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Next Startups
次のスタートアップ
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けします。本日と次回の配信は、軍事テックの最前線に焦点を当ててお送りします。
止む気配のない、新型コロナウイルス騒動に不安な日々が続いています。横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセス号で起こった集団感染の対応のお粗末さに、世界から批判の声が上がっています。
一方で日本には「まあ、大丈夫でしょ」という楽観的ムードが蔓延し、海外に比べ危機感はありません。安定し便利な生活に慣れきった日本人は、「自分は大丈夫」と思い込み心の非常スイッチが入りにくい「正常性バイアス」に陥りやすいのです。
このあと東京オリンピックが控えていますが、ここにも国際テロなどの脅威が懸念されます。今週お届けするQuartzの「Next Startup」では、「ドローン攻撃」という現代の新たな脅威に挑むFortem Technologiesを取り上げます。
Fortem Technologies(不審ドローン対策システム)
- 創業:2016年
- 創業者:Adam Robertson, Timothy Bean
- 調達総額:2,190万ドル(約24億3,700万円)
- 事業内容:不審なドローンを追跡し捕獲するドローンを開発
UNMANNED WAR
無人化する戦争現場
テクノロジーの進化で、世界にはこれまでになかった「戦争」の形が生まれています。テクノロジーの発達によって国防の現場は様変わりしていますが、最たる例が「ドローン攻撃」です。今やゲリラの最前線では無人の兵器が標的を襲撃し、攻撃する側が「死なない」のが常識です。
無人ドローンで偵察をし、時に爆弾を搭載して任意の目標に突入し自爆します。先日の米軍によるイランのソレイマニ司令官暗殺も、トドメを刺したのはドローンでした。無人兵器で先行する中国は、陸軍将校など30万人の「リストラ」を発表しています。
昨年、サウジアラビアの石油プラントがドローン攻撃を受けました。被害総額は3兆円にも上りますが、攻撃に使ったドローンはたったの160万円。2018年にはイギリスのガトウィック空港に2機のドローンが侵入し、2日間も離発着が停止されました。その後ガトウィック空港とヒースロー空港は数百万ポンドを投じて対ドローン装備を導入すると発表するなど、大混乱に陥りました。
ドローンは鳥と間違うくらい小さく、低高度で飛行するためレーダーで捉えられません。また低空飛行なため迎撃が困難です。高性能なドローンも家電量販店などで簡単に手に入り、カメラと爆薬をつけるだけで自爆ドローンの出来上がりです。
安価で、簡単で、効果的で、正確な空からの攻撃が可能なドローンに、対策は急務です。しかし、いま世界中に張り巡らされた防御システムの多くは、戦闘機やミサイルなど急速に動く飛翔体を想定した設計です。小型で低速、低空飛行のドローンはまさに国防の盲点を突く、現代の新たな脅威なのです。
CATCH A DRONE ALIVE
生け捕りにする技術
不審ドローンの対策はいくつかありますが、真っ先に思い浮かぶのが「撃ち落とし」です。しかし流れ弾による被害や、撃墜したドローンの残骸が落下することによる二次被害の危険もあります。数万円のドローン撃墜に数億円のパトリオットミサイルでは、コストも見合いません。
次に「ジャミング(電波妨害)」です。通常ドローンはコントローラーから無線で操作しますが、妨害電波を発し不審ドローンの動作を止めます。しかしドローンが突然落下する等の想定外の動作が起きたり、ドローンが完全自律型の場合は止めることができないなど不完全です。
かつては不審ドローンの捕獲にワシを使う試みもありました。オランダ警察やフランス空軍に採用されましたが、調教と飼育のコストが見合わないと、中止に追い込まれています。小型で不規則に動くドローンの捕獲が、いかに厄介で難しいかが分かります。
そこで注目されているのが、不審ドローンを「生け捕り」にする技術です。今月上旬に米国防総省(ペンタゴン)は、ユタ州に拠点を置くベンチャー企業Fortem Technologiesと、不審ドローン対策で契約しました。
Fortem Technologiesは、AIとレーダーを搭載した自社開発のドローン「SkyDome(スカイドーム)」を使い、不審ドローンを網で捕獲します。まさに「ドローンをドローンで制す」仕組みです。
不審ドローンを検出すると、自動で発進し追跡します。そして距離を詰め網を発射し、一網打尽にし回収します。不審ドローンを生け捕りにすれば、解析して情報収集もでき、一石二鳥です。野生の動物や人間が狩りをする方法を参考に作られたそうで、数百メートル先からでも標的をロックオンできます。
SkyDomeが面白いのは、ハイテクとローテクの合わせ技である点。彼らは「網で捕獲」という、原始的ながら確実かつ安全な方法に解を求めました。AIや自動化一辺倒なソフトウェア開発の現場でも、先端技術を研ぎ澄ますことだけが近道ではない。費用対効果を考え課題主導で解決策を探るべき、と再認識させてくれます。
DEFENSE TECHNOLOGY
成長止まらぬ防衛産業
不審ドローン対策の市場は今後も急拡大するとみられます。2024年に22億7,600万ドル(2,251億4,000万円)に拡大する試算が出ており、今後ますます需要が見込める分野です。
この成長市場へは古参の軍事関連の大企業だけでなく、スタートアップの参入も相次いでいます。空港やスタジアム、コンサート会場での不審ドローンの防衛を行うEpiriusや、軍事施設や危険な建物を自動で調査し地図を作成するShield AIなどベンチャーキャピタルも出資する注目領域です。
アメリカは国防の予算が大きく、日本と違いスタートアップとも取引をするため、契約が取れれば急成長する可能性があります。防衛産業に長く従事したベテランと、AIやソフトウェアに長けた若手エンジニアのタッグで起業するケースが多いのが特徴です。
しかし、アメリカという大国の先を行く、不審ドローン対策の最先端技術を有する国は他にあるのです。イスラエルです。
撃墜するタイプのシステムで一歩リードするのもイスラエルの防衛テクノロジー企業Rafael(ラファエル)です。今月同社は、複数の飛行中のドローンを3キロ離れた先から正確にレーザービームで撃ち落とすことに成功したと発表し、世界を驚愕させました。
そして、イスラエルには、このFortem Technologiesを上回る、さらに革新的なドローンの「生け捕り」技術をもつベンチャーが存在します。次週は、謎に包まれたこのイスラエル企業の実態に迫ります。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- コロナ拡大の裏側で進むプライバシーの侵害。顔認証技術などディープラーニングを手がける中国のSenseTime Group(商湯集団)は、新型コロナウイルスの感染防止のため、顔認識アルゴリズムと熱画像装置を用いてパンデミックの前段階で封じ込めに貢献できると今月頭に発表しました。マスクをしていない人に注意を促したり、感染リスクのある人の早期スクリーニングが可能になるメリットを押し出しつつも、国家の危機を隠れ蓑にプライバシーの侵害が進む危険性が指摘されています。
- 機内食に導入された革新的な野菜。従来、機内食に使用される野菜は口に入る3〜5週間前に収穫されたものでしたが、AeroFarms社の手にかかれば、フライトの数時間前の収穫が可能に。ニュージャージー州ニューアークの農場で栽培された野菜は、シンガポール航空のニューヨーク発フライトの機内食として提供されています。この農法はエアロポニックスというNASAが宇宙空間で野菜を栽培するために確立されたもので、収穫量は従来の300倍も効率的だとされます。食の安全性の担保が必須な航空会社にとって、土もミツバチも堆肥もない「完全デジタル栽培」の野菜は、衛生面で魅力的です。
- Fintech領域のスタートアップ、資金調達が落ち込み。調査会社CBinsightのレポートによると、2019年、Fintech領域のスタートアップのディールは1,912件で339億ドル(約3兆8,000億円)で5年ぶりの最低水準だった。VCファームがレイターステージの支援に目を向けたこと、成長過程にあるマーケットに注力したことが要因。そんな中でも保険セクターは躍進を見せました。2018年の32億ドル(約3,570億円)から、2019年に62億ドル(6,920億円)まで調達額が膨らみました。
- Jay-ZのVC、D2Cへの投資加速へ。ヒップホップアーティストで起業家のジェイ・Zが、シリコンバレーの投資家と共同で立ち上げたベンチャーファンド「Marcy Venture Partners」が8,500万ドル(約94億8,000億円)を調達したと、2月18日に提出されたSECファイリングから明らかになりました。報道によると、消費者へ直接販売するD2Cスタートアップへの投資に注力するようです。
【今週の特集】
本日から配信開始の、Quartz(英語版)の特集は「China’s first global app(中国初のグローバルアプリ)」です。Tik-Tokを武器に、グローバルなプラットフォームを作り上げたByteDance。アリババ、テンセントの巨人に頼らず、世界を駆け巡る彼らの野望をQuartzがレポートします。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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