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Obsession:特許とお金とワクチンと

コロナウイルスの感染が世界に拡がったとき、パンデミックの成り行きを左右するのがウイルスでも疾患そのものでもなく「特許」になるとは、誰も想像すらしなかったでしょう。

a man flying in a jetpack
This story was published on our Quartz Japan newsletter, A glimpse at the future of the global economy-in Japanese.
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週に一度、夜にお届けする日本版ニュースレター「Obsessions」では、グローバル版の人気シリーズ「Obsessions」の翻訳をはじめとするレポート、インサイトをお送りしていきます。

コロナウイルスの感染が世界に拡がったとき、パンデミックの成り行きを左右するのがウイルスでも疾患そのものでもなく「特許」になるとは、誰も想像すらしなかったでしょう。

しかし、特許(より広義に、「知的財産」「IP」)は発明の製品化や、その使用・販売に関する公的/法的な権利を与えるもの。それ次第でワクチン・医薬品がどれだけ早くつくり出せるかが左右されるのです。

いまや高所得国の方が低所得国よりはるかにコロナワクチン接種率が高いという、世界的なワクチン格差は深刻です。これについて、特許やIPに関する権利放棄がないことが、ワクチンの不平等の現状に直接貢献していると主張する人もいます。ワクチン格差は国際的な知的財産システムの根本にある欠陥によってもたらされているとする意見や、あるいは権利放棄の議論はその兆候であるという意見も起きています。

By the digit

数字でみる

  • 1,497万8,300件:2019年に施行される特許の総件数(世界知的所有権機関[WIPO]による)
  • 6万8,720件:2020年に中国から出願された国際特許件数。2年連続で世界トップ
  • 10億ドル:米国の製薬会社モデルナ(Moderna)が、コロナウイルス製剤の政府所有の特許をライセンスしていないとして米国から訴えられた場合に支払う金額
  • 1,400万NZドル:キウイ生産者が、特許で保護されたキウイを中国に密輸したとして、キウイフルーツ大手のゼスプリに支払うよう命じられた損害賠償の金額
  • 1915年:コカ・コーラのボトルに対する特許が認められた年
  • 174,465:アレクサンダー・グラハム・ベルによって発明された電話に与えられた特許番号

WAVERING ON WAIVERS

異論・反論

A woman uses a syringe to put liquid in a test tube.
Image copyright: Giphy

ワクチン格差を埋めるには、医療関連の特許や知的財産を放棄すればいい、という議論があります。

権利を放棄することに賛成する人たちは、パンデミック中、ワクチンをはじめとする医薬品について製薬会社の特許権を一時停止することで、ワクチン供給を抜本的に増やせる主張しています。一方の反対派は、ワクチン不足の原因は、製造能力の低さをはじめとする根本的な原因がほかにあるとしています。また、検討すべきは「権利放棄」ではなく、グローバルな知財システムの全面的な見直しであると言う人もいます。

ハーバード大学法学部教授で知的財産権専門家のルース・オケジは、昨年のパネルディスカッションで「ワクチン格差は偶然起きたわけでもなければ、予想外の結果でもない」と述べています。彼はこうも語っています。「必要な医薬品へのアクセス不足を生み出している構造は、国際経済システムにおける根本的なルールから生まれている」

Charted

チャートでみる

最貧国は、世界のCOVID-19ワクチン接種の取り組みから取り残されています。各国の1人あたりGDPと1人あたりのワクチン接種回数を比較すると、ワクチン格差が甚大なものであることがよくわかります。

Case Study

特許はビッグビジネス

A bottle of Ketchup is attached to a mini motorized tank, and it's doing a poor job of squirting the condiment on a burger.
Image copyright: Giphy

国際経済システムにおいて、特許は非常に大きな鍵を握っています。特許は多くの資金を生み、企業の意思決定に影響を与え──さらには人体に大きな影響を与えることも少なくありません。

例えば「GS-441524」という薬をご存じでしょうか。この薬の特許は、米バイオファーマ大手のギリアド・サイエンシズが有しています。ギリアドはまた、コロナ患者の治療に広く用いられている「レムデシビル」の特許ももっています。

ここで、一部の科学者による指摘が問題になります。彼らによると、大量生産という点ではGS-441524の方がはるかに向いているというのです。さらに科学者たちは、動物モデルながらGS-441524はレムデシビルと同等の効果があるとする研究も挙げています。

では、ギリアドはなぜレムデシビルを選んだのでしょうか

ギリアド側の言い分としては、レムデシビルの方がより効果的であることに加え、すでにヒトの臨床試験でテストされておりパンデミックに迅速に対応できるとしています。

しかし、米国在住の化学者ビクトリア・ヤンは、その答えに真っ向から反論しています。

彼女は、ギリアドのGS-441524の特許が2009年に公開されており2029年に期限が切れる点を指摘。一方でレムデシビルの特許は2017年に発行されているというのです。「2年近く前から、ギリアドに対してGS-441524の特許をパブリックドメインで公開するか、ライセンス供与するよう働きかけています。が、効果はないままです」

Brief history

特許の歴史

1421年:フィレンツェの建築家フィリッポ・ブルネレスキが、大理石運搬のためのクレーンシステムを発明。工業発明に関する最初の特許とされる

1474年:ベネチア法制定。特許を与え保護する近代的な法律として、世界最初のものとされる

1623年:英議会が現代の英特許制度の基礎となる「独占禁止法」を可決

1790年:米国で最初の特許法が制定される。特許は「君主から与えられる特権ではなく、発明者の権利である」と認められた

1980年:米国最高裁が遺伝子組換え生物の特許取得を認める判決

2019年:中国が国際特許の出願件数で米国を抜いてトップに

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The video game, Pong
Image copyright: Youtube

「テレビゲームの元祖」といえば、1972年に発売されたアタリの「Pong」だと思われがちです。しかし、実はその数カ月前、マグナボックスが家庭用ゲーム機「オデッセイ」を発表しています。1974年になって、マグナボックスはアタリをはじめとする数社を特許侵害で訴えていますが、結果アタリは150万ドルで和解し、マグナボックスからの技術供与を受けることになりました

本日のメールは、Ana Campoyが執筆、Susan Howsonが編集、Jordan Weinstockが制作を担当しました。日本版の編集は年吉聡太が担当しています。

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