Post-Coronavirus Era
コロナ以降のビジネス
Quartz読者の皆さん、こんにちは。ロックダウンの影響は、農業大国の働き手と食の未来を大きく変えようとしています。現地フランスよりお届けします。
新型コロナウイルス拡大により、3月16日以降ロックダウンとなったフランス。この措置は、同国のさまざまな分野に影響をもたらしています。なかでも、推定730億ユーロ(約8兆5,700憶円)の生産量を誇る農業分野は、大きな打撃を受けているといいます。
これに対し、スタートアップやテクノロジーが迅速な解決策を提示し、貢献しています。
lockdown impact
越境できない労働者
外出禁止令が出てから約2週間後、フランスのデディエ・ギョーム農相は現地テレビ番組で、国民へこう呼びかけました。
「私たちは戦争中です。(中略)フランスの農業という、偉大な軍隊に加ってください!」
春が訪れ、フランスではイチゴやアスパラガスの収穫で人手が必要な時期。通常、この時期には東欧や北アフリカなどから季節労働者が雇用されます。しかし、今年は新型コロナウイルス拡大を防ぐための国境封鎖措置により、季節労働者が入国できなくなりました。
こうした農作物の収穫をする「労働力不足」のため、収穫しきれない作物が農場で無駄になってしまう可能性が生じたのです。
その一方で、フランスでは現在約500万人が、ロックダウンにより一時休業を余儀なくされ、家で過ごしています。このなかには、レストランやホテルの従業員、美容師など、リモートワークができない人々が含まれます。
冒頭のギョーム農相による農業業界での雇用の呼びかけは、そうした状況下で発せられました。ネット上では、「“外出禁止”と言ったのは政府なのに、矛盾している」などの書き込みがされ、物議を醸しましたが、4月7日現在、20万人以上ものフランス人が季節労働者として応募しています。
農業分野のシンクタンクAgriculture Stratégiesで経済・戦略の研究をするフレデリック・クルー氏は、「 世論調査によると、約90%のフランス人が農業という仕事に好印象を抱いています。そのため、これは驚くべき現象ではありません」と述べます。
Moving into the agriculture
パリっ子の農業への憧れ
今回の政府の呼びかけは、農業業界の人材マッチングサイトを展開するスタートアップ「WiziFarm Mission」をプラットフォームとして、応募者がサイトに登録をするかたちで行われました。
同社の創設者であるジャン=バティスト・ヴェルヴィ氏は、「今回の政府の呼びかけにより、登録者数はこれまでの2倍増えました」と言います。
そもそもフランスでは、農業従事者が年々1.5~2%減少し続けていることが危惧されていました。その理由の一つが、賃金の低さです。農家の平均給与は1,250ユーロ(約14万6,000円)、さらに3分の1の農業従事者の月給は350ユーロ以下(約4万円)だといいます。
一方で近年、お金よりも“精神的幸福”を求め、都会の仕事を辞めて、田舎で農家に転身するパリっ子たちが現地メディアでも特集されてきました。また、職業情報サイトCadreemploiの調査によると、回答者の84%が“自然が少ない”パリを去りたいと答えています。
前述のヴェルヴィ氏は、こう話します。「応募者のなかには、そのまま農家に転身する人もいます。一方で、都会から農業に憧れて来る人のなかには、実際の体力的な厳しさに耐えられず、すぐに辞める人も多い。当サイトを使用することで、応募者が異なる仕事を通して、違う人生を体験するきっかけになってほしいです」
現地紙ル・モンドでも、「今回の新型コロナウイルス流行は、ある人々に未来は都会ではなく、田舎にあると確信させた」とし、農家への転身を考える人々を紹介しています。
Online Marché
オンラインマルシェ
また、フランスでは今回のロックダウンをきっかけに、 テクノロジーの力を借りた地産地消の動きが高まっています。
3月中旬以降、学校の休校やレストランの休業、マルシェ(市場)の閉鎖などにより、これらの場所に食材を提供してきたフランスの農業従事者は、大きな打撃を受けています。
そんななか、市町村などが迅速にホームページやSNS上に、「オンライン・マルシェ」を創設。パリ郊外にある世界最大の卸売市場「ランジス・マルシェ」も、配達用の特設サイトをオープンしました。活気のある商人の呼び声は、オンライン上で飛び交うことになりました。
筆者が暮らすベルサイユ市でも、市がFacebookグループを作成。市内の商人が、「今日は美味しい魚が入ったよ!」などと投稿をし、消費者が注文をすると、家まで配達をしてくれます。
こうした現象を、前述のクルー氏は次のように述べます。「地産地消の現象は、国内で約10年間続いてきました。しかし、今回の新型コロナウイルスの危機は、この傾向をさらに促進しているようです」
Local for Local
幸せなスタートアップ
また、消費者と生産者を繋ぐスタートアップも、新型コロナウイルス危機を機に、忙しさを増しているといいます。
パリ在住者に、120キロ圏内で採れた新鮮な野菜を配達する「Cultures Locales」も、そんなスタートアップの一つ。同社の創業者ティエリー・クラストル氏は、ロックダウン以降、オーダー数が普段の2倍に増えたと言います。
「当社は、3カ月前に起業したばかりです。ここ3週間で、当初のビジネスプランにおける2年分の活動目標を達成しました」
同社では、60以上の地域の生産者の野菜を提供。星付きレストランに卸している農家の野菜など、クラストル氏が実際に試食して美味しいと感じた農産物のみを取り扱っています。
「ウェブサイトには、生産者のプロフィールや、野菜をつくるうえでの努力を紹介しています。消費者に、より農産物の貴重さを感じていただくためです」
クラストル氏はこう付け加えます。「今回のロックダウンの措置で、パリっ子たちは家で過ごす時間ができ、料理をする喜びを再発見しました。新鮮な季節の野菜を使用すると、料理の味は180度変わります。ユーザーからは、『ロックダウン中に“小さな幸せ”を味わうことができた』とフィードバックもいただきました」
「新型コロナ流行が収まったあとにも、地産地消の動きが続いてほしいと願います。この方法は、地域の農家を支援し、新鮮な季節の農産物を届け、輸送の際のCO2を防ぐので環境にもいい。今回の新型コロナ流行をきっかけに、人々は地産地消の重要性を確信しています。これは、新型コロナ流行から受けたレッスンなのかもしれません」
新型コロナウイルスの拡大は、確実に農業分野に大きな打撃をもたらしました。これに対し、官民が一体となりデジタルツールを駆使して迅速に対応。結果として、今後の地産地消促進に有効なプラットフォームづくりに成功するなど、長期的に「危機を好転」させることに繋がる可能性があるかもしれません。
This week’s top stories
今週の注目ニュース4選
- 新型コロナの拡散を防ぐアプリ。フランスのOlivier Véran保健相とCédric Oデジタル相は、フランス政府がCOVID-19の感染者追跡アプリの開発に取り組んでいることを公式に発表しました。政府は、プロジェクトの承認にゴーサインを出していますが、アプリの価値に対して期待することには慎重な姿勢を保っています。
- スペインは欧州内で一番の危機的状況になる可能性。今週発表されたUniCreditの調査によると、スペインはほかのどの欧州経済よりも危機に苦しむことになり、今年の国内総生産は15.5%減少し、財政赤字はGDPの12.5%になると推定されています。
- ヨーロッパで広がる、家庭内暴力。DVの救済を取り扱うイギリスの大手慈善団体Refugeは月曜日、同団体が開設するヘルプラインへの呼び出しが、人々の移動制限が始まって以来、25%上昇。ウェブサイトへのアクセスは150%増加していたとレポートしました。
- 一部の欧州では規制緩和も。ノルウェー、デンマーク、オーストリア、チェコ共和国の政府は、世界で広がるパンデミックの状況にもかかわらず、新型コロナウイルスの拡散を遅らせるための制限を緩和する計画を発表しました。
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