Asia:アジアから壊れるファッション

Asian Explosion

爆発するアジア

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週火曜日夕方のニュースレターでは「アジアの今」にフォーカスします。世界のアパレル企業の「工場」たるバングラデシュでは、すでに100万人規模での解雇が起きています。

AP PHOTO/A.M. AHAD
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Image: AP PHOTO/A.M. AHAD

バングラデシュの衣料品産業で働く410万人の労働者にとって、アパレル産業から得られる収入は、生き残っていくために欠かせません。

しかし、ペンシルベニア州立大学のCenter for Global Workers’ RightsおよびWorker Rights Consortium(WRC)の報告書(PDF)によると、世界のファッション企業は新型コロナウイルス危機を理由にバングラデシュへの注文をキャンセルあるいは中断しているため、100万人以上の労働者がすでに解雇されているといいます。

この数字は増え続けているばかりか、カンボジアインド、ミャンマー、ベトナム、および同様の状況に直面している他国の労働者は計上されていません。

バングラデシュやその他の国では、衣類その他の製品を生産している企業が労働者を見捨て、すでに完了した作業分のコストを補償することさえ拒否していると、多くのサプライヤーが述べています。何かが変わらない限り、多くの工場は閉鎖されることになるとも予想されています。

A plea for Bangladesh’s industry

バングラデシュの嘆願

消費者は家に留まり、さらに必需品以外には手を出さなくなりました。ソーシャルディスタンスの一環として、企業は店舗閉鎖を余儀なくされています。小売業者は、在庫の山を減らすことに躍起になっています。

CANADA, 8 APR. 2020, REUTERS/CHRIS HELGREN
CANADA, 8 APR. 2020, REUTERS/CHRIS HELGREN
Image: CANADA, 8 APR. 2020, REUTERS/CHRIS HELGREN

バングラデシュ衣料品製造・輸出業者協会(BGMEA)によると、アパレル企業はすでにバングラデシュの衣料品工場に対する30億ドル以上の注文をキャンセル、あるいは保留扱いにしています。これまでのBGMEAのデータに基づくと、これはほぼ1カ月分の輸出量に相当します。

ペンシルバニア州立大学とWRCの報告書によると、バングラデシュの衣料品サプライヤーの58%が、ほとんどすべての事業を停止しなければならないと答えています(3月21〜25日のオンライン調査、回答は316社のサプライヤーによる)。

BGMEA会長のルバナ・フークは、グローバル企業に対して業界支援を訴えてきました。「先月まで“パートナー”だったブランドは、すべて“他人”になってしまいました」と、彼女はLinkedInに投稿しています。「私たちにとっては最低限の生存レベルの話です。西側諸国の彼らは、政府から救済措置を受ける特権をもっているというのに」

BGMEAのデータを用いて、3月29日時点で、仕掛り品を含む受注のキャンセル/保留が最も多い企業を推定しましたが(下図)、挙げられたこれらの企業だけでも総額10億ドル以上に達しています。

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What fashion companies are doing

彼らは何をしてくれる?

上記の数字には、バングラデシュにとって最大のバイヤーであるH&M、トミー ヒルフィガーとカルバン・クラインを所有するPVH Corp.の2社は含まれていません

というのも、両社はすでに生産されている商品の代金を支払うと宣言していたから。例えばH&Mは、新規注文を一時停止したものの、完成品や生産中の商品は引き取ると説明しています。「これら代金を支払うのはもちろん、合意された支払い条件の下での支払いを実現します」と同社の広報担当者は声明を出しています。「これは、バングラデシュだけでなく、すべての生産国において、当社の責任ある商慣習に従ったものです」

一方、“必要に迫られて”行動していると説明している企業もあります。ダブリンに拠点を置くプライマーク(Primark)は、キャンセルまたは中断された注文の推定合計が最も多い会社で、注文をキャンセルする以外の選択肢はなかったと述べた。

「我々が運営しているすべての国のすべてのストアは現在閉鎖されています」と、Primarkの広報担当者はメールで説明しています。「その結果、毎月6億5,000万ポンドの売上を失っています

Force majeure

不可抗力(?)

ファッション企業はサプライヤーに発注した仕事の代金を支払うのが一般的ですが、法的根拠はそれほど単純ではありません。発注書には、例外的な状況下で契約上の義務を免除する不可抗力条項が含まれているのです。

ファッション法を扱う法律事務所Phillips Nizerのパートナー弁護士のアラン・ベアは、「疾病、パンデミック、隔離に関する条項がある場合は特定の不可抗力条項があり、それはおそらく交渉の際に有効になるでしょう」と語っています。

以下、Quartzからの質問に対する各企業の回答を紹介します(読みやすさのため編集を加えています)。

  • Bestseller(デンマーク)「我々は約束を果たすために最大限の努力をしています。自分たちの責任を自覚しており、現在の危機にどう対処するかについては、各サプライヤーと緊密な対話を行っています」(トーマス・ボーグルムCFO)
  • C&A(ベルギー、ドイツ)「パンデミックの拡大を食い止めるため、C&Aはヨーロッパ全土の1,400 店舗を閉鎖せざるをえませんでした。店舗の売上が完全に失われすでに数週間が経過していますが、いつ終わるかもわかりません。オンライン販売では収益の損失を補填できません。サプライヤーへの影響を最小限に抑えるために努力しており、工場を出た商品はすべて引き取る予定です。現在生産中の衣料品についても、サプライヤーと緊密に連絡を取り合い、個別に柔軟な対応ができるようにしています」(広報担当者)
  • Inditex(Zara/スペイン)「我々はサプライヤーとの協力を約束しています。生産済みまたは生産中のすべての注文が、当初の支払条件に従って完全に支払われることを保証することによって、サプライヤーに対するすべての責任を果たしています」(広報担当者)
  • LPP(ポーランド)「このような厳しい時代にあっては、できるだけ多くの雇用を維持することが優先されます。これは当社の従業員と仕入先両方に言えることです。何よりもまず、当社の果たすべき義務はすべて継続的に解決しており、また生産中・生産済みの受注品については支払いを行う予定ですが、一部の受注が遅れる可能性があります。また、生産中のものやすでに生産されているものについては支払いを行う予定です」(広報担当者)
  • マーク&スペンサー(英国)「責任ある小売業者として、パートナーやサプライヤーをサポートするためにできる限りのことを続けていきます。我々は、供給を延期するために可能な限りの措置を講じています」(広報担当者)
  • NEXT(英国)「現在、英国内の小売店もオンラインビジネスも(および関連する英国の倉庫・流通事業も)、すべて閉鎖されています。その結果、一部の注文をキャンセルしています。ただし、2020年4月10日までの工場出荷を予定している注文はすべて受け入れます。2020年4月10日以降の工場出荷予定分については、通常の条件でNEXTが引き取るか(当初の予定よりも遅くなりますが)、ケースバイケースでNEXTからの補償のもとキャンセルします」(広報担当者)
  • Primark(アイルランド)「事業を展開しているすべての国のすべての店舗は閉鎖されました。その結果、毎月6億5,000万ポンドの売上を失っています。そのため、我々には選択肢がありません。店舗や倉庫内、あるいは輸送中の在庫を大量に保有していますが、それは支払い済みです。我々はサプライチェーン全体に影響を及ぼすことを認識し、深く悲しんでいます。サプライヤーと緊密かつ定期的に連絡を取り合っており、通常の取引関係が一刻も早く再開されることを非常に願っています」(広報担当者)
  • Target(米国)「平時と同じように、我々は世界中のサプライヤーと協力し、すでに生産されている、または生産中の注文への支払いを行います。信頼できるベンダーとの緊密なパートナーシップのもと、増加する需要に対応するために懸命に努力しています。さらに短期的には、アパレルやアクセサリーなど、需要が低迷しているカテゴリーの注文を調整しています」(広報担当者)
  • Tesco(英国)「我々の注文の大部分は通常通り継続され、現在の支払い条件でサプライヤーからの調達を継続します。この前例のない時期に労働者が公正に扱われることを保証するために尽力しています」(広報担当者)
  • VF Corp.(米国):コメント辞退
  • Walmart(米国)「お客様は必需品を備蓄しています。我々は、この未曾有の時代に必要なものを見つけるお手伝いをすることに力を注いでいます。必需品ではないと考えられる商品のサプライヤーにどのような影響があるのかを総合的に見ており、サプライヤーのビジネスや労働者への影響を最小限に抑えることができるように支援しています」(広報担当者)

This week’s top stories

アジア注目ニュース4選

  1. アジアの食生活が変わる(日本以外)。ニールセンは11のアジア市場を対象に行った調査から、新型コロナウイルスがアジアの食生活を不可逆的に変える可能性があると報告しています。中国本土、香港、韓国、マレーシア、ベトナムの人々は特に朝食を外食で済ます傾向にありますが、今後は各国で新しい需要が見込め、それに伴う店舗の在庫管理に影響が出そうです。
  2. インド人富豪の資産が…。昨年世界2位のホテルグループにまで拡大したOyoのファウンダー兼CEOリテシュ・アガルワルが今年の給与を全て返納するなど、インドの富豪たちを「悪夢」が襲っています。有数の財閥であるアダニ・グループ会長ゴータム・アダニ(Gautam Adani)が資産の37%にあたる60億ドル(約6,460億円)を失ったほか、3人が億万長者リストから外れました。
  3. 中国本土ツアーの予約を再開。香港の旅行代理店は、検疫規制が解禁される5月7日以降に催行予定の本土ツアーの予約を開始しました。予定されるツアーの目的地には、杭州、上海、北京、広東省の都市が含まれ、予約客はすでに支払いを完了しているそうですが、国境を超えて感染が再発する可能性は否定できません。医療分野の専門家は今後1〜2カ月の旅行自粛を推奨しています。
  4. ベトナム企業74%が倒産の可能性。3月頭に国内1,200社(4分の3は従業員100人以下)を対象にした国の調査から、約30%の企業で20〜50%の収益低下が報告されました。また74%は、新型コロナウイルスの流行が半年以上続いた場合、事業を継続する資金が不足するため破産を余儀なくされると回答しました。観光、ホテル、航空業のほか、原料を中国からの輸入に頼る繊維業や材木加工業への影響が深刻化。

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