Startup:2020年大本命のスリープテック

Startup:2020年大本命のスリープテック

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Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。

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OECDの調査で、実は日本人は世界で最も「寝ていない国」です。日本人の平均睡眠時間は7時間ほどで、これは欧米先進国と比べて1時間ほど少ない。そして40代が最も短く、約半数が6時間未満です。多い残業や夜の付き合い、そして長い通勤時間などが理由と言われています。

日本だけの話ではありません。アメリカ国立衛生研究所(NIH)によると、少なくとも4千万人以上のアメリカ人が、不眠症や睡眠リズム障害で苦しんでいるそうです。

ここ数年でテクノロジーの力で睡眠問題の解決をはかる「Sleep Tech(スリープテック)」が盛り上がりを見せ、ガジェットやアプリなどが続々と生まれています。

今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、睡眠サプリのRemriseをご紹介します。あのPeter Thiel(ピーター・ティール)がシード期としてケタ外れの大型出資を行なったスリープテックの新星。その背景、秘密に迫ります。

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Remrise(睡眠補助サプリの販売)

  • 創業:2018年
  • 創業者:Christine Chin, Evan Sedigh, Jeff Tam, Veronica Lee
  • ステージ:シード
  • 調達総額:820万ドル(約9億円)
  • 事業内容:睡眠補助サプリのEC

PERSONALISED SLEEP

睡眠をパーソナライズする

リサーチ会社の試算では、睡眠健康産業の市場は、2021年までに850億ドル(約9兆3,500億円)に達するとされ、この巨大市場に挑戦するスタートアップも相次いでいます。

Remriseは、睡眠の質を改善するサプリを提供しています。夢を見ますか? お酒はどのくらい飲みますか? 昼間は元気ですか? 寝つき、中途覚醒のどちらが深刻ですか?など、睡眠に関する簡単な質問に回答していくと、最後にユーザーの睡眠障害に効果が期待できる調合のサプリが提示されます。最初の1週間は送料のみで、無料で開始できます。

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睡眠と言えば、寝やすいマットレスや頭の形に合った枕などありますが、本当に効果があるか分からないうえ高価。かと言って睡眠薬は副作用が怖い。Remriseは無料で始められる手軽さと、漢方という自然由来を謳う事で、導入ハードルを圧倒的に下げています

Remriseには睡眠をトラックする専用アプリもあり、あらゆるウェアラブルデバイスで使えます。Apple WatchやFitbitは、睡眠状態の記録や可視化には便利ですが、睡眠改善には役立たない。

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Remriseが上手いのは、これらウェアラブルデバイスが技術的にも価格的にもこなれてきた普及期に、そのプラットフォームの上に乗るソリューションを出してきた点。コストのかかるハードウェアは他に任せ、そのインフラの上に利益率の高いサプリのサブスク型ECを乗せてきた点で、よく考えられた参入タイミングとビジネスモデルと言えるでしょう。

TARGETING MILLENIAL

ターゲットはミレニアル層

サプリの値段は月額55ドル(約6,000円)と、一般的な睡眠導入剤よりも割高です。それでもユーザーや投資家が殺到するのは理由があります。

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アメリカ人にとって、西洋医学の「サプリ」は身近な存在ですが、東洋医学となると、手を出しにくい領域です。創業者のChristine Chinは中華系で、ゴールドマン・サックス勤務時にハードワークが原因で睡眠に悩んでいました。色んな策を試したが効果なく、母親がチャイナタウンで買ってきれくれた漢方が効果てきめんだったそうです。

ごく一般的なアメリカ人にしてみたら、自らチャイナタウンに漢方を買いに行くのはハードルが高いです。どれを買ったらいいのか、無数に種類がある中で選べない。そこを、安全安心な品質で、自分に合う漢方をネットで手軽に手に入るようにした。

そして、Remriseがターゲットとするアメリカのミレニアル層(2000年代に成人になる世代)が抱く、巨大製薬会社に対する「不信感」をうまく突いています。ウェルネス意識の盛り上がりの中で、本当に体に良いものを欲するミレニアル層からすると、西洋医学のサプリは成分も不透明で、個人の症状に合わせた処方もない。

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Remriseでは、ユーザーに合ったサプリを提案する画面で、成分となる薬草をイラスト付きで詳細に説明します。そして個人に合わせて処方されたサプリは飲む順に4種類にパッケージされ、飲み忘れず、飽きさせない工夫がされています。

THE FUTURE OF MINDFULNESS

止まらないマインドフルネス市場

先日西海岸のベンチャーキャピタリストに、「これから来そうなトレンドは?」と尋ねたところ、迷う事なく「マインドフルネス」という答えが返ってきました。日本ではまだですが、アメリカでは既に大きなトレンドになりつつあります。

Remriseは、この「マインドフルネス」の流行にも上手く乗っています。マインドフルネスは「禅」を起源としていて、東洋の文化に対する憧れや受容性と大きく関係しています。そこを中国由来の「漢方」というアプローチで、現代人ほぼ全員の悩みである「睡眠」というペインポイントに差し込んだ。そこがユーザーと投資家を大きく惹きつけました。

サンフランシスコ発の瞑想アプリ「Calm」が昨年、評価額10億ドル(約1,010億円)でユニコーンの仲間入りを果たしました。Calmは毎月5ドルで不安やうつ、不眠症を解消する、様々な音声プログラムが利用できます。なかでも有名俳優などが美声で眠りに誘う「スリープ・ストーリー」機能が大ヒット。年間売上は1億ドル(約110億円)を超え黒字、社員はたった50名という超優良企業なのです。Remriseもシードで820億ドル(約9兆円)とケタ外れな調達を行いましたが、リード投資家はあのPeter Thiel(ピーターティール)率いるFounders Fund。この現代の巨大市場に、いかに投資家の注目が集まっているか、お分かりでしょう。

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面白いのは、アメリカでこのマインドフルネス市場を牽引するのが、企業である点。今やアメリカ企業の人事の最先端では、社員のウェルネスを超えたウェルビーイングの議論が活発です。社員のモチベーションを向上させ高いパフォーマンスを出すには、身体的だけでなく精神的、社会的にも充足された状態を作り出すことが重要と、企業がこぞって検討、導入を進めています。

人間は一日に数万回から数十万回の思考を巡らせているそうで、スマホから24時間溢れ出る情報を遮断し、心を休める時間を意識的に作る重要性は高まっています。スリープテックは、世界一の睡眠不足大国の日本にこそ、実は最も必要とされているかも知れません。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)

This week’s top stories

今週の注目ニュース5選

  1. フィットネス企業がユニコーンに。女性起業家パヤル・カダキアが率いるフィットネスのスタートアップ、ClassPass(クラスパス)は8日、2億8500万ドル(約310億円)のシリーズEラウンド資金調達のクローズを発表。評価額は10億円に達し、ユニコーンの仲間入りを果たした。2013年以来同社は提携するフィットネスクラブのプログラムを予約・受講できるサブスクリプションサービスを展開していたが、ビジネスモデルが持続不能として2016年に回数制限を導入。2018年にはクレジットベースのシステムに転換するなど、苦境を乗り越えてきた。
  2. 「睡眠を売る」CasperがIPO。マットレス販売や睡眠バーなどを手がける、ウェルネス・テック企業Casper(キャスパー)がIPOを発表。ミニ冷蔵庫ほどの大きさの段ボール箱に収まるマットレス販売で注目を集め急速に事業を拡大させており、2018年売上高は前年比38.7%増の3億8800万ドル(約420億円)を記録。しかし、利益は上がっていない…
  3. ソフトバンク出資先のレイオフ、また1社。Axiosのレポートによると、南米の配送スタートアップRappi(ラッピ)は先週数百人の従業員を解雇したという。コロンビアの首都ボゴタに本拠を置くRappiは、ブラジル、メキシコ、ペルー、アルゼンチンなど、南米9か国で事業を展開。現地メディアは、従業員の約6%、約300人以上が対象と伝えている。
  4. 顧客情報漏らしたAmazon社員がクビに。個人情報を漏らされた顧客に対し10日、Amazonからメールが送られた。そこには、あなたの「メールアドレスと電話番号は当社のポリシーに違反して、Amazon従業員によってサードパーティに開示された」との内容が。全体の被害数や時期は明らかになっていない。
  5. CESで注目されたSleeptech製品。先週ラスベガスで開催されたCESで設置された、Sleeptech(スリープテック)専用ブース。夜用ライトやサウンドで良質な睡眠を促す補助デバイス「Restore」、sleep numberの新作スマートベッド「Climate360」、一日に数分利用するだけで脳をトレーニングし、睡眠をコントロールするヘッドバンド「Urgonight」のほか、ユニークな製品が並んだ。

今週の特集

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今日1月13日の日本時間夕方から配信される、今週のQuartz(英語版)の特集は「Accounting at a crossroads(岐路に立つ会計事務所)」です。WeWork問題をはじめ、会計事務所の存在意義を揺るがすような事態が次々と発生するなか、いかに会計事務所は変わるべきなのか。Quartzがレポートしていきます。

(翻訳・編集:鳥山愛恵、写真:Remrise、ロイター)