼らは実際にプレイしているわけではなく、ゲーム内のチャットを使って対話していたのだ。「コンピュータゲームは、仮想空間上で人と出会うことができる重要な場所となっていたわけです」とナッテラーは語る。「調ベてみると、報道機関に対する検閲が行われている国にも、巨大なゲームコミュニティが存在していることがわかりました」。さらに調査を続けた結果ナッテラーは、Minecraftが他に類がないほど利用されており、単に人びとがアクセスしやすいだけでなく、プレイヤーがゲーム内で本を書くこともできることを発見した。

──めちゃくちゃ面白いですね。Minecraftがニュースを読むインターフェイスになりうるというわけですね。

『The Verge』は、この図書館の反響をこう記しています。

2020年3月17日のデータによると、The Uncensored Libraryのマップは一日で全世界で2万3000ダウンロードされ、公式サーバーには3万セッション、1万7,000人のユニークビジターが訪れている。平均40%の再訪問率が、この日に限っては約57%に上昇した。ナッテラーは、図書館のさらなる規模拡大を議論しているとも語っている。「世界中のジャーナリストと新たに連絡を取り、新しい国を追加し、コンテンツを増やしていきたいと考えています」とナッテラーは語る。「本を追加するのはいたって簡単で、1〜2分でアップロードできてしまいますから」。(中略)
これまでのところ、この図書館に対する抵抗もあったが、多くは実を結んでいない。ナッテラーは、あるサーバーホストが、中国にいる顧客との関係性を壊したくないという理由で、このプロジェクトのサポートに消極的な態度を示していると明かすが、いまのところ、サーバーをシャットダウンしようとする試みはうまくいっていないと指摘する。「Minecraftを完全に禁止しない限り、サーバーをシャットダウンするのは困難です」と彼は語る。「わたしたちはこのサーバーの1つを運営していますが、この世界自体がダウンロード可能ですから、技術的には誰でもそれを再アップロードすることができるのです」

──〈1〉にあった、「分散化されている=所有者がいない」という点が、ここでは重要な利点になっているわけですね。

はい。これは続く〈4〉〈5〉とも関わるところでして、トンプソンさんはこう説明します。

4. オープンでハッカブル
ハッキングのしやすさが、このゲームがこれほど活気に満ちている理由のひとつだ。プレイヤーは常にMinecraftを活性化させ、ゲーム内でできる新しいことを発明していく。そしてサードパーティがスキンエディタのようなツールをつくって、プレイヤーがさらにクリエイティブになれるようにしていく。
Minecraftはオープンソースではないが、エッジ部分は柔軟で透明だ。Mojangはプレイヤーにできるだけ多くの主導権を与えることを厭わない。それが、人びとがこのゲームに没入する理由の一部だ。

──「プレイヤーにできるだけ多くの主導権を与える」がポイントですね。かつ、創造的になれることが「没入」にもつながる、と。

はい。さらに、「5. グリッチが多い」について、面白いことを言っています。

Minecraftは滑らかではない。とにかくグリッチが多い。大勢とプレイするとラグが発生するし、新しいMODをインストールすると、カクカクとしたバグだらけの状態になってしまうこともある。改造して自分の世界をつくるのは簡単だが、それが壊れるのも簡単だ。プレイヤーは意外にも、これを良しとしている。彼らはそれが創造性・自律性とのトレードオフであることを知っている。本当に面白いメタバース、つまり何時間も、何日も、何年も過ごしたくなるようなメタバースは決して 整備されたきれいなものではない。ザッカーバーグがつくろうとしている「空港ラウンジ」のようなものではないのだ。

──プラットフォーム側が世界をつくり込んでしまうと、それと引き換えに「創造性」と「自律性」が損なわれるという認識は面白いですね。

つい先日、YouTube上のMinecraft関連動画の再生数が「1兆回」を超えた、というニュースが報じられましたが、子どもたちにとってマイクラ実況は最も身近なコンテンツのひとつとなっているといいますし、あらゆる意味で「参加」の窓口が広いのは、このゲームが「誰でも自分なり創造性を発露できる=自律性」を最大限に許容してきた結果なのだと感じます。

──すごい影響力ですね、しかし。

はい。最後に「6. そこに行くべき理由がある」と「7. 莫大な経済活動を生み出している」についてですが、〈6〉は、みんながそこに集まるのは、「ゲームをするため」という明確な理由があるからだと語っていますが、ここでの論点は、そこに幅広い人びとが集まり、そこにコミュニティが構成されていくにあたって、コンテンツが重要な役割を果たすという点なのかなと思います。

つまり、バーチャル世界で人がつながるためには、何らかのきっかけが必要で、それはMinecraftやFortniteのようなゲームでもいいのですが、それはBTSやKドラマでもいいでしょうし、音楽フェスやオーディション、自分がよく行くカフェやお店、趣味、さらには、それを「コンテンツ」と呼ぶには憚られるところもありますが、先に見たように「障害」といった共通の体験、さらに特定の理念・考え方など、コミュニティを起動させるお題は、それこそ無限にありえますが、見知らぬ人同士がつながるためには、常に求心力を作動させるための何かが必要になるということなのだと思います。

──たしかに。

そしてそうして形成されたコミュニティ内では、さまざまな価値交換、それは金銭を通じた等価交換かもしれませんし、贈与的なものまで、さまざまな交換が発生することとなります。大事なのは、こうしたコミュニティにおいては、理念的には、「参加」「貢献」が没入=求心力のドライバーとなりますから、交換を通じて「何かを得る」ことよりも「何かを差し出す」ことが重要になります。それは時間でも、金銭でも、物でも、労働でもいいのですが、その提供価値は、その対価として「自分がいくら得たか」ではなく、「それによってコミュニティがどれだけ豊かになったか」で測られることになるのが、キモといえばキモなのかな、と思います。

──なんか、これまでの経済理論をひっくり返してしまいそうな話です。

クライヴ・トンプソンのMinecraft論でも、マシュー・ボールのメタバース論でも強調されているのは、ブロックチェーンベースの新しいデジタル世界では、これまでの資本主義的な勝者総取り的な価値観が、反転させられるということであるように読めます。マシュー・ボールは、クリス・ディクソンという起業家・投資家のことばを引用しながらこんなことを語っています

ブロックチェーンには、分散型、パーミッションレス、トラストレス、自動決済といった、いくつかの利点がある。最も重要なのは、ブロックチェーンによって開発者とユーザーが、プラットフォーマーの強制によって経済活動がねじ曲げられてしまうことを懸念することなく、 自分たちの時間と資本を投入することができるという点だ。例えば、イーサリウムは、突然のガス料金の引き上げや、NFT販売手数料の徴収、新技術や規格の恣意的な排除、最も成功している開発者や事業者と競合するサービスの立ち上げ、ユーザーのアカウント・権利・資産の差し押さえなどを行使することができない。クリス・ディクソンは、Web 2.0の倫理規範が「Don’t be Evil」(邪悪になるな)だったとするなら、ブロックチェーンベースのWeb 3のそれは、「Can’t be Evil」(邪悪になりえない)だと好んで語っている。

──なるほど。文字通り、経済活動の「ゲームのルール」が変わってくる、と。

どうでしょう。少なくとも、最もデジタルサヴィなコミュニティで起きていることを見ると、どうもそういうことになりそうですが、こうした転換を理解しておくことが重要だろうと思うのは、ここに来て、仕事や雇用をめぐる、これまでのあり方・考え方が、一気に崩壊する気配が濃厚に漂っている気がするからでして、アメリカでは未曾有の離職ブームだといいますが、日本は、それとは別のかたちで、離職、失職が進行するのではないかと感じています。来年は、それが一気に進むような気がするんです。とりわけ、中高年男性の離職・失職の加速はシビアな状況を生み出すと思います。

──怖いですね。

そうしたなか、デジタル空間のなかに、これまでよりもさらに拡張した経済空間が生まれるのであれば、それを見ておくことはそれとして大事なのですが、さらに理解しておくべきは、そこでの新しい経済は、もしかすると、これまでの「経済の当たり前」がまるで通用しない世界になりうるということでして、中高年男性は、確実にそこからこぼれ落ちることになるのではないか、と危惧します。

──恐ろしいなあ。どうしたらいいんですかね。

遅ればせに、MinecraftでもFortniteでも「ポケモンGo!」でも「あつまれ どうぶつの森」なんでもいいのでやってみるとか、BTSのARMYになってみるといったことが、もはや職業訓練として本当に必要なのではないかという気すらしてきています。ちなみに、冒頭にお話した『調査官ク・ギョンイ』の主人公は、いわば中年の女性ですが、元刑事の引きこもりのゲーマーで、犯罪操作にあたって一番信頼する仲間は、会ったこともないゲーム仲間だったりするんです。

──あはは。それに学べ、と。

それがいいのかどうかはわかりませんが、自分も人のことはあまり言えないので、ここから先、日本で起きることが改めて、結構怖いんですよね。

──怖いですか。

来年、ヤバいような気がします。

若林恵(わかばやし・けい) 1971年生まれ。『WIRED』日本版編集長(2012〜17年)を務めたのち、2018年、黒鳥社設立。。

꩜ 「だえん問答」は毎週日曜配信。次回は12月26日(日)配信予定です。

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