Impact:注目の次世代「気候テック」リスト

Impact:注目の次世代「気候テック」リスト

Deep Dive: Impact Economy

始まっている未来

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毎週火曜日の「Deep Dive」では、今世界が直面しているビジネスの変化を捉えるトピックを深掘りしていきます。今日は、シリコンバレーが再び回帰している森林再生用ドローン、ミニ原子力発電所、省エネスマートフォンアプリなどの「気候テック」にフォーカス。

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Image: REUTERS

世界の平均気温が「危機的レベル」に至る前に食い止めるには、年間約3.5兆ドル(約365兆円)の投資が必要だとされています(「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による)。

そして、現実はそれにはほど遠い──2019年には、風力発電と太陽光発電に対して3,700億ドル(約38.6兆円)という記録的な投資が行われましたが、全エネルギーを賄うには、言うまでもなく不十分です。

3.5兆ドルの大部分は、すでにある技術(太陽光発電、風力発電、バッテリー技術、スマートグリッド……)をより普及させるのに費やされるでしょう。ただ、それだけでは限界があります。パリ協定で採択された目標を達成するには、「前例のない経済的な移行」が必要です。

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Image: EPA/WU HONG

PwCによると、2013年以降、気候関連企業に流入しているベンチャーキャピタルの規模は、推定600億ドル。2019年のベンチャー企業への全投資額を1ドルとすると、気候テックへの投資は約6セントに相当します。

起業家たちは、第一次クリーンテックブーム(2006〜11年)では手痛い失敗をしました。今、企業を立ち上げ規模を拡大するコストが下がり市場が成長するのに伴って、起業家たちはこの舞台に戻っています。

今回の記事では、ベンチャー投資が盛んな6つのセクターをPwCの試算に基づいてリストアップしました。

リストに移る前に、ひとつだけ。気候テックについても、“誇大広告”が、すでに始まっています(数年前のビットコインブームやAIブームのように)。資金と注目が集まるようになると、すぐに大金をせしめようとする者たちが群がるのが常。そして事態はおそらく、すでにそうなっているといえます(電気トラックメーカー・ニコラの創業者の詐欺事件のように)。

① Transportation

運輸

このセクターでの排出量:世界の温室効果ガス排出量の14%
世界のVCのアクション:374億ドル、気候テックへの全出資の63%(2013~2019年)

143年の歴史をもつ「内燃機関」は今、低迷の一途をたどっています。10カ国以上が、早ければ2026年以降、内燃機関を禁止/制限すると発表しており、水素、合成燃料などがその座を狙い、競っています。

このトレンドに対応する新世代のモビリティも登場しています。そう遠くない未来、市場は電動スクーター(バイク)や自律型シャトル、さらには垂直離着陸が可能な電動飛行機で賑わうことになるでしょう。

世界の海運業界と航空業界は、今後数十年の間で温室効果ガスの排出量を削減またはゼロにすることを約束しています。

これらモビリティソリューションには、2013年以降、500億ドル近くが投入されています。特に中国では電気自動車が大きく伸びており(全投資額のほぼ半分を占める)、マイクロモビリティやe-スクーター、カーシェアリング・プラットフォームが成長。このセクターにおける“大物”といえば、テスラ(Tesla)が挙げられます。

注目のスタートアップ

  • 🚗 電気自動車:NIO、テスラ(Tesla)、リビアン(Rivian)、ルシード(Lucid)、ニコラ(Nicola)、バイトン(Byton)、WMモーター(WM Motor)、Xpeng
  • 🚚 物流:ヌーロ(Nuro)、スターシップ(Starship)ボックスボット(Boxbot)
  • 🛴 マイクロモビリティ:ライム(Lime)、バード(Bird)、オフォ(Ofo)、ハローバイク(Hellobike)、モーバイク(Mobike)
  • ✈️ 航空: ライトエレクトリック(Wright Electric)、ジョビィ(Joby)、エビエーション(Eviation)、キティホーク(Kitty Hawk)アンパイア(Ampaire)、リリウム(Lilium)
  • 🔢 インフラ&データ:ポピュラス(Populus)、ストームセンサー(StormSensor)、オーバーストーリー(Overstory)

② Food, agriculture, forestry, and land use

食糧・農林業・土地

このセクターでの排出量:世界の温室効果ガス排出量の24%
世界のVCのアクション:81億ドル、気候テックへの全出資の13.6%(2013~2019年)

自然は地球最大の「炭素吸収源」です。毎年、人類による炭素排出量の約41%が海や植物、陸上の生態系によって吸収されています。

スタートアップは、世界の生態系を回復することで気候変動を遅らせようとしています。そのアプローチとしては、植物ベースの「肉」への置き換えドローンを使った植林のほか、人工衛星を使って森林破壊を追跡・防止したり、「精密農業」(農地や農作物の状態をきめ細かくコントロールし、農作物の収穫量の向上を図る)による水資源や肥料の使用量を減らしたりすることが挙げられます。

注目のスタートアップ

  • 🍔 代替肉:インポッシブルフード(Impossible Foods)、ビヨンドミート(Beyond Meat)メンフィスミート(Memphis Meats)リップルフード(Ripple Foods)クリーン・クロップ・テクノロジーズ(Clean Crop Technologies)、アピール(Apeel)
  • 🌾 精密農業:クライメイトコーポレーション(Climate Corporation)、インディゴアグリカルチャー(Indigo Agriculture)
  • 🛰 リモートセンシング:デカルトラボ(Descartes Labs)、テラスラボ(TellusLabs)
  • 🌲 林業:シルビアテラ(SilviaTerra)、ドローンシード(DroneSeed)、レン(Wren)

③ Energy and efficiency

エネルギー

このセクターでの排出量:世界の温室効果ガス排出量の25%
世界のVCのアクション:49億ドル、気候テックへの全出資の8.2%(2013~2019年)

エネルギーの脱炭素化こそが、気候変動対策の本丸。温暖化を防ぐには、今世紀半ばまでに化石燃料の使用を諦めるか、あるいはそれによる排出量をゼロに封じ込めなければなりません。

スタートアップは、長寿命バッテリーやミニ原子炉など、すでにあるテクノロジーを改良することで、この問題に部分的に取り組んでいます。

一方で、既存の電力会社のような退屈で堅苦しい産業をデジタル技術でアップグレードしようと、シリコンバレーならではのソフトウェアの知識を利用しているグループも。その中核をなすのが「データ」です。例えば機械学習アルゴリズムを使えば、企業のエネルギー使用量を評価し、業務を合理化し、クリーンなエネルギーの調達に役立てられるのです。

注目のスタートアップ

  • 🏭 エネルギー効率:アルトゥラス(Alturus)、エコメデス(Ecomedes)、アドバンスドエナジー(Advanced Energy)、ソリューションズ(Solutions)、マルタ(Malta)
  • ☀️ 発電:ソーラーシティ(Tesla/Solar City)、ビーボックス(Bboxx)、オクスフォード(Oxford)、フォトボルタイクス(Photovoltaics)、フェニックスインターナショナル(Fenix International)、ネットパワー(Net Power)
  • 🔋 バッテリー:クォンタムスケープ(Quantumscape)、クィッドネットエナジー(Quidnet Energy)、ライラックソリューションズ(Lilac Solutions)、フォームエナジー(Form Energy)
  • ⚛️ 原子力:ジェネラルフュージョン(General Fusion)、コモンウェルス・フージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)
  • ⛽️ 合成燃料:プロメテウス(Prometheus)、ネクサスフューエル(Nexus Fuels)

④ Heavy industry and materials

重工業・素材

このセクターでの排出量:世界の温室効果ガス排出量の21%
世界のVCのアクション:38億ドル、気候テックへの全出資の6.4%(2013~2019年)

重工業は「加熱」なしには成り立ちません。鉄にしろコンクリートにしろ、アルミニウムもその他化学物質も、製造・加工するには化石燃料を燃やすことで得られる高温の熱が必要です。そして、近い将来、これらのプロセスも低炭素の代替品で置き換える必要が出てきます。

重工業については、短期的に収益性を上げるのは困難です。しかし、政府が規制や価格統制を通じて炭素コストを引き上げることで、乗り換えのインセンティブは高まるでしょう。スタートアップが成功した暁には、世界の産業を支配することになるかもしれません。

一方、重工業以外の素材にまつわる事業は、比較的容易ともいえます。Ginkgo Bioworksは、化学肥料への依存度を下げるためにバクテリアを用い、Mobiusは、パルプや製紙工場から出る有機廃棄物を加工し、生分解性で堆肥化可能なプラスチックに再利用しています。

注目のスタートアップ

  • 👕 素材:モダンメドウ(Modern Meadow)、ギンコバイオワークス(Ginkgo Bioworks)、ザイマージェン(Zymergen)、メビウス(Mobius)、モノリスマテリアルズ(Monolith Materials)、パーティクルワークス(Particle Works)、ヴィゾリス(Visolis)
  • 🏭 産業用エネルギー・プロセス:ランツァテック(LanzaTech)、チャームインダストリアル(Charm Industrial)、サンドロップフューエルズ(Sundrop Fuels)、ソリュージェン(Solugen)、ディアマン(Dearman)、(Skyre)、サブライムシステムズ(Sublime Systems)、ヴィアセパレーションズ(Via Separations)

⑤ Buildings

建築

このセクターでの排出量:世界の温室効果ガス排出量の6%
世界のVCのアクション:37億ドル、気候テックへの全出資の6.2%(2013~2019年)

世界では、今後40年間で新たに建設される建物の延べ床面積が2,300億平方メートルにまで達するとされています。しかし、エネルギー節約に最適化されているのは、そのうちのごく一部にすぎません。

解決策はローテクなものが多く、例えば断熱材のアップグレードや太陽熱温水器の設置などが挙げられますが、その潜在的な節約量は世界の排出量の6%を超えます。

これらをリードするスタートアップのほとんどは、舞台裏で活動しているため、有名になることはありません。現状では大企業や不動産デベロッパーが支援者となっていて、センサーやソフトウェアを使い冷暖房や照明などのエネルギー消費を削減、建物における管理を改善しようとしています。

注目のスタートアップ

  • 🏢 ビル管理/効率化:エコファクター(EcoFactor)、ヴァーディグリス(Verdigris)、カテラ(Katerra)、アップライトエナジー(Uplight Energy)、カーブ(Curb)、エンライテッド(Enlighted)

⑥ Carbon capture and storage

CO2の有効利用

このセクターでの排出量の削減目標:2050年までに、年あたり5〜15GtCO2
世界のVCのアクション:5億600万ドル、気候テックへの全出資の1%未満(2013~2019年)

パリ協定で定められた目標を達成するには、(排出量を削減するだけでなく)大気中から二酸化炭素(CO2)を除去する必要があるとされています。

方法は大きく2つ。1つは、工場や発電所から排出される廃棄物から炭素を隔離して貯蔵する方法。そしてもう1つは、大気中の炭素を直接排出する方法です。どちらも、気候の正常化に必要な規模での導入には至っていません。

しかし、スタートアップはこの分野の市場を開拓しています。CO2を化学物質や燃料に変換したり(Opus12)、浜辺に天然の鉱物カンラン石を敷き詰めることで大気中のCO2を除去したり(Project Vesta)、CO2を炭酸カルシウムに固定化し、コンクリートに混ぜて強度を高めようというスタートアップ(CarbonCure)も存在しています。

こうした取り組みに対して、テック企業が顧客としてサービスを提供しているケースも生まれています。フィンテックのStripeは今年5月、排出量削減への取り組みの一環として、大気中から除去された炭素の長期貯蔵を確保するべく、年間100万ドル以上を投資することを発表しています。

注目のスタートアップ

  • ⏬ 大気中のCO2捕集:カーボンエンジニアリング(Carbon Engineering)、グローバルサーモスタット(Global Thermostat)、クライムワークス(Climeworks)、ヴァードックス(Verdox)、モザイクマテリアルズ(Mosaic Materials)
  • 🔄 廃棄物フロー:オーパス12(Opus12)
  • 💰 製品化:カーボンキュア(CarbonCure)、ソリディア(Solidia)
  • 🌏 ジオエンジニアリング:プロジェクトヴェスタ(Project Vesta)、オーシャンベース・クライメイトソリューションズ(Ocean-Based Climate Solutions)

(翻訳・編集:年吉聡太)

【お詫びと訂正】昨日(11月17日)朝配信のDaily Briefに掲載した「数字で見るRCEP」の中で、「この経済圏に住む人々の数」を「2.2億人」とお伝えしましたが、正しくは「22億人」でした。訂正してお詫びいたします。


 

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新たなビジネスは、その背景にあるカルチャーを知らねばつくれない! 世界各地で活躍する日本人VCが現地の声で伝える、月イチのウェビナーシリーズ「Next Startup Guide」が始まります。世界を目指すビジネスパーソンはもちろん、ここ日本では何を生み出せるかを考えるための「次世代のスタートアップ地図」を描く時間を、ぜひ共有しましょう。第1回は11月26日開催。世界最大の民主主義国インドにフォーカスします。

  • 日程:11月26日(木)11:00〜12:00(60分)
  • 登壇者:河村悠生さん(Head of Global IP Expansion〈執行役員〉, Akatsuki)、久保田雅也さん、Quartz Japan編集部員(モデレーター)
  • 参加費:無料(Quartz Japan会員限定)
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