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Portrait of ME:世界の“わたし”の肖像 #2

こんばんは。週末はちょっとひと休み。そこで暮らす人たちが日々感じている悦び、辛み、悩みをお届けします。連載「Portrait of ME」第2回の配信です。

Image copyright: Skandihus (Walthamstow studio)
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Kurumi Fukutsu
By Kurumi Fukutsu

Contributing Editor

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Portrait of ME #2

「母として働く」を、受け入れてくれた場所

皆さん、こんばんは。Quartzは毎日世界で激変する経済の動きを伝えていますが、週末はちょっとひと休み。そこで暮らす人たちが日々感じている悦び、辛み、悩みをお届けします。連載「Portrait of ME」第2回の配信です。

Image copyright: Skandihus (Walthamstow studio)

松田明子さん|2014年に多摩美術大学美術学部工芸学科陶専攻を卒業後、日本での会社員生活を経て18年7月に渡英、現在はロンドン各地で講師としてワークショップも行う。20年にはパートナーとのあいだに一児をもうけ、母に。https://akikomatsuda.com/about

1回目の「Portrait of ME」を配信したあと、思っていた以上の反響があり、たくさんの声をもらった。国内外にいる女性の読者、身の回りだと大学時代の恩師、友人など、それぞれが自分の人生について、そして「子どもをもつこと」「家族をもつこと」について考えていることをシェアしてくれた。普段話すことのないそれらについて、改めて考え直すきっかけになったというコメントをくれて、この連載を始めた意味を見出すことができた気がしている。

さて、2回目は誰に話を聞こう?と考えていたときのこと。Quartz Japanのポッドキャストのゲストに招いたことがきっかけに交流するようになったバンド、KikagakumoyoのKurosawa Goくんと話をしているなかで、彼は「ロンドンに陶芸アーティストをしている友人がいるよ」と教えてくれた。

それが今回、話を聞いた松田明子さんなのだが、コロナ禍のなか異国で子どもを産んだという体験談にも、そして子育てと仕事を両立することで彼女に起きた変化にも興味があった。わたし自身、ロンドンにかつて住んでいたこともあって親近感も重なったのかもしれない。さっそく連絡を取り申し込んだZoomでのインタビューを、彼女は快く引き受けてくれた。

渡英後はじめた仕事。オーナーとの出会い

東京生まれの明子さんは、幼いころから絵画、書道、音楽、陶芸に親しんでいたという。大学で陶芸を学び卒業後、1年の制作活動を経て、その後は3年間会社員として勤務。東京にいる際は都内にアトリエを構え制作、国内や海外の展示会に出展するなどといった活動も精力的に行っていた。

「生まれ育った東京は、便利で恵まれている場所。このままでは自分はここに甘えてしまうと思いました。一度離れて、冒険しながら自分のできることを試してみたいという気持ちが大きくなっていったんです」

ロンドンへの移住を決意した理由をそう話す明子さん。もともと海外での生活に興味があったことからイギリスでのワーキングホリデーを申請。そして2018年、渡英後に住み込みで働き始めた西ロンドンにあるスタジオ、Kite Studiosでの出会いが、その後の彼女に大きな影響をもたらすことになる。

「そこでは陶芸、ドローイング、版画などローカルの子どもから大人に向けたさまざまなワークショップが行われ、わたしは陶芸の講師として体験クラスなどでの指導を担当することになりました。スタジオを運営するオーナーは、とにかく人を巻き込むのが上手で、いつも何か新しいことを実現できないかとワクワクしている女性。ヒッピーっぽさも感じさせる人でしたね。彼女は大学生のころチリで版画の勉強をしていたそうで、異国での生活に挑戦することに対してもシンパシーを感じて応援してくれました。誰にでも平等で情熱的な人柄で、家族を支えながら自分のビジネスにも奮闘してた」

そのスタジオの様子を、「隣り合う環境全体がひとつのコミュニティのようだった」と説明する明子さん。実際に、児童向けのスピーチセラピーやタイピング教育を行う慈善団体や、医療の現場で使用される人体模型を制作するスタジオなども拠点を構えていたそうで、さまざまな団体が軒を連ねる様子はまさにダイバーシティそのもの。そんな場所を生んだオーナーの、「いい意味で『落ち着かない』ところに惹かれた」と、明子さんは言う。

また、このオーナーの前向きで包括的な姿勢について、彼女の子どもの影響も少なからずあると思うと、明子さんは続ける。

「オーナーには3人の息子がいて、長男は自閉症で学習障害がありました。オーナー自身も子育てをするうえで、自分が息子のためにも世界と広く関わることができるオープンなコミュニティをつくりたいと強く思ったそうで、特別支援が必要な児童向けのアートクラスを行っています」

Image copyright: Columbia Road Clay

コロナ禍での出産、そして子育て

そんな環境で仕事に邁進していた明子さんだが、渡英して2年、大学時代の親友を通して東京で出会いロンドンで再会した、「よき理解者」でもあるパートナーとのあいだに子どもができた。

「正直、びっくりしました。妊娠が分かったときは、異国ということもあったし、不安で押しつぶされそうでした。でも、パートナーともに話し合ううちに、ともに授かった命の誕生を支えるプロジェクトを成功させるぞ! といった気持ちが強くなり、不安も気づけば強さに変わっていくようでした」

さらに、国の整ったサービスに安心を感じたとも言う。「英国では国の医療サービス(NHS)で出産も無償、出産方法もさまざまで安心して出産に挑める環境づくりができていると感じました。妊娠しないという決断に対しても女性の選択を尊重しており、多くの団体が無償でサポート、カウンセリングを行っています」

明子さんは、コロナの影響でパートナーの実家であるスコットランドで出産をした。

「コロナの関係でビザオフィスが閉まり英国から出れず……。2020年は予期せぬことが続き、日本への里帰り出産という選択肢は消えてしまいました。結局、ロックダウン中はパートナーの実家にお世話になって、スコットランドで出産しました。スコットランドはイングランドとNHSのシステムが違うようで、産後の赤ちゃんの第一歩を支える必需品が詰め合わせになったベビーボックスというものが提供されましたね」

もちろん、いいことばかりではない。英国独自のパートナーシップの制度による困難もあったようだ。

「わたしたちは、2019年から異性間のカップルにも認められているシビル・パートナーシップというかたちで籍を入れました。もともと同性婚のカップルに認められていた制度ですが、異性間においては〈妻(wife)〉、〈旦那(husband)〉と呼ばない、宗教上のことをシェアしないなどといった違いがあります」

「シビル・パートナーシップは英国では〈結婚〉と同じ意味合いをもちますが、日本では法律上で同性婚が認められておらず、シビル・パートナーシップという概念そのものも存在していません。そのため、このままでは日本において、わたしたちは戸籍上家族として認められず、配偶者ビザもおりません」

「また産後、現地の日本大使館に出生届を出して日本国籍の留保を意思表示するのですが、未婚間で生まれてくる子どもの日本国籍留保について、わたしの定住権と、届け地がスコットランドの場合に出生後の認知時に英国籍を取得する関係から日本が定める国籍法の規定にそぐわず国外で生まれた子の国籍留保が難航する可能性があると現地のスコットランドの領事館から連絡がありました」

「後日、出産時に駆けつけてくれた母が帰国後、日本の戸籍課に国籍留保の意思表示が書かれた書類を直接提出してくれたことで解決しました。このように、産後は二カ国間の法の違いから起こる予想外の問題に直面しました」

「母親」として、そして仕事との両立

いま明子さんは、母親としての自分と、働く自分とのバランスに悩むこともあるという。彼女たちが暮らす家は、それぞれの実家とも遠く離れていて、とても頼りにすることはできない。昼間に仕事をするとなるとチャイルドケアを雇う必要があるが、チャイルドケアを探すプラットフォーム「Childcare.co.uk」や子ども向けのアクティビティを地域ごとに検索できるオンラインプラットフォーム「Happity」などの力を借りる。

また、同じ日本人のコミュニティに感謝することも多いそう。

「ロンドンには世界各地からやって来ている移民もたくさんいて、両親の出身国が違う家庭も多いので出会う家族と共感し合えることも多いです。在英の日本人ママのコミュニティもあり、自宅のあるエリアでは、日本語教育の一環で読み聞かせや工作アクティビティなどを行なっているコミュニティに出会うこともできました。母国を離れて子育てしているからこそ、異国で出会う日本人ママとの絆は特別だと感じます」

Image copyright: Skandihus (Walthamstow studio)

多様性のあるコミュニティを共有したい

明子さんにとって、ロンドンで知り合った女性たちのもつエネルギーは大きなインスピレーションの源になっている。

「いま働いている2つのスタジオも、女性オーナーにより始動したものです。ひとつはデンマーク出身のStina Dulong率いるSkandihusというスタジオ。彼女には弁護士の経歴があり、ロンドンに来た当初は多忙でストレスフルな毎日を送っていたそうですが、陶芸に出会ってから人生も好転、制作プロセスを通していろんな人びとと共有できるマインドフルネスなスペースをつくり出したいと話してくれました」

「もうひとつは、Columbia road clayというスタジオで、米国・テキサス州出身のオーナーがはじめ、地域の人に無償で行うワークショップなども企画しています。オーナー自身、4人の子どもをもつ母親で、臨月の際もロクロでクラス指導するようなパワフルな女性です。ロンドンに来て、人生にはいろんなストーリーがあるけれど、そのなかでも自分の信念を貫く強い女性にたくさん出会うことができたことも、育児の大きなインスピレーションになっています」

Image copyright: Columbia Road Clay

今後は、こういったロンドンでの生活、出会い、仕事、子育て経験を活かし、「世の中をもっとよくするために、コミュニティとして共有すること」を目指しているという明子さん。

「都市に住んでいる人ほど街のスピード感から外れ、手でものづくりをしながら自分のペースとキャッチアップする時間が必要なのではないかと感じます。ロンドンでも6つのスタジオと仕事をしましたが、どこもさまざまな職種の人が集まりジムに通うような感覚で陶芸を習慣化させている人たちであふれていて、開放的なコミュニティをつくり上げていました

「来年、家族で日本に住む計画をしていて、わたしの母国の文化や日本語に触れてもらい、娘にとってもいい時間になればと思っています」

「わたしのホームであり、いつもインスピレーションを与えてくれた東京に制作スタジオを開きたいです。出身地、年齢、肩書きなどにとらわれず、手仕事を通してさまざまな人がもつ感覚とキャッチアップできるようなクラフトスペースや陶芸レッスンも提案できたらなと思います。ロンドン生活で体験させてもらったことをヒントに、少しでも関わる地域を生きやすく、よりよいものにする恩返しができたらと思っています」

Photography: Nobuko Baba
Edit & Text: Kurumi Fukutsu

✏️ 「Portrait of ME」は毎月不定期で、土曜日に配信します。ぜひ感想をお寄せください。

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