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Africa:飢餓をも救うトイレ・スタートアップ──LiquidGold

誰も最大の問題に目を向けていなかった──。衛生設備が不十分なことと、飢餓に苦しめられていること。一見関係ないように見えるこの2つの数字は、実は密接につながっています。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスの未来の可能性を知ること──火曜夜にお届けしている「Africa」ニュースレターでは、毎週ひとつのスタートアップを取り上げ、彼らが社会の何をどう解決しているかをレポートしています。

アフリカでは、人口の3分の1にあたる4億8,300万人衛生設備を利用できないでいます。一方、飢餓に苦しんでいる人は大陸の人口の5分の1人にあたる2億8,200万人です。そして、一見関係ないように見えるこのふたつの数字は実は密接につながっています

世界銀行は「開発途上国における病気や死亡の大部分は、水や衛生設備、保健衛生の不足によるものである」と書いています。衛生状態が悪いと公衆衛生が悪化し、農民が作物を育てたり家畜を飼育したりして食料供給を増やすことができなくなるからです。

そして、この問題をさらに悪化させているのがロシア・ウクライナ戦争です。この戦争はインフレを引き起こし、食糧安全保障をさらに妨げ、アフリカの農家に深刻な影響を与えています。アフリカ開発銀行(AfDB)によると、小麦の輸入はアフリカの対ロシア貿易40億ドル(約5,170億6,308万円)の約90%、対ウクライナ貿易45億ドル(約5,817億円)のほぼ半分を占めています。これに加え、アフリカがロシアから多く輸入しているのが肥料です。例えば2020年、南アフリカは肥料の11.3%をロシアから輸入しています。

アフリカの公衆衛生と食料安全保障の問題は、ウクライナでの戦争やパンデミックよりも前から存在していました。それはつまり、解決策も存在している可能性があるということです。すでに多くのスタートアップが、このふたつの問題を同時に解決し、アフリカの可能性を切り開こうとしています。

CHEAT SHEET

業界・虎の巻

  • 課題は?:安全で適切な衛生環境にない人は、地球上に約25億人いると言われています。そして、その多くが住んでいるのがサブサハラアフリカです。不衛生な環境は死亡率の上昇や生産性の低下、ヘルスケアの問題を引き起こし、そのコストは大陸全体で年間193億ドル(約2兆4,948億円)にまで膨れ上がっています。これは地域別に見て世界で3番目に多い額です。また農業面では痩せた土壌が最大の問題となっており、肥料の高騰と水不足がそこに拍車をかけています。
  • ロードマップは?:政府は研究者やスタートアップと協力して節水やインフラの構築を進め、衛生状態の改善につなげなくてはなりません。例えば、水を使わないトイレやスマートトイレを採用すれば、何百万ガロンもの節水が見込めます。
  • どんな可能性が?:アフリカの一部の場所では簡易トイレが唯一の選択肢となっていますが、このトイレは壊れやすく地下水を汚染しやすいという欠点があります。排泄物を化学処理するポータブル型トイレは設置こそ安価にできますが、不衛生で管理も大変です。その一方、尿迂回ドライトイレ(UDDT)は適切なメンテナンスがなされれば無水・無臭で地下水を汚染するリスクも低く、尿から栄養分を回収することもできます。適切な衛生管理により、何百万ガロンも節水し、環境を保護し、回収した尿を肥料などの製品に変えられるのです。
  • ステークホルダーは?:政府や都市計画家、衛生事業者。南アフリカのLiquidGold AfricaやケニアのSanergyといったスタートアップや、ガーナのTraining, Research and Networking for Development(TREND)のようなNGOも含まれます。

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 42%:ロシアのウクライナ侵攻後30日間におけるグリーンマーケット(Bloomberg)の北米肥料価格指数の上昇率
  • 17kg:サブサハラアフリカにおける1ヘクタールあたりの平均肥料消費量。世界平均である135kgを大きく下回っています
  • 52億ドル約6,721億円):2020年におけるエジプトの小麦輸入額。エジプトは世界最大の小麦輸入国であり、その多くをウクライナとロシアから輸入しています
  • 3億人:サブサハラアフリカのうち雨がほとんど降らない地域に住む人口
  • 4億8,300万人:アフリカで公衆衛生サービスが受けられていない人の数

THE CASE STUDY

ケーススタディ

  • 企業名:LiquidGold Africa
  • 創業年:2016年
  • 本社所在地:ヨハネスブルグ(南アフリカ)
  • 創業者: Orion Lee Herman
  • 最新の評価額:3,200万ドル(約41億3,650万円)

2016年、オリオン・リー・ハーマン(Orion Lee Herman)はヨハネスブルグでLiquidGold Africaを創業しました。その目的は、アフリカ大陸が抱える公衆衛生と食糧安全保障というふたつの課題の解決に貢献することです。創業当時、ほかの企業はもっぱらアフリカの電力供給に注目していました。「たしかにエネルギーは懸念事項でした。しかし、誰も最大の問題に目を向けていなかったのです」と、ハーマンは言います。「つまり、水問題です」

LiquidGoldはいくつかの事業を行なっています。例えば、企業の節水を助ける無水トイレやカスタムトイレを販売したり、トイレの尿から栄養分を抽出してサステナブルな肥料をつくり、農家や農業関連企業に販売したりといったことです。同社がつくる肥料は環境負荷や富栄養化(水域に窒素やリンが過剰に供給されて藻類が繁殖し、生物が死滅してしまうこと)を抑制するといいます。

「尿は植物にとって強力な肥料です」とハーマンは言います。「尿を下水に流すと川や湖、ダムなどに流れ込み、藻類の過剰な繁殖が進み、環境に深刻な影響を与えることになります。しかし、尿を回収してリサイクルすれば、それを有益な肥料として農場に供給し、農業システムを支えられるのです」

このプロセスは、LiquidGoldが独自開発したトイレから始まります。例えば、無水トイレ「EcoFlo」や座らずに使う衛生的な女性用小便器「WeeStand」、水の使用を完全あるいは部分的になくす沐浴施設「SaniPod」などです。LiquidGoldは尿が下水道に到達する前に回収し、ストルバイトの結晶化という方法によって栄養分を抽出します。こうして回収された沈殿物は、マグネシウムやアンモニア、リンを豊富に含む緩効性肥料として使えるのです。なお、LiquidGoldは肥料業界向けにも製品を販売しています。肥料メーカーは溶解性の高いリン酸塩岩由来の従来の肥料とLiquidGoldの製品をブレンドすることで、従来品よりもサステナブルな商品として販売できるのです。

また、採取した尿はセラミックやゼオライト、順浸透膜を用いたろ過処理によって安全な非飲料水にできます。水を大量に消費し、よりサステナブルな選択肢を模索している農産物加工業や製紙業などの業界で活用できるでしょう。

A team at a LiquidGold plant
LiquidGold plant

LiquidGoldはこれまで6億5,000万リットル以上の節水に貢献してきました。WeeStandのアクティブユーザーは7,500人で、600万リットル以上の尿が水系に流入するのを防いでいます。2023年にはダーバン地区に建設中の工場も完成予定です。この工場では、毎月800万〜1,500万リットルの尿と2,500万リットルの中水が処理され、約200トンの肥料と約81万キロリットルの非飲料水が生み出されるということです。また、この工場では小便器のほか、尿から自動で肥料を回収するオフグリッドのシステムである「ダイアモンド・リアクター」の製造も可能になる予定です。

IN CONVERSATION WITH

キーパーソンの発言集

Orion Herman, Founder of LiquidGold

オリオン・リー・ハーマンは、アフリカが直面する最も重大な課題に取り組むためにLiquidGoldを創業しました。以下、ハーマンとのインタビューから、興味深い発言を紹介します。

  • サーキュラーエコノミーについて:「誰もが携帯電話を持つ時代になってもなお、世界では24億人が衛生設備を利用できずにいます。衛生設備に関するビジネスモデル全体をつくり直す必要があるのは明らかでしょう。私たちは肥料業界の課題と大量の水を使用する農産物加工業界の課題に着目し、このふたつを相乗的に解決する方法を編み出したのです」
  • 資金調達の計画について:「わたしたちはチームと技術、ビジネスモデルの適切な組み合わせを手に入れたと思っています。ただ、衛生分野でアフリカ初のユニコーンとなるためには適切な投資家も必要になるのです」((LiquidGoldはダーバンの工場建設のために地元の投資家から150万ドル[約1億9,389万円]を調達しましたが、さらにインパクト投資家やグリーン投資家から150万ドルを調達したいと考えています)
  • 新型コロナウイルス感染症について:「水や安全な衛生設備、代替となる衛生設備の必要性を感じさせたパンデミックは、わたしたちの価値提案に大きな影響を与えました。負の波及効果をもつピットトイレ(穴を掘って用を足すトイレ)やバケツトイレを使い続けることはできないのです」

SANITATION STARTUPS TO 👀

注目のスタートアップ

  • Loo Afrique:南アフリカに本社を置くLoo Afriqueは、日常生活における節水や衛生の向上、中水利用につながるトイレ技術を開発しています。同社は2019年にGauteng Accelerator Programme Innovation Competitionから30万ランド(20,500ドル/約265万円)を調達したほか、南アフリカの水研究委員会からも資金提供を受けています。
  • Water Will:カイロのスタートアップであるWater Willは、エジプト農村部の水に多く含まれる不純物や臭気、バクテリア、重鉱物を除去するフィルターを開発しています。銀ナノ粒子を利用している同社の鉢は、農村部のコミュニティに販売されています。
  • Sanergy:国際協力機構(JICA)は2021年、ナイロビに拠点を置くSanergyに250万ドル(約3億2,316万円)の投資を行ないました。Sanergyは、尿を始めとする有機廃棄物を集めてバイオ燃料などの有用な製品に変えています。
  • HydroIQ:HydroIQは、家庭や公益事業、企業、産業界が水の使用・管理・支払いを効率的に行なえるようにするための仮想ネットワークを構築しています。2022年3月には、グーグルのStartups Accelerator: Africaプログラムの選出企業3社のひとつとなりました。グーグルはエクイティフリーの資金調達とグーグルのサービスのプロダクトクレジットによって500万ドル(約6億4,632万)を投資しています。
  • Water Access Rwanda:2014年に創業され、ジャック・マー財団の出資も受けるWater Access Rwandaは、ルワンダやコンゴ民主共和国、ブルンジ、ウガンダにいる31万2,000の個人、企業、学校、農場に清潔な水を提供しています。

🎵 今週の「Weekly Africa」は、南アフリカのLetta MbuluとHugh Masekelaによる「Mahlalela」を聴きながら、ケープタウンのJack Duttonがお届けしました。

ONE 💩 THING

ちなみに……

ケニアのナイバシャにある社会的企業・Sanivationは、家庭の暖房に使う燃料を生産するために意外な物を利用しています。それは人の排泄物です。Sanivationは人の排泄物を高温で加熱して殺菌したあと、おがくずと混ぜてブリケット(成形木炭)をつくり、それを販売することで利益を得ています。ブリケットは炭や薪のように煙が出ず、創業者たち曰く1トンの製品あたり33本の木が節約されるといいます。

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