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Forecast:ファストファッションの行き着く先

コロナで好調極めるファストファッション。さらなる効率化を続ける「ウルトラファスト」なこの業界に、どんな未来が待っているのでしょうか。メタバース時代のアパレル産業についても。

Image copyright: Alex Citrin-Safadi
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから2年が経ったいま、多くの人にとって服を買う理由は減ったのではないしょうか。外出や人と会う機会が減ったために、理論上、新しい服は必要なくなったからです。

しかし、実情は異なります。昨年、米国では衣料品の売上高が前年比で拡大しただけでなく、新型コロナ禍以前の水準を上回りました。服だけでなく小売売上高全般が急速に回復しており、消費は復活傾向にあります。しかし、消費者が財布の紐を緩めているかというとそういうわけではなく、結果としてファストファッション各社が業績を伸ばしているのです。

例えば、Zaraを展開するインディテックス(Inditex)の昨年2〜10月の売上高は1年前から37%増加しました。ヘネス・アンド・マウリッツ(Hennes & Maurit)、いわゆるH&Mも昨年は通期で12%の増収を達成しています。2020年に686億ドル(7兆8,797億円)規模だった世界のファストファッション市場は、2025年には1,635億ドル(18兆7,803億円)に達する見通しで、年間の伸び率は平均で19%になります。

しかし、ファストファッションの過剰な消費が、大きな環境コストを伴うのもまた事実。マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)によると、衣料品の6割近くは生産後1年以内に焼却もしくは埋め立てによって廃棄処分されています。また、世界の温室効果ガスの年間排出量のうち8%以上が衣類・履物産業によるものです。

マッキンゼーの試算では、衣料品の年間生産量は2014年に初めて1,000億点を超え、現在では2000年の水準から倍に達しています。世界中のすべての人について、1人当たり毎年14点近くの新しい服がつくられていることになります。

ファストファッションブランドはこれまで、低品質の商品を使い捨てにする文化を生み出したと批判されてきました。またソーシャルメディアの普及に伴い、写真を1枚撮るだけのために新しい服を買うような消費行動が助長されているという指摘もあります。

こうした問題に立ち向かうため、「スローファッション」が提唱されました。活動家たちは服を買う回数を減らすこと、買う場合は長持ちするようにつくられた服や中古品を選ぶこと、そして古い服も捨てるのではなく修理して着続けることを呼びかけています。

中産階級人口が世界的に拡大し、可処分所得が増えていくなかで、衣料品の消費量も大きく伸びました。とくに先進国では、衣類は本来の機能を超える進化を遂げてきました。人びとが新しい服を買うのは、ファッションによって自らを創造的に表現し、アイデンティティを示す手段でもあるためです。

テクノロジーによってサプライチェーンの効率化が進み、消費者はより多くの服を購入することが可能になりました。しかしいま、わたしたちはその恩恵を享受すべきなのでしょうか

The BACKSTORY

アパレル産業の基礎知識

ファストファッションが登場する以前、アパレルメーカーは初夏および秋冬という2つのシーズンに合わせてコレクションを発表していました。商品が企画段階から実際に店頭に並ぶまでには、数カ月の時間が必要だったのです。

Image copyright: REUTERS/Caitlin Ochs

しかし、H&M、ユニクロ、Zaraといったブランドが登場した2000年代初頭、衣料品のサプライチェーンは劇的に変化します。インディテックスは垂直統合型のサプライチェーンを構築し、2週間に1回、年間にすると24回も新作を発表するという手法を導入しました。この結果、膨大な数の衣類が手頃な価格で買えるようになったのです。

アパレル産業のファストファッション化は現在も加速しています。中国発のネット通販ブランドSHEINは毎週2,000点を超える新作を追加していますが、これが可能なのは、短納期で少量生産を引き受けるベンダーのネットワークをもつことで、リスクを最小化しているためです。特定の商品の売れ行きがよければ追加発注をかけ、売れなければ値引きして売りさばくか、もしくは破棄します。

Image copyright: SHEIN

ウルトラファストファッション」と呼ばれるこうしたビジネスモデルはさらに効率化を高め、SHEINの昨年の売上高は157億ドル(1兆8,034億円)と前年から倍増したと報じられています。一方で、Forever21Topshopといったミレニアル世代に人気だったファストファッションブランドは、親会社が破綻するなど苦戦しています。

ただ、SHEINの躍進はコストを伴うはずです。ユニクロを展開するファーストリテイリング(Fast Retailing)やH&M、インディテックスはいずれも環境面での取り組みを進めていますが、SHEINの親会社である南京希音電子商務はこうした方針は一切示していません。また、同社は従業員の扱いを巡っても不透明な点が多いことが指摘されています。

THE SUPPLY CHAIN OF THE FUTURE

新しい戦いが始まる

倫理および環境面での懸念が高まる一方で、繊維を含むその他の産業でも、サプライチェーンの管理はSHEINのやり方に向かって動いているようです。アパレル産業ではこれまで、小売業者、そして最終的には消費者に安い商品を届けるために、メーカーが大量生産して出荷するという方法が取られていました。

スタンフォード大学経営大学院教授でサプライチェーンの専門家のハウ・L・リー(Hau L. Lee)は『Harvard Business Review』で、次のように書いています

「輸送にかかる時間とコストと出荷回数を最小限に抑えるために、メーカーの大半はコンテナ単位で発注を行なっていた」「特定のブランドやサイズ、商品などの需要がいきなり高まった場合、メーカーは在庫があってもこれに対応することは不可能だった」

Image copyright: REUTERS/Radovan Stoklasa

これに対し、近年はアジャイルであることが重視されるようになりました。企業も消費者も、スピードだけでなく柔軟性を求めているのです。アジャイルは、例えば数百の店舗の在庫をリアルタイムで把握できる在庫管理システムなどによって可能になっています。こうしたデータは、かつては週に1回程度しか更新されませんでした。

小売業者はこの情報を基にトレンドを分析し、売れるものを増やし売れないものは減らして、消費者のニーズに応えることができます。ネットラッシュ(NetRush)のサプライチェーンの責任者ブライアン・バーチ(Brian Birch)は2021年、専門誌向けのブログで「利便性と経験を超えた新しい戦いが始まろうとしている」と述べています。「消費者のニーズがより細かくなるにつれ、特定の日や特定の時間の配達、もしくは職場に駐車しているクルマに直接届けるといったことが求められるようになるかもしれない」

🔮 PREDICTION

今後の見通し

ファッションがスローダウンする可能性は低いとしても、悪影響を減らしていくことは可能です。リアルタイムの在庫確認システムのおかげで、小売業者は何が売れているかを正確に確認し、需要を満たすのに必要な量を把握できるようになるでしょう。少量生産であれば、最終的に埋め立て処分場に行き着く運命のシャツを数百枚、数千枚単位でつくるのではなく、50枚だけ注文することができます。

値引きをすると顧客は常にそれを期待するようになるだけでなく、下手をすれば人件費を含めた製造コストすら賄えないような低価格で売らなければならないこともあるため、店側も定価を下げることは避けたいと考えています。ただ、それ以前にやるべきことはたくさんあるのです。

Image copyright: REUTERS/Vincent West

マッキンゼーのパートナーのアナ・グランスコグ(Anna Granskog)は、「衣料品の最大40%は、定価ではなく何らかの割引価格で販売されています」と指摘します。「過剰生産を現在の半分の水準にまで減らせば、アパレル産業の二酸化炭素排出量を大きく削減できるのです」

アパレル産業で働く人たちに対するフェアネスを実現するとともに、地球環境への悪影響を緩和するには、他にも変えていかなければならないことがあります。一部の企業は、生分解が可能で埋め立て処分された場合も環境への害が低い新素材の開発に取り組んでいます。また、服をなるべく買わないようにすることを目指す社会運動も変化に貢献するはずです。

今日のニュースレターは、QuartzレポーターのTiffany Apがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。

ONE 🕹️ THING

ちなみに……

メタバースへの移行が進めば、わたしたちのワードローブも進化していくでしょう。消費者が服に使う予算は限られているため、アバターが着る服にお金を使うことが増えれば、現実世界での買い物は少なくなるという予想もあります。また、仮想世界での消費によって自己表現の欲望も満たすことができます

オンラインのワードローブには、現実世界では物理的に不可能なスタイルでも実現できるという利点があります。また環境にも優しく、NFT(非代替性トークン)のファッションアイテムなどを販売するドレスX(DressX)が2020年に公表した持続可能性に関するリポートによると、デジタルの衣料品は従来の衣服と比べて炭素排出量が97%少ないそうです。

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