Millennials:アメリカの若者は「シラフ」で社交する

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MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者のみなさん、こんにちは。お酒を飲みながら社交を深める「飲みニケーション」が、もはやトレンドではなくなっています。今日の「Millennials Now」では、アメリカで起こっている「飲まない」コミュニケーションと飲み物の変化についてレポートします

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Image: STANISLAV IVANITSKIY ON UNSPLASH

ドラッグ、喫煙はクールじゃない……その次は飲酒も。ジェネレーションZ世代やミレニアル世代は、アルコールをもはや消費しない世代になってしまったのでしょうか? 日本でも、若者の「アルコール離れ」はよくトピックに上がりますが、アメリカでもその流れは顕著です。

Nielsenのデータによると、米成人の約半数(および21〜34歳の3分の2)は、飲酒を控えようとしていると回答。また、調査会社IWSRのデータによると、「アルコール離れ」から見られる飲料用の低アルコール飲料またはノンアルコール飲料のアメリカでの市場は、2022年までに約39%成長する見込みだといいます。

また、ビールブランドのBudweiserとBud Lightの販売が停滞しているため、親会社であるAnheuser-Busch InBev(AB InBev)は、フルーツジュースからプロバイオティクスドリンクに至る飲料すべてに投資しており、2025年までには販売するビールのうち、20%をノンアルコールまたは低アルコールにすることを決めています(同社には“Chief Non-Alcohol Beverages Officer”という役職までできるなど、その本気な姿勢が伺えます)。

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Image: IWSR

また、今まで増加傾向だったアメリカでのワインの消費量も、2019年、この25年で初めて減少。この理由としても、若者の「アルコール離れ」と、ワインよりも低アルコールのハードセルツァー(アルコール入り炭酸)やスピリッツを好む嗜好の変化にあると言われています。

The reason why they don’t drink

アルコール離れ、なぜ?

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Image: Photo by David Pennington on Unsplash

アメリカにおける「アルコール離れ」の大きな要因は何でしょうか?

アルコール摂取をストレス発散の手段のひとつとして考えると、ミレニアル世代はアルコール以外で発散しています

米メディア『The Atlantic』では、「ミレニアル世代は、すでによりよいバランス感覚をもっています。ヨガや瞑想をする人やワークアウトに熱心な人もいるので、刺激的な外的要因やストレスの軽減のためになにか発散できるものを見つける必要はありません」と述べられています

そして、その考え方が健康を維持することに対する世代の一般的な関心を反映。アルコールを摂取する習慣に疑問を抱いている人々にとって、「飲酒を断念する」という考え方自体がもはや存在しないのです。

実際、世界保健機関のアルコールと健康に関する2018年のレポートは、主にヨーロッパとアメリカに居住する飲酒者23億人のうち、男性2億3,700万人と女性4,600万人がアルコール中毒、あるいは、飲酒による疾患や健康障害を抱えていることを明らかにしています(2016年時点)。

また、アメリカでは約9万人がアルコール関連が原因で死亡していますが、その数は改善していません

Sober Curious

シラフで社交する

健康に対する意識とは別の話になりますが、そもそも、アメリカ人にとって「飲む」ことは仕事やプライベートのすべてにおいて社交の重要なひとつとして考えられてきたもので、アルコールを介した社交は一般的なものでした(これは日本も同じだといえるでしょう)。

こういった場所を苦手とする若者が増えたことで「アルコール離れ」が進むことも考えられますが、若者は社交の場を求めていないわけではないのです。

Ruby Warrington著の『Sober Curious: The Blissful Sleep, Greater Focus, Limitless Presence, and Deep Connection Awaiting Us All on the Other Side of Alcohol』では、「アルコールが私たちの生活のなかにある楽しさ、親密さ、友情、そして経験を決定するという考えは、一部のアメリカ人のなかでもはや生きていない考え方」だと書かれています。また、先述のように、健康志向の若者が多くなるなか、アルコール自体が彼らのライフスタイルの一部ではなくなっているのです。

そういった変化のなかで、アメリカではノンアルコールや低アルコールのみを扱う「Sober Bar(日本語に直訳すると、“シラフのバー”)」やコミュニティが流行っています

「アルコール離れ」のトレンドは「Sobor Curious(ソバーキュリアス)」と呼ばれています。直訳すると「飲まないことへの好奇心」なのですが、お酒を飲まなくとも楽しい世界がある、そういった価値観をもつためのウェルネストレンドともいえます。

Sober Curiousはお酒が飲めないわけではないが、あえて飲まない人や、少量しか飲まない人を指しています。

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Image: CLUB SÖDA NYC

2016年、Warringtonが共同創設者を務めるソーシャルコミュニティ「Club Söda NYC」が誕生しました。同コミュニティでは、「Sobriety and Entrepreneurship」や「Psychedelics and Sobriety」と題されたイベントが随時開催され、お酒を飲まずとも「ハッピアワー」を楽しみ、来場者とのコミュニケーションを満喫することができます。

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また、「ソバー」なナイトライフを楽しむために、ニューヨークのブルックリン・グリーンポイントにあるノンアルコールバー「Gateway」や、月に1回のみオープンするポップアップ形式のバー「Listen Bar」、ハーバルバー「Ambrosia Elixirs」など、アルコールを取り扱わない形態のバーも増えています。

photographer by sasha charoensub @sashabphoto
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Image: Lorelei Bandrovschi/Listen Bar

Listen Barの創設者であるLorelei Bandrovschiは、「現代において人々は、飲酒がデフォルトで主流である文化のなかにいます。しかし、飲酒が必要というよりは単純に、夜外出するときのオプションとして、お酒を飲まないことを選びたい人たちもいるのです。そういった人たちに向けて、このような場所を提供しているのです」と話しています

このような「Sober Curiousであることがよりクール」というトレンドは、シリコンバレーでも見られます。

法律系テックのスタートアップAtriumの創設者であるJustin Kanは、「テック界でも飲まない人が増えています。大人数で食事に行っても半分はお酒を飲んでいませんでした」と話しています。自身も断酒の決意表明をツイートし、メッセンジャーアプリTelegramで断酒コミュニティを立ち上げ。すぐに1,000人以上がコミュニティに集まったといいます。

The change of drinking

飲料産業の変化

発売されるアルコール飲料も、従来のものはダウントレンドにあります。

アルコール入りのものでも「低アルコール」を意識し、健康志向にこだわった成分をと取り入れるなど、変わってきています。そして、飲料業界へのスタートアップの参入も多く見られます。

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Image: Haus

Haus」は、アルコール含有量をおさえた食前酒を提供するスタートアップで、Helena Price HambrechtとWoody Hambrechtの夫婦が設立。Combine、Haystack、Partners ResoluteといったVCからの支援を受け、2019年に1本70ドル(約7,500円)の食前酒を発売しました。

アルコール度数は15%。イタリアのAperolの11%に比べると少し高いですが、通常の40度以上あるリキュールよりは低くなっています。また、ワインをベースにし、柑橘類やハイビスカス、エルダーフラワーを使用した「おしゃれ」な味をウリに、若者をターゲットにしています。

また、“Break the glass”をコンセプトにした缶入りワイン「Bev」は、700万ドル(約7.5億円)の資金調達。日本でいうチューハイのようなアルコール入り炭酸飲料(ハードセルツァー)「White Claw」は、2019年に15億ドル(約1,600億円)を売り上げ、アメリカでは“White Claw不足”にもなりました。

ハードセルツァーは、ビールと同程度のアルコールだがカロリーが低いことで健康志向のミレニアル世代を中心に大人気。アメリカで売り上げが急増しています。Nielsenによると、過去1年間(2019年11月2日まで)のハードセルツァー売り上げは3倍、前年比202%以上の成長となり、金額は13億ドル(約1,400億円)に達しました

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Image: WHITE CLAW

一方のノンアルコール飲料でいうと、女性起業家のJen Batchelorが2017年に立ち上げた「Kin Euphorics」は、ストレスや疲労を軽減させる天然ハーブのアダプトゲンなどを混ぜたヘルスコンシャスなドリンクが並びます。投資家からの資金調達もしていて、2018年に発売して以来、注目を集めています

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Image: Kin

また、缶入りの水「Liquid Death」は、Awayの共同設立者Jen RubioやTwitterの共同設立者Biz Stoneなどのエンジェル投資家から200万ドル(約2.1億円)近くの資金を集めました。このように、新たなアルコール飲料に対する投資が続いています。

睡眠や精神状態の安定など、マインドフルネスがひとつのビックトレンドになっている世の中ですが、飲料もミレニアルズのソーシャルライフや健康志向にあわせ、そのスタンダートが今、変わってきているのです。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. アメリカでも新型コロナウイルスの影響で、除菌剤などが売り切れへ。米Amazonでさえ、除菌関連のアイテムはすでに完売しており、在庫がありません。Purellの除菌ジェルは通常2.5ドルなのに対し、約20倍の値段で発売されています。WalmartやTargetといった大型店やドラッグストアCVSでも商品の欠品や不足が心配されています。
  2. iPhoneの交換デバイス不足。Appleは、小売店の従業員に交換用のiPhoneの不足について警告しました。これは、新型コロナウイルスの影響で、会社のサプライチェーンに負担がかかっているためです。Apple Storeの従業員によると、同社は最近、店舗のテクニカルサポートスタッフに、損傷の激しいデバイスの交換用iPhoneは、2〜4週間しないと入荷してこないと話していたといいます。
  3. アメリカで占いが大人気。不安定な状況が続くと、人々は占いを頼るのかもしれません。Sensor Towerの最新データによると、アメリカにおける2019年占いアプリトップ10の売上は、合計4,000万ドル(約43億円)。これは、前年比の64.7%増になります。売上が一番高いアプリは、Astrology & Palmistry Coachで、年間トップ10売上の35.3%にあたる約1,400万ドル(約15億円)になっています。
  4. カニエ・ウエストがサプライズでゴスペル。カニエ・ウェストが毎週日曜日に開催しているゴスペルパフォーマンス「Sunday Service」を、3月1日、2020-21年秋冬パリ・ファッションウィーク期間中に「ブッフ・デュ・ノール劇場」にてサプライズで開催しました。新型コロナウイルスの影響下でも開催されたファッション・ウィークでしたが、突然届いたカニエからの招待状をもって会場へ向かった参加者は、このパフォーマンスに感動しています

【今週の特集】

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今週のQuartz(英語版)の特集は、「Beyond student debt(学生ローンの先)」です。生涯学習の必要性が注目される中、教育の内容とともに、そのための学資金の集め方にも変化が求められています。借金に苦しむことなく、必要なスキルを習得できる未来をQuartzがレポートします。

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