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Africa:医療格差をなくす、冴えたやりかた

ひとりの医師が南アフリカに立ち上げたネットワークが、行政に先んじてユニバーサルヘルスケアを実現しようとしています。医療格差を克服するQuadcareの背景、可能性をレポート。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスがこれから進む可能性を知ること──火曜夜にお届けしている「Africa」ニュースレターでは、毎週ひとつのスタートアップを取り上げ、彼らが社会の何をどう解決しているかをレポートしています。

アパルトヘイト後の1996年に制定された南アフリカの先進的な憲法には、「医療は人権である」と明記されています。

しかし、実際に医療を受けるとなると話は別です。質が高く高価な民間医療機関を利用できる人はごく一部であり、国民の大部分は大勢の患者を抱えたリソース不足の公共医療に頼るしかありません。政府はGDPの12%を医療部門に費やしているものの、リソースは民間、公共の医療それぞれに均等に割り当てられてしまっています。

「南アフリカの医療の質が向上しないのは、(政府の)介入やアイデアが足りないからではない」と、クワズール・ナタール大学の研究者であるウィニー・マプムロ(Winnie Maphumulo)とブシジウェ・べーヌ(Busisiwe Bhenu)は、アパルトヘイト後の南アフリカの医療を振り返る論文に綴りました。しかし同時に、汚職リーダーシップの欠如貧弱なインフラといったことすべてが、医療へのアクセスを妨げる要因になっていると論文の著者たちは書いています。

さらに、南アフリカは深刻な医療従事者不足に悩まされています。医療従事者の約70%が、民間医療機関を利用できる16%の人びとのケアにあたっており、貧困層には医療が行き届いていません。

こうした格差に対処するべく、政府は安価でアクセスしやすいユニバーサルヘルスケアの実現に意欲的ですが、いまのところそれは夢物語です。しかし、イノベーションの可能性はあるとケープタウン大学のBertha Centre for Social Innovation and Entrepreneurshipで医療システムを研究しているカチューシャ・ド・ヴィリエ(Katusha De Villiers)は言います。

民間セクターや診療所に多くの人を引き込む方法はあるはずです」とド・ヴィリエは言います。「そこに最大のチャンスがあると思うのです」

CHEAT SHEET

業界・虎の巻

💡 どんな可能性が?:6,000万人の南アフリカ人に公平な医療を提供できるように。現在、その71%は、医療が必要になるとまず公共の医療機関を利用するといいます。

🤔 課題は?: 資金不足や政府からの支援の欠如、深刻な健康問題に悩む人びと。例えばパンデミックの際、糖尿病や喘息といった基礎疾患を患っている南アフリカ人は、病床が逼迫している公共部門の診察を受けられないことが多く、ウイルスによるリスクがさらに高まりました。

🌍 ロードマップは?:プライマリーケア(一次医療)や医薬品の処方、慢性疾患の診断や予防などを提供するために、公共と民間の医療のギャップを埋めるイノベーションが必要。

💰 ステークホルダーは?:政府、雇用主、そして社会全体。

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 1.3%:世界の医療負担の25%をカバーしている医療従事者の割合
  • 50%:2016~18年の調査で「前年度に医療を受けていない」と答えたアフリカ人の割合
  • 240億ドル(約2兆8,155億円): ユニバーサルヘルスケアを5年かけて発展させるために、世界銀行とそのパートナーが2016年にアフリカに投じた額
  • 370億ドル(約4兆3,406億円):南アフリカにおけるヘルスケア市場の市場規模予測(~2022年)
  • 4.9%:2019年のサブサハラアフリカの対GDP医療支出48億ドル(約5,631億円):2015年から2017年にかけて、サブサハラアフリカで「ウェルネス滞在」のために使われた額。メディカルツーリズムの有望性を示唆している

THE CASE STUDY

ケーススタディ

  • 企業名:Quadcare
  • 創業年:2013年
  • 本社所在地:南アフリカ
  • 創業者:Dr. Dulcy Rakumakoe
  • 時価総額:160万ドル(約1.88億円)

南アフリカにおいて、民間の医療保険に加入している人は全体の15%に過ぎません。それ以外の人は公立病院にかかることになりますが、公立病院の多くは非常に混雑しています。さらに、LGBTQ+などの弱い立場にある患者の場合、医療を受ける際にひどい差別にあうことも多いのが現状です

こうしたなか、民間クリニックのネットワークである「Quadcare」は、南アフリカの人びとに親身で高品質な医療を手頃な価格で提供しようとしています。健康診断と基本的な薬の処方であれば、合計350ランド(約2,700円)ほどです。

「Quadcareの『Quad』は、品質(quality)とアクセスのしやすさ(accessibility)、尊厳(dignity)の頭文字からつけています」と、創業者のダルシー・ラクマコエ(Dulcy Rakumakoe)は話します。「わたしたちは愛と共感、プロフェッショナリズム、そして患者第一をコアバリューとしています。これらは医療機関で必ずしも提供されるものではありません。患者がお金を払わない場所では特に、です」

ラクマコエはいまから10年前、地方の小さな病院で社会奉仕活動(南アフリカでは医療教育の必修科目となっている)をしていました。そのなかで彼女は、よりアクセスしやすく高品質なプライマリーケアを提供する必要性を感じたといいます。そこで彼女は南アフリカのゴードンビジネスサイエンス研究所(GIBS)でMBAを取得し、2013年にQuadcareを立ち上げました。

創業初期の最大の課題は資金調達だったといいます。医療従事者としての実績はあっても、起業家としての実績はないに等しかったからです。そこで彼女は医療サービスが限られた小さな町に診療所を開業し、Quadcareの差別化要因に注力することでビジネスを軌道に載せました。その差別化要因とは、医師が必要なものか看護師による処置で対応できるものかを判断し、医師の仕事の一部を看護師に任せる「タスク・シフト」を行うこと、そしてスタッフにソフトスキルに関する訓練を受けさせることです。

2019年、小売業や不動産管理、保険数理といった分野の投資家からなる民間のコンソーシアムがQuadcareに800万ランド(約6,240万円)出資しました。現在Quadcareは45人のスタッフと共に10件のクリニックを運営しており、各クリニックが月500人ほどの患者に医療を提供しているといいます。Quadcareは企業向けの医療サービスも提供しており、今後10年で医療拠点を30件にまで増やすことを目指しています。

Quadcareは現在、他地域への進出やより多くの行政サービスとの連携など、これまで以上に大きなステップを踏み出そうとしています。しかし、ラクマコエは楽観的です。「政府がユニバーサルヘルスケアに着手するころには、わたしたちが有力なパートナーになるでしょう」と彼女は言います。「低所得者向けに民間の医療を提供するという政府の計画を、わたしたちは何年も前から実現しているのですから

IN CONVERSATION WITH

キーパーソンの発言集

An image of Dr. Dulcy Rakumakoe sitting on a hospital bed.

ダルシー・ラクマコエは、自身のキャリアに関する「主導権」をあまりもっていなかったと振り返ります。彼女が医師になるきっかけを与えたのは、病院の待ち時間にうんざりした祖母でした。

しかし、ラクマコエは自ら歩みを進めました。開業医の資格を取得し、Quadcareを立ち上げたのです。「この国ではわたしの祖母と同じ経験をしている人が都市にも地方にも多くいます」。彼女のインタビューから、興味深い発言を紹介します。

  • 投資家たちはQuadcareの何に魅力を感じたのか:「政府は十数年にわたりユニバーサルヘルスケアの話をしていますが、いまだに実現していません。投資家たちはそれをQuadcareが自前で実現していると感じたのです」
  • 🏿Quadcareの価値観について:「採用面接ではホモフォビア(同性愛嫌悪)やバイフォビア(両性愛嫌悪)、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)について掘り下げて聞くようにしています。その人の宗教的信条や、それが患者に提供する医療にどのような影響を与えうるかといったことです。これまでも素晴らしい医療の才能があるにも関わらず、価値観のせいでお断りした応募者がいました。また、わたしたちが大切にしている価値観に反する行為をしたことが理由で解雇しなければならなかった従業員もいます」
  • アフリカでの持続可能なヘルスケアビジネスを行なうことについて:「医療従事者でなくとも、地域社会の問題を考え解決策を生み出すことはできます。そろそろ起業家も協業的な考え方をすべき時期に来ていると言えるでしょう。医療関係者や技術者、エンジニア、物流の担い手などさまざまな分野の人を集め、その専門性を生かして地域の問題を解決するのです」

HEALTHCARE DEALS TO WATCH

注目すべきディール

  • ナイジェリアで医療保険や遠隔医療を提供しているスタートアップのReliance Healthが、2022年2月に米国のGeneral Atlanticが主導したシリーズBラウンドで4,000万ドル(約46億9,263万円)を調達しました。16年に創業したRelianceはこれまで2回にわたり資金調達を行なっており、17年にはシードラウンドで200万ドル(約2億3,463万円)、20年1月にはシリーズAラウンドで600万ドル(約7億389万)を調達しています。
  • コートジボワールの医療保険スタートアップであるSusuは2022年3月、多数のエンジェル投資家から100万ドル(約1億1,731万)の出資を受け、さらにBPI Franceからの借入と助成金で120万ドル(約1億4,077万円)を調達しました。今年で創業3年目を迎える同社は、コートジボワールやセネガル、カメルーンで事業を展開しており、現在は5,000人ほどの顧客を抱えているといいます。
  • ケニアのIlara Healthは2020年12月、TLcom Capitalが主導するラウンドで375万ドル(約4億3,993万円)を調達しました。医療機関向けに医療機器を販売している同社は、過去にビル&メリンダ・ゲイツ財団から110万ドル(約1億2,904万円)の助成金も受け取っています

🎵 今週の「Weekly Africa」は、コートジボワールのMix Premierの「Mal à la tête”/”headache」を聴きながら、ロンドンのJackie Bischofがお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しています。

One ✈️ Thing

ちなみに……

medicaltourism.com」が発表している「2020 Medical Tourism IndexI(2020年メディカルツーリズム・インデックス」によると、アフリカのメディカルツーリズムの行き先として最も人気があるのは南アフリカで、続いてエジプト、モロッコ、チュニジアがランクインしています。

とはいえ、カナダやシンガポール、日本がけん引するこの分野において、トップ20に入るアフリカの国はまだありません。インドやオマーン、韓国もまた、アフリカよりも上位にランクインしています。

💎 「Weekly Africa」は、毎週火曜、アフリカの地で新たな産業が生まれる瞬間を定点観測するニュースレターです。

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