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Need to Know:いま「産業政策」が復活する理由

日本のR&D投資は世界一? いま、米中の戦略競争と世界的なエネルギー転換を背景に、世界では「産業政策」が再び勢いを取り戻そうとしています。産業政策の是非をまとめました。

Image copyright: Erik Carter
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

ニュースレター「Need to Know」は、世界のビジネスの風向きを変えようとしているモノ・コト・ヒトをひとつ取り上げ、「いま知るべきこと」をまとめるシリーズです。

産業政策(industrial policy)とは、主要産業の育成や技術開発の促進を目的とした、政府による一連の施策のことです。産業政策は現在もさまざまなかたちで行われていますが、市場経済が拡大するにつれ、国家による市場介入を有害とみなす考え方も出てきました。産業政策のことを「口にしてはならない政策」と呼ぶ人たちもいます。

こうしたことを考えれば、米国で産業政策が復活の兆しを見せているのは驚くべきことだと言えるでしょう。また、この傾向は米国に限らず西欧諸国全般に当てはまります。

米国の産業政策の歴史は古く、建国の父の1人で初代財務長官のアレクサンダー・ハミルトン(Alexander Hamilton)の時代にまで遡ります。近年では、政府は産業政策の対象をさらに多くの分野に広げており、成功の度合いにはばらつきがあるものの、研究開発(R&D)の補助政府機関との契約税制優遇措置といった手段を通じて、シリコンバレーのハイテク産業やバイオテクノロジー、2000年代半ばから続くシェールガスやシェールオイル開発などを支えてきました。

一方で、産業政策に否定的な経済学者もいて、彼らは、政治家が自分たちのための政策を進めることのリスクを指摘しています。市場における勝者と敗者を決めるのは政府の役割ではないというわけです。

現在、米中の戦略競争と世界的なエネルギー転換(ロシア軍のウクライナ侵攻で、欧州もエネルギー自給の強化を急いでいます)を背景に、産業政策が再び勢いを取り戻そうとしています

ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の非常勤シニアフェローのゲイリー・クライド・ハウバウアーはこれについて、「最大の要因は中国です。ハイテク産業の複数の分野で中国に追い抜かれるのではないかという懸念と、中国が産業革新を実現する魔法を発見したのではないかという恐れが合わさったものです」と話します。

ただ、現代のサプライチェーンの複雑さや、さまざまな重要産業における中国の優位性、地政学的状況の根本的な変化といった新たな課題に対応するためには、産業政策を見直していく必要があるでしょう。産業政策の新時代はどのようなものになり、世界経済はどう変わっていくのでしょうか。

🤓 EXPLAINER

産業政策の種類

産業政策とは基本的には、政府が経済、地政学、安全保障などの観点から重要とみなした分野で、生産と成長を積極的に後押しする政策のことです。具体的には以下のような方法があります。

  • 補助金と公的融資:職業訓練や技術開発、設備投資などのために必要な資金を企業に提供する
  • 助成金:特定の企業もしくは業界全体を対象にできる。生産と売上高を伸ばす一方で、効率の悪化を招く場合もある。中国では国内総生産(GDP)の3%以上が直接および間接的な形で補助金に当てられている
  • 長期の公共契約:政府機関からの発注は企業にとって確実な大口取引を意味する
  • 優遇税制:税金の控除や減税措置は業界全体を対象に行われる。例えば、米国ではレアアース(希土類)磁石を生産する国内企業に対する税額控除が検討されている
  • 輸出規制:安全保障を目的とした資源保護、資源加工産業や製造業の活性化といった理由で、原材料の輸出を制限もしくは禁止する
  • 輸入関税:国内産業を外国企業との競争から保護するための措置。一方で輸入関税以外の手段による産業保護も可能で、例えば中国のネット検閲は外からのアイデアを遮断するだけでなく、外部からのアクセスを防ぐことで同国のスタートアップの保護にも一役買っているとの主張もある

 どの手段をいつ、どの程度の規模で実行するかによって、それが技術開発を後押し、国家の競争力を高める優れた政策になるか、それとも市場競争を歪める無駄な介入になってしまうのかが決まります。ハーバード大学の経済学者ダニ・ロドリック(Dani Rodrik)は2010年、「産業政策について問うべきはその是非ではなく、どのように行えばいいかということだ」と書いています

では、産業政策の成否はどう判断すればいいのでしょう。PIIEのハウバウアーは、適正なコストで技術革新が起きれば成功したと言えると述べた上で、成功例として、COVID-19の迅速なワクチン開発を目指した国家プログラム「オペレーション・ワープ・スピードOperation Warp Speed)」を挙げます。ハウバウアーは、成功する産業政策は研究開発の促進に重点を置いたものであることが多いのに対し、目的が不明瞭な補助金や貿易障壁を生むような政策はよくないと説明します。

一方で、ハーバード大学の経済学助教授ミルト・カロウプシディ(Myrto Kalouptsidi)は、産業政策の良し悪しを事前に判断するのは難しいと考えています。カロウプシディは中国の造船業界への補助金を例に挙げます。中国政府は造船業への投資、生産、新規参入の促進を目的に、当初は幅広く補助金を交付していましたが、2008年以降は生産性の高い企業のみを対象にするようになりました。そして、結果的にはこの方が効率的だったことが明らかになっています。

📈 CHARTED

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研究開発への公的支援および民間部門の研究開発促進に向けた措置は、産業政策の重要な部分を占めています。中国はこの分野でも大きな伸びをみせていますが、現状では依然として米国ドイツ日本に後れを取っています。

🔮 PREDICTIONS

今後の見通し

  1. 気候変動対策には産業政策が不可欠:欧州委員会の経済学者アレッシオ・テルツィ(Alessio Terzi)は「グリーン産業政策」の時代がやってくると考えています。いま起きているエネルギー転換は生産、流通、消費の様式を変えていく新たな産業革命のようなもので、テルツィは「産業革命がどのように進展したかを考えれば、政府がこうした極めて重要な瞬間にどのように関与してきたかがわかります」と話します。
  2. サプライチェーンの混乱を解消:新型コロナウイルスのパンデミックとロシア軍のウクライナ侵攻を受けて、世界のサプライチェーンは大きく混乱しており、各国政府は国内での生産と調達を推奨する政策を進めるようになる可能性があります。ハーバード大学のカロウプシディは、「サプライチェーンの混乱のために産業政策が行われる期間が延びるかもしれません」と指摘します。
  3. 政策金融機関の設立:ハウバウアーは、米国は将来性のある企業が簡単に信用保証を得られるように政策金融機関の設立を検討するだろうと予想します。しかし、経済的な実現性ではなく政治的計算に基づいてプロジェクトが決まるのを防ぐためにも、こうした金融機関を率いるのは「政治家上がりの人間ではなく、金融業界で実績を積んだ経歴の持ち主」であるべきです。
  4. 産業政策外交の専門チーム:もしくは「技術分野での外交を担ってきた官僚集団」が登場するでしょう。情報技術イノベーション財団(ITIF)のスティーブン・エゼル(Stephen Ezell)は、こうした専門家集団が研究開発協定やインフラ開発など米国の産業政策の国際的な側面を処理していくだろうと述べています

ONE 🇨🇳 THING

ちなみに…

技術や知識の“移転”は経済成長につながります。中国は長い間、外国企業に対して自国の企業と技術やノウハウを共有することを強制する産業政策を展開してきました。また、先端技術は外国企業の買収によっても手に入れることが可能です。

米国も最近では、中国のこうした戦略に追随しようとしているようです。3月にはバッテーリーメーカーの業界団体の理事の1人が、電気自動車(EV)バッテリーで世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が米国に工場を開設するなら技術移転も行うよう求めるべきだと政府に提言しています。

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