Skip to navigationSkip to content

Climate:#15 フラッキングは救世主(誰の)?

ロシアへの経済制裁の影響で天然ガスの価格が高騰するなか、シェールガスに再び注目が集まっています。可採埋蔵量が豊富ゆえ安定供給の鍵として注目される一方、採掘現場では深刻な問題が。

Oil pump jacks in Texas.
Image copyright: Nick Oxford/Reuters
Pump jacks operate at sunset in Midland, Texas, U.S., February 11, 2019.
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

月曜夜のニュースレター「Climate Economy」では、毎週ひとつのテーマについて、世界は気候変動をどう見ているのかどんな解決を見出そうとしているかをお伝えしていきます。

ロシアへの経済制裁の影響で天然ガスの価格が高騰するなか、シェールガスという新たな資源に再び注目が集まっています。シェールガスとは、頁岩(シェール)層と呼ばれる硬い岩盤層から取れる天然ガスのことです。主成分は通常の天然ガスと同じメタンですが、ガスが閉じ込められている地層の種類や採掘方法が異なるために、非在来型天然ガスとも呼ばれています。

米国では2000年代後半からシェールガスの積極的な開発が始まり、結果として米国はロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になりました。これを受け、シェールガスの埋蔵が確認されている地域では開発が検討されましたが、コストの問題に加え、水圧破砕法(フラッキング)と呼ばれる採掘方法が環境に重大な影響を与えることが足かせとなり、実際に採掘を行っている国の数は限られています。

フラッキングは欧州では多くの国で禁止されています。英国は2019年、安全性が確認されるまではフラッキングを一時的に禁止することを決めましたが、天然ガス価格が高騰している現在、石油・ガス会社からはフラッキングの禁止解除を求める声が高まっています。こうしたなか、政府は今年4月に英国地質調査所(BGS)にシェールガス採掘の是非を再評価するよう依頼しました。つまり、将来的にフラッキングが再開される可能性が出てきたのです。

天然ガスは化石燃料ですが、石炭や石油に比べれば環境負荷が低く、脱炭素社会への移行過程で重要な役割を果たすといわれています。日本は原油と天然ガスはほぼ100%を輸入に頼っていますが、輸入相手国やどのように生産されたかを考えることはあまりないかもしれません。ただ、化石燃料を使うだけでなく、採取することも環境破壊を引き起こすということは理解しておくべきでしょう。可採埋蔵量が豊富なシェールガスは天然ガスの安定供給の鍵として注目される一方で、採掘現場では実際に環境問題が起きています。

BY THE DIGITS

数字でみる

  • 7,577兆立方フィート:世界のシェールガスの可採埋蔵量(2015年時点)。国別では中国(1,115兆立法フィート)、アルゼンチン(802兆立法フィート)、アルジェリア(707兆立法フィート)の順に多い
  • 6,923兆立方フィート:在来型の天然ガスの可採埋蔵量(2017年時点)
  • 79.1%:米国での天然ガスの生産全体に占める、シェールガスの割合。シェールガス生産量26兆8,000億立法フィート(2021年)
  • 18個分:フラッキングの坑井1坑当たりの年間の水使用量をオリンピックプールに換算すると(4,500万リットル)。米国には1万2,000以上のフラッキング坑井が存在する

FRACKING: EXPLAIN IT LIKE I’M 5!

フラッキングとは

水圧破砕法(Hydraulic fracturing、フラッキング)は、化石燃料が貯留されている地層に人工的に亀裂を生じさせてガスや原油を採取する方法です。具体的には、通常は地下約2,000〜3,000メートルの位置にあるシェール層まで坑井を掘り、そこに水と化学物質を混ぜた液体と砂などを注入します。この圧力で岩盤に割れ目を生じさせてガスを抽出するのです。

フラッキングは1940年代から行われていましたが、近年になって、地面に対して垂直に掘った坑井を横に向かって広げていく水平掘削技術が進化したことで採掘効率が飛躍的に改善し、生産コストが低下しました。また天然ガスの価格が上昇していることで、事業として採算がとれるようになっているのです。

ENVIRONMENTAL IMPACTS

環境への影響

フラッキングを巡っては以下のような問題が指摘されています。

  • 大量の水を使用:フラッキングは大量の水を必要とします。米国ではフラッキングが盛んに行われるようになった2005年からの10年間で、2,500億ガロン(9,463億リットル)の水がシェールガスの採掘のためだけに使われたとの試算もあります。単純計算すると年平均950億リットル前後で、工業用水全体に占める割合は小さいと言われていますが、例えば日本の生活用水の使用量は国全体でも1,480億リットル(2015年)であることを考えれば、やはりかなりの量でしょう。フラッキングでは地下水や貯留槽の水が使われており、周辺地域で生活用水や農業用水の確保が困難になり、水資源の枯渇につながるとの懸念が指摘されています。
  • 土壌や地下水の汚染:フラッキングでは水に数%の化学薬品を混ぜた液体を地面に注入します。使われる化学薬品の種類や混入量はさまざまですが、企業に対する情報開示義務がないために詳細はわかっていません。米環境保護庁(EPA)が2016年に公表した報告書によれば、フラッキングに使われている化学物質は1,600種類以上に上り、このうち200種類近くが人体に有害もしくは発がん性物質であることが明らかになっています。これらの化学物質は地面に吸収され、土壌や地下水の汚染を引き起こす可能性があるのです。
  • 排水処理:採掘のために地中に注入した水は回収して処理する必要がありますが、大量の水を使用するために廃液の量も多く、処理が困難になっています。河川への放出については規制が強化されているため、井戸を掘って地中に戻す方法が取られることが一般的ですが、これは土壌汚染や地震を引き起こすと考えられています。また、フラッキングの廃液には地中にある微量の放射性物質が混入するため、特別な処理が必要との指摘もあります。
  • メタン漏洩による大気汚染:天然ガスの採掘ではすべてのガスを回収できるわけではなく、一部が大気中に拡散します。漏洩率は正確にはわかっていませんが、2〜6%程度と考えられており、米環境保護庁(EPA)が算出した米国の天然ガス生産の平均値1.4%を大きく上回っているのです。温室効果ガスというとまず思い浮かぶのは二酸化炭素(CO2)ですが、メタンはCO2に次ぐ気候変動の原因となっています(温暖化野原因のひとつとされる牛のげっぷの主成分はメタンです)。
  • 地震を引き起こす可能性:シェール層は一般的には地下2,000〜3,000メートルと在来型のガスより深い場所にあり、坑井の掘削やガスの採取によって地盤に何らかの影響が及ぶ可能性が指摘されています。また、米地質調査研究所(USGS)はフラッキングで生じる廃水の地中への投棄が地震を引き起こしているとの見解を示しており、オクラホマ州ではシェールガス採掘が始まってから地震の回数が急増しました。シェールガス開発は近くに民家や学校などがある場所で行われていることも多く、米国では1,760万人以上がフラッキング坑井の半径1km以内に住んでいます。

QUIZ

ここで問題です

現在、欧州を中心に多くの国が環境への懸念からフラッキングを禁止しており、シェールガスの採掘を行っている国の数は限られています。それでは、商業規模でのフラッキングを行っている国の数はいくつでしょう。

  1. 4カ国
  2. 9カ国
  3. 11カ国
  4. 15カ国

シェールガスを商業生産しているのは、米国、カナダ、中国、アルゼンチンの4カ国のみで、生産量は米国が全体の9割を占めます。

ただ可採埋蔵量は中国が世界最多で、2025年までの五カ年計画では生産量を年間500億〜800億立方メートル拡大する方針が掲げられています。四川盆地や新疆タリム盆地に広がる中国のシェール層は深度が地下3,500〜4,500メートルと米国のシェール層よりも深い位置にあり、開発が難しいと言われていますが、米エネルギー情報局(EIA)は2040年には中国の天然ガス生産の4割をシェールガスが占めるようになるとの見通しを示しています。

SHALE GAS REVOLUTION

米シェールガス開発史

米国ではシェールガスの採掘は1970年代半ばから実験的に行われていましたが、コストが高く技術的にも困難でした。

ただ水平坑井の掘削が可能になったことや技術革新が進んだことで、採掘コストは大幅に低下しました。また、2004年の原油価格の高騰に伴ってガス価格も上昇したために採算が取れるようになって各社が投資を行い、2000年代後半から大規模な商業生産が始まっています。

シェールガス革命」と呼ばれるこの開発ブームの結果、米国はロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国になりました。

一方、シェールガス革命には予想外の副作用も起きました。米国の原子炉の稼働期間は平均40年間ですが、ガス価格が大幅に低下したことでガス火力発電のコストが下がり、代わりに老朽化した高コストの旧型原子炉の早期廃炉が相次いだのです。

原発は安全性や使用済み燃料の処理といった問題はありますが、排出量という観点だけで考えれば“クリーン”なエネルギーです。一方、ガス火力発電は石炭火力や石油火力に比べればましでも、化石燃料を燃やしていることに変わりはありません。

米国の昨年の発電構成は、天然ガス(38.3%)、石炭(21.8%)、再生可能エネルギー(20.1%)、原子力(18.9%)、石油とその他(0.9%)と、化石燃料が全体の6割を占めています。

ONE 🗾 THING

ちなみに…

では、日本の発電源の構成はどうなっているのでしょう。日本では天然ガス(37.1%)、石炭(31.8%)、石油(6.8%)の化石燃料が合わせて4分の3を占めるほか、天然ガスは単一で最大の電力源であり、エネルギーミックスを考える上で非常に重要です。

日本は天然ガスのほぼすべてを輸入しており、2019年度の最大の輸入相手国はオーストラリア(39.2%)で、以下、マレーシア(13%)、ロシア(8.3%)、ブルネイ(5.6%)、米国(5.4%)と続きます。政府はロシア産原油の禁輸措置を打ち出しており、天然ガスの輸入も停止するようであれば他国からの調達を増やしていかなければなりません。この場合、米国からのシェールガスの輸入量が増える可能性もあるでしょう。

🎧 Quartz Japanでは平日毎朝のニュースレター「Daily Brief」のトップニュースを声でお届けするPodcastも配信しています。

👀 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 このニュースレターはTwitter、Facebookでシェアできます。転送も、どうぞご自由に(転送された方へ! 登録はこちらから)。

こちらはQuartz Japan会員限定の有料ニュースレターコンテンツです

米国発の経済メディア「Quartz」の日本版では、いまビジネスパーソンが知るべき最新グローバルニュースを平日毎日、メールボックスにお届けしています。
  • 毎朝グローバルニュースが届く・読む新習慣
  • 夕方・週末は世界のビジネストレンドを深堀り
  • 英語版を含むウェブ上の全記事が読み放題