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Startup:Z世代はしなやかに起業する──Alloy

a16zが2,000万ドルの出資を決めたスタートアップを立ち上げたのは、ハーバード大をドロップアウトした21歳の起業家。彼女と話して感じたのは、新たな世代ならではの、自然体でしなやかな起業の捉え方でした。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Masaya Kubota
By Masaya Kubota

WiL Partner

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Quartz読者のみなさん、こんばんは。月に一度、土曜日にお届けするこの連載では、毎回ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています(今月は2回、お届けしました)。今日は、オンラインストア自動化ソリューション「Alloy」を提供するAlloy Automationを取り上げます。

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a16zが2,000万ドルの出資を決めたスタートアップを立ち上げたのは、ハーバード大をドロップアウトした21歳の女性起業家。彼女と話して感じたのは、新たな世代ならではの、自然体でしなやかな起業の捉え方でした。

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how we can optimize?

便利で不便なECアプリ

さまざまなプレイヤーが現れるD2C業界。スタートアップだけでなく、大手・老舗企業も続々と参入し、先行する米国では2023年には約18兆円規模、日本でも2025年には3兆円規模に達する見込みもあるほどです。

D2Cが盛り上がるにつれ、オンラインストア開設サービスも伸びています。カナダ最大の時価総額となったShopifyをはじめ、日本でも「BASE」や「STORES」といったサービスが利用され、事業者を支えています。

しかし、ECはやればやるほど、「やりたいこと」が増えていきます。「オール・イン・ワン」なソフトでは満足できず、さまざまな外部アプリを利用するケースが常です。

ECのソフトウェアが他のそれと異なるのは、必ず「モノ」の動きがついてまわること。返品対応、国外発送、ギフトラッピング、クーポンの同封などきりがなく、その難易度は、デジタル空間で完結するアプリ運営とは比べものになりません。

商品数や顧客数が増えるごとに業務は労働集約的になり、長時間労働を強いる職場環境もザラです。必然的に利益率も下がるため、経営者はあらゆるツールを導入し、改善を図ろうとします。

一方で、顧客に対しては、パーソナライズされたきめ細やかな体験が求められています。CRM施策によるLTV向上、アップセルを図るためのレコメンドエンジン、オンラインとオフラインの顧客データ統合などに加え、決済もサブスクから以前この連載でも取り上げたBNPL(Buy now, pay later:後払い決済)まで多様化しています。

EC市場の爆発的成長とともに、EC事業者を取り巻くIT環境はまさに「カンブリア爆発」とでも呼びたくなるほどに、さまざまなアプリで溢れています。現在、1ショップあたり12以上のアプリが使われているともいわれるほどです。

Image copyright: VIA TWITTER

ところが、アプリ同士の連携は、口で言うほど簡単ではありません。プラットフォーム最大手のShopifyでさえ、「新規顧客の獲得時に、『Mailchimp』などのメール配信ソフトにメルアドを自動登録する」というような基本的なことさえ叶わないのが現状です。これらのアプリ間連携は、各社のエンジニアが工夫をするか、ショップごとにカスタマイズされた機能開発に頼らざるを得ませんでした。

who is alloy autmation?

ノーコード&自動化

今回取り上げるAlloy Automationによる「Alloy」は、主にこれらのEC向けアプリをノーコードでAPI連携させ、業務の自動化を図れるサービスです。

Image copyright: ALLOY AUTOMATION VIA YOUTUBE

アプリ間連携ツールといえば「Zapier」の名も挙がりますが、AlloyはECに特化しているのが特徴。Shopifyは30〜40サービスと連携できるとされていますが、Allioyは100以上とより多く、さらにはShopify以外の「Magento」や「Bigcommerce」などのECツールとも連携可能です。

UIもスマートで、フローチャートをつなぐだけで連携でき、非エンジニアが簡単に設定できます。「在庫切れをSlackで通知する」「サブスクリプションの継続期間によってリワードを変える」といった要望の多いものはAlloy内の「Marketplace」という“レシピ集”から選ぶことで、すぐに使い始められます。もちろん、より細かなロジックを組んで自動化を図ることもできます。

Image copyright: ALLOY AUTOMATION

Alloyでは返品系、サブスク系、ヘッドレス系のアプリ連携が人気だとか。いま、ECの世界では「ヘッドレス」が顕著な動きを見せています。サービスが多くなりすぎ、個別の管理画面を介してしまうと業務が滞る場面が増えてきたため、バックエンドから必要なデータだけをAPIで直接引っ張ってこられるヘッドレスツールが人気になっているのです。

Alloyは、そういった時流にも合う、必要なツールを提供しているといえます。 先日は有力VCのa16zから2,000万ドルの出資を受け、シリーズAラウンドを終えたのも新鮮な驚きでした。さらに特筆すべきは、創業者がZ世代の21歳という点で、そこにはスタートアップの新たな潮流を見ることができます。

as self-expression

自己表現としての起業

創業者のSara Duサラ・ドゥ)さんは現在21歳。両親に連れられ、中国からの移民としてジョージア州アトランタの郊外で育ちました。ただ、周囲にアジア人はおらず、うまく溶け込めないまま、シャイで自信がない幼少期を過ごしたそうです。

高校生のときにLAへ引っ越すと、スポーツに目覚め、ゴルフやバスケットに明け暮れました。その一方で、彼女の弟は飛び級で難関な数学に取り組み始めており、両親は彼の才能を信じ、プログラミングスクールに通わせることにしました。

サラさんはその姿を傍から見て、自らも独学でコーディングを学び始めました。すると、めきめきと上達し、グーグルが主催するプログラミングコンテストの「Google Code-in」で大賞を受賞。さらに、17歳でピーター・ティール(Peter Thiel)が主催する起業家育成プログラムの「ティール・フェローシップ」にも選ばれ、テクノロジーの世界にひきこまれていきます。

高校に在学しながら、エンジニアとしてさまざまなスタートアップでインターンを始め、ついには高校も飛び級で卒業。ハーバード大学への入学も決まりました。サラさんを「スポーツ少女」とばかり思っていた同級生たちは、その進路に驚いたそうです。

これは余談ですが、ハーバード大学の面接に膝の破れたデニムで赴いたら、相対した面接官は彼女を不合格としたところ、コンピューターサイエンス学部長(マークザッカーバーグの担当教官でもあった人物)が「ノーベル賞を与えるか否かの判断に、その人のファッションを考慮することはない」という鶴の一声で、一転合格となったのだとか。

ただ、彼女自身は大学の授業にも満足できず、1年で中退。Snapchatでインターンをしている間に、オープンソースの開発者コミュニティを通じて出会い、後にAlloy Automationの共同創業者となるグレッグ・モジカ(Gregg Mojica)さんとサイドプロジェクトを始めます。それが、エンジニアでなくとも店舗運営を安価に自動化できるAlloyの開発でした。

Image copyright: Sara Du & Gregg

Alloyのアイデアは、サラさんが自らのD2Cブランドを運営したり、友人がShopifyでつくったストアにカスタムコードを提供したりするなかで、ECショップの課題(=ユーザーペイン)を知っていったことで形づくられていったといいます。

実は先日、サラさんと直接話す機会がありました。

起業のきっかけは、「なにかを証明したかった」(“I want to prove something.”)から。アジア移民として苦労した両親のもとでマイノリティとして育った彼女。女性であっても若くても、テクノロジー業界は公平で透明で、多くのチャンスに溢れている。ほんの5年前なら、21歳の移民の女性が2,000万ドルもの大金を手にして事業を興すなどということは考えられなかった。後に続く世代のために、道を切り開いていきたい──。サラさんはそう言います。

彼女から感じたのは「世の中を変えたい」といった大義よりも、「自らの価値観を突き詰め、体現する」ための手段としての起業でした。

もともとアートに強い興味のあったサラさんは、会社経営もひとつの「芸術」であり、プロダクトはひとつの「作品」であるとも言います。そのことば通り、AlloyはそのUIやウェブサイトのデザインに至るまで美しく、細部まで彼女の芸術的なこだわりを感じます。

Alloyの掲げる「ツールによってEC事業者がよりクリエイティブな作業に集中できる」という提供価値も、アートを起源としています。そこには、有名になりたい、ひと儲けしたいという感情ではなく、起業をナチュラルで自分らしい生き方として選択するZ世代起業家の姿が垣間見えます。

Image copyright: VIA TWITTER

一般論ですが、日本での起業は「ビジネスモデル主導型」が多いと感じます。どのマーケットが空いているか、いかにして儲けるか、どうやったら成功するか……。

翻って米国の起業家は、圧倒的に「課題主導型」です。自分が感じている問題意識、解決したい課題を強く特定して、方法論に関する正解を最初から求めず、高速で仮説検証しながらゴールに躙り寄るスタイルです。21歳の起業家のことばを聞き、彼女にとってもまた、自分の中に沸き起こる価値観やパーパスに素直に向き合った結果が起業だったのだと感じます。

more opportunities

Gen Zのしなやかな起業

こういった起業への向き合い方は、Z世代に馴染みやすいのかもしれません。あるデータによれば、米国では「Z世代の54%が起業したいと考えている」そうです。

理由はいくつか考えられますが、まず、インターネットネイティブな世代には「必要な情報は与えられるのではなく、自ら取りにいく」が身についています。親や教師から選択肢を与えられるのではなく、インターネットで自ら「やりたいこと」を取りに行ける世代。週末を利用したサイドプロジェクトなどで欲しいものをつくっていて、気がついたら起業、という例も珍しくありません。

また、テクノロジーのもつ、公平性や透明性に惹かれるという理由も大きいでしょうだれにとっても平等に機会が転がっていて、コードさえかければ学歴も人種も国籍も関係ないフラットな世界。Z世代がWeb3系にこぞって向かっている理由も、Web3が仲介者を排し、スマートコントラクトで規則的に処理される透明性やシンプルさが、世代感情と合致している点も想像できます。

さらに、高学歴偏重や大企業信仰、あるいは多額の費用を払って大学へ通うことへの疑問もあります。

2008年のリーマン・ショック時に小中学生だったZ世代は、有名企業が一瞬にして崩れ去り学歴や地位が無意味になる瞬間を、その親や社会を通じて見ています。さらにCOVID-19によるパンデミックが、その疑念を推し進めたこともあるでしょう。学歴や地位がまったく役に立たない瞬間に立ち会った経験から、そこへ隷属することに魅力を感じず、お金よりもライフスタイルによって駆動される人生を求めているようにも映ります。

Image copyright: サム・アルトマンは「米国の大学教育は、ほぼ終わってる」とツイート VIA TWITTER

このギャップが世代間でのすれ違いを生む理由になっているのも事実です。Alloyのサラさんの両親も、娘がハーバード大学を中退した事実をなかなか受け止められなかったそう。サラさんも「両親が思うアメリカンドリーム」を奪ってしまったようで、気まずさを覚えてもいました。親世代にすれば、アカデミックな成功こそが夢であり、娘がドロップアウトしたことへの落胆があったのです。

そんな両親にシリーズAラウンドを終えたことを報告。その際、サラさんはてっきり「OK、ところでこの事業はいつ終えるの?」といった冷めた反応を予想していました。ところが、両親はこのときはじめて「サラを誇りに思うよ」と認めてくれたのだといいます。

「アメリカンドリームは有名大学を卒業することだけでない。起業して人に役立つものをつくることでも体現できる」とサラさんは語ります。Alloyという彼女のアート作品は世界にどんな感動を与えてくれるのか、楽しみでなりません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas

(構成:長谷川賢人)

🚀 ニュースレター連載「Next Startup」、次回は4月23日(土)に配信予定です。

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