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Startup:Nori──Web3の「透明化」グリーンテック

CO2削減のためのカーボンファーミングをNFTやクリプトを活用して促進するプラットフォーム「Nori」。海中で自らにCO2を蓄える「海苔」から名前をもらったスタートアップです。

Image copyright: REUTERS/Pilar Olivares
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Masaya Kubota
By Masaya Kubota

WiL Partner

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Quartz読者のみなさん、こんばんは。月に一度お届けしているこの連載では、毎回ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています。

今回取り上げるのは、CO2削減のためのカーボン・ファーミングをNFTやクリプトを活用して促進するプラットフォーム「Nori」。海中で自らにCO2を蓄える、日本の「海苔」から名前をもらったスタートアップです。

the pros and the cons

悩ましき「新商材」

わずか5年間で、資金調達額が約12倍に急増する市場。それが、カーボン除去(carbon removal)市場です。

地球温暖化などの気候変動対策として、その原因となる温室効果ガスの抑制が叫ばれてきました。温室効果ガスのなかでも二酸化炭素(CO2)は、工業や輸送といった領域と結びつきが深く、また地球環境への取り組みが企業評価につながる現状も相まって、ビジネスにおいても無視できない存在になっています。最近は、「カーボン・オフセット」や「カーボン・ニュートラル」の事例を耳にする機会も増えました。

関心が高まり、お金も集まり、このまま進めば無事に地球環境が取り戻せるかといえば、実はまったくそんなことはありません。むしろ、このカーボン排出量をめぐる諸問題は、企業や国が絡み合うことで、より根深くなったとさえ感じられます。

そして、この問題を解く新たな鍵としてNoriが注目したのが、ブロックチェーンクリプトです。

今回の本題であるスタートアップの価値をつかむためにも、まずは既存のカーボンオフセットやカーボンニュートラルといった取り組みを簡潔にさらっておきます。

カーボンオフセットは、温室効果ガスの排出を減らす努力はしつつも、削減が難しい排出量については、他の場所や活動で削減できたことを示すクレジット(=排出権)を購入したり、それらの活動そのものを実施したりすることで、埋め合わせる(=オフセット)考え方です。

クレジットについては、信頼性を担保するために民間の「ボランタリークレジット」と呼ばれる(「レジストリ」とも)第三者機関が認証しています。ただ、「削減が難しい排出」は据え置きなわけですから、これらのクレジット購入は企業にとって免罪符的な存在になってしまいかねないともいえます。

カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的にそれらをゼロにすることを意味しています。そもそも出る排出量を減らしながら、植林や森林管理といった人為によってCO2を吸収させていこう、ということです。こちらは埋め合わせでなく根本的な解決を考えています。どちらを指向するかによって、取り組み方にも大きな違いがあるのです。

how do you assess credit?

不透明でトンデモな市場

いま、これらのカーボン除去市場では「排出権取引」の問題がフォーカスされています。

まず、排出権の売り手と買い手がマッチングするための透明で効率的な市場がありません。取引の多くはブローカーが仲介しており、取引金額には「中抜き」が発生し価格自体もオフマーケットで決まるため実態はブラックボックスです。買い手は、これらのブローカーが持ちかける話を各々で判断し、購入しているといいます。

顕著になっているのが二重計算に関する問題で、流通市場(セカンダリー)が発行市場(プライマリ)の倍近くあるとされています。市場外で相対的に取引される例も多いため、データは実態と乖離してしまいます。環境に貢献しようと排出権を購入しても、流通市場の取引であれば環境への貢献はゼロです。

また、取引が国境を超えると、事態はさらに混迷を極めます。例えばブラジルで発行された排出権をフランスで購入した場合、排出権がその両国で記録されるという事態も常態化します。つまるところ、排出権取引がCO2削減に対して果たしてどれほど貢献できているのか、全く見えない状況になってしまっています。

さらに、クレジットを提供するサプライヤー側にとっても、プロジェクトの登録料やリスティングフィー、あるいはコンサルティングフィーといった初期費用が大きな負担になっています。そもそも排出権が売れるかどうかも分からない段階で、排出権を登録するまでにかなりのコストを強いられます。

また、クレジットの評価・管理も課題です。「100年後残存率」として、長期的な炭素固定量を評価する方式が用いられるケースがあります。例えばある森林がCO2をどれだけ吸収・固定できているかを評価しようにも、100年後もその森林が当時のまま残存している保証はありません

森林の管理状況が正しく報告されるための仕組みも未整備で、なかには「買ったはずの森林がすっかり伐採されてしまっていた」というトンデモ事例まで報告されているといいます。損害への保証も限定的で、そのリスクは買い手が丸ごと負担させられるという状況です。

the potential of carbon farming

豊かな畑はCO2を蓄える

さて、ここからが本題です。CO2排出をめぐって、いま、ある方法が着目されています。それが「カーボンファーミング」で、農地をCO2の主な吸収源とする考え方です。

カーボンニュートラルを実現するためには、再生可能エネルギーに切り替えるなど産業活動そのものでCO2排出量を抑制するだけでなく、CO2吸収源も増やしていかなければなりません。その吸収源のひとつとして、農地が注目されているのです。農業はそれ自体がCO2を排出する産業活動ですが、施肥方法や農法を工夫することで、排出量よりも吸収量が上回り、一定の炭素貯留の能力が認められてきました。

しかも土壌中の炭素が増えることで、微生物や菌類の働きが活発になり、炭素が水と結合することで水分をより多く蓄えられる土に変わっていくという効果もあります。農家にとっては、土壌がより豊かになるうえ、CO2排出権のサプライヤーになるというメリットがあるわけです。

Image copyright: REUTERS/Pilar Olivares

さて、それらカーボンファーミングによってカーボン除去に取り組む農家と、CO2オフセットを希望する企業とをつなげるプラットフォームを運営するのが、今回取り上げるスタートアップ、Noriです。

排出権のマーケットプレイス運営という側面だけを見れば、すでにさまざまなプレイヤーが存在しています。しかし、Noriは自社でクレジットを認証するレジストリも兼ねています。排出権市場における問題の根源である高コストで不透明な「認証機関」の問題もまとめて解決に取り組んでいます。

土壌のカーボン除去量の評価・測定を行うのは、Noriから委託を受けた外部の第三者機関です。カーボンファーミングに取り組む農家は、初期費用の負担なくNoriから排出権を発行してもらい、Noriの運営するマーケットプレイスにプロジェクトを掲載してもらえます。土壌のカーボン除去量の測定は独自のテクノロジーを活用しコストを90%削減しているそうです。なお、NRTが売れたときに買い手から徴収する15%の手数料フィーがNoriの収益となっています。

carbon market on the blockchain

クリプトで市場をつくる

Noriの最大の特徴が、カーボン除去市場の構築にブロックチェーン技術を活用している点です。

Noriでは「10年間にわたってCO2を1トン分除去できる」ことを1単位としたクレジットをNFTとして発行します。それは「NRT(Nori Carbon Removal Tonne)」と呼ばれ、各農家が実践したカーボンファーミングの記録がブロックチェーン上に書き込まれるため、その後の取引を通して、内容の透明性を保つことができます。

Noriは認定農家に対して、カーボンファーミングのための具体的な指導とモニターを実施し、基準をクリアした農家へNRTを発行します。CO2を削減したい企業はNRTを購入できますが、対価として「NORI」という独自の暗号資産を使わなくてはなりません。

農家は得られたNORIを取引所で売却して現金にも換金できます。これまでNoriは21件のプロジェクトと契約し、農家に130万ドル(約1.6億円)の現金を支払ったそうです(現在はローンチ準備中のため1NRTを15ドルで販売中)。

Image copyright: TechCrunch

ここで重要なのは、NRTを売れた時点でリタイア(消滅)させること。これにより、NRTの売買は起きないため、二次流通における二重計算の課題が解消されています。

NRTが誰から誰に、いつ、いくらで譲渡されたか──これまでブラックボックス化していた取引履歴はブロックチェーンに書き込まれ一般に公開されるため、改ざんも起きえません。交換レートは常に〈1NRT=1NORI〉に固定されています。排出権がブローカーの言い値で、見知らぬところで勝手に取引される、ということはありません。

代わりに、決済対価となるNORIをトークンとして流通させます。取引所に上場させ市場性をもたせることで、NORIの価格決定をマーケットメカニズムに委ねます。CO2を削減したい企業が増えれば増えるほどNORIの需要が増し、トークン価格が上昇。それに伴って、NRT価格も上昇します。農家は入手したNORIを一定の期間をかけて段階的に売却していくことで、カーボン除去需要の高まりによる将来の値上がり益も享受できるという仕組みです。

Image copyright: VIA TWITTER

ユニークで唯一無二性を担保するNFT(Non Fungible Token)としてのNRTと、管理コストを最小限に抑えて取引の真正性を担保するFT(Fungible Token)としてのNORI。トークンがもつ2つの特性を組み合わせてカーボン除去の問題に挑戦する点がNoriの真髄であり、発明と言えます。

NORIトークンのローンチは、2022年中を予定しているとされています。「ここまで来るのに5年かかった」と創業者兼CEOのPaul Gambillは言います。

2008年に出た「サトシ・ナカモト論文」を読んで衝撃を受けたと語るPaulは、エンジニアのバックグラウンドをもちながらコンサルティング企業に勤めていました。「もっと世の中にインパクトのある仕事をしたい」と、地球規模の課題である「カーボン除去」に取り組むことを決めたそうです。「炭素除去の技術はいろいろ発明されてきたが、インセンティブの仕組みが欠けていた」と、現在のアイデアを思いついたそうです。

Image copyright: Paul Gambill via Twitter

なお、Noriが運営するポッドキャストは、気候変動問題に携わる業界関係者の多くが聴いている良質なコンテンツです。キーパーソンのインタビューと、主要なニュースまとめのそれぞれ2本を、2017年の創業以来、毎週無料で配信しています。“クリプトの冬”もブームも関係なく、地道な努力を続けてきた彼らのコミットメントを垣間見ることができます。

how to scale climate action

Web3の「得意領域」

もっとも、カーボンファーミングやNoriの取り組みについては懐疑的な見方もあります。

いったん土壌に貯まったはずのCO2も、風雨や乾燥などで再び大気中へ放出される可能性がつきまといます。また、Noriが謳う「10年間のCO2除去」について、地球規模の脱炭素の課題において「10年」という時間軸にどれほどの意味があるのかを問う声もあります。そもそも土壌がどれだけ炭素を除去できているのか、測定値にはそれなりのブレ幅もありそうです。

それでも、Noriが地球規模の課題を解決にブロックチェーン技術とトークンを用いて挑んでいる点は注目に値します。考えてみれば、不透明で非効率な取引コストや価格決定における市場原理の導入など、脱炭素市場の問題解決は、Web3のイノベーションが最も得意とする領域。ブロックチェーンとも極めて相性がよいと言えます。

Image copyright: paulgambil.com

つい先日も、あのWeWork創業者で、一連のドタバタで追放されたアダム・ニューマンが再起をかけて挑むスタートアップが、資金調達をしました(社名はFlowcarbon。「ブロックチェーンを活用して気候変動ソリューションを拡大する」ことをミッションとして掲げています)。これまで投機が中心だったWeb3はアプリケーションの幅を広げ、社会実装に向けたトライが急速に進められています

今年2月、Noriは700万ドル(約9億円)のシリーズA調達を行いました。名だたる投資家陣のなかでひときわ目を引いたのが、トヨタ自動車のベンチャーキャピタル部門であるToyota Ventures Climate Fund。トヨタグループのカーボンニュートラルへの取り組みの一環として、昨年シリコンバレーに設立された注目のベンチャーファンドです。

自動車産業は温室効果ガスの排出量の3%を占め、まさに待ったなし。業界トップのトヨタからも熱い視線を受けるNoriのポテンシャルは大いに期待したいところです。ビットコインの「マイニング」は電力消費の環境負荷が批判の的に立たされますが、実際はブロックチェーン技術が環境問題解決の切り札となるかもしれません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi、UPSIDERなど。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas

(構成:長谷川賢人)

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