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Climate:#8 海の幸のサステナブル

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published
Image copyright: REUTERS/Willy Kurniawan
月曜夜のニュースレター「Climate Economy」は、今回からちょっとアップデート。毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。今日4月4日は「海の幸」について、いくつかの論点をお届けします。

世界の海の表面積の約64(体積の約95%)はどの国の領海にも属さない「公海」です。海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)の第117条では、公海の「生ける資源」の保全に必要な施策をとる義務が各国政府に課されています。

海の保全に最も有効な方法のひとつが、海洋保護区(特に禁漁区)の指定です。世界海洋条約(Global Ocean Treaty)という、公海を海洋保護区に指定できるようにするための動きが近年盛り上がってきており、環境保護団体Greenpeaceが立ち上げた署名には約500万人の人びとが賛同しています。

こうした動きを受けて、国連では公海の生物多様性を守るための法的拘束力をもつ手段の制定に向けて交渉が進められており、今年3月にはニューヨークでその最終回である第4会合が開かれましたが、残念ながら国際的な合意には至りませんでした。


By the Digits

数字でみる

  • 7.74%:世界の海洋で海洋保護区に指定されている面積の割合。漁獲禁止区に指定されている表面積は約2.8%となります。国連の世界生物多様性枠組み条約の草稿では、2030年までに海洋の30%以上を保護区に指定する「30×30」という目標が掲げられています
  • 1.5兆ドル:年間GDPで表した海洋の価値として、OECDが行った試算結果。ただしこれは控えめな試算で、現状が維持された場合、この数字は2030年までに3兆ドルに増えると見込まれています
  • 58種類:米フロリダ州の海岸から200マイル沖の範囲に生息する魚から検出された医薬品の数。海へ流し込む水の処理が不十分であることが原因であると考えられており、解決策として、専門家は下水処理インフラの整備と改善を推奨しています
  • 1,450億ドル:米国が2021年に被った気象関連の被害総額として、米海洋大気庁が発表した試算。米国証券取引委員会は現在、すべての上場企業に気候変動関連のリスクの開示を義務付ける「Sunshine Act」を審議中です

Quiz

ここで問題です

海の生物多様性を守るために個人がとれる最も有効な行動は何でしょうか。

プラごみの量を減らす
海洋観光ツーリズムに参加する
食生活を見直す
エコ洗剤を使う

答えは③の「食生活を見直す」。国連の生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が2019年に発表した報告書によると、海の生物多様性を壊す最も大きな原因は魚の乱獲です。

海産物への需要を下げようという意識の高まりを追い風に、代替海産物を開発する企業に投資が集まっています。Good Food Instituteの産業部門報告書によると、代替海産物企業への投資は2019年には2,100万ドルだったものが、2021年上半期には1億1,600万ドルにまで成長。市場でも着実に認知が高まっています。


Making the Connection

マグロと再エネとの関係

マグロの水銀濃度は高く、英政府の栄養ガイドラインは「妊娠を望む人は、マグロの切り身を週2食までにするべき」というアドバイスを行っています。米食品医薬品局(FDA)も水銀濃度の高さを根拠にマグロの消費を控えるよう栄養アドバイスを発信しています。海の食物連鎖で上位に位置するマグロの水銀濃度は、FDAが発表している各種魚介類のリストの中でも上位にあります。

では、マグロに含まれる水銀はどこから来るのでしょうか。国連によると、欧米や日本などの先進諸国における最大の水銀排出源は石炭の燃焼です。石炭から再エネへの移行は、マグロをはじめとする海の幸の水銀濃度の低下にもつながるのです。

Image copyright: REUTERS/Adrees Latif

Along the Coastline

海岸沿いでは……

🐋 魚が獲れても人は飢えている。ケニア南部キリフィは、豊富な海産物に恵まれた漁村です。しかし、地元の人びとは穀物に偏った食生活を送っており、児童の約半数が発育不全に陥っています。この状況を改善するために、米国際開発庁(USAID)は2016〜21年まで約5,300万ドルを「Afya Pwani」(海岸を健康にする)プロジェクトに投入し、キリフィの栄養状態を改善しました。専門家は、問題の根本原因はケニア沖での魚の乱獲にあると指摘しています。

☀️ …マナティーも飢えている。米国のインディアン川ラグーンに生息し、水底に生える草を食べる哺乳類、マナティー。しかし、主に農業排水による富栄養化でラグーンの表面に藻が増殖したことで、底まで太陽光が届かずに食料不足を引き起こし、昨年だけで1,100頭のマナティーが死んでしまいました。絶滅危惧種に指定されてもいるマナティーを守るために、フロリダ州政府はマナティー保全に2,700万ドルの予算を確保しました。

🦐 青い万里の長城。マングローブの森が覆う面積は地球の陸地の0.1%に過ぎませんが、その炭素吸収力は、通常の森林の約10倍。Global Mangrove Allianceが2021年に発表した報告書によると、マングローブ喪失の最大の原因は海産物(特にエビ)の養殖であり、人為的喪失の47%を占めます。生物多様性の保全にも欠かせないこの生態系を海洋保護区として管理するために、国際自然保護連合(IUCN)はインド洋に面する10カ国の政府と共に、2021年11月に「青い万里の長城」(The Great Blue Wall)計画を発表しました。その一環として、アイルランド政府はタンザニアに面する「タンガ=ペンバ海景」の保全に40万ユーロの援助金を提供しました。

Image copyright: REUTERS/Anushree Fadnavis
Development at the cost of the environment.

Meet the Realist

現実をみつめる人

「Mangrove Action Project」理事のアルフレード・クアルトさんは、数十年にわたって世界のマングローブの変遷を追ってきました。

わたしがMangrove Action Projectを始めたころは、マングローブは蚊が多い沼地、価値の無い荒地として扱われていました。マングローブの1ヘクタール当たりの価値は、魚や木材の価格に基づいて70ドル程度と見積もられていました。対して、エビの養殖場は1ヘクタール当たり2,000〜3,000ドルです。こうして1990年代から2000年代初頭にかけてエビの養殖場が急速に拡大し、年間2〜3%のマングローブが失われました。多くの人びとがマングローブの真の価値に気がつき始めたのは、2004年12月の大津波(スマトラ島沖地震)の後でした。海岸の保護という役割だけでも、マングローブの価値は1ヘクタール当たり2万〜3万ドルにまで上がったわけです。

防災の観点から価値が上がったマングローブですが、復元作業は難航しました。

マングローブの復元には巨額のカネがつぎ込まれました。なかにはギネス世界記録に載るような、1日で100万本から300万本の苗木を植えるというようなプロジェクトもありました。しかし、修復作業は効果的な方法では進められておらず、復元事業の失敗率は80%にのぼりました。ギネス世界記録は表面的にはインパクトがありますし、話題にもなりますが、後で現場に戻ってみると、マングローブの苗木の大半が死んでしまっているという状態でした。

復元を効果的にするためには、無闇に植林をするのではなく、地元地域の人びとのノウハウをベースにして計画を練る必要があるとクアルトさんは指摘します。また、大々的な植林計画などが打ち出された場合は、植えた木がその後数年間で本当に育ったのか、マングローブは本当に復元されたのかという「事後評価」がとても重要だとクアルトさんは熱く語ります。

問題は、失敗が報告されていないという点です。事後評価が行われていないからです。ギネス世界記録の現場にも誰も戻りませんでした。各国政府や世界銀行が出す巨額の融資は、往々にして失敗事例へ流れるものです。そこでは植林の初めの数カ月だけがクローズアップされ、「90%の成功率」などという数字が踊りますが、後で現場に戻れば失敗に終わっているものがほとんどです。

事後評価をしっかりと行うことで、本当に効果的な復元事業に資金が流れるようにできるとクアルトさんは力説します。これはマングローブ保全だけでなく、気候変動対策や環境保護に関わる事業全般にとって大切な教訓でしょう。


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