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Africa:「生物資源」ビジネスの未来

Paxherbalsがナイジェリアで創業したのは1996年。ハーブを利用した咳止めシロップから始まった同社をはじめ「伝統医学」「代替医療」のもつ可能性が、いま注目されています。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published
Artwork for Paxherbal member brief
アフリカのいまを知ることは、世界のビジネスの未来の可能性を知ること──火曜夜にお届けしている「Africa」ニュースレターでは、毎週ひとつのスタートアップを取り上げ、彼らが社会の何をどう解決しているかをレポートしています。

世界の生物種の約4分の1が生息すると言われているアフリカ。ここでは、ほとんどの人が(少なくとも部分的に)伝統医学代替医療を利用しています。こうしたなかで、個人も企業も、在来種の薬草をベースにしたハーブ製品の研究開発・ブランド化に取り組んでいます。

自然のなかから有用な資源を見つけ出す研究は「バイオプロスペクティング」(bioprospecting)と呼ばれています。

アフリカ各国の政府や民間企業がバイオプロスペクティングに着手したのは1980年代でした。この時期、カメルーンの製薬研究所が伝統医学をもとに肝炎治療に使う「Hepasor」を開発し、現地で認可されました。今日のニュースレターでフィーチャーするPax Herbal Clinic and Research LaboratoriesPaxherbals)がナイジェリアで創業したのは1996年。創業当時、同社はハーブを利用した咳止めシロップを発売しています。2006年には、国立医薬品開発研究所(National Institute for Pharmaceutical Research and Development)が鎌状赤血球症の治療薬である「Niprisan」を開発・発売しました。現在、Niprisanを改良した医薬品が米国の製薬会社Xickleによって製造されています。

こうした明るい話題がある一方で、アフリカの代替医療分野への投資はそう多くはありません。その原因のひとつは、西洋医学を中心とする製薬業界の偏見にあります。また、アフリカでは代替医療に関する政策や規制がなく、結果として代替医療は主にインフォーマルセクター(非公式)となってきたのです。しかし、それも過去の話になりつつあります。

「自然療法は欧米諸国で急成長しており、中国やインドなどでも長い歴史があります」と、世界保健機関(WHO)のアフリカ地域事務局長であるマシディソ・モエティ博士は2021年の講演で述べました。「大手製薬会社も新しい有効成分を求めてアフリカに目を向けています。適切なパートナーシップと投資があれば、十分な試行が重ねられたアフリカの伝統的な医薬品は世界で幅広い市場を見つけられるでしょう」


THE CHEAT SHEET

ビジネスとしての可能性

💡 期待される理由2020年に上述したマシディソ博士が発信したメッセージは、アフリカ企業にバイオプロスペクティングを活用する道を開きました。いまではアフリカ諸国の大半が伝統医学に関する政策を導入しており、伝統医学に基づく医薬品は国の必須医薬品リストに追加されつつあります。また、ガーナやマリ、南アフリカでは伝統医学の医薬品が一部保険適用になっています。

🤔 解決すべき課題:医薬品が有効かどうか検証するのに必要な臨床試験は、膨大な時間と費用を要します。インフラ整備が不十分なアフリカ諸国では実施が困難なため、ハーブを使った製品の多くは臨床試験を経ずに単なるサプリメントとして販売されているのが現状です。

🌍 これからのロードマップ大企業はまだほとんど参入できておらず、インフォーマルセクターの中小企業が業界の大半を占めています。代替医療市場に資金が集まるようなビジネスモデルを生み出す革新的な起業家が必要とされています。

💰 注目すべきステークホルダー:業界には、自己資金をもとにした中小企業のほか、比較的大きな企業も数社存在しています。また、米国のEnygma Venturesや南アフリカのリキュールメーカーであるDistell、投資会社Remgro傘下のベンチャーキャピタル(VC)であるInvenfinなどがこの業界に投資をしています。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 40カ国:伝統医学に関する政策を現在掲げているアフリカの国の数
  • 70~80%:アフリカの人口のうち、少なくとも部分的に伝統医学や代替医療を利用している人の割合
  • 2,700万人:南アフリカ共和国の人口のうち、伝統医学を利用している人の割合(2020年時点の同国の人口は約5,931万人)

THE CASE STUDY

カギはローカルにあり

企業名:Pax Herbal Clinic and Research Laboratories(Paxherbals)
創業年:1996年
本社所在地:ナイジェリア
社員数:150人
創業者:Adodo Anselm
最新の評価額:非公開

Paxherbalsが注力しているのは、アフリカの薬草を科学的に栽培、識別、普及、発展させること。

ナイジェリアのあらゆる種類の植物を採集することを目指す同社はこれまで5,000を超える植物を採集・分析し、それをもとに50以上のハーブ製品を開発しました。いずれもナイジェリアの医薬品規制当局Nafdacの認可を受けており、認可された製品の数はナイジェリア企業として最多です。また、同社の正規販売代理店は全国に1,000カ所以上にのぼります。

土着の知識と科学的研究、近代的な生産方法を融合させたPaxherbalsは、複数の研究所や工場、薬用植物を栽培するための農場も所有しています。また、2011年にはファーマコビジランス(医薬品安全性監視)センターを併設した薬草療法の病院をラゴス内の2カ所に開設し、いまではその数は4都市・5施設にまで拡大しました。

PaxHerbal researchers at work

2012年、Paxherbalsはジュネーブに拠点を置くTrans4mの総合開発センター(Center for Integral Development)によって「アフリカ最大かつ最も組織化され、最も設備が整った植物性医薬品メーカーおよび研究所のひとつ」と評されました。

Paxherbalsはローカルコミュニティと協力して原料や機械の調達・製造を行っています。例えば、同社のティーバッグ製造に使われる機械は、地元の職人が手がけたものです。また、ナイジェリア内外の医療機関や研究機関、教育機関と連携しており、ナイジェリアでのバイオプロスペクティングに興味をもつ製薬会社にとっては格好のパートナーになりえます。


IN CONVERSATION WITH

修道士のスタートアップ

Paxherbalsを創業した民族植物学者・医療社会学者のアンセルム・アドドは、ベネディクト会の修道士としての顔ももっています。創業の地も、ナイジェリアのエド州にある修道院のそばでした。

アドドは現在、取締役として会社を率いており、同社の研究開発のトップは、植物化学と有機化学の教授であるジョセフ・オコグンが務めています。以下、アドドとのインタビューから、興味深い発言を紹介します。

Rev. Anselm Adodo, founder of Paxherbals

──Paxherbalは、自己資金で経営されています。

わたしたちが掲げる「共同体主義」の原則に基づく限りは、投資を受け入れるのも吝かではありません。共同体主義とはつまり、ビジネスが第一義とすべきは単なる投資家の物質的利益ではなく、地域社会の利益、共同体の富、地域社会の平和であるという姿勢のことです。

──では、どんな企業と協業したいと考えていますか?

Paxherbals が必要としているのは、会社の実績と能力をアピールして必要な資金を集めるための信頼に足る投資会社です。わたしは、アフリカのヘルステックスタートアップとPaxherbalsの提携は代替医療産業を確実に発展させる方法だと考えています。Paxherbalsは配慮と良識をもつほかの薬草療法企業をしっかり探し、サポートできますから。

──アフリカの代替医療には、どんな可能性があるのでしょうか?

バリューチェーンは驚くべきものです。苦菜やアボカド、木の根や樹皮、生姜、ウコン、レモングラス、キノコといった薬草や植物の生産・栽培に加え、ハチミツ生産、カタツムリの飼育、農学、食品加工、果汁生産、ハーブティー、高分子材料技術、近代的な包装技術などがその例です。代替医療のバリューチェーンは、アフリカの失業と貧困の問題を解決する鍵だと考えています。


ALTERNATIVE MEDICINE DEALS TO 👀

注目すべきディール

  • リキュールを手がけるアフリカのDistellとアーリーステージVCのInvenfinは2021年1月、アフリカの製薬会社Releaf Pharmaceuticals傘下の大麻ウェルネスブランド「Rethink」の株式をそれぞれ20%ずつ購入しました
  • 2022年2月、ロシアの大富豪ミハイル・フリードマンが南アフリカのヘルスケア製品メーカーであるAscendis Healthの欧州子会社を買収予定だと報じられました。その子会社のひとつが、代替医療製品を販売を手がけるルーマニアのSun Wave Pharmaです。Ascendis Healthは2017年にSun Wave Pharmaを1,635万ユーロ(約22億8,991万円)で買収していました
  • 南アフリカ拠点の健康・ウェルネス企業であるFeelgood Healthは、外部から資金調達をすることなく20年にもわたり成長を続けてきました。しかし2020年7月、同社はVCのEnygma Venturesから400万ランド(約3,367万円)のシード資金を調達しました。

🎵 今週の「Weekly Africa」は、ナイジェリアのFabomoによる「Itendo」を聴きながら、アブジャ在住のコントリビューター、Uwagbale Edward-Ekpuがお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しています。

ONE 🌿 THING

ちなみに……

2020年、世界の代替医療市場において最大のシェアである33.4%を占めていたのはヨーロッパでした。しかし、2028年までには中東・アフリカ地域のシェアが24.8%まで拡大すると予測されています。


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