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Company:愛すべき駄目サイト、Tumblrの復活

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

Tumblr」は、ユーザーエクスペリエンスという観点からみれば、決して使い勝手がいいとはいえません。アプリはバグが多いし、サイト内検索はあまり役に立たず、ターゲティング広告はほとんど機能していません。フィードには投稿が時系列で並ぶものの日付は表示されず、しかもいまだに匿名で利用できます。

それでも、ユーザーとサイト運営元のタンブラー(Tumblr)のスタッフは愛情を込めて、このプラットフォームを「大好きな駄目サイト」(favorite hellsite)と呼んでいます。Tumblrが使いづらいのは個性であり、不具合ではないのです。

Tumblrは立ち上げから10年近くにわたって迷走を続けてきましたが、ようやく霧の中から抜け出したようです。

新型コロナウイルスのパンデミックの最中には、Z世代の間でTumblrがブームになりました。今年1月時点では、新規ユーザーの61%、アクティブユーザーの半分が24歳未満です。タンブラーの広報担当者によれば、現在はデイリーアクティブユーザー数がブログ作成ツールの「WordPress」を上回っているそうです。売上高も2021年7月から55%増加しました。

過去の経緯を振り返ると、Tumblrのユーザーたちは収益化に強い嫌悪感を示しており、これがサイト運営と利益を上げることを困難にしていました。一般的なビジネスモデルはTumblrには適応できず、数年前にはようやくプログラマティック広告(自動のターゲティング広告)を導入しましたが、散々な結果に終わっています。サブスクリプション機能の「Post+」ですら強い反発を引き起こし、テスト実装に参加したクリエイターは殺してやるという脅迫を受けたそうです。インフルエンサー有名人ブランド企業を含めて、金儲けをしようとしていることがあからさまなアカウントは攻撃を受けることもあります。

それでは、なぜいまTumblerの人気(と売上高)が急上昇しているのでしょう。ひとつには、高度なパーソナライゼーションのためのアルゴリズムと徹底したデータ収集が当たり前になった時代に、このプラットフォームがビッグテックの絶え間ない監視と収益化から逃れられる場所を与えてくれる、ということがあるのでしょう。Tumblrを使っていると、インターネットが楽しかった頃に戻ったような気がするのです。

BRIEF HISTORY

Tumblr小史

2007年:デビッド・カープ(David Karp)とマルコ・アーメント(Marco Arment)がTumblrを立ち上げる

2013年:ヤフー(Yahoo)が11億ドル(1,286億円)で買収

2016年:評価額が2013年の買収額の3分の1となる2億9,000万ドル(339億円)にまで落ち込む

2017年:ベライゾン(Verizon)がヤフーを買収。パパの愛称で親しまれてきた創業者のカープがタンブラー最高経営責任者(CEO)を辞任

2018年:Tumblrでアダルトコンテンツが禁止される

2019年:ベライゾンがWordPressを運営するオートマディック(Automattic)にタンブラーを売却。取引額は300万ドル(3億5,100万円)以下だった

2022年:タンブラーCEOのジェフ・ドノフリオ(Jeff D’Onofrio)が辞任

THE CENTER OF THE WOKE INTERNET

正義はここにあり?

Tumblrは社会正義ファンダムと深く結びついてきました。ユーザーには、若い女性をはじめ、若年層のなかでも社会的に取り残された人びと──非白人、身体障害者、性的少数者などの割合が高く、彼らはTumblrに投稿された美しいデザインのGIF画像やファンフィクション(fanfiction)を通じて、社会正義という概念出合ってきたのです。

デポール大学教授で米国文化とメディアの専門家のアリソン・マクラーケン(Allison McCracken)は2017年に学術誌に掲載された記事で、Tumblrにおける若年層のエンゲージメントは「ユーザー(進歩的という自己認識を持ち、ファンダムの一員であることが多い)が自らの経験を語ることや、フェミニズムや反人種差別、クィアやジェンダーの研究、ポスト植民地主義でよく使われる言説を通して」形作られてきたと書いています。「多くの若者たちにとって、Tumblrは学校に代わって授業料のかからない教室になっている。Tumblrはメディアリテラシーを学び、アイデンティティーを形成する場で、メディア分析の文化研究手法を再現するかのような政治意識のサイトなのだ」

もちろんTumblrは完璧ではなく、そこで行われている社会正義を巡る議論は真剣かつ誠実だとしても、底の浅いものかもしれません。こうした議論は悪趣味なコンテンツにパッケージ化されたり、ファンダム内部での論争に社会正義を語るための用語が持ち出されることもあります(例えば、誰かを排除するのを正当化するために、「問題のある」カップリングを好むからといった理由付けが行われるといったことです)。

また、Tumblrでは世の中に先駆けてキャンセルカルチャー広まっており2010年にはネット掲示板4chanの一部ユーザーがTumblrに攻撃を仕掛けると宣戦布告する事件も起きています。

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 5億4,300万件:Tumblrの投稿の総数
  • 11億ドル:2013年にヤフーがTumblrに払った金額
  • 300万ドル以下:2019年にオートマティックがTumblrに払った金額
  • 200億PV:2012年の月間平均ページビュー(PV)数
  • 3億1,200万人:2021年12月のサイト訪問者数
  • 61%:新規ユーザーに占めるZ世代の割合
  • 4人に1人:ユーザーに占めるLGBTQの割合

BUSINESS WOES

収益化できません!

Tumblrは赤字体質で有名です。デジタルメディアの『Mashable』は、創設者で元CEOのカープはプラットフォームを立ち上げたばかりの頃から、従来型のデジタル広告に「公然と反対」していたと報じています。Tumblrは有料テンプレートやクリエイターの作品の販売、プラットフォーム内のスペースのスポンサーの募集といったことを模索しましたが、いずれも大きな収益にはつながりませんでした。

2013年にヤフーに買収された時点で運営元のタンブラーには資産が1,600万ドル(18億7,075万円)しかありませんでした。当時ヤフーのCEOだったマリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)は、「Tumblrを引っ掻き回すようなことはしない」と約束しましたが、結局のところヤフーがしたのは、まさにそれでした。

Tumblr founder David Karp and Yahoo! CEO Marissa Mayer share a stage following Yahoo's acquisition of Tumblr in 2013.
Image copyright: David Karp and Marissa Mayer in 2013 (Getty Images)

ヤフーのある重役はTumblrを「次世代のPDF」にしたいと発言しましたが、ここからもわかるように、彼らはTumblrが何かをまったく理解していなかったのです。メイヤーはまた、2015年までにTumblrの収益を1億ドル(117億円)にするという目標を掲げました。しかし、2017年に『Digiday』に掲載された記事によれば、従業員の多くは「そんな数字は完全に不可能」と考えていたそうです。

ヤフーもその後に同社の親会社になったベライゾンもTumblrの収益化には失敗し、最終的にはこのプラットフォームを手放しました。しかし、2019年にベライゾンからTumblrを買い取ったオートマティックは違う方針を示しています。オートマティックCEOのマット・マレンウェッグ(Matt Mullenweg)はヴァージ(The Verge)の取材に、Tumblrでは広告配信を続ける一方で、WordPressのフリーミアムやECサイト機能のように、アップグレードによって利益を出すビジネスモデルも検討していくと述べました。2022年2月には、月額5ドル(585円)で広告なしのサブスクリプションの提供を始めています。

しかし、オートマティックは基本的にはTumblrをそっとしておくつもりのようです。マレンウェッグは2019年、『Wall Street Journal』に対して「Tumblrはただ楽しいでしょう」と話しています。「それを変えるつもりはありません」

LOSE FRIENDS AND ALIENATE PEOPLE

ポルノ

2018年にTumblrで児童への性的虐待を含むコンテンツが見つかり、アップルはApp StoreからTumblrアプリを一時的に削除しました。これを受け、当時Tumblrを所有していたベライゾンはアダルトコンテンツを禁止する決断を下しましたが、コンテンツのモデレーションのためのアルゴリズムがひどかったために、自動靴磨き機の特許出願書類Tumblrそのもののページのスクリーンショットなど、まったく無害なコンテンツに「NSFW(職場での閲覧注意)」のタグ付けがされるといったことが頻繁に起きています。アダルトコンテンツの禁止が決まってから6カ月で、Tumblrのトラフィックは30%落ち込みました。

禁止措置はサイトの新規訪問者をがっかりさせただけでなく、既存のユーザー離れにもつながっています。性的少数者の若者たちにとって、TumblrはGIFやファンアートを通じて自らのを追求できる場所でした。コラムニストのジョン・ポール・ブラマー(John Paul Brammer)は『Washington Post』で、「ポルノは、他のポルノではないコンテンツと同様に、画面をスクロールするだけでクィアたちが自分の興味のすべてを探求することを可能にしてきた」と書いています。「オフラインの世界では、わたしたちは頻繁に自らの性を表に出さないことを強制される。しかし、Tumblrはセクシュアリティを矮小化しない自分自身を創造し、それを提示する自由を与えてくれたのだ」

2019年のオートマティックへの売却後も、アダルトコンテンツの禁止が見直されることはありませんでした。それでも、オートマティックはTumblrのユーザーデータを収集することはせず、エンゲージメントを高めたり利益を上げたり、コンテンツを最適化したりといった試みは行っていません。

当時、タンブラーのCEOだったドノフリオは1月、『New Yorker』の取材に対して、「ここでどのように振る舞うべきか、何をすべきか、どんな態度を取って欲しいかといったことを指図したりはしません」と述べています。Tumblrの一番の魅力はそこなのでしょう。

ONE 🤦 THING

ちなみに……

タンブラーは2014年7月に「DashCon」というカンファレンスを開催しましたが、準備と予算不足に加えて参加者の数も少なく、結局は大失敗に終わっています。パネリストたちには交通費や宿泊費、出演料が支払われておらず、一部は怒って会場から出て行ってしまいました。チケットを購入した参加者には、お詫びとして会場のボールプールで1時間遊ぶ権利が与えられたそうです。

今日の「The Company」ニュースレターは、メンバーシップエディターのJasmine Tengがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。

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