
2月最終週の気候変動ニュースレター。今週は、ロシアのウクライナ侵攻を背景にした原油価格の値動きを、お伝えします。アフリカから届いた電気自動車についてのストーリーでは、「二輪」の可能性に賭けたスタートアップが登場します。
ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2月24日、原油価格は2014年以来初めて1バレル=100ドル台に値上がりしました。天然ガス価格も急騰しています。
ロシアは石油・ガス産出国として世界第3位。EUは輸入する天然ガスの約4割をロシアに依存しています。発表されている銀行やパイプラインへの制裁によって、化石燃料の生産・輸出は大きな制約を受けることになるでしょう。
原油価格は、紛争がない時期に比べてすでに10ドルほど高くなっています。JPMorganのアナリストは、情勢がエスカレートするにつれて、さらに10ドル上昇する可能性が高いと予測しています。

ロシアの「空白」を埋めるのは非常に困難です。
米国では、ジョー・バイデン大統領が22日、「国民がガソリン代について感じている痛みを抑えたい」と述べています。国内の石油・ガス生産者は掘削を強化していますが、とれる選択肢は限られています。欧州にとって深刻なのは石油よりも天然ガスの供給不足で、コンサルティング会社Wood Mackenzieによれば、ロシアの供給が完全に途絶えた場合、欧州のガス貯蔵量は約6週間で枯渇するとされています。
この危機がクリーンエネルギーにもたらす影響は? 欧州諸国の一部指導者は、すでにこの危機を取り上げ、自然エネルギーや原子力発電所の展開を加速させようとしています。
Charting Oil and gas discoveries
新たな油田は出てこない
2021年に発見された新たな化石燃料は、石油換算で約47億バレル。調査会社Rystad Energyによると、これは過去75年間で最悪の数字です。

歴史的に見ると、世界で新たに発見された埋蔵量の大半は「大規模な発見」が占めてきました。これまでに発見された石油の40%が、900ほどの油田・ガス田から産出しているのです。しかし、21年はそうした発見がほとんどありませんでした。年間生産量に対してどれだけ採掘可能な石油が残っているかを示す「確認埋蔵量/生産量」の比率は、2011年以降で最低の水準に達しています。
すでにある油田の生産量は年々減少していきます。つまり、需要に追いつくためには、石油業界は常に新しい油田を開拓しなければならないのです。国際エネルギー機関(IEA)は、既存油田への投資がなければ、世界の石油生産量は年間約7%減少すると推定しています。
Today’s Story
未来は二輪でやってくる
今日紹介するナイジェリアの起業家アデタヨ・バミドゥロ(Adetayo Bamiduro)は、なにも「気候変動対策の立役者」というわけではありません。彼が目指したのは、「職業ドライバーが自分のクルマを所有すること」。モノにせよヒトにせよ、なにかを輸送する仕事にドライバーがよりアクセスできて、より多くの収入を得られるようにしたかったのです。

ラゴスに本拠地をおく彼のスタートアップ、メトロ・アフリカ・エクスプレス(MAX: Metro Africa Xpress)が提供するのは、二輪車を中心とするファイナンスリース事業です。しかし、彼らは1つ、大きな問題を抱えていました。ユーザーのほとんどが、中国からの輸入オートバイを嫌っていたのです。
「わたしたちが購入していた車両はどれも、実際に乗ったドライバーからかなりひどいフィードバックを受けました」と、彼は言います。「それもそのはず、それらの車両はアフリカでの利用を想定していない車種だったのです。航続距離が短かったり、重い荷物を運べなかったり……。メーカーに働きかけても、設計や製造の仕様変更には応じてくれませんでした」
バミドゥロがとった解決策。それは「自分でつくること」でした。地元で調達した部品と輸入したバッテリーを使って電動バイクをつくったのです。MAXがリリースした最新モデル「M3」には、強化されたサスペンション、最長100マイルのバッテリー航続距離、携帯電話充電用のUSBポートが内蔵されています。価格は約2,000ドルで、同クラスのガソリン駆動のオートバイより初期費用は高額です。しかし、バミドゥロによると、毎月のガソリン代やメンテナンス費用は従来のオートバイより25%安く、2〜3年で価格差を埋められるのだとか。「もともとEVをやるつもりはなかった。実際のところ、選択肢がなかったんです」と、彼は振り返ります。

昨年12月、MAXは3,100万ドルを調達。ガーナ、エジプトへの進出を目指しています。
アフリカ大陸の大部分では、電動モビリティはまだほとんど普及していません。しかし、生産コストの低下と石油価格の上昇を受け、この地で電動モビリティ市場を育成しようとする気運が投資家や政府の間で高まっています。ただし、そこで着目されているのは「自動車」ではなく、「二輪車」、あるいは「三輪車」です(ちょうどMAXがそうであるように)。
世界的に見ると、2020年から21年にかけて、電気自動車(EV)の販売台数は倍増しています。『Bloomberg』によると、導入率世界一を誇る欧州では、2021年に販売された乗用車のうち、実に5分の1がEVだとされています。EVの価格は下がり、電動モビリティのスタートアップには数十兆円のVC投資が流れ込んでいます。最たる例がインドのOla。同社はEV製造事業を30億ドル規模の企業としてスピンオフさせています。
一方、アフリカにおける「EV革命」は、まだ始まったばかりです。例えば南アフリカでは、1,200万台の自動車保有台数のうちEVはわずか1,000台ほど。ケニアでは、220万台のうち約350台に留まります。
しかし、複数の政府がEV普及による雇用創出、都市部の大気汚染対策、高額な燃料補助金の廃止を見込んでいるのも事実です。ケニアでは、2025年までに輸入車の5%をEVにする意向で、EVの輸入関税を半額にすることが決定しています。ガーナ、ルワンダ、セイシェル、モーリシャスも輸入税を引き下げています。エジプトは2023年から年間2万台のEVを国産化する計画で、ナミビアは2030年までに1万台、南アフリカは2050年までに290万台のEVを走らせたいと考えています。
公共交通機関として使われるバスやオートバイ、トゥクトゥク(ビクトリア湖の漁船も)などを対象にしたスタートアップも多数活動しています。国連環境計画(UNEP、UN Environment Program)によると、ケニアだけでも、少なくとも50のスタートアップが二輪・三輪EV開発に取り組んでいます。

こうした「小型車」には、大きな成長を期待できる理由がいくつもあります。まず、アフリカ大陸の自動車のほとんどが輸入車であること。それらは中古で、高価で、最新の燃費基準に適合しておらず、定期的なメンテナンスが必要です。そのため、安価で耐久性があり、交通渋滞や舗装もままならない道路でも乗りこなせるオートバイは、アフリカのモビリティ市場では最大かつ最も急速に成長しているセグメントです。
UNEPによると、アフリカ大陸における二輪車の台数・使用頻度はともに非常に高く、自動車よりも燃費がよいにもかかわらず、二酸化炭素排出量は自動車と同等かそれ以上。気候変動対策にとって、格好のターゲットといえます。
ただし、アフリカは世界一電気代が高く、信頼性が低いことでも知られています。大陸の人口のうち、半分以上が電気にまったくアクセスできない状況にあります。電力会社の多くが負債を抱えており、充電ステーションを新たに建設するなど需要に応える体制は整っていないのが現実です。
しかし、石油燃料の価格が高騰すること、政府や民間投資家からの気候変動対策技術への資金が上昇を続けていることから、MAXのバミドロはEVの将来性に賭けています。
「道は必ずしも平坦ではありませんが、以前よりは楽になっていますから」と、彼は語っています。
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