Topic of this week: 2Qの米国GDPは年率0.9%減、景気後退への懸念が経済に影を落とす──The Wall Street Journal
もし米国経済の健全性に少なからず関心があるのなら、先週、米商務省の経済分析局が発表した2QのGDPデータに注目していたことでしょう。そして、少なからぬ衝撃を受けたはずです。
発表された数字は、米国経済にとって心強いものではありませんでした。年率換算で前期比1.6%減だった1Q に続き、2Qは0.9%の経済縮小となりました。
これはあくまで速報値で、のちに修正される可能性があります。また、米国では、2四半期続けてマイナス成長だったからといって「リセッション」(景気後退)と判定されるわけではありません(正式な認定は全米経済研究所[NBER]の委員会によって行われます)。しかし、今回発表されたGDPは、経済が誰もが避けたいと思う方向性に向かっているように感じさせるのに十分なものでした。
他の多くのシグナルも、同様にその方向性を示しています。2Q、消費者サイドでみるとサービス業への支出が増えました(ホテルとレストランへの支出だけでも13%増加)。一方で企業は長期的な投資を抑制し、インフレ率は依然として高止まりしています。米連邦準備制度理事会(FRB)は7月27日、前月に続いて2回連続となる0.75%の利上げを行い、必要であれば、さらなる利上げも辞さない構えを見せています。
特に注目を集めているのが住宅市場です。2022年上半期の新築住宅販売件数は減少し、中古住宅販売件数も5カ月間連続で減少しています。米国では住宅の新築がキャンセルされ、ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)やJPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)は住宅融資部門の従業員をレイオフしています。住宅市場はFRBが金利を2桁に引き上げた1980年代半ば以来、最も値ごろ感のない状態になっている、とブラックナイト(Black Knight)のアナリストは指摘しています。また、今年6月にはローンの支払いが遅れた債務者の数が5%増え、90日延滞した人も1%増加。21カ月連続での数値改善がストップしました。
つまり、あなたがやがて来るかもしれないリセッションを前に立ちすくんでいるのも無理からぬことなのです。しかし、まだ米国にはリセッションを回避する可能性が残されています。
THE BACKSTORY
背景を整理する
- 2021年は、物価が上がりに上がった。人びとは、新型コロナウイルスのロックダウンで使えなかったお金を再び消費するようになり、政府が経済対策で支給した資金によって、景気の良い思いをすることになったのです。一方、サプライチェーンは、需要の増加と新型コロナに伴う供給不全に苦しんでいました。ロシアのウクライナ侵攻が引き起こした混乱により、原油価格は1バレルあたり100ドル超まで高騰しました。
- FRBは上記の価格高騰は一過性のものだと考えていた。供給サイドのボトルネックも、いずれ緩和されるとみていました。しかし、インフレ経済は落ち着くことなく、史上最速の利上げサイクルにつながったのです。
- 物価が高く、消費も旺盛で、経済がスピードアップしているときに金利を急上昇させるのは、ブレーキを踏むようなもの。あなたがこれ以上スピードを出したくない場合、無事に減速したいと考えるのが本音でしょう。しかし、経済が急停止してしまう危険性は常にあります。そして、景気後退に陥るのです。
BUT MAYBE NOT THIS TIME?
政治にできること
米国でのインフレの直接的な原因として、まず中国におけるロックダウンによってサプライチェーンが滞っている点が挙げられます。ロシアのウクライナ侵攻も同様です。
しかし、サプライチェーンが復旧しつつあるいま、リセッションが不可避だとは言えないと指摘する経済学者もいます。
元FRBシニアエコノミストのクラウディア・サームによると「ホワイトハウスおよび議会はインフレ抑止に貢献できる」し、「その手段はFRBよりも豊富で正確」。「リモートワークを奨励したり都市部での交通インフラを無料化したりすることで、ガソリン価格を下げることにつながる」というのです。労働者擁護団体Employ Americaのエコノミストも、政府が石油や小麦などの生産者に価格下限と将来の売却保証を設定することを提案しています(これにより、生産者にとってはいま高い値段をつける必要がなくなる)。
ホワイトハウスには、投資という点でも努力できることがあります。いま、ベンチャーキャピタルの資金調達や新規株式公開が減っており、研究や医薬品開発を進めるバイオテクノロジー企業が行き詰まっています。インフラ投資も減少しています。しかし、かくも投資が不足すると、将来的に訪れうるショックに対してより脆弱性が増すことになることは覚えておくべきでしょう。
WHAT TO WATCH FOR NEXT
これから注目すべき動き
- 個人消費は企業投資と同じ道を辿る可能性がある。通常、最初に撤退するのは企業ですが、消費者がひとたび自由に使える支出を削減すれば、「景気後退のサイクル」は完成します。その結果、企業の収入と利益が減少し、レイオフされる人の数が増加することになるのです。
- 物価は下がりそう。ガソリン価格は7月に1ガロンあたり4.50ドルを下回り、2カ月ぶりの低水準となりました。また、新築住宅の販売価格の中央値は、5月から6月にかけて9%下落しています。
- さらなる利上げ。FRBは年末までに、フェデラル・ファンド(FF)金利が3.0~3.5%に到達するよう引き上げる予定です。利上げに対応してインフレ率が下がらない場合、FRBは年末までにさらに金利を引き上げる可能性があります。
- サプライサイド経済学。米議会の政策立案者たちは、インフレの原因について議論する代わりに、サプライチェーンの問題に直接対処するための法案を次々に通過させようとするかもしれません。ジョー・バイデン政権は関税撤廃のほか、外国船による国内港湾間の物資輸送を禁止している1920年商船法(ジョーンズ法)の要件変更などに取り組む可能性があります。
- 長期的な政府の投資と価格規制。運輸省も連邦資金を使って、より良い土地利用(高密度の都市計画)を奨励しようとしています。上院はまた、高齢者向け公的医療保険「メディケア」で特定の処方薬に関するコスト交渉を可能にするほか、15%の最低法人税率を導入し、気候変動にこれまでで最大の打撃を与えるための3,690億ドル(約49兆円)規模の「インフレ低減法案」を検討しています。
今日のニュースレターは、QuartzのNate DiCamillo(シニアレポーター)とSamanth Subramanian(グローバルニュース・エディター)がお届けしました。Quartz Japanでは平日毎朝のニュースレター「Daily Brief」のトップニュースを声でお届けするPodcastも配信しています。