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Company:義肢の未来をつくるオズール

この社名を知っている人は多くはないでしょう。アイスランドの義肢メーカー、オズールは、自分の手足とまったく同じように動いて機能する義肢を完成させることにあります。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published
水曜夜の「The Company」は、毎回ひとつの注目企業の「いま」を深掘りするニュースレター。これまで配信してきたバックナンバーは、すべてブラウザでお読みいただけます(要ログイン)。

南アフリカの元陸上選手オスカー・ピストリウス(Oscar Pistorius)は、「ブレードランナー」(Blade Runner)というあだ名で知られています。ピストリウスは2000年代、薄い刃のような競技用義足で活躍して注目を集めました。

ブレード」と呼ばれるこの種の義足はピストリウスがデビューしたときにはまだ新しいものでしたが、現在では障害者陸上の標準装備となっています。2021年に行われた東京パラリンピックでは、義足ランナーは全員がブレードを着用していました。

ピストリウスが使っていたブレード「チーター」(Cheetah)は競技用の特殊なものですが、世界では多くの人が日常的に義足や義手を使っており、その市場規模は14億ドル1,737億円)に上ります。そして、世界の2大義肢メーカーの一角がオズールÖssur)というアイスランドの企業なのです。

オズールの社名を知っている人は少ないと思いますが、同社はアスリート向けだけでなく、一般向けの製品も手がけています。義肢は過去20〜30年間で驚くべき進化を遂げました。例えば、現在の競技用義足は炭素繊維強化樹脂を何層も重ねた素材でできています。オズールのバイオケミカル・ソリューションズ部門でディレクターを務めるクリストフ・ルコント(Christophe Lecomte)は、「素材は常に進化しています。航空宇宙分野自動車分野での研究開発が追い風になっているのです」と話します。

また、ブレードのソール部分はナイキがデザインしているほか、マイクロチップやモーターを組み込むことで、さらにパワフルかつ繊細な動きを追求した製品もあります。一方で、競技用義足の性能があまりに優れているために、アスリートの実力が不自然に高められているのではないかという議論も起こりました。これは興味深い指摘ですが、論点としては付随的なものでしかありません。

義肢の進化の歴史は、本物の手足と同じように脳からの指令で動かせるような補装具を生み出したいというメーカーの努力に支えられてきました。オズールにとって究極の勝利とは、自分の手足とまったく同じように動いて機能するために、ユーザーは装着していることを忘れてしまうような義肢を完成させることなのです。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 7億1,900万ドル892億1,100万円):2021年の売上高。前年は6億3,000万ドル(781億6,800万円)だった
  • 5万ドル620万円):競技用義足の最上位モデルの価格
  • 4,000人:世界30カ所の拠点で働く従業員の数
  • 200万回:ブレード1製品の試験回数
  • 28個:東京パラリンピックでオズールの製品を使用する選手が獲得したメダルの数
  • 25時間:マイクロチップ制御で電動アシストが付いた義足の最新モデルのバッテリー駆動時間

ORIGIN STORY

オズールの歴史

オズールの創業者オズール・クリスティンソンÖssur Kristinsson)は生まれつき足に障害があり、成長する過程で足を切断しなければなりませんでした。クリスティンソンはスウェーデンで義肢について専門的に学び、1971年にレイキャビクで義肢の装着を行うクリニックをオープンします。

しかし、彼はすぐにある問題に気づきました。当時は腕や脚の切断部を義肢のソケットにそのまま押し込んでいたために、肌が擦れて痛くなったり、動きが制限されてしまっていたのです。オズール副社長のエッダ・ゲイスドッティル(Edda Geirsdóttir)は、「当時は硬いソケットから手足を保護するために木綿やウールの靴下を履いていました」と説明します。

クリスティンソンは1986年、切断部を保護するためのシリコン製ライナーを発売します。この製品は大きな成功を収め、1990年代まではオズールが市場をほぼ独占していました。オズールは1999年に上場し、他社の買収による事業拡大を模索します。そして2000年にはブレードを発明したフレックスフットFlex-Foot)を7,200万ドル(89億3,300万円)で傘下に収め、義肢分野に本格的に進出したのです。

The running blades worn by Oscar Pistorius of South Africa.
Image copyright: Ben Radford/Corbis via Getty Images

A BIG PLAYER IN PROSTHETICS

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陸上用ブレードや電動の膝継手(義足の膝部分のパーツ)は、オズールの売上高の63%を占めます。義肢の世界市場は14億ドル規模に上り、オズールの市場シェアは24%で2位となっています。


THE EVERYTHING MATERIAL

すべては「素材」

1976年、ヴァン・フィリップス(Van Philips)という米国の大学生が水上スキーをしているときに事故に遭い、左足の膝下を失う大怪我を負いました。しかし、当時の義足は脚のかたちを模した使い勝手の悪いものしかなく、フィリップスはまったく新しい製品を開発しようと決意します。こうして誕生したのがチーターの後脚からデザインのヒントを得たフレックスフットで、これこそわたしたちがいま目にするオズールのブレードの原型なのです。

新しい義足をつくるために、強靭かつ軽量、熱に強く価格も安い素材を探していたフィリップスは、炭素繊維(カーボンファイバー)に出逢います。炭素繊維の歴史は古く、19世紀末には白熱電球のフィラメントに竹の繊維を炭化したものが使われました。一方で、現在のように「軽くて強い」ことが特徴の炭素繊維が登場したのは1960年代のことです。

個々の炭素繊維は毛髪よりも細く、1本だけではそれほどの強度はありませんが、何千本もより合わせて圧縮することで最大で鋼の18倍の強度を発揮します。宇宙時代の新素材である炭素繊維複合材料を最初に採用したのは、英国の航空機エンジン大手ロールスロイス(Rolls-Royce)でした。ロールスロイスは1960年代後半に、カーボンファイバー製のエンジンの開発に着手しています。

それ以来、炭素繊維は食品以外のあらゆる分野に浸透してきました。現在では、航空機部品や自動車部品、レーシンググローブ、風力タービンのブレード(羽)、電線、半導体チップ、眼鏡のフレーム、衣服、スキー板など、さまざまな物に使われています。

炭素繊維は素晴らしい素材ですが、価格が高いことが難点です。また「炭素」という言葉から有機物だと思うかもしれませんが、生分解はしないので廃棄処理の問題もあります。熱に強いため、溶かしてリサイクルすることが難しいのです。

炭素繊維は革命的な素材ですが、他の驚くべき技術と同様に、地球環境を破壊せずにこれを活用していくにはどうすればいいかを考える必要があります。

Image copyright: カーボンファイバー素材で作られたボーイング787型機の胴体(Reuters/Tim Kelly)

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歴史的な瞬間

東京パラリンピックの女子走り幅跳びでは、オランダのフルール・ヨングFleur Jong)が金メダルを獲得しました。両脚が義足のヨングはオズールのブレードを使っており、パラリンピックに先立ってポーランドで開かれた世界パラ陸上のヨーロッパ選手権で世界記録を出しています。そして東京では、この自らの記録を破って優勝したのです。

Fleur Jong of the Netherlands in action at the Tokyo Paralympics in 2021.
Image copyright: Reuters/Athit Perawongmetha

ONE 🤡 THING

ちなみに……

オズールがフレックスフットと買収交渉を進めていたとき、フレックスの創業者フィリップスは、アイスランドでは生活習慣病にかかる人が少ないことに気づきました。フィリップスはベジタリアンで健康に非常に気を使っており、この事実に興味をもちます。

フィリップスはある日の昼休み、オズールの経営幹部2人に「アイスランドの人はジャンクフードは食べないというのは本当ですか」と尋ねました。2人はいずれも多少太り気味でしたが、顔を見合わせた後にこう答えたそうです。「わたしたちがこんな体型になったのはどうしてだと思います? バナナを食べていたせいでしょうかね


今日の「The Company」ニュースレターは、シニアレポーターのSamanth Subramanianがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。

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