Millennials:Tiger King、もう観ましたか?

MILLENNIALS NOW

ミレニアルズの今

Quartz読者のみなさん、こんにちは。今日の「Millennials Now」では、パンデミックの状況下のアメリカで今、話題のドキュメンタリーシリーズを紹介。米国社会のなかにある人間の本質を考えます。

Tiger King/Netflix
Tiger King/Netflix

新型コロナウイルスの影響で、日本でも東京都を含む一部の県で非常事態宣言が発令され、これまで以上に、多くの人が家での時間を過ごしていると思います。

テクノロジーのおかげで、このような状況においてもさまざまなことが楽しめますが、そのなかでもNetflixは不動の人気。

今日は、3月20日から配信がスタートし、米国では2週連続でNetflixの視聴率No.1となっているドキュメンタリーシリーズ「タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!? 」(原題:Tiger King: Murder, Mayhem and Madness)をもとに、視聴者が夢中になる理由と、米国社会とのつながりに迫ります(虎といえば、先日、NYの動物園で飼われている虎が新型コロナウイルスに感染したことも話題に……)。

Cult groups

カルト感ある集団

Rotten Tomatoesによると、「タイガーキング」の評価は非常に高く、批評家は97%、視聴者は96%という数字になっています。米Variety誌は、「Netflixの実録犯罪やドキュメンタリーが好きな人にとって、『タイガーキング』は間違いなくその需要にマッチした内容になっている」と評価しています。

また、Chrissy Teigen、Cardi B、Jared Leto、Kim Kardashian Westなどのセレブも同シリーズに夢中。ソーシャルメディアでは、主人公に扮するユーモラスな写真も投稿されています。

Twitter/@JaredLeto
Twitter/@JaredLeto

データ会社Parrot Analyticsが4月7日(現地時間)がBusiness Insiderに提供したデータによると、「タイガーキング」はNetflixによる“これまでで最も需要がある”ドキュメンタリーのひとつ。それぞれのリリース初週では、「タイガーキング」は「ザ・ステアケース 〜階段で何が起きたのか〜」「ワイルド・ワイルド・カントリー」「殺人鬼との対談: テッド・バンディの場合」などのほかのヒット作よりも需要が高かったといいます。

Netflix初の実録ヒット作「殺人者への道」ほどの大作ではありませんが、Parrot Analyticsは「タイガーキング」の人気が日に日に高まっていると述べています。

人気の秘密は、「気の狂ったカルト集団感」と「エゴから抜け出せなかった人間の醜さ」が見えてくることにあるでしょう。

主人公は、虎などのネコ科の大型動物を飼い、オクラホマ州で動物園「G.W.動物園」を運営するJoe Exotic(ジョー・エキゾチック)と名乗る男。音楽活動をしたり動画配信をしたり、リバタリアン党として2016年のアメリカ大統領選挙、2018年のオクラホマ州知事選挙に出馬したりと本業以外にも活動はさまざま。そこに、フロリダ州の大型猫保護施設「Big Cat Rescue」の代表を務めるCarole Baskin(キャロル・バスキン)が登場し、彼女との間に起こる闘争が主に描かれています。

このドキュメンタリーには、同じように大型動物を所有し動物園を営むほかの人々も登場するのですが、目につくのがその「カルト集団化した動物園」の内情です(世界の野生の虎よりもアメリカで個人が所有する虎の方が多く、国中の独立した「動物園」や公園で飼育されているという事実がドキュメンタリー冒頭で明らかにされます)。

Joeはゲイですが、2人の若い男性と同時に結婚しましたし、ほかの動物園を営む出演者のなかには、性的奴隷と思えるような従業員への扱いをする人も。

動物愛から事業を始めたはずにもかかわらず自らのエゴ、ナルシシズムを追求し、お金のためにしか動けない、愛情を欠いていると感じさせるような人物が、あの手この手を使い、権力のために争い続けるのです。

また、人間と虎が親密につながっているのを目にしたときの視覚的なインパクトは、同ドキュメンタリーの特徴的なものでもあります。

シリーズ内では、一部の人々が虎に対して過剰なほどの魅力を感じる理由を示唆しているのですが、「人間と虎を隔てる自然の法則を破ることには、強さ、処女性、力強さを暗示するタブー的な性質がある。多くの男性のTinderユーザーが虎の自撮りを写真に使っているのも不思議ではない」と指摘しています。

Instagram/@tinderguyswithtigers
Instagram/@tinderguyswithtigers

Why people are into it?

つい、見てしまう

このパンデミックの状況下で同作が米国で人気なのも、人々は現状と先の見えない将来に対する不安を抱えるなか、気分を暗くするようなウイルスや感染に関する映像を見たくないからかもしれません。

米国らしい自由さが引き起こす人間模様を巧妙に描くドキュメンタリーは、今世界で起きていることからの「逃避」としても捉えられるでしょう。人がお互いに助け合うべき状況である今だからこそ、倫理観のない悲惨な人間を冷静に客観視できるのかもしれません。

米Atlanticはこのような論説を掲載しています。「米国がパンデミックの真っ只中で集団行動、ルールの遵守、危険を避ける予防措置をとっているなか、『タイガーキング』の内容は、地下鉄の電柱を舐める行為に値するほどのものです。登場人物たちは、自分たちの卑劣な衝動を抑制するのではなく、自分たちの周りとの間でのみ世界全体を構築しています。登場人物たちは非常に派手な生き方をし、周りのいらないものをすべて消し去ってしまう。このドキュメンタリーは、何を得ようとしているのだろうかと思わずにはいられません。結局、誰が得をするのか?」

また、米Voxでは「『タイガーキング』を観ることには、本質的に悪いことは何もありません。ひとことで言うと娯楽です。人気の理由は、道徳的な疑心暗鬼が成功しているからもしれません。“普通ではない”登場人物について意見を述べずにいられず、あとになって議論することになります」と伝えています

Tiger King/Netflix
Tiger King/Netflix

同様の心理状態を引き起こすNetflixのドキュメンタリーシリーズとして、2018年に公開された「ワイルド・ワイルド・カントリー」が挙げられます。霊的概念における乱交、銃の買いだめ、選挙での不正行為、大量の毒殺などがあったとされるオレゴン州の信仰コミュニティの衝撃的な年代記を描く作品です。

2017年公開の「白昼の誘拐劇」は、家族の友人に虐待され、誘拐された10代の少女の悲惨な物語。そのほかにもリアリティ番組だと、Netflixは、大ヒットデートシリーズ「ラブ・イズ・ブラインド ~外見なんて関係ない?!」や、4月17日から公開予定の「Too Hot to Handle(原題)」を通して、“分かりやすい狂気”を私たちの目に訴えかけています。つまり、コンセプトが卑劣なものであればあるほど、私たちは観ていて飽きないのです。

最近の映画でもよく、カルト的なシーンは出てきます。集合体、支配欲、偏った性的嗜好など、人間の欲望やエゴを描いています。

アリ・アスター監督の「ミッドサマー」も、スウェーデンを舞台にしたカルト的な内容で視聴者の心を掴みました。クエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でも、1969年にハリウッド女優シャロン・テートがカルト集団チャールズ・マンソン・ファミリーに殺害された事件を背景に、集団が住む奇妙な山奥での生活が描かれます。

Trumpism

カルトと政権

REUTERS/Kevin
REUTERS/Kevin

「タイガーキング」を見て思い起こすのが、現代の米政権。米国社会においては、トランプ政権をカルト(トランプ主義)とみなす考え方があります。

NY Timesでは、「トランプの主な対処法は、彼を取り巻く権威主義的なカルト的人格の力を最大限に発揮して、問題の存在を否定すること。このアプローチは司法の任命、富裕層への減税、法の支配の急速な浸食というかたちで、共和党に政治的な配当をもたらしてきた」と述べています。「今地球を席巻しているパンデミック下では、避けられない公衆衛生危機を悪化させるだけで、米国で展開されている大惨事の準備ができていない。トランプ主義の基本的な信念は、トランプへの忠誠は国への忠誠で、その方程式は公共の利益に余地を残さないということだ」

この論からすると、「タイガーキング」の内容は、白人による植民地主義の最後の辺境からやってきたトランプ時代を象徴する寓話であるとも捉えられます。

もしかすると、今閉鎖された状況に生きることを強いられているからこそ、視聴者は「タイガーキング」の支配的な世界にトランプ政権と通ずるものを見ているのかもしれません。いずれにせよ、自由がなく縛られている状態が、こういったエゴイズムに満ちたヒーローに対して短時間であれ「夢中」にさせるのでしょう。

ちなみに、「タイガーキング」は続編の公開が発表されました。本シリーズをまだ観ていないという方は、“Stay Home”のお供にぜひ……。

This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. ジャック・ドーシーは全財産の28%を寄付。TwitterとSquareのCEOであるドーシーは、COVID-19の救済などに対し、彼の財産の28%となる10億ドル(約1,100億円)を、LLCであるStart Smallを通じて寄付すると発表しました。ドーシーは、公開されたgoogleのスプレッドシートで資金の使い道を文書化すると約束しています。
  2. カップル向けのプライベートアプリ。Facebookが、カップルのための新しいアプリ「Tuned」を立ち上げました。同アプリでは、カップル同士のみの親密なソーシャルネットワークを構築することが可能。気分を共有したり、音楽を交換したり、デジタルスクラップブックを作成したりすることも。2人がつながるための「プライベートな空間」を実現します。
  3. アメリカ人はキャッシュを準備し始めている。連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、3月16日から23日までの週の口座残高(当座預金や貯蓄口座などを含む)はパンデミックの影響で16%急増し、過去9年間で最多の1兆9,200億ドル(約211兆円)に達しました。これは、2011年8月1日以降(米国がスタンダード&プアーズのAAA格付けを剥奪される数日前)で最大の増加になっています。
  4. 新型コロナで酪農家が打撃。米国の酪農家にとって、パンデミックが発生したタイミングが悪かったようです。ウイルスが米国全土に蔓延し、国民生活の多くの側面に変化があるため、消費者の乳製品の購入方法にも変化が生じています。多くの酪農家が自分たちの食品に対する需要の増加を感じていますが、専門家は乳製品の需要はほぼ半分にまで減少していると推定しています。