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Feature:③ 保存版・IPCC報告書を全部読む

3回連続の最終回。世界の専門家と各国政府が気候変動に対してどんなコンセンサスをもっているのか。それを知るための資料として、数年にわたって長く役立てていただけるはずです。

This story was published on our Quartz Japan newsletter, a glimpse at the future of the global economy-in Japanese. ※ Quartz Japanのサービスは終了しました。詳細はこちらからご確認ください。
  • Sota Toshiyoshi
By Sota Toshiyoshi

Editor in Chief (Quartz Japan)

Published

週末の連休を挟み、先週から引き続き「世界の気候危機対策を決定する最重要文書」といえるIPCCの「第三作業部会報告書(WGIII)」のサマリーをお届けします。

このニュースレターが3回連続の最終回。世界の専門家と各国政府が気候変動に対してどんなコンセンサスをもっているのか。それを知るための資料として、数年にわたって長く役立てていただけるはずです。


D. Linkages between mitigation

緩和と持続可能な開発の関連性

D.1

気候変動の影響の緩和と適応のための対策を加速させ、公正なものにしていくことは、持続可能な開発の実現にとって非常に重要である。他方で、気候対策行動にはトレードオフも含まれている。これらを考える上で、国連の持続可能な開発のための目標(SDGs)が基盤として役立つ。

  • 気候行動とその他のSDGsの実現の間にはシナジーやトレードオフが存在する
  • シナジーやトレードオフは(気候正義を考慮に入れつつ)格差や不平等を含む各種開発の文脈によって異なる
  • 低所得・低開発の地域や人々ほどシナジーの最大化とトレードオフの制御が難しい
  • 雇用、水の利用、土地用途の競争、生物多様性、そしてエネルギー・食料・水の価格の手頃さといったトレードオフは、土地に基づく緩和策を適切に導入すれば防げる
  • バイオ炭(biochar)や土地炭素貯留は土壌の質や食料生産能力の向上に寄与しうる

※下図は、部門別・システム別緩和策とSDGsのシナジーおよびトレードオフ一覧。

Quartz註:SDGsと気候変動緩和のバランスをとるにあたって、土地利用に関する緩和策が強調されています。なお、SDGsはさまざまな統計に基づく具体的な国際合意であるため、各国間で連携をとりつつ開発と気候変動対策を両立させていく上で最も役に立つ枠組みだといえます。

D.2

持続可能な開発、脆弱性、そして気候リスクの間には強い関連性がある。特に発展途上諸国においては、社会的・経済的・制度的資源の量の制限は適応性の低さや脆弱性の高さと関連する。

部門間で連携した緩和策はトレードオフの最小化につながりうるが、実施の仕方によっては土地や水域の生態系へ悪影響が出る場合もある。

  • 都市計画における対策はたくさん存在するが、交通需要を低減するために人口密度を上げた結果、熱波や洪水への脆弱性が高まるといったトレードオフもある
  • 土地関連の緩和策も諸々あるが、特にマングローブや沿岸湿地帯の保全と修復は炭素を貯留しつつ沿岸部の侵食を防ぎ、嵐の影響も緩和し、極端事象や海面上昇への対策にもなりえる
  • バイオ燃料やバイオ炭、また自然に樹木がない土地への植林は、不適切な仕方で実施された場合、資源をめぐる競争を悪化させるおそれがある
Quartz註:ここでも広い意味での土地利用の重要性が強調されています。また、開発と温暖化対策の二者択一を迫るような考え方の無理が明確に指摘されてもいます。

D.3

気候変動対策行動は各国内や各国間にて影響をもつため、広くさまざまな主体による参加が必要とされる。そうすることで、社会的信用を強化し、変革的行動への支持を拡大できるようになる。

  • 幸福と豊かさの追求は万人が行うことであり、その際に生じるニーズは国や地域によって千差万別
  • 排出量や緩和策の影響の配分は社会的結束や緩和策への支持に影響を与える
  • 「公正な移行」の諸原理を適用しつつ市民参加による意思決定を行えばこの問題は解決できる
  • 資金(金融資源)や技術への国際的なアクセスの向上も公正性を促進しうる
  • 気候正義を考慮に入れることで、開発の軌道を持続可能性に適う方へシフトできるようになる
Quartz註:ここでは政府や大企業など一部の主体に責任を丸投げするのではなく、中小企業や地方自治体、地域社会や個人などを含め、幅広い主体が問題に取り組むべきだとされています。
さらに、「公正な移行」(just transition)や「気候正義」(climate justice)という言葉が使われている点も大きいでしょう。これらはSDGsの文脈では、開発スコアは高いが気候スコアは低い国々(日本を含む先進諸国)がより積極的に緩和策を実行すべきということを意味します。

E. Strengthening the response

対策の強化

E.1

短期的に大規模導入できる緩和策は存在する。実行可能性は地域や文脈ごとに異なる。障壁や追い風となる要素の中でも、特に社会的・制度的な要素が重要となる。

既存のNDCs(国が決定する貢献)を上回る取り組みを行えば、長期的な実行可能性の問題を未然に解決することもできる。

  • 技術的に妥当で、コストも低くなってきており、一般の人びとからも広く支持されている緩和策には特に次のものがある
  • 太陽光発電
  • 風力発電
  • 都市システムの電化
  • 都市における緑のインフラ
  • 省エネ
  • 需要側緩和策
  • 森林・農地・平地管理の改善
  • 食料廃棄・ロスの削減
  • ほぼすべての緩和策が制度的障壁を抱えており、実施のためにはこれを突破する必要がある
  • 実行可能性を決定する要素として、タイミングや個別の文脈、実施規模や実施速度が挙げられる
  • システム移行の実行可能性に付随するリスクは、摂氏2度シナリオの実現に向けて早期かつコスト効率の高い緩和策の実施をすることで削減できる
Quartz註:本報告書で最も楽観的な段落のひとつ。現実的な選択肢として列挙されている緩和策は、いずれも既存のテクノロジーです。奇抜な新技術ではなく、いまある手段を広げていけば問題が解決できるという点が195カ国の間で合意されているといえるでしょう。
緩和策の実行を阻むものとして強調されているのは「制度的障壁」(institutional barriers)。問題は資源や技術の有無ではなく経済や社会の制度設計にあるというわけです。

E.2

広義の開発の一環として緩和策を実施することで、すべての国々で対策の効果も増大が期待できる。持続可能な方向へ開発を誘導するような政策はいますぐ実施できる。

  • 既存の開発経路は緩和策への障壁をつくり出してしまっている
  • 開発経路を変更するような政策を導入することで、持続可能性が実現できる
  • 経済部門ごとの包括的な政策
  • ライフスタイルや行動を変容させる政策
  • 金融規制
  • マクロ経済政策
  • 異なる規模において緩和策を連携させることで、正の相乗効果が期待できる
  • 有利条件(enabling condition)を設置するような政策(省エネを促す情報の提供など)も有効
  • 以上のような緩和策は直ちに実行可能
Quartz註:ここでもまた、有効な緩和策が即実行可能だという点が強調されています。政府や公共機関、企業や個人に責任逃れの言い訳を与えてくれないような、かなり確固とした段落です。また、緩和策を開発の一環として組み込んでいく重要性が確認されている点も大きいといえます。

E.3

気候ガバナンス(法律や戦略や制度による緩和)は、特に多様な主体と連携しつつ実施された際に有効となる。

  • 地方自治体や地域団体にも地域に合った緩和策の実施や実験をする能力があるが、それは限定的でもある
  • 部門や規模や主体間の連携を促し、共通了解を作り、行動へつなげていくためには、国家規模かつ独立した専門家組織が重要な役割を担う
  • 既存の考え方や価値観や信条に沿った緩和策の方が実行可能性が高い
Quartz註:報告書全体を通して地域ごとの緩和策の多様性が繰り返し強調されていますが、ここでは国家が担うべき役割の重要性が合意されています。
また、物理的・地理的な制約に加え、国や地域ごとの価値観や信条のちがいが緩和策の成立条件として考慮に入れられています。日本でも欧米(特に北欧)を規範とすべきという論調が一般メディアでは散見されますが、そうではなく日本の各地域に固有の価値観や信条をベースに緩和策を考えるべきだという教訓がこの段落からは引き出せるでしょう。

E.4

規制や経済制度はすでに成功を収めている。これらを大規模化することで、大幅な排出量削減が期待できる。また、経済全体を射程とする対策は、短期的な経済目標を達成しつつ排出量を削減し、開発経路をより持続可能なものにする。

  • 部門レベルでの規制は有効性が証明されており、各主体に金銭的動機を与えることで緩和につながった
  • 再エネ
  • 土地利用とゾーニング
  • 建築規定
  • 車両・エネルギー効率化
  • 燃料基準
  • 低排出の産業プロセスおよび物質使用
  • こうした先例を国家規模へと応用することは可能
  • 炭素の有料化(カーボン・プライシング)はそれなりに有効だが、単独では緩和策としてあまり効果が無い
  • 炭素の有料化から生じる公正性の問題の解決のためには、炭素税や炭素取引からの収入を低所得世帯への支援に当てるのが良い
  • 化石燃料への援助金の撤廃は、経済的弱者の生活に打撃を与える可能性があるが、他方で財政には良い影響を与え、国家の収入も増えるので、収益を弱者救済に使うことで解決できる
  • 化石燃料援助の撤廃から期待できる2030年までの世界のCO2排出削減量は1%から4%、GHG排出削減量は10%までと見積もられている
  • 発展途上国が最新技術を使用する上では、金融資源と技術移転(現時点では先進諸国に集中している)が有効
Quartz註:発展途上国における持続可能な開発を実現するために、累積排出の責任をもつ先進諸国が資金や技術を提供していくべきだという点が確認されています。
金銭的援助に関しては、利息の支払いや返済義務を伴う融資ではなく、投資や純粋な資金提供が望ましいでしょう。こうした要求はG77(アジア、アフリカ、ラテンアメリカの開発途上国77カ国によって形成されるグループ)において毎年繰り返し発信されてきましたが、先進諸国のメディアではほとんど取り上げられていません。
また、化石燃料への援助金を撤廃して得られる財政収入を低中所得層への援助にあてるべきという点も、先述の公正な移行に則した合意といえます。具体的には、例えばガソリン代が上がる代わりに電気自動車への支援を手厚くしたり、大型車を運転する事業者に追加の燃料支援を提供したり、あるいは建物の冷暖房の燃料費が上がった際には再エネ・省エネの無料または安価提供で埋め合わせるなどといった常識的な案も考えられます。

E.5

記録されている金融フローは、緩和目標の達成のためにはかなり不十分な状態にある。特に発展途上諸国において、必要なフローと実際のフローのギャップが大きい。国際的な金融協力は公正な移行の実現にとって欠かせない。

  • 摂氏2度目標または摂氏1.5度目標を達成するために2020年から2030年までの期間中に必要となる年間投資総額は、現状の3倍から6倍
  • 特にAFOLU部門および発展途上国において目標と現状のギャップが大きい
  • 適応、損害の削減、インフラ設備、規制環境、キャパシティ構築、そして気候に対応した社会保障といった要素は、発展途上国における金融投資条件をさらに厳しくし、資金の誘引をさらに困難にさせている
  • 世界の金融市場にはくだんのギャップを埋めるに十分な量の流動性が存在するが、以下の障壁があるためそれが然るべきところへ行き届いていない
  • 気候関連のリスク評価や投資の機会が不十分
  • 地域レベルでの利用可能な資本と投資需要のミスマッチ
  • ホーム・バイアス(最適ではなくても、海外ではなく地元への投資を選ぶ傾向のこと)
  • 政府の債務レベル
  • 経済の脆弱性
  • 機関や制度の力不足
  • 地域の資本市場が限定的であること
  • リスク&リターン一式の魅力の無さ(目標に見合うだけの規制環境がないことが主な原因)
  • 安全性を保証できるような力をもつ機関の不在
  • 投資の機会や金融モデルの規格化、集中、大規模化、そして反復可能性の不足
  • 商業的投資に使えるようなパイプラインの不足
  • 先進諸国から発展途上諸国への金融支援の加速は、緩和行動の実現にとって欠かせない
  • 特にサハラ以南のアフリカへの公共支援金は、コスト効率が高いだけでなく、基本的なエネルギーの提供といった社会的リターンも大きい
  • 年間1,000億ドルという援助目標の実現も重要
  • 金融関連の各主体(中央銀行や金融仲介業者など)は、気候関連のリスク評価や投資の機会の周知を進めることで気候行動に貢献できる
Quartz註:ここでは、先述のG77がたびたび強調してきた金銭的支援の重要性が細かく確認されています。ここでもまた、問題の本質は資金の不足ではなくそれが適切な場所へ行き渡るような制度の不在や不足だとされています。

E.6

国際協力(UNFCCC、京都議定書、パリ協定など)は緩和に大きく貢献してきた

  • 上記の国際合意には、国家規模の排出量や対策行動の透明化の義務付けが含まれている
  • 特に技術開発と技術共有、そして金融における国際協力が鍵となる
  • 緩和策の効果を最大化するためには、地域ごとに最適な行動を選択していくべき
  • オゾン層破壊や大気汚染への対策としての国際合意は具体的な成果を挙げてきた
Quartz註:一見するとかなり当たり前のことが書いてあるようにも見受けられるかもしません。が、国連主導の国際協力が各国の緩和策の具体的な報告を義務付けてきたという点や、それが緩和に貢献してきたという点は、広く周知されているとは限りません。
195カ国がこの点に合意したという事実は、国際交渉の難しさやそこでの無数の細かい駆け引きを考慮すると、かなり画期的だと言える。その価値は気候変動という問題を考える上で常に念頭に置くべきでしょう。

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