Startup:「出世払い」のプログラミング学校

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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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学生時代に借りた奨学金を返済している人はお分かりでしょうが、これ、本当にしんどいです。アメリカでは、学生ローンの残高が過去15年で3千億ドル(約33兆円)から1.4兆ドル(約153兆円)と、実に5倍まで膨れ上がっています。

この1.4兆ドルという数字がどれほど大きいかでいうと、自動車ローンの1兆ドル、カードローンの9千億ドルより大きい。

アメリカでは国民の70%が大学に進学しますが、学費は毎年4万ドル(約440万円)、生活費込みでは6万ドル(約660万円)が必要です。学生の7割が学生ローンを利用し、卒業時点で平均3万ドル(約330万円)の借金を負っています。

20年の返済期間で、約40%は返済が滞るそうです。おまけにアメリカの場合は自己破産しても学生ローンは残るので、彼らはひたすら金利を払い続けるしかありません。

苦労して大学を出てやっと社会に出ても、その途端に借金まみれでは、結婚して子どもを持ったり家を購入するのを諦めてしまう。若者の未来の選択が制限されるヤバイ状況を、今、スタートアップが解決に乗り出しています。キーワードはISA(インカム・シェアリング・アグリーメント)。日本では聞き慣れないこの言葉を、アメリカではよく聞くようになってきました。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、ISA型プログラミングスクールを展開するJuno Collegeをご紹介します。

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Juno College of Technology(ISA型プログラミングスクール運営)

  • 創業:2012年
  • 創業者:Heather Payne
  • ステージ:シード
  • 調達総額:15万ドル(約1640万円)
  • 事業内容:ISAを採用した、1ドルで受講できるプログラミングスクールの運営

WHAT IS AN ISA

学費を人生の足かせにしない

ISAとは簡単に言うと、学費を出世払いする方法です。卒業後に職を見つけられない場合や給与が一定額を下回る場合は、その期間の支払いも免除されます。

Juno Collegeはプログラマーを養成するための9週間のブートキャンプ講座を2つの支払い方法から選べます。

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  1. 12,000ドル(約130万円)を支払う
  2. 卒業後に年収の17%を2年間支払う

プログラマーになりたいけど、お金がない。そんな時は②を選ベばいい。授業はタダで受けられて、あとで就職してから出世払いすればいい。ローンは要らないわけです。

ただの後払いと違うのが、支払いは年収5万ドル(約550万円)の仕事に就いた場合のみという点。就職できなかったり、失業したりで、年収が5万ドル(約550万円)を下回ると支払いはストップします。

金利はゼロ。そして卒業から5年経つと支払い義務は消滅します。上限は1万8千ドル(約200万円)に設定されており、金額が青天井になることもありません。

カナダで初めてISAを採用したJuno Collegeですが、生徒が就職できないと収益が上がらない。じゃあどうするかというと、確実に仕事を手にできるだけのスキルを受講生に習得してもらうよう努力をします。講師やカリキュラムの質を上げる努力をし、必死に就職支援をします。

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まさに“Your success is our success” (あなたの成功が私たちの成功である)。ISAの仕組みで、教育もコンテンツの切り売りから、成果報酬型へ。クラウドソフトウェアだけでなく、教育の世界も今や合言葉は「カスタマーサクセス」なのです。

STUDENT LOANS AS SERIOUS PAIN

社会問題化する学生ローン

あまり知られていませんが、実はこの学生ローン地獄は、日本も同じ状況です。日本には独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度がありますが、利用者は132万人(年間)、なんと大学進学者の2.6人に1人は奨学金を借りていることになります。

一人当たりのローン総額は平均324万円と、上述した米国と同レベル。滞納すると年利5%の延滞金が上乗せされ、3カ月以上の滞納者については個人信用情報機関の「ブラックリスト」入りです。

日本の場合は親族を連帯保証人に入れなければならず、親子ともに自己破産してしまうケースも多い。奨学金を利用するのは所得の低い家庭が多く、この傾向は顕著です。

SCHOOLS ARE OUTDATED

壊れる大学という仕組み

一方、大学は何も変わらない。大学教育が提供するものと、社会に必要なスキルに大きなズレが起きています。アカデミックなキャリアを志さない限り、大学は社会での成功に役に立たない。

昨年、トップスクールのMBA志願者が約6%減りました。学生ローンを利用したミレニアル世代の40%以上は、大学にはその価値が無かったと答えています。今後、大学への進学率は大きく低下し、大学の淘汰は避けられないでしょう。

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シリコンバレーの強さの源泉としてスタンフォード大学卒の人材が挙げられますが、それは一部。移民の国アメリカでは、世界中から若者が成功を夢を見てシリコンバレーに渡り、寝食を忘れてプログラミングに没頭する。テクノロジーで一発逆転を狙う、アメリカン・ドリームを夢見る若き野心家たち。決して優れた学位もない彼らこそ、シリコンバレー人材の根幹なのです。

HOW IT IS SOLVED

解決への糸口

学歴を基準に選抜され、レールの敷かれた大企業の階層を上がっていく時代から、個人が急成長し若くして成功を掴む時代。大学を出た後の収入は、上へも下へも大きく振れ、不確実です。今や教育資金のファイナンスはデットではなくエクイティで賄われるべきでしょう。Juno Collegeが採用したISAは、これを可能にする仕組みと捉えることができます。

Juno Collegeを始めとする「FinTech×教育」のスタートアップは、今年のY Combinatorでとりわけ存在感を放っていました。現代のサブプライム・ローンとも言える学生ローン問題の解決に取り組むスタートアップの動向から、今後も目が離せません。

ScholarMe(スカラーミー)
私大の奨学金および教育ローン、政府の助成金などをまとめて申し込めるアプリ

Blair(ブレア)
学費および生活費を学生へ提供し、卒業後に収入を得られるようになったタイミングで返済をしてもらう大学向けのISA

GradJoy(グラッドジョイ)
学生ローンの支払いを最適化するフィンテックプラットフォーム

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)

This week’s top stories

今週の注目ニュース5選

  1. Paytmのキャッシュバーンは「持続不能」。インドのスマートフォン決済最大手「Paytm(ペイティーエム)」を運営するワン97コミュニケーションズは25日、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の投資ファンドなどが出資を受け、新たに10億ドル(約1080億円)を調達。SBGはウィーワークの経営難で生じた投資損失の余波で投資先に規模を追及させる戦略を修正していたことから、動きに注目が集まっていたが、Paytmに対しては積極投資の姿勢が再確認できた。ただ、売上高を大きく伸ばす一方で利益はまだ出ていない。アナリストは同社に「持続不可能なキャッシュバーンがある」と指摘している。
  2. 年末商戦へオンライン通販が絶好調。サンクスギビングを皮切りに始まったアメリカの年末商戦はオンライン通販が好調で、初日の売上高は昨年の37億から14.5%増の42億ドルに達した。Adobeによると、売上高の45%に当たる29億ドルがスマホで発生し、昨年の33.5%から24.4%増加した。
  3. 現代の起業家のためのシューズ。カリフォルニア発のヘリテージテニスブランドK-SWISS(ケースイス)が、パフォーマンスシューズを最も必要としている人々、スタートアップの創業者向けにコレクション「THE STARTUP」を発表した。空港のセキュリテゲートでもたつかないよう、靴をすばやく着脱できる仕様という。
  4. 処方箋のリマインドはAlexaにお任せ。米Amazonは、薬局向けの投薬・供給管理システムのOmnicell、大手薬局チェーンのGiant Eagle Pharmacyと提携し、音声アシスタント「Alexa」で処方薬の服用リマインダーと薬の補充を管理するサービスを米国の一部地域で開始した。Amazonは2018年6月に買収した処方薬のネット販売PillPackのブランド名に「バイ・アマゾン・ファーマシー(by Amzon Pharmacy)」を加えるなど、オンライン薬局市場に参入する準備を整えている。
  5. 凄まじい中国のアフリカへのピボット。決済サービス「OPay(オーペイ)」、「PalmPay(パームペイ)」、物流サービス「Lori Systems(ロリ システム)」の3社は今年、中国投資家から計2億4千万ドルの資金調達を完了した。銀行口座を持てない層が多いアフリカでのフィンテックシェア争いが加熱しつつある。

【今週の特集】

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Quartz(英語版)の今週の特集は、「Disrupting Dimentia(認知症をディスラプトせよ)」です。長寿化が進む、高齢人口が増えていくなかで、痴呆症をいかにマネジしていくのかは、世界共通の課題。Quartz Japanの購読者は、英語のオリジナル特集もお読みいただけます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:ロイター)