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Company:善きSNSの「監視社会」──Nextdoor

反Facebook。世界最大を目指さずローカル重視。新興SNSのNextdoorは顧客ロイヤリティも高く、米国外にも進出しています。しかし、そこにはいまだ解決されない大きすぎる問題が。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

水曜夜の「The Company」は、毎回ひとつの注目企業の「いま」を深掘りするニュースレター。これまで配信してきたバックナンバーは、すべてブラウザでお読みいただけます(要ログイン)。

「セサミストリート」に「Who are the people in your neighborhood?(ご近所さんは誰?)」という歌が登場したのは、もう半世紀も昔の話です。しかし社会のオンライン化が急速に進むなかで、自分の近所に住んでいる人を知っているかという問いは、いまも変わらず重要な意味をもっています。

ネクトドア・ホールディングス(Nextdoor Holdings)が運営する「Nextdoor」は、近隣住民と触れ合うことで、デジタルライフと現実世界の溝を埋められる場所です。Nextdoorは地域性に焦点を絞ったいわばご近所SNSで、6,900万人に上るユーザーは居住地ごとに分けられ、プラットフォーム上での交友範囲は自分が住んでいる場所から数マイル以内に限定されています。

利用登録は本名と実際の住所で行う必要があり、住所確認は自宅にハガキが送られてくる仕組みになっています。このため、ペットが行方不明になったときや、いらなくなった家具を何かと交換したいとき、また地域に根ざしたビジネスを宣伝したいときなどに最適なプラットフォームなのです。ほかにも、公共の安全に関わる問題について地元の警察や保健所に連絡を取ることもできます。

Nextdoorのユーザー数はパンデミック以来50%拡大しており、米国では3世帯に1世帯はユーザーがいるとされています。一方で、「近所」という概念をそのままオンライン化したプラットフォームであるがゆえの問題も生じています。具体的には、特に公共の安全と犯罪関連の投稿において、人種差別容認してきたと批判を浴びているのです。また、パンデミックの際にはプラットフォーム上で誤った情報が広まったために対応を迫られています。

Nextdoor はこれまで、「優しい」ソーシャルメディアというブランドイメージを定着させようと努力してきました(上場の際には、ティッカーシンボルに「KIND」を選んだほどです)。しかし、すべてのユーザーに対してインクルーシブというわけにはいかないようです。

Image copyright: REUTERS/Brendan McDermid

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 11カ国:事業展開する国の数
  • 23万人:ボランティアのモデレーターの数
  • 3,600万人:週間アクティブユーザー数
  • 43億ドル(5,263億円):2021年11月に特別買収目的会社(SPAC)を通じて上場した際の時価総額
  • 23億ドル(2,815億円):現在の時価総額
  • 54%:「近所の家で年明けになってもクリスマスの飾り付けがそのままでも気にしない」と回答したNextdoorユーザーの割合
  • 9万7,000ドル(1,187万円):2021年のNextdoorユーザーの平均世帯収入。米国の平均世帯収入8万8,000ドル(1,077万円)より高い

CHARTING HOW PEOPLE USE NEXTDOOR

高いロイヤルティ

Nextdoorは「世界最大のソーシャルメディア」ではありません。また、そうなることを望んでもいません。もちろん米国では一定の市場シェアを確保しており、国外でもユーザーベースは拡大しつつありますが、それよりも重要なのは顧客のロイヤルティが高い点です。2020年には、Nextdoorの週間アクティブユーザー(WAU)の半分がプラットフォームを毎日利用していました。

NEXTDOOR IRL

現実世界との関わり

「Facebook」や「Citizen」といったコミュニティを重視したソーシャルメディアのなかでも、Nextdoorでは特にデジタルと現実の世界との境界線が曖昧で、住んでいる地域や都市の政治、経済、文化にはっきりとした影響が現れています。具体的にはどういうことなのか、見ていきましょう。

  • 政治:政治に関する議論は白熱し過ぎるため、Nextdoorは米国では国政を話題にすることは避けるよう、ユーザーにアドバイスしています。しかし地域レベルであれば話は別で、むしろ活発な議論が推奨されています。これまでにも、有権者登録の取りまとめや自治体の首長選挙の候補者との懇談会の開催といったことが行われてきました。一方で、ミシガン州ブルームフィールド(Bloomfield)の住民が、地元の住民投票に関して誤った情報を広めたとしてNextdoorを訴えたこともあります。
  • 地域の防犯と犯罪:Nextdoorでは犯罪の疑いのある事例を投稿できるほか、以前はそれを警察に通報する機能もありました(これは2020年に廃止されています)。現在も、法執行当局がプラットフォームで存在感を高め信頼を得られるよう、地域の警察署との連携は続いています。警察はNextdoorのページで安全情報を定期的に更新し、コミュニティイベントやタウンミーティングも開いています。
  • スモールビジネス200万以上の地域密着型の事業者がNextdoorを使って製品の宣伝をしたり、口コミによるビジネスの拡大を目指しています。Nextdoorによると、ユーザーの88%は地元の店で買い物をするようにしているほか、3分の2はお気に入りの店の情報などを投稿しているそうです。また、不動産業者はサイトに物件の広告を掲載することもできます。
  • 公衆衛生:COVID-19のパンデミックでは、多くの人が新型コロナウイルスに関する情報を得るためにNextdoorを使い始めました。しかし、ここでも誤った情報の拡散が問題になっています。Nextdoorの投稿はすべてコミュニティ内部の人たちによるもので、身元確認もされているため、間違っていたり誤解を招く可能性のある情報でも否定するのが難しいのです。Nextdoorの広報担当者は『Recode』の取材に、「人びとはFacebookよりもNextdoorを信じていると思います」と話しています。

Nextdoorは対策として、当局がワクチンおよび検査に関する情報を提供するための特設ページが用意されたほか、COVID-19について投稿する場合は情報源を提示するようユーザーに呼びかけました。しかしプラットフォームでは依然として、一定量の不正確もしくは誤解を招くような情報が放置されたままになっています。

BRIEF HISTORY

Nextdoor小史

2010年:シリコンバレーで経験を積んだ二ラブ・トリア(Nirav Tolia)が仲間たちとNextdoorを立ち上げる。不動産情報サイト「Zillow」の最高経営責任者(CEO)リッチ・バートン(Rich Barton)は、初期段階から出資していた

2016年:初の国外事業としてオランダに進出。翌年には英国とドイツでもサービスの提供を始める。また、ユーザーからの批判を受けて人種差別的な投稿を減らすためのツールを導入

2017年:不動産広告を導入。ZillowやRedfinなどの競合となる

2018年:トリアがCEOを辞任。モバイル決済サービス「Square」の最高財務責任者(CFO)だったサラ・フライヤー(Sarah Friar)が新CEOに就任

2019年:ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動を受け、反人種差別センターの開設や差別的な発言に対する警告システムなど、インクルージョン促進のための施策を導入。警告システムに関しては、2021年の調査で警告を受けたユーザーの34.6%は何らかの行動を取ったことが明らかになっている

2021年:SPACと合併して上場。今後も新たな市場への進出を続けていく方針を示している

Image copyright: Sarah Friar, CEO of Nextdoor REUTERS/Brendan McDermid

CODING OUT RACISM?

人種差別をなくすには

Nextdoorは現実世界のコミュニティをオンライン化するというミッションを掲げますが、ここには人種や階級、パワーバランスといった要素も絡んでくるために問題が生じています。プラットフォーム上で、ただクルマを運転したり近所を歩いたりしていただけの黒人や非白人を、白人ユーザーたちが勝手に「危険人物」とみなして、彼らに対する遠回しな(あからさまなものもありますが)メッセージを投稿するということがよくありました。

このため、Nextdoorは人種差別を容認しているという評価が定着しただけでなく、黒人のユーザーが「身の危険を感じる」と投稿したり、プラットフォームから退会するといったことも起きています。

2016には初めて人種差別への対応が取られ、投稿に差別的と受け取られるかもしれない表現が含まれている場合は事前に警告が表示されるようになりました。また、プラットフォーム上で犯罪を通報するシステムでも、怪しい行動を取った人物を描写するのに人種だけでは通報ができないように変更が加えられています。しかし『BuzzFeed』の報道によれば、こうした措置が取られてから9カ月が経過した時点でも、差別問題は解決されていませんでした。

一方、Nextdoorではコミュニティ内の推薦で選ばれたボランティア20万人以上が、不適切なコンテンツの監視を行なっています。2021年末からは、こうしたボランティアのモデレーターを対象に、無意識な偏見に自覚的になることを目指したウェビナーが始まりました。

地域コミュニティにおける人種差別の問題は、いまに始まったことではありません。Nextdoorでは、居住者の大半が白人である地域では黒人やラテン系に対する一般的な不信感が存在します。しかし、これは人種による居住区域の分断を維持するために、白人たちが何十年も前から培ってきた態度なのだと研究者は指摘します。

非白人の居住者を「監視」するためにNextdoorを使えば、それは「地域の一員」であるのは誰かというメッセージを発しているのと同じです。非白人のユーザーが自分は歓迎されていないと感じれば、こんな所には住みたくないと思うようになるかもしれません。アルゴリズムや利用規約が変更されたことで、こうした行為はある程度はなくなりました。しかし、Nextdoorだけの努力では構造的な問題は解決しないのです。

ONE 🪞 THING

ちなみに……

Nextdoorは小規模なネットワークと対面でのコミュニケーションに重点を置いており、このことから「反Facebook」(anti-Facebook)と呼ばれてきました。このビジネスモデルは好評なようで、2021年にはFacebookでも「Neighborhoods」というツールが導入されています。これはユーザーが住んでいる場所のデータからローカルのニュースや投稿を集めるもので、Nextdoorとよく似たデザインで、まったく同じように機能します。

他のソーシャルメディアで成功したモデルの真似をするというメタ(当時はまだフェイスブックという社名でした)お得意の戦略なのですが、これまでのところ、Nextdoorの人気が落ちてきたという事実はないようです。

今日の「The Company」ニュースレターは、都市関係レポーターのCamille Squiresがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。

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